ふらふら   作:九条空

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今日は金の日らしいです


テゾーロ

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。

 

 場所はグラン・テゾーロだ。

 降り立った瞬間に黄金にお出迎えされ、既に自由を失っている。

 

「とても似合っている」

「ありがとう。でも既に疲れてるよ、肩が凝って」

 

 私は全身着替えさせられ、げっそりしていた。

 どこに飛ばされてもそれほど違和感のない、一般的な服装をし続けているこの身として、黄金の練り込まれたきらびやかなドレスやアクセサリーは落ち着かない。

 

 しかもこれ、ワノ国の着物である。その辺ともつながりがあるのか?

 遊郭で見るような――それも相当上の位の遊女でなければ着れないような、上等な品である。

 模様の一部は金色で、当然のように輝いている。金、なんだろうなあ……。

 

 頭の上にある、キラキラの簪の装飾を指で弾く。

 さほど髪は長くないので、こういうのをつけるのは初めてだ。

 それほど器用でもないので、自分じゃできなかっただろう。

 当然これも純金なんだろうな。ナミが見たら大喜びだろうに。

 

「あなたは隠し事が上手ではないな」

「そりゃあ、カジノ王にポーカーフェイスで勝てるわけがないだろう」

 

 私はギャンブルが苦手だが、彼はとても得意だ。

 それもわりかしイカサマ方面のヤツが、である。

 若い頃はまだ未熟な部分もあったが、今となってはどうかなあ……。

 

「こうして黄金で着飾っても意味がない。あなたはその能力で、泡沫のように消えてしまう」

「うん、本当に。せめて金粉まぶすのでは満足できなかったのか。金で縛られるよりは随分マシだけど」

 

 まあ、ここにきて能力者ではないよ、という否定は意味をなさないだろう。

 私は何度も彼の目の前で消えている。超スピードでは言い訳できない。

 タナカさんのような能力がなければ侵入できないはずの場所に、突如現れたり消えたりしているのだ。

 

「あの日あなたは言った。まだ掴んでもいないのに、なぜ諦めるのかと」

「……言ったっけなァ~」

 

 発言したことは、確かに覚えている。

 それが私を不利にする、迂闊な内容だったからだ。

 

「能力にも弱点がある。あなたの場合、他人が触れていれば使()()()()んじゃないのか」

 

 私の腕が意思に反して上がり、私の足が勝手に一歩前に踏み出す。

 テゾーロはその場から一歩も動くことなく、私の手を難なく掴んだ。

 

「捕まえた」

 

 ここまで私の能力を把握されたのは久しぶりだ。

 焦りよりも感心が上回る。テゾーロは続けて私に言った。

 

「Shall we dance?」

 

 困ったなあ――困ったから、踊ってしまうか。

 私はテゾーロの誘いに乗って、向き合って両手をつないだ。

 

 ダンスは得意だ。

 剣より余程才能があるんじゃないかなと自分では思っている。

 

 私は黄金の下駄をカツンと鳴らし、ステップを踏んだ。

 テゾーロは私のステップを邪魔する無粋な男ではないし、私は踊らされなければ踊れないほど芸のない女ではない。

 

 和装はこういうダンスには向いていないらしい。足がまるで開かない。

 しかしその程度で踊れなくなるほど、私は踊りが下手ではない。

 下半身の動きが小さくなるのをカバーするために大きく腕を回す。

 着物の袖が広がり、美しい模様がきらきらと光る。

 

 誰もいないダンスホールで、2人くるくると回った。

 

「ずっと手をつないだままというのは、現実的ではないんじゃないかな?」

 

 私は自分の能力の脆弱性を肯定する形でそう言った。

 もはや誤魔化すのも疲れる。私は嘘が下手なのだ。

 

「さてどうだろう。協力し合えば不便はない。片手を繋いでいても、おれとあなたで自由な腕は2本ある」

 

 なんで私に協力してもらえると思ってんだろう、ポジティブで非常によろしい。

 そうだよな、一回試してみないとわからないよな……。

 この場合、私との我慢比べになるのだろうか。

 私がこの状況にどれだけ耐え、どこにも飛ばないでいられるか、という。分が悪い。

 

「私、どうにもダメなんだ……楽しいばかりというのは」

 

 社交ダンスは久しぶりだ。

 それもこれほど上手い相手と踊るとなると――それこそテゾーロ以来だ。

 昔はこうして、酒場で踊ったことがあった。まあ私、酔っぱらうと歌って踊るタイプなので。

 今は酒を飲んでいないが、シラフでも踊れる機会があるのなら踊りたいし。

 そんな場合ではないとわかっていても、楽しいのだ。

 

「みんなが笑顔なのは嬉しいことだ。でも、ずっとそうだと不安になってくる。自分が不相応に感じるんだ。私はここにいていいのかと」

 

 この場にいるのにもっとふさわしい人がいるのではないだろうか。

 私には、もっとできることがあるのではないだろうか。

 

 迷うときは、いつも目の前のことに集中しようとする。

 私は随分壮大な能力を得ているが、大してコントロールできるわけでもなければ、この能力を使った壮大で緻密な計画を立てられる頭脳もない。

 今目の前にある問題しか解決できない――では、目の前に問題がなければどうすればよいのだろう?

 

「あなたには笑顔が似合う」

「ふふ。ありがとう。それはテゾーロくんが、私を笑わせるのが上手だからだよ」

 

 迷う。

 迷うなら、迷っている暇もないような場所に()()しかない。

 そんな場所には誰も連れていけない。大切な友人などは、特に。

 ダンスの一環、テゾーロと片手が離れた瞬間に私は言った。

 

「ごめんねテゾーロ。私には助けたい友人がいるし、帰りたい場所がある」

 

 いつ私が短刀を手にしたのか、彼にはわからなかったはずだ。

 まっすぐ刃を振り下ろし、ためらいなく腕を切断しようとした。

 

 私の知らぬ場所で、いくつもの修羅場をくぐってきたのだろう。

 彼は私の剣のスピードに見事対応し、その手を放した。

 私はテゾーロに微笑んだ。

 

「きみは優しいね」

 

 私が狙った腕はテゾーロのものではない。()()()だ。

 友人の腕は斬れないが、自分の腕なら斬れる。

 そして私の友人は、私が腕を落とすのを悲しんでくれる人のようだった。

 私の短刀は何も斬らないままに、この手の中にある。

 

「だから好きだ。またね」

 

 私は飛んだ。

 最後に見たテゾーロの顔からはなにもわからなかった。

 カジノ王のポーカーフェイスから何か読み取れるほど、私は賭け事が得意ではない。

 




2025年初めて書いた小説がこれ

いい年になりそうっすね
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