あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
ロシナンテは、私より早く状況を理解した。
「ここは……ドレスローザか!」
一見して平和な国だ。
しかし通常ではありえないことに、住民たちと同じように暮らすおもちゃたちの姿がある。
皆幸せそうに見える。見えるだけだ。
ドフラミンゴがドレスローザを支配するようになったのは……さすがにロシナンテが殺された直後ではなかったはずだ。
あれからよくて数年……悪くて10年くらい経ってるだろう。
3年くらいなら、ギリギリ許容範囲か。
しかし、このドフラミンゴのお膝元で、ロシナンテと別れて、はいさようならといくわけがない。
見殺しにするようなものだ。
うっすらと事情を聞く限り、彼は既にドフラミンゴに殺されかけている。
ドフラミンゴが、ロシナンテを殺しきったと思っていてくれればいいが。
時間さえあればドレスローザから出て、この時間軸の中でお別れ、というのも可能かもしれない。
どちらにせよ、ここがいつのドレスローザなのかによる。
私は道端で適当に呼びかけた。
「私の知り合いはいるかー?」
「なんだ、その雑な聞き方は」
ロシナンテに呆れられるも、一人のおもちゃが駆け寄ってくる。
「やあ、ともだちだよ!」
「お前、おもちゃの友達がいるのか」
いるのだ。
ロシナンテが険しい顔をしているのを見るに、このおもちゃたちの正体を、彼は知っている。
ロシナンテがドフラミンゴ海賊団に送り込まれた海軍のスパイ、と聞いたときは信じられなかった。
この迂闊さで成立するのか? と疑問に思ったが、仕事はきっちりこなしていたようだ。彼はホビホビの実の情報を把握している。
うさぎの形をしたおもちゃに小声で「誰だ?」と尋ねると、同じく小声で「おれだ……」と返事がきた。
私がドレスローザによく訪れていた頃、お世話になったパン屋の店主だった。
「リク王がいなくなってからどれだけ経つ?」
「もう8年だ……」
「わかった。ありがとう。もう少し耐えてくれ。必ず助けるから」
彼らにはあと数年はこの状態でいてもらうことになるだろう。
胸が締め付けられる。今の私にできることはないのか?
うさぎのおもちゃは私を見て頷いた。
「また、きみのお店に行きたいからね」
「ああ……! そう言ってもらえるだけで、希望がわいてくる」
パン屋の店主だったおもちゃは、ぴょんぴょん飛び跳ねながらパン屋へと戻って行った。
そこでは彼の妻が店主として働いており、彼らの娘が仕事を手伝っている。
彼らはなぜ自分たちに父がいないのか、不思議に思うことすら許されない。記憶がないからだ。
自分が誰と結婚したのか。自分が今なぜそこで働いているのか。彼の妻は疑問に思わない。
おもちゃにされた人間がいなくなった空白には、誰も気づけない。――私以外は。
ロシナンテが苦し気に言う。
「おれが文書をきっちり届けられてりゃあ……!」
「あまり落ち込むなよ。私にもダメージが来るから」
「すまねェ……」
ドフラミンゴは狡猾だ。
彼がこの国を奪うことを決めたのなら、あらゆる手段を用いてそれを決行するだろう。
ドフラミンゴが生きている限り、それを阻止するのは難しいことだった。
そう思わないと、この光景を見るのがつらい。
「あ~、まだ来たくない、もうちょっと後が良い、そう思ってたところを、無理してやってきたのに……」
私はぼやいた。ここじゃダメだ。
そもそもロシナンテを逃がすのなら、もっと平和な場所でないといけない。
彼を送り届ける使命と、近々の憂鬱とが混じって、うっかりドレスローザにやってきてしまった。
さっきよりは時代が近づいたが、それでも遠い。
私が飛ぶべきはここではない。
ロシナンテを拾った時間軸にほど近い、が決して
そしてドジな彼を一人で置いて行っても問題ない平和な場所。
注文が多い。飛べるだろうか。普段まるで制御できていない、この悪魔の実の能力で。
幸い、こんなところにはもういたくないという気持ちが強い。
次の場所には早く飛べるだろう。当たって砕けろだ。数で勝負。