あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
芝生を踏みしめた。サウザンド・サニー号の甲板だ!
航海中のサニーは波に揺れている。
私は嬉しくなって仲間を探したが、皆の様子に驚いた。
「なんだかみんな元気がないね、どうした?」
「見てわからない……!?」
ナミが弱弱しく言い、私は彼女をよく観察した。
病気ではない。怪我でもない。
隣ではチョッパーが舌を出しながら横になっており、その隣に転がるのは白骨死体……あ、ブルックだった。
それから、ミンク族が3人乗っている。ゾウから旅立ったところか。時系列は把握した。
彼らもまた元気がなかった。包帯まみれだからという理由だけではなさそうだ。
ブルックを見て、私は思いついた。
「おなかすいてる?」
「そうよ……!」
「お腹と背中がくっつきそうです……! どっちもないんですけど! ヨホホホ」
「はらへっだよ゙ォ~……」
皆が口々に空腹を訴える。サンジが見たらどう思うことやら。
私は特に空腹でもないというのが、どことなく申し訳ない。
鳥でもないし、胃の中身を吐いて分け与えるわけにもいかないしな。
「珍しいね。ルフィならいつものことだけど」
「そのルフィが……」
続きを言えず、ナミはしくしくと涙を流した。
ルフィがつまみ食いで食料を全部食べてしまった……とかよりもひどい出来事があったようだ。
私、そこにいなくて良かったかもしれない。怖いもの見たさはあるが……。
「しまったな。私、ついさっきまでポケットいっぱいのビスケットを持っていたのだが……」
「ビスケットォ!?」
食料の話に、向こうで釣りに勤しんでいたルフィが顔を出す。
首を横に振る。ポケットの中身を引っ張り出して、何も入ってないことを明らかにした。
「ごめん。飢えて死にかけの侍が転がってたから、全部あげちゃったんだ」
「そうか、ならしかたねェ! でも食いてェな、ビスケット!」
「万国に着けば食べられるよ。あそこは家もお菓子でできている」
「最高の国だな!」
これからビッグ・マムに喧嘩を売りに行くのではなかったのか?
……もう売っていたのだっけ? まあ、そんな細かいことを気にする船長ではないか。
木の上のペドロが、私たちののんきな会話を止める。
「待て。当たり前に会話をしているが、ゆガラはさっきまで船に乗っていなかったはずだ」
「ええ。何か問題が?」
答えたのは私ではなく、ナミだった。
「サニー号は私たちの船で、この子の船でもあるんだから、いつだって乗っていいのよ」
……私は照れた。
私だって、いつでもそういうつもりでいるが、言葉にして仲間から言われると、喜びはひとしおだ。
この船は私の終の棲家で、麦わらの一味が私の仲間だ。
それを認めてもらえているのは、どんなに嬉しいことだろう。
ペコムズはサングラスを上にズラして、つぶらな瞳で私をまじまじと見た。
「それはそうだが、乗った瞬間がわからなかったぜ」
「目の前に突然現れたように感じた……」
ペドロの言葉に頷く。彼はよく見ている。
そりゃあ、目の前に突然現れたのだから当然だ。
「いなくなるときも突然でわからないだろうから、あまり気にしなくていいよ。モコモ公国にもそうやって出入りしてただろう、私は?」
「そうだな。ゆガラはいつもそうして突然現れ、鐘の担当を困らせていた」
「悪気はないぜ!」
私にとっては悪気がないからなんだという話ではあるが、悪意の有無は彼らにとって重要だ。
仁義を重んじるミンク族だから、私はいつもよりさらに正直でいなければならない。
ペドロと話しているとキャロットが飛び出して来て、私にガルチューをした。
「私みたいに密航してきたの!?」
「……きみ、密航してきたの? いいのか? ゾウまで送り返そうか」
「いやーっ! お願い降ろさないでェー!」
泣かれてしまった。
無断乗船は殺されても仕方のない罪だ。送り返すという提案は穏便だと思うのだがな。
「ルフィがいいというのなら構わないさ。ここは私の船だが、船長は彼だ」
「おう、構わねえぞ!」
「ありがとう、ルフィ!」
キャロットはルフィにガルチューをしに跳んでいった。
さて、食糧難だというのなら手伝おう。
釣りに関してはウソップほど得意ではないが、狩りや漁ならもう少しできる。
ここで今一番元気な私が頑張らねばな。
……うーん、私が一番元気だなんて、珍しすぎて緊急事態だ。
改めて背筋が伸びた。飢え死になんて一番嫌な死に方だ。
仲間と友人をその危機から救おう。