見たか! 余はカッコいいであろう!   作:息抜きのもなか

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前作がちょっと重いお話だったので、息抜きに頭空っぽで楽しめる作品を書こうと思っています。
曇らせのタグを追加する事態にならないことを祈っておいてください。


プロローグ
01.そうして私はひきこもった


 拝啓、お母様、お父様――――私には無理でしたー! ごめんなさーい!

 

 いえ、とても、とても頑張ったと自負しておりますとも。

 両親から突然「来年からトリニティに通ってね」と言われてゆるふわな地元高校へ進学するものだと思っていた私には寝耳に水で。

 聞けば母は三大派閥でこそないもののトリニティの派閥の一つであるプエラ分派の首長補佐をしていたというではありませんか。次期首長も母が補佐していたお方の子供のようで、話を通しておくから首長補佐をやるのよ、なんてキラキラした目で言われても勝手がわかりません。

 だってこちらは中等部の三年間、ずっと街中(まちなか)を走っていただけなのですから。

 ええ、そうです。陸上部です。しかも長距離の。皆は適当に何回か走って帰れる短距離を選ぶ方がほとんどで、そのせいで同じ陸上部にいることを忘れられることも少なくありませんでした。

 ともあれお嬢様学校のおの字も分からない私はあれよあれよといううちにトリニティ総合学園に入学することになりまして。

 

「ああ、母様が言っていた羽虫とは、あなたのことでしたの。補佐の役目なら間に合っていますので、今すぐ目の前から消えていただいてよろしくて?」

 

 お嬢様らしからぬ真っすぐなお言葉に、ガラスのハートを地面に思いっきり叩きつけられてしまいました。

 お母様。嫌われていたなら言っておいてください。てっきり仲が良くて仲間に入れてもらえるだろうと高を括った結果、針山に素足で踏み込んでしまったではないですか。

 ええ、問題ありません。もともとお嬢様学校に馴染めるなど思っておりませんでしたとも。

 しかし分派で校舎が分かれているトリニティにおかれましては、次期首長への狼藉を働いた虫に対する扱いなど火を見るより明らかでございます。

 

「ご、ごきげんよう……」

「………………」

「あ、あのー?」

「………………」

 

 いない者扱いされてしまって、すっかり干されてしまいました。

 攻撃的な方々だと私物を燃やされるかもね! とお母様から聞いていたので実害がないという点だけで見ればそう困ったものではありません。

 しかし、二週間以上誰とも話せないというのは中々堪えるものがありまして。

 友達を作ろうと大聖堂の方まで一人で足を伸ばしてみたのですが、却ってそれが決定打となってしまいました。

 

「見て。プエラ分派の方がお一人で歩いてましてよ?」

「ホントですわ。あの創始者の頭が悪すぎて同情されたから残っているという逸話があるお笑い分派ですわね」

「今の首長も落第ギリギリで、次期首長に関しては内部進学の試験も落ちてお情けでの進学だったとお聞きしてますわ」

「ふふっ、トップがあれなのですから、きっと皆さま素晴らしい頭脳を持たれていますわ」

「ええ、きっとトリニティ試験珍回答集に新たなページを刻んでくださいますわ!」

 

 お嬢様学校、怖い。

 分派の中だけで薄々察してはいたのですが、この学校、皆さまのお腹が真っ黒でございます。

 広場に出ただけであんなことを言われてしまっては、私は逃げ帰るように寮の自室まで戻って部屋の隅で体を丸めて震えることしかできません。

 お母様、この分派、評判が悪いんですが。どうして私をこんな分派に放り込んだのですか。お母様が用意して下さった派閥用の制服で出かけたら滅多打ちにあってしまいましたよ? 可愛い娘のメンタルがこの短期間で二度も破壊されてしまいましたよ?

 初日にお会いした次期首長の取り巻きの皆様以外が標準のセーラー服を着用している理由が痛いほど分かりました。ああお母様。どうして私にトリニティ標準の制服を用意して下さらなかったのですか。

 

「連絡連絡、あれ、動きませんね」

 

 なんということでしょう。スマートフォンが故障してしまいました。

 これではお母様に連絡がつかないではありませんか。すぐに携帯屋さんに向かって、修理するか機種変更を行わなくては!

 さて、そうと決まれば身分証明のための学生証を持っていかなければ。

 はてさて、どこに置いていたでしょうか。そうやって探すこと五時間。……ええ、五時間です。

 放課後すぐに寮に戻ってきたはずなのに、いつの間にか寮の食堂の門限が来てしまいそうなお時間です。

 どうして学食にも行ってないかって?

 ええ実は学生証なのですが、財布ごと落としていたようなのです。

 私の手元にあるものと言えば、お母様に「もしものときだけ使いなさい」と念押しされたゴールドカードだけ。

 

「これがあるということは、やっぱりお金持ちだったんですね。私の家」

 

 地元にある研究機関に研究員として呼ばれて移住したとお母様は言っていましたが、あながち嘘でもないのかもしれません。お父様はまだしも、お母様からはたまに難しい単語が聞こえることがあったような気もします。

 それはさておき、我が寮の食堂はなんとカードが使えないのです。現金のみ対応なので、今の私は食事もありつけません。きっとお笑い分派だから寮の設備改修のお金がないのでしょう。このままだと時代に取り残された悲しき寮になってしまいます。

 既に手遅れかも、いえ、まだ個人店などは現金のみでやっているところもありますし、まだ希望は……。悲しくなるだけですね。やめておきましょう。

 もう学生証の再発行の窓口は営業終了済みのお時間ですし、今日は寮の食堂ではご飯を食べられません。外食はなぜだかわかりませんが全然行きたくない気分ですので、ご飯を食べずに寝床に潜りました。

 翌日。自分の身体の異変に気が付きました。

 

「あれ、おかしいですね。体の震えが止まりません」

 

 玄関の扉に手を伸ばそうとすると、途端に震え始める身体。

 理由は明らかでした。外に出るのが、怖くなってしまったのです。

 

「はは、困りました。学生証を再発行しないといけないのですが」

 

 どうしましょう。体が言うことを聞いてくれません。

 私、自分のことを健康優良児だと思っていたのですが、どうやら間違いだったみたいです。

 お母様、申し訳ありません。人生で初めて皆勤賞を逃がしてしまうかもしれません。体は丈夫でも、心は打たれ弱かったようです。

 そんなことを考えていたら、コンコンと扉を叩く音。

 扉の前に立つ私はびっくりして腰が抜けてしまいます。一体こんな時間に誰が私に用があるというのでしょう。

 

「カタネさん? 大丈夫ですか? 昨日の夜も今日もご飯食べてないみたいですけど」

 

 寮母さんの声でした。昨日の夜と今日の朝、私が食堂に姿を見せたなかったことに気付いて声を掛けに来てくれたのでしょう。

 どこから説明しようと考えていると、「いないんですかー?」という声と共にドアノブが掴まれて。

 

「あっちょ――」

「あれ、開いてます、ね?」

 

 玄関にへたり込んでいる私と寮母さんの目が合ってしまいました。

 そうです。扉の鍵を開けるところまでは達成していたのです。本当に家から出るまであと一歩というところまで来ていたんです。そこから先が、遅々として進まなかっただけで。

 とても気まずいです。出かける気で満々の格好をした私が玄関でなぜか座り込んでいているこの状況。何と説明すればいいのか、助けてお母様。

 

「カタネさん、気分が悪いのですか? ちゃんとご飯を食べないから――」

「財布を、財布を落としてしまいまして」

 

 それで食堂には向かえなかったのだと、暗に伝えます。

 寮母さんはそれで私の言いたいことを理解してれたようで、「ひとまずご飯を食べましょう」と私に手を差し伸べてくれました。私はそれを取って、立ち上がることに成功します。

 ひとまずお金は立て替えてくれるというのでそのお言葉に甘えて食堂に向かおうと思うと、なんと先ほどまでの震えが嘘のようにスムーズに玄関を出れるではありませんか。一旦鞄を置いて、念のためカードだけ持って寮母さんに続きます。

 食堂に到着しましたが、もう既に朝の時間は過ぎてるので食堂に人はいません。料理は寮母さんが選ぶからと言われたので席に着いて、料理が出てくるのを待ちます。

 問題なく、来れてしまいました。あんなに遠かった一メートルが、あまりにも簡単に突破できました。

 これならきっと、ご飯を食べてから学生課に行って学生証の再発行もできましょう。

 

「…………?」

 

 カタカタと、机が揺れました。

 地震でも貧乏ゆすりでもありません。私の身体が震えています。どうやら『食堂』という場所を目標としたから部屋の外への脱出が叶ったようで、この建物より外への脱出は厳しそうな雰囲気です。

 

「カタネさん、どうしたんですか、震えていますよ?」

 

 食事を運んできた寮母さんに見つかってしましました。

 ご心配をかけてしまうのは申し訳ありませんし、ここは何でもないと流しておきましょう。神に祈りを捧げ、食事に手を付けます。

 なぜか向かいで寮母さんがその電子画面に浮かぶ顔をこちらに向けて凝視してくるので、食べ物は美味しいのですが心が休まる気がしません。ちなみに出てきた食事はガッツリ系のハンバーグステーキです。トリニティ生は小食な方も多いですから、余ってしまったのでしょうか。まあ、私は運動部でしたのでそこそこ食べるほうですが。

 

「トリニティが恐ろしくなってしまいましたか?」

 

 ぴしゃりと言い当てられて、思わず食事の手が止まってしまいます。

 失敗しました。これではその通りだと言っているようなものです。心配を掛けないようにしようと思ったのに、もう既に手遅れかもしれません。

 寮母さんはこの派閥ではそこまで多くないが、他の派閥だと外部からの進学生が結構私と同じような症状になることがあるのだと話してくれました。彼女たちが今どうしているのかと聞くと、引きこもって試験のときだけ学校に行くか、トリニティでの生活を諦めて地元に戻るかのどちらかが多いとのことでした。

 

「カタネさん、あなたはどうしたいですか?」

 

 聞かれて、考えます。

 私は――

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