あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
「トンタの友だ〜!!」
わーっ! とトンタッタ族たちが駆け寄ってくる。
「トンタ長、息災でなにより」
腕を小人たちに滑り台にされながら、知己に挨拶する。トンタ長、ガンチョは元気そうだった。
私はトンタッタ族にトンタの友と呼ばれて親しまれている。
これはかつての私が様々な迂闊をやらかしたからだ。
結論だけを言うと、私は小人族の間で伝説になり、「トンタッタ族よりも素早い動きでいつのまにか現れ、いつでも遊んでくれるトンタの友」と呼ばれている。
私はいつでも突然に現れるし、突然にいなくなるが、それは能力のためだ。
トンタッタ族よりも素早い動きは不可能なので、これを求められたらどうしよう、といつも不安になっている……。
ここにくると、私はいつも困ってしまう。
彼らはあらゆる言葉を真実だと信じてしまうため、迂闊なことが言えない。
そして彼らは――めちゃくちゃかわいいのだ。
今すぐ猫かわいがりしたい。全員頭を撫でて回りたい。
しかし彼らはほとんどが立派な成人で、多くの場合大人に対してそんなことはしてはいけないのだった。
「トンタの友~! 遊んで遊んで~!」
「いいよ~」
できるだけ何も言わないようにしよう――と思ってもやっぱり無理だった。
こんなにカワイイ生き物に「遊んで」とお願いされて、黙っていられるわけがない。
私はにこにこ勝手に笑顔になるのを自覚しながら、トンタッタ族の遊び相手になった。
というより、彼らが私を勝手にアスレチックにしている。
もっと汎用性のある能力だったらよかったのだが、私の異能は遊び向きではない。
トンタッタ族が姿を見せても良い大人間、というだけでそれなりに珍しいから、今のところ彼らは私でも満足してくれている。しかし本当なら、彼らは表を自由に歩けるようになるべきだ。
トンタ兵長であるレオが私の頭の上に登って、私の顔を覗きこんだ。
逆さから見てもかわいい顔だ。
「トンタの友、今日はお友達といっしょじゃないんれすか?」
「友達?」
「このあいだ来た時いっしょにいた大人間れす!」
……誰だ?
このあいだ、と言われても、時系列通りに生きていない私にはわからない。
私にとってここに来た最新の記憶は、ドンキホーテ一族がマリージョアに向かったばかりの頃だが、そのときレオは当然生まれていないのでそれではない。
私にとっての未来らしい。またここに来られるのは嬉しい予知だが、一緒にいた友人に心当たりがない。
かれらが大人間と呼ぶということは、おもちゃではない。
おもちゃだったらキュロスの可能性があったが……ドレスローザにおける人間の知り合い?
心当たりがない。
「次そなたがやってきたら、礼を伝えねばと思っとった。我らの仲間を救ってくれて、どうもありがとう」
トンタ長に頭をさげられ、私は眉を困らせた。それもまた、未来の話らしい。
こういうとき、私はいつも適当なことを言ってごまかすが、トンタッタ相手にそれは悪手だ。
だから私は正直に言った。
「覚えてない」
「えーっ、トンタの友、忘れちゃったんれすかぁ!?」
「私時々、大切なことでもすっかり忘れてしまうんだ」
「じゃ、じゃあ、私たちのことも忘れちゃうんれすか?」
「そういうこともあるかもしれない」
「がーんっ!」
ウィッカを泣かせてしまった。
私はしくしく泣くウィッカを手のひらの上に乗せて顔を近づけた。
「私がきみと友であることを忘れてしまっても、きみは覚えていてくれるか?」
「絶対忘れないれすっ!」
「きみが私を友達だと思ってくれるのなら、ずっとそうだ。私はトンタの友で、きみたちのことがいつでも大好きだよ」
「「トンタの友ーっ!」」
大勢のトンタッタたちに抱きつかれ、私は埋もれた。かわいい、幸せだ。
「で、ガンチョ。私はなぜ感謝されたのか、説明してくれるか?」
「うむ。SMILEの工場に監禁されておった仲間を助け出してもらった」
「……そうか。皆無事か?」
「ああ。だが再び攫われてしまったんじゃ。SMILEを唯一栽培できる我々は、ヤツらの計画に不可欠。我らを捕まえるための大規模な罠が敷かれ、再び幾人かの仲間が囚われてしもうた。我が娘マンシェリーも未だ行方が知れず……」
状況は悪い。
私が下手に手を出して、より悪い方向に進んではいないか……しかし、未来の私のことは、私がよくわかる。
トンタッタ族がSMILEの工場で虐げられているのを見たら、黙って帰るなどということは不可能だ。
後先考えず奪還するだろう。
私はここにいてはいけない。
やらなければならないことが、他にある。
「悪いが皆、はなれ……はな……は……ハアハア……」
「トンタの友、どうしたれす!?」
私から離れてもらわないと危険だ。浮き足立つ感じがするのだ。
しかし彼らは、連れて行ってしまいたいくらいかわいい。
「胸が苦しい……」
「えーっ! 病気れすかーっ!」
「違う……君たちと別れ、ここを発たねばならないことがつらい……」
「トンタの友ーっ! 私たちも寂しいれすーっ!」
彼らは私との別れを惜しみ、わんわん泣いた。
胸がきゅんとして苦しい。
私、多分トンタッタ族が弱点だ。彼らにずーっとここにいてほしいと言われた日には、もう二度とその土地を動けなくなってしまうかもしれない。
私はなんとか耐えた。
ルフィや仲間たちの顔を思い浮かべる。私は麦わらの一味だ……小人族のところに永住する訳にはいかない……!
いや、ルフィが海賊王になるのを見届けた後にはありうるかも……ハアハア……ダメだ……誘惑が強すぎる……!
私は3分ほどトンタッタ族に囲まれたまま、胸を押さえた。
「また来るから……!」
「待ってるれすーっ! トンタの友!」
ぎゅっと目を瞑り、愛らしすぎるトンタッタ族の姿を見ないようにして、私はようやくその場を去ることができた。
危ないところだ……もう二度と船に乗れなくなるかと思った……!
トンタッタ族、かわいらしすぎる……!