ふらふら   作:九条空

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ロシナンテ

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。

 

 私は何度か全然関係のないところに飛び、多くの友人たちにロシナンテを紹介する羽目になった。

 こんなことをしている場合ではない。私がやりたいのは挨拶回りではない。

 ロシナンテに向き直り、私はきっぱり言った。

 

「いいかロシナンテ! 今の状況は私だけの力では打破できない! きみの力が必要だ!」

「お、おう!? 任せろ!」

 

 事情もわからないだろうに、返事は良かった。

 

 私はどうせ思い通りにならないからと、普段目的地を決めない生活をして長い。

 こうして狙いを定めながら各地を飛ぶのに、強いストレスを覚えている。ロシナンテのドジがなかったとしてもしんどいのだ。

 

 これまでの人生で、どうしても行きたい場所にはいつかたどり着ける。それはなぜか。

 そこにいる友人を助けたいからだ。今私が助けたい友人は、私と手をつないでいる。

 心に思い浮かべる人がいないからと、私は困惑して迷子になっていた。

 だが、思い浮かべる人物ならいたのだ。それを忘れていた。

 

「ローのことを考えろ。会いたいだろ? そこまで送る。私は場所より()に飛ぶ方が得意なんだ、今の今まで忘れてたけど!」

 

 ロシナンテを助ける際、私が思い浮かべたのは病院ではなく、Dr.くれはその人だ。

 彼女に会いたい、会わなければ、と思う気持ちが、私をサクラ王国に送った。

 

 今の私が旅に失敗し続けているのは「どこでもいいからロシナンテが元いた時代」と思っているからだ。

 どこでもよくてはダメなのだ。

 

 これから私はローのいる場所に飛ぶ。

 

 彼一人を思う。この際()()ローでも構うまい。

 昔過ぎたら速攻で別の場所に飛び直せばいいし、未来過ぎても同じこと。

 次の場所に飛び次第、即座に状況を見極めて、数秒で次の場所に行くことを決断すればいい。

 数秒なら相手に見られても幻覚で済む! たぶん!

 

 決意を新たにした私とは反対に、ロシナンテは難しい顔になった。

 

「あいつには自由に生きてほしいと思ってる。今更おれが会いに行ったところで、ローの邪魔にならねェだろうか……」

「迷ってんじゃねェ!」

「厳しいな!?」

 

 思わず一喝してしまったが、そんな権利は私にはない。

 それに気づいて、私はロシナンテに謝罪した。

 

「ごめん、私今結構精神的にキていて」

「おれのせいだよな、すまん」

「そんなことはない、私の未熟さのせいだ」

 

 こういう能力の使い方はあまりしたことがない。

 この能力を役立てようと思ったこと自体が、ほとんどないのだ。

 修行と思おう。できることは多い方がいいに決まっている。

 

「ロシナンテ、迷う気持ちはわかるよ。私も迷っている。だから今私たちは迷子になっているんだ。逆に気は楽になったな。責任は私だけになかった。半分きみのせいだ」

「おれいま責められてんのか?」

 

 頷いた。ちょっと八つ当たりだ。でもちょっとは正当性があると思う。

 願いの力が2人分なら、私だってもっとうまくやれていた。

 迷うやつが2人いるのなら、一生この旅を終わらせられない。

 

「今は己の欲望だけ考えろ。他人がどうなろうが知ったこっちゃない。会いたいのか会いたくないのか2つに1つ、どっちだ!」

「そんなの……会いてェに決まってるだろ!」

 

 私だってそうだとも!

 

 ローに会いたいし、ローに会って喜ぶロシナンテの顔が見たい。

 力の限り祈って、私は飛んだ。

 

 どこかに降り立った途端、ロシナンテが叫んだ。

 

「ロー! センゴクさん!」

 

 喋るなって言っておけばよかった。それか、彼の能力を使っていて貰うんだった。

 後悔は先に立たない。

 目の前にいるローは私の知る大人の姿だし、センゴクの髪は真っ白だ。

 

 だめだ、ここはちょっと未来過ぎる。

 私は即座に別の場所に飛ぶことを決断した、はずだ。

 しかし私は、ロシナンテの瞬発力に負けた。

 

 ついでに彼のうっかりにも負けた――あれほど言ったにもかかわらず、ロシナンテは私の手を()()()、2人の方に駆け出した。

 

 会いたい人が目の前にいたら、誰でも走り寄りたくなるものだ。

 気持ちはわかる。

 とっさに「死んでも放すな」と言った私の手を振りほどいてしまうのもまあ、納得できる。

 

 納得できないのは、制御できない私の心だ。

 

 ロシナンテの手を掴みなおす前に、()()別の場所に飛んでしまった。

 

 瞬間、ひとり、見たこともない孤島で、私は膝をついた。

 やっちまった。もう取り返しがつかない。

 あの一瞬で目に入った、ロシナンテを見るローとセンゴクの表情は、亡霊を見たかのような驚きだった。

 あれで彼の存在する時間軸が確定してしまった。

 今からあの時間と場所に私が飛べたとて、ロシナンテを掴んでもっとちょうどよい過去に飛ばすのは、不可能になってしまった。

 

 たぶんあれは――ロシナンテが本来いた時間より、14年くらい先だった。

 あれだけ苦労したというのに、最初のくれはのとこに置いて行く方が、ほんのちょっとだけマシだったじゃないか。

 

「ドジっ子の面倒見るのが大変すぎて、ひとりになりたすぎたァーッ!」

 

 敗因はこれだ。

 ロシナンテが手を放した瞬間、私の欲望が臨界点を迎えた。

 すなわち「いい加減、ひとりになりたい」という欲である。

 私の悪魔の実はその思いを純粋に叶え、私は草木一つも生えない孤島に来てしまった。

 

 一歩も動かずとも島全体が見えるほどの小さい島。

 島というより岩と呼称した方が正しいかもしれない。

 周りを見渡しても水平線が広がるばかり。

 空を見上げても鳥さえいない。

 おかげで私は、大声で愚痴を叫んでも、誰にも迷惑をかけない。

 

「ロシナンテ、ごめーん! でも半分きみが悪いだろーッ!」

 

 友人の手を握りつぶさない程度の強さで握っている以上、向こうが私の手を振りほどこうとしたら押し負ける。

 彼から14年分の人生を奪ってしまうくらいなら、片手握りつぶす方がマシだったか?

 決めるのは私ではない。権利があるのはロシナンテ、それからローとセンゴクだろう。

 今から文句を言われたって、もうどうしようもない。

 自分の能力を口にできない私では、彼らに一生言い訳もできない。

 

「ああまったく……」

 

 ごろりと横になる。ゴツゴツとした岩が背中に当たって、居心地が悪い。

 

 彼はとんでもないドジっ子で、私はありえないほどの迷惑をかけられた。

 いつの間にか手に入れていた煙草吸って服燃やすし。

 熱すぎる飲み物を冷まさずに飲んで吹き出すし。

 何もないところでコケるし――自分の身長を大幅に越える大男と手を繋いだ状態で、その大男に転ばれるとどうなると思う。

 

 私ひとりの旅では起こりえない、数知れぬトラブルがあった。

 一体何度、私が人生で初めてする類のツッコミをすることになったか。

 

「たのしかったな……」

 

 ロシナンテのところから飛んだ瞬間は「もう勘弁してくれ」と本気で思った。

 だが、私の心はいつでも矛盾している。

 もう二度とあんなことやってたまるかと思いながら、彼といた時間を既に恋しく思っていた。

 

 瞼を閉じていても尚、鋭く感じる日光から目を守るように、腕で目を隠す。

 

「今更、つらいよ……」

 

 二人旅を知らなければ、一人旅の孤独も知らないままでいられたのに。

 

 ――それはそれとして次にロシナンテに会ったら蹴り飛ばす。

 私はどんな顔してローとセンゴクに会えばいいんだよ。

 あなたのところの恩人と息子を14年間拉致してましたって言えというのか。

 とんでもねェ極悪人だ。ジェルマが霞む。

 

 会いたくねェ……。

 しかし、私の心はいつでも矛盾している。

 そう遠くないうちに、彼らと会うだろう。

 

 しかもあそこ、たぶんドレスローザだった。

 行きたくなさが5倍くらいになっちゃった。

 大丈夫かな、私、ちゃんとキュロスに会いに行けるのだろうか。

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