見たか! 余はカッコいいであろう!   作:息抜きのもなか

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ツルギ視点。


10.そうして罪人は暴かれる

 ヘルメット団の犯行声明を受けて、正義実現委員会はすぐに部隊を編成して動き出した。

 攫われたのはプエラ分派の生徒だったが、彼らにヘルメット団と事を構えることが不可能だと判断されたためである。

 ツルギがプエラ分派が出撃したという通信を受けたのは、彼女が既に詰め所を出た数分後のことであった。

 

「は?」

 

 正気のそれとは思えず、ツルギの口からひどく冷たい音が漏れる。

 ナギサから自分の左腕のような存在が抜けてしまったと聞かされていたが、そいつは聞く限りでは後衛で、そこまでの武闘派ではなかったはずだ。

 作戦指揮に優れていたという話はちらほら聞いているものの、だからといって彼女が加わった程度で今回のヘルメット団相手には明らかな戦力不足であることに代わりはない。

 であれば考えられることは何か。

 

「まさか、ナギサが警戒していたアイツが……?」

 

 辰カタネ。

 入学式後の数週間だけ登校し、それから分派の首長に関わることなく外部との接触を断っていた彼女をナギサが警戒していたことを、ツルギはエデン条約に向けての対策会議で聞いている。

 その姿を見たことはなく、実力のほどは定かではないが、彼女の母が風前の灯火となっていたプエラ分派の影響力を取り戻した名参謀であったという情報については先の会議にて追加情報として教えられている。聞けば、謀反の疑いを掛けられた当時のプエラ分派の首長を連行させないために当時の正義実行委員会相手に十分の一以下の戦力で一週間戦い抜いたとか。

 あの鬼才の娘であることを考えれば、彼女にも同様の力が宿っていてもおかしくない。

 そんな血筋の持ち主とティーパーティーでナギサの左腕としての責務を全うしていた花羽リツカが合わされば、どうだろう。

 ツルギには判断がつかない。

 

「おい、オマエ……」

「へ? あ、あなたは正義実現委員会の!」

 

 作戦目標地点に向けてなりふり構わず走っているトリニティ生徒の後姿を発見し、ツルギは歩を緩めて声を掛けた。

 聞けば、やはりプエラ分派で出撃しているようだ。しかし、驚いたことに今回の作戦の目的は温泉開発部の活動妨害であり、ヘルメット団からの人質の奪還は花羽リツカ単騎で行うとのこと。

 彼女と面識があるツルギは混乱する。

 もしこの目の前の一年生の言葉が本当であるならば、今回のヘルメット団の一件は花羽リツカがプエラ分派に自分を認めさせるためのマッチポンプのようなものなのではないか。そう邪推する程度には、ツルギはリツカがそこまで強くないことを知っている。

 そんなことを考えていたツルギのところに、偵察に出ていた部員から通信が届いた。

 

『委員長! 敵拠点の屋上に構えていたらしき狙撃部隊と他数名が何者かによって既に倒されているようです!』

 

 その報を聞いてすぐに、ツルギは花羽リツカ一人で突入していたらそんな芸当はできないはずだと判断を下す。

 であれば、考えられる可能性は何か。

 一つは、目の前の少女が知らない外部戦力を用いた可能性。花羽リツカがこの少女と別れた後に合流して敵戦力を突破したのであれば、戦力に関する疑念は払拭される。しかしその場合は合流した戦力がどの勢力であるかが次の問題になってきて、花羽リツカ自身に対して疑惑の目が向けられることになる。彼女がそう言った手段をとるとは考えづらい。

 別の可能性としては、屋上の敵を撃破したのは花羽リツカではないという可能性。冷静に考えるならばこちらが本命になるのだが、先の少女の話を聞く限りでは屋上を伝って作戦地点へと向かってしまったとのことなので、その証言と矛盾してしまう。

 

「どちらにしろ確認してナギサに報告か……」

 

 そう結論づけ、プエラ分派の少女――ミタカを途中で拾うように通信を入れながらツルギは目標地点への移動を再開する。

 目標地点に近付くと、地上付近にはそこまで多く戦力がいるようには見えなかった。

 出払っているのか、はたまた中で待ち構えているのか、そのどちらでもいいかとツルギは突貫を決める。

 

「きぇええええ!」

 

 その咆哮に入口の見張りをしていた生徒たちが彼女に気付くころには、もうツルギの射程内。

 何発かの銃声と、少し遅れてヘルメットと地面の衝突音が周囲に響く。その勢いは止まることなく、ツルギは駆け抜けるまま二階への階段へと辿り着いた。

 あまりも手応えがないと拍子抜けしたツルギがブレーキを踏んだところに、建物の裏に仕込まれていたであろう爆弾が爆発する。その不意打ちにツルギが目を瞬いている隙に道中の部屋から大量の雑兵が出現し、ツルギに向かって鉛の雨を浴びさせた。

 先ほどの爆発で空いた建物の穴から出て立て直しを図ろうとするも、上から瓦礫が降ってきて出口が塞がれてしまう。

 

「うわァ!? なんだあ!?」

「なんか崩落したみたいだぞ!」

 

 その崩落自体はヘルメット団側も予期しなかったものだったようで、ツルギはその一瞬の混乱に乗じて階段を駆け上り、上階を目指す。

 後ろから追ってくる相手には手榴弾をお見舞いして一網打尽にしたり、神秘を込めた攻撃で複数人に攻撃を当てたりという手段も駆使しつつ、奇声も添えて階段を駆け上がる。

 建物の四階部分まで到着すると階段がそこで終わっていたため、ツルギは廊下を走りながら人質や略奪品の置いてある部屋がないか探しつつ進むためにペースを落とす。無論、後ろからは大量の追手がやって来ているのだが、階段を登り切って一度息を入れられたツルギにとってはそれほど難しい行軍ではない。

 

「ここは、武器庫か? いや……」

 

 部屋に大量の銃や手榴弾などが置かれた部屋を発見したが、その一部にトリニティ生が行うようなデコレーションのされた銃を認めてそこが戦利品置き場であると判断する。

 通信で座標を送ってから部屋を飛び出し、また戦闘を再開する。

 少し五階への階段を見つけるまでに手間取ったが、途中で天井をぶち抜いて進めばいいということに気付いてからは、その階のヘルメット団の殲滅を終わらせた後に天井から次の階へと進むことにしていた。

 そうやっているうちに、ぷつりと人の気配がしなくなる。

 それからはゆっくりと階段を探しつつ、人質がいないか確認しながら進むことにした。気になる部屋があれば、ハスミ宛に座標を連絡する。

 

「ぎゃああああああ! いてえええええええええ!」

 

 悲鳴が聞こえたのは、数個階を上った後のこと。

 聞いた感じではヘルメット団の声のような気がするが、上から侵入した何者かがヘルメット団に返り討ちにあった可能性もある。

 ツルギは臨戦態勢を整えてから、悲鳴が続いている部屋の方へと急いだ。

 

「動くなァ! 正義実現委員会だァあああ!」

 

 そう部屋に飛び込めば、ヘルメット団の頭らしき生徒がヘルメットを抑えながら悶絶する姿と、こちらに青い銃を向けるプエラ分派制服姿の生徒があった。

 こちらの姿を認めて下げた青い銃に、ツルギは見覚えがある。

 彼女の勘違いでなければその銃は、花羽リツカが所有していたもののはずだ。だが、目の前のこの生徒は花羽リツカではない。その顔をよく知らないプエラ分派の生徒は騙せても、組織の距離が近く本人と面識があるツルギは騙せない。

 辰カタネがどうしてそこに立っているのか、ツルギはすぐには理解ができなかった。

 しかし先ほどミタカと話した内容と照らし合わせると、何を意図してのことだか知らないが花羽リツカと辰カタネが立場を入れ替えているということだけはわかる。辰カタネは首長として申請されていたはずだが、その髪にプエラ分派の首長たる証の髪飾りがついていないことからも恐らく目の前の辰カタネは花羽リツカということになっているのだろう。

 つまり、屋上で戦闘を繰り広げたのは花羽リツカではなく、辰カタネ。

 しかも一対外の戦闘をこなすだけではなく、下の階に戦力が集中していることを考えて上階からの侵入を選び、人質解放という目的を優先して達成する頭もある。

 ツルギはナギサの言う通り、警戒するに越したことはない人間だなという評価を下す。

 

「目的は果たしました。あとはお任せします」

 

 そう言って自分の横を通り抜けようとする彼女を、ツルギはよく観察する。

 よく怖いと下級生に泣かれる自分に睨まれて顔色を変えずに「何か?」と聞いてくる彼女の言葉に少しばかり引き攣ったような違和感があったのを聞き逃さなかったツルギは、それが何に起因するのか頭を巡らせる。

 何かを隠そうとしているのだろうか。

 もう少し前に到着していればまた話は違ったのだろうが、現状では余りにも情報が少なすぎる。

 部屋の中をよく確認しようとして、扉の近くにいる少女がなにやら浮ついた空気を醸し出しているのに気が付いたツルギは、一つの仮説にたどり着く。

 それを確かめるようにヘルメット団の方を見たツルギはヘルメットのシールド部分が粉々に砕けているのを認め、自身の仮説を半ば事実だろうと確信した。

 

「私刑はあまり感心しない。その激情の使い方を間違えるなよ」

 

 カマをかける意味もあったその言葉に、辰カタネの目がそこで転がって悶えているヘルメット団に動いたのを見逃さない。

 その口角が少し上がっているのが見えて、ツルギは自身の想像が正しかったことを悟った。

 辰カタネは、激情をその身に宿す人間である。恐らく彼女が所属するプエラ分派という分派に対して、並々ならぬ感情を抱いているのだ。

 分派の一員を誘拐したヘルメット団のリーダーのシールドを、()()()()()()()()()()()()

 一年間身を潜めていたのは、当時のメンバーに失望したから。

 花羽リツカの転入によって勢力図を塗り替えられると確信したが故に彼女と交渉し、ようやく表舞台に出てきたのだろう。

 そして表に出れるようになったのだから、自身の分派に危害を加えるものを許さないということを示すために今回の誘拐事件を分派だけの力で解決する姿勢を見せた。

 そこの生徒が歓喜に震えているのは、恐らく彼女が内に抱える激情の一片を見てしまったからなのだろう。自分たちをこんなに強く想ってくれる人間が首長を務めているという事実に安堵し、純粋に喜んでいるのだ。

 冷たく見えるその無感情な表情は、きっとその激情を律するためのものなのだ。

 

「知りませんね、そんなことは」

 

 明確な否定の意思。

 ツルギという規律の象徴に対してそう宣うということは、これからも分派に敵対するものには容赦しないということを宣言したも同義である。

 ツルギは自分もテンションが上がるとやりすぎて相手を必要以上に傷つけてしまうことはままあるが、目の前の少女は違う。

 あくまでも冷静に、ただそれが道理だと言うように、自分たちに手を出した相手が後悔するような残虐で痛みを伴う手段を選ぶつもりでいる。

 それは正義実現委員会として、治安維持組織の長として、容認できる話ではない。

 

「……過ぎたことをすれば、私がお前を連行する」

 

 それを最後通告だというつもりで言い置いて、ツルギは苦しむヘルメット団のヘルメットを外してやることにした。

 ツルギが動いたのを見て人質だったであろう生徒二人を連れて部屋を出て行ったカタネの足取りがどこか軽やかだったのが耳に届いて、ツルギは今すぐに彼女をどうにかする理由がないことを歯噛みする。

 あれは、危険だ。

 あまりにも過激すぎる。エデン条約に向けて邪魔者を排除しようと画策するナギサが可愛く見えるぐらいには。

 

「ミネがいれば、『救護』を頼んだかもな」

 

 真っ先に思い浮かぶのは、『救護』を自身の命題に掲げる救護騎士団長の姿。

 肉体的な怪我や争いだけでなく思想までもを『救護』しようとする彼女がいれば、ツルギが思い描くカタネという人物像を知ればすぐにでも飛んで行ったように思える。

 しかし、百合園セイアの襲撃と時を同じくして姿を消した蒼森ミネは今、トリニティにいない。

 ツルギの脳裏に少しだけ、『ミネのいないこの機会を狙っていたのでは』という疑念が浮かんだものの、振り払うように首を振った。ナギサの妄想じみた危機意識に引っ張られて、些細なことで疑心暗鬼になってしまっているのかもしれない。

 辰カタネが、ひいてはプエラ分派がエデン条約に関してどういう立ち位置を取るつもりかは知らないが、もし何かの間違いでプエラ分派の生徒がゲヘナに何か危害を加えられでもしたら、一旦どうなってしまうのだろうと背筋が寒くなる。

 

「…………待て」

 

 ツルギは思い出した。

 あの付き人は――道中に会ったミタカという少女は、今回のプエラ分派の作戦の本命は何だと語っていた?

 

「……不味いな。手遅れか?」

 

 ヘルメットを外してやったワナワナヘルメット団の団長の腹に二発銃弾を撃ち込んで気絶させたツルギは、ハスミに連絡を入れながら来た道を戻る。

 辰カタネが行った今回の作戦の目的は、()()()()()()()()だ。

 あの少女は『妨害』だなんて軽く受け止めているようだったが、あの女がそんな生温い計画を立てているわけがない。再起不能になるまで容赦なく叩き潰す算段を、あの女は持っているのだ。

 ヘルメット団に囚われた人質の救出など、本当にただの寄り道でしかなかった。

 むしろ兵を出すことができる都合のいい理由になったとしか考えていない可能性すらある。

 

「ハスミ、残った戦力を温泉開発部が暴れている方に回せ!」

 

 プエラ分派(あいつら)が倒す前に正義実現委員会が盤面を制圧しなければ、取り返しのつかないことになるかもしれない。

 ツルギは辰カタネの恐ろしさに戦慄しながら、ハスミから返ってきた座標へと急いだ。




ほんとはリツカさん視点を書きたかったのですが、まだ早いなということでツルギさんが抜擢されました。前の話の補足のつもりで書いていたら思ったより興が乗ってしまった。

ちなみにツルギに詰められたときは笑っていたわけではなくて顔が引きつってただけです。

今後に関わるのは下記の二点ぐらいでしょうか。
・トリニティ上層部は二人の入れ替わりはバレバレ
・カタネ、エデン条約の要注意人物(ツルギの報告で危険度UP)
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