この作品だと二話セットなのは決めてるんですが本編よりこっちが大変です。
12.そうして疑念は深まっていく
お父様、一度だけ親戚のパーティに連れて行ってくださったことを覚えていますか。
あの時お父様は我が子を蹴落とす獅子のように子供だけのテーブルに置いていってしまわれました。あの場で一言も話すことができなかった私を慰めてくださったお父様はまだその御心の中におられますか。
準備をしておいていただけると、助かるのですが。
思えば、プエラ分派宛てではなく私個人に届いた時点で想定しておくべき事態だったのです。
ティーパーティーが
そのことに気が付いた私は慌ててリツカさんに泣きつきに行きました。
元ティーパーティーの彼女なら何か対策などを知っているかもしれないという淡い期待を抱いていたのです。
「ああ、無理だね」
まさかそんな軽い感じで一蹴されるとは思わず、泣きそうになったのが今朝のこと。
しっかりと話を聞いてみれば、ティーパーティーからの招待というのは私が思っていたよりフランクな感じで届くものらしく、友人を招いたり、問題児に小言を言ったり、適当な生徒を選んでトリニティの改善点を聞いてみたりとそこまで政治色の濃いものではないようです。
とはいえトリニティの生徒会ではありますので少しかしこまった形にはなるようで、その結果ある程度の礼儀作法は要求されることになってしまい、そうなると結局政治団体とのつながりがある人たちが招かれることが多くなるのだとか。
故にリツカさんが無理だと言ったのは、私の家柄的に呼ばれるのに支障がないと判断されているということと、その上でエデン条約が近づいている以上政治の話は避けられないだろうということらしい。
そうそう、エデン条約と言えば連邦生徒会長、どこかに消えてしまったんだとか。
噂レベルでしかない話をニュース以外の情報源を持たない私が知るはずもなく、先ほどリツカさんがその関連でナギサ様が唸っていたと教えてくださったのです。どうやらエデン条約はナギサ様が引き継いだ――わけではないのですが勝手に進めることにしたようで、私の呼び出しもきっとそれ関連だろうとのこと。
それを聞いてそんな機密情報を私に漏らしてよかったのかと思って一応リツカさんに確認したんですが、「だってコミュ障のカタネちゃんに他の人と結託して何かするって無理でしょ?」と残念な信頼をいただいていたことが明らかになりました。
反論できないことが痛いところですね。
そもそも私はリツカさんにスマートフォンの購入を手伝っていただいた先日までトリニティ支給のタブレット以外の外部への連絡方法がなかったわけですし、私ほど身の潔白が明らかな人間もそう多くはいないでしょう。
きっとナギサ様とのお茶会も平和な形で終わるはず。
そう思っていたのは、私だけだったようで。
「皆さんお揃いでしたか。お手柔らかにお願いしますね」
パテル派の代表者の聖園ミカさんがいたのはまだ理解できました。ティーパーティーの一員ですし、ナギサ様と共に生徒会長3人衆の一人を務めていらっしゃる方ですから。
ですが、もうお二方の存在には異を唱えたいところです。どうして正義実現委員会の委員長様とゲヘナの風紀委員長様がこちらにおられるのでしょう?
あの、あんなことを言って部屋に入ってしまった手前すごく恥ずかしいのですが、時間を間違えていたりしませんか、私。会議中のところになんか潜り込んでしまったとか、そういう感じだったりしないですか。
ええ、分かっています。分かっていますよ、見えていますもの。不自然に一つだけ空いている席の存在が目に映っていますとも。
失礼します、と一言添えてから、その椅子に着席します。私の一挙手一投足を見逃さないようにと光る八つの目を意識しないようにしながら席につけたはいいものの、左右からのとんでもないプレッシャーが私を現在進行形で襲っています。
両隣にキヴォトス最高戦力がいるの、普通に怖くないですか。ツルギさんとはつい先日戦場で人違いで撃たれたばかりですし、ゲヘナの風紀委員長さんに至っては何故かこちらを見定めるような目で凝視してきます。
うう、リツカさんの「呼ばれていないけどついて行こうか?」という提案を蹴った自分が恨めしい。後悔がもう既にメーターを振り切っている気がします。
「……おいしいですね」
気まずすぎて直視できず、目の前に置いてあった紅茶に口をつけました。
リツカさんが淹れてくれるような優しい味がしたので、思わず口から感想が零れてしまいます。
きっと彼女と同じ淹れ方をしたのだろうなと思ってナギサ様の方を向けば、なぜだか若干眉を寄せて紅茶を飲み始めてしまいました。紅茶の淹れ方は分派で違うと聞きますからリツカさんがいたフィリウスの淹れ方なのかと思ったのですが、もしかしたら違うのかもしれません。
視線を動かせば、こういう雰囲気は苦手なのかそろーっとマカロンに手を伸ばすミカさんの姿が見えました。
その気持ちがあまりにも理解できてしまって、私は少し自分の口角が上がったのを自覚します。
と思ったら、私が見ていることに気付いたのか手を引っ込めてしまいました。彼女が食べ始めたら私も何か取ろうと思っていたので、私もまたタイミングを逃してしまいます。
気のせいか数段冷えた目線をこちらに送るようになったミカさんから逃れるように右の空崎委員長を見れば、変わらずこちらを見ていたようでその目と目が合ってしまいます。
そうなればもう私は目を
瞼を下ろしたまま顔を正面に戻し、皆さんの姿を視界に入れないよう下を向きながらゆっくりと開きます。そうすれば私に見えるのは、手元のティーカップと手を少し伸ばせば届くティースタンドだけ。
もうこのまま見なかったことにしておやつタイムを楽しむことにしてもいいかもしれません。
そんなことを私が考え始めたところで、右の方から声がしました。
「随分と慣れているのね」
あなたは去年、部屋からほとんど出なかったと聞いているけれど、一体どこでそんなに場数を踏んだのかしら、と彼女は続けますが、何を見てそんなことを言っているのでしょう。
取り繕っているだけで、不慣れなのがバレバレだと思うのですが。
まあ、強いて言うなら練習と称してお母様の女子会に何度も連れられて行ったことがあるぐらいでしょうか。私はただぽけーっとしてお話を聞いているだけでしたが、おいしいお茶菓子が出るのでそこそこ楽しみにしていた記憶があります。喋ったことは、まあ、ええ、練習の効果は、うん、この話はこの辺にしておきましょうか。トリニティに入る前の話なんてどうでもいいですしね。
答えに詰まった私は微笑みながら空崎委員長の方を向いておきます。
「あーやめやめ! こんな雰囲気やってられないよ!」
突然ばんとテーブルを叩いて、ミカさんが立ち上がりました。私はカップを持ち上げたところだったので紅茶がこぼれることはありませんでしたが、空崎委員長のものやナギサ様の紅茶は水滴が跳ねてしまいます。
しかし、行儀はともかくその発言自体には大賛成です。
よく言ってくれましたとばかりに彼女の方を向けば、ミカさんは目を合わせないようにナギサ様の方にふいっと顔を逸らしてしまいます。
この空気が苦手だということで親近感を感じていたのは私だけだったのでしょうか。とても寂しい気分です。まあ、明るく華やかなミカさんと引き篭もり上等の私では似ても似つかないということでしょう。残念ですがその事実を受け入れるしかありません。
「もうはっきり言っちゃおうよナギちゃん! エデン条約をどうしたいか聞くっていう話だったでしょ!」
「み、ミカさん……。ですが……」
「もうナギちゃんが聞かないなら私が聞いちゃうからね? ねえカタネちゃん、エデン条約について、どう思ってるの?」
持っていた紅茶を一口、口に含みます。
これはお母様からお教えいただいた直伝の先延ばし方法、口に物が入っているときに話すのはよくないよね作戦です。ええ、行儀が悪いですから、この時ばかりは皆さん黙って待ってくれるのです。ティーカップを持っているタイミング以外ではわざとらしくなってしまうので多用はできませんが、教わっておいて良かったと心から安堵しています。
さて、質問の回答ですが、どう答えるのが正解でしょうか。
私自身の回答としては賛成も反対も特にないのですが、それで納得いただけるかは微妙です。
であればとりあえず賛成と回答しておけば、いえ、少し考え直しましょう。
この両サイドにトリニティゲヘナ双方の最高戦力を置いておいて、賛成以外の回答を出すことがあるでしょうか。いえ、そんなことをしたら今この場で滅多撃ちにされてエデン条約まで監禁拘束されるのが目に見えています。ということは「賛成」と答えるのはそもそも当たり前の話。
であれば今この場で問われているのは、きっともっと深い話なのでしょう。
ツルギさんの話を理解できない私がティーパーティーの一員たるミカさんの意図を読み取るなんて不可能にも程があるのですが、この場に出てきてしまった以上は頭を回さなければいけません。
私が思う課題を聞いているとかでしょうか。いえ、そんなことは私に聞きませんね。では、私がどう動くかを教えてほしいとか。これはあるかもしれませんね。
あとはティーパーティーに協力してくれるよね、という圧力をかけてきている、とか。
これが一番可能性としては高そうです。思いついてみればなぜ気付かなかったのかと思うぐらいしっくりきますし、トリニティらしい訊き方に思えます。
ああ、そう考えるとやっぱり「はい」というしか選択肢はなかったみたいですね。
ですがここでそう答えてしまったらトリニティの政治に参加できるみたいに思われて変な巻き込まれ方をするかもしれません。裏の裏の意図まで読めるなんていう風に思われたらどこに引っ張り出されるか分かったものではありませんし、引き篭もっていたい私にメリットがありません。
ここはバカだと思われるデメリットを考慮しても、本心をぶちまける方が正解なのでは。
バカだと思われればエデン条約を妨害する何かをするとは思われないでしょうし、今後政治の舞台に呼ばれることもないでしょう。
うん、いいですね。それでいきましょう。
であれば、私の答えは。
「特には、何も」
まあそもそも私みたいな端っこの方に住んでいる分派の者たちから言わせればゲヘナとどうなろうがあんまり影響はないですからね。
正義実現委員会や風紀委員会にとってはそりゃあ仕事が楽になるんでしょうが、そんなこと一般生徒からすれば知ったこっちゃないですし。
ほら、何も考えていない、バカみたいな回答でしょう?
「それが、あなたの答えですか」
ナギサ様がそれはそれは大層冷えた声でそう仰いました。
そういえば、エデン条約は今ナギサ様が頑張って締結に向けて動いているという話でした。それをどうでもいいことだと一蹴したのですから、彼女の機嫌を損ねてしまったのかもしれません。
ここは「ティーパーティーの意向に従います」とか無難なことを言っておけばよかったですね。下手な勘繰りをされず、うまく自分の意見も言わないまま通り抜けることができたはずです。
「エデン条約があろうとなかろうとやり方を変えるつもりはないと、そういうことですね?」
「……? ええ」
言っている意図が掴めずそのまま返してしまった私の耳に届く安全装置の外れる音。左右から。
悪寒を感じた私は反射的に地面を蹴って飛び退きます。瞬間、銃声。
私が先ほどまで座っていた椅子が、私の左右に座っていた方々の発砲により、粉々になってしまいました。飛び退いていなかったら私、蜂の巣になっていたのでは。
「もう私が撃った翼の傷が直っているな」
「トリニティの正義実現委員会と私たちゲヘナの風紀委員会両方を相手にしようなんて、相当自信家なのね」
さっきから、一体何の話なのでしょう。
やっぱり私に政治の話は向いていませんね。どうやら先ほどの返答と言い、何から何までその意図を正しく理解できていなかったようです。
あとツルギさん、火傷痕の方を見てください。がっつり火傷残っています。現在進行形で結構ジクジク傷んでいるんです。包帯巻いているのが見えていないんでしょうか。
「すみません。何か怒らせてしまったようなので、こちらで失礼させていただきます」
これ以上ここにいると、何を失言するか分かったものではないですからね。
そう思って皆様に背を向け、扉の方へ向かいます。後ろから撃たれたりしないかすごく恐ろしかったですが、何事もなく扉まで到着し、最後に謝意を込めて深々とお辞儀を行いました。
扉を抜けて一つ息を大きく吐きます。
いや、恐ろしすぎましたね。政治の世界って怖い。私なんかが踏み込んでいいものではありませんね。学校のお勉強ができたところで全く役に立たないんですから。
それにしても、ミカさんは恐ろしいですね。あんな砕けた口調をしているのに、政治の世界であのポジションです。意図が読みづらいことこの上ない。きっとあのフランクな感じで相手のミスを誘って蹴落としてきたんでしょうね。
そんなことを考えながら、プエラ分派寮への帰路を急ぎます。
「ねえ」
寮への帰り道、その人気が少ない並木道で呼び止められて、足を止めます。
声で察してはいましたが、振り返ってみればやはりミカさんでした。追撃のお時間ということでしょうか。お手柔らかにお願いしたいのですが。
「カタネちゃんも、ゲヘナのこと嫌いなんでしょ?」
カタネちゃん
エデン条約を進めているティーパーティーの彼女がこれを言うということは、私から何が何でも言質を取りたいということなのでしょう。ゲヘナが嫌いだと言えば、危険分子として拘束できる権限を持っているのかもしれません。
私も、ゲヘナ嫌いのトリニティの方が多いのは知っています。
ですが私はあまりゲヘナの方と会う機会がないですし、会った方と言えばそれこそ越境してきた
治安悪いとか温泉の温度が高いとかまあ文句を言いたい部分はありますが、そんなの同じぐらいトリニティの悪口も出てきますし。性格が悪いとか迂遠すぎて何を言いたいかわからないとか。
「別に、ゲヘナがどうとか、そういうのはないですね」
「ふーん、でも敵になったら容赦しないんでしょ?」
ミカさんは、何が言いたいんでしょうか。
相変わらず意図が読めず、困ってしまいます。
そもそも、敵なんですよね。だったらゲヘナがどうとか関係なく、別に容赦がなくてもいいのではないかと思うのですが。
戦場で引き金を引くことを躊躇していたら、撃たれるのはこちらなのですし。
「敵なんですよね? だとしたら、そうなりますね」
「それがトリニティの組織でも?」
「……? 敵であれば、そうでしょうね」
私が悪いんでしょうか。
敵対しているんですよね。戦場で向かい合っている状態ということですよね。さすがにその状態で相手に銃を向けないというのは、なかなか難しい話ではないでしょうか。
もしかしてこれも、何かの問答なんですかね。
私が知らないだけで、有名な古典の一節だったりするんでしょうか。もしそうであるのならば、知識不足をお詫びするしかありません。
「うーん、これは崩せないかなぁ」
やっぱり、嚙み合っていませんね。
今日お会いしたことでツルギさんのが人違いじゃないっぽいこともわかりましたし、私の勘違いでなければゲヘナの風紀委員長さんにも目をつけられてしまった気がします。
悪いことなどする気は欠片もありませんが、何かするとすっ飛んできそうな気配を感じるので行動には細心の注意を払わねばなりませんね。
基本は外に出かける用事なんてないので、そこまで気にすることはないのかもしれませんが。この前の出撃が例外中の例外なのです。
ですがまあ、懸念事項だったお茶会も終わったことですし、これで一息つけることでしょう。
シミコさんから図書館へのご招待もいただきましたし、今度足を運んでみることにしましょう。
素で喋ってるミカさんの言葉を深読みした結果大惨事に。
ちょっとしたアンケート。終わり方についていくつか候補があるのですがお好みはどれでしょう?しばらく置いておきます。
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主人公(カタネ)の物語だけでスパッと完結
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蛇足を付け足して大団円
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うるせー、一生続きを書け