見たか! 余はカッコいいであろう!   作:息抜きのもなか

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今回からの2話は箸休め回です。


13.そうして同族は見つめ合う

 お母様、イメージ戦略というものを教えてくださったこと、覚えておりますか。

 会社の戦略として打ち出すならまだしも、人間関係でそれを駆使せよとお母様が仰られたとき、私は一体どんな顔をしていたでしょうか。私は今も当時と変わらず、自分にはコントロールは難しいなと感じております。

 

 プエラ分派の首長室は、少しばかり賑やかになりました。

 先日の一件で私たち新組織が分派のことを対応できることが分派内で広がってしまったのか、相談者の来訪が増えました。

 加えて何を勘違いしたのか散歩感覚で「一緒にゲヘナ叩きに行きましょう」という方や本当に何を勘違いしたのか婚約指輪の相談をしてくる方*1もおり、ミタカちゃんが常駐するようになったこともあって私の気の休まる場所がありません。

 そして私が淡々と仕事を片付けている最中に、ミタカちゃんとリツカさんは楽しくティーブレイクに勤しんでおられます。一瞬で馴染んだミタカちゃんのコミュニケーション能力、羨ましいものですね。

 

「リツカ先輩の一人称はやっぱり『余』だと思うんです! 威厳のある感じをこう、前面に押し出す感じで!」

「じゃあ私は『()』を推しちゃおうかな。こう、歴史があるんです、みたいな感じで行きたいよね」

 

 リツカさんも外行きモードを崩していますし、楽しそうで何よりです。

 だからといっておかしなことを真剣に議論するのはやめていただきたいものですが。キャラ付けどうこう以前にまだ人と話すのもギリギリなんです。

 それに、ただでさえ二つの自治区の治安維持部隊のトップに物騒な勘違いをされていそうな状況で、変な属性を足したらどうなるか分かったものではありません。先日も安全装置の音に気付けたからよかったものの、見てから避けるなんて化け物紛いの真似はできないんですから。

 そうそう、勘違いと言えば、ミタカちゃんはどうやら私とリツカさんの中で私が(ブレイン)だと思っているみたいです。先日のヘルメット団の一件を深読みした結果、実は私が全部のシナリオを組み立てたという結論に至ったようです。

 私のミラクルショットが原因でしかないのですが、完全な誤射だったあれを弁解できるはずもなく。私が(かぶり)を振るよりも早くリツカさんが「そうそう! そうなんですよ!」と悪乗りした結果そういうことになってしまいました。

 次に何か分派で出撃があるときは私も作戦を考えなければいけなくなってしまって、とてもじゃないですが気が重たいです。次こそはボロ雑巾に強制ジョブチェンジを覚悟しないとですね。

 

「そういえばリツカ先輩、こちらの古書館の本は返さなくてよろしいのですか?」

 

 突然ミタカちゃんがそんなことを言い出して、私は思わず顔を上げます。

 私とリツカさん、どちらに言っているんだろうと思いましたが、こちらを見ているのでたぶん私ですね。

 見れば、彼女の手元に随分と古い装丁の本が置かれています。

 ちらりとリツカさんに目を向ければ、悪戯が成功した子供のように笑みを浮かべていました。どうやらその本はリツカさんが用意したもののようです。

 

「お時間がないようでしたら私が返却してきますが……」

「そういえば、先日助けた図書委員の方に招待されていませんでしたか? こちらの返却ついでに会いに行って来たらいかがでしょう?」

 

 あ、これは言外に「さっさと用事済ませて来いこの出不精が」と言われていますね。

 もしかしたらリツカさんの方にシミコさんから連絡が入ったのかもしれません。リツカさんはそのあたりのパイプも持っていそうな気がしますし。

 ティーパーティーの招待からもう二週間以上経っていますからね。その後は分派で首長室と自室の反復横跳びをしていたので外出などできるはずもなく。いえすみません違います単純に外出したくなかっただけですごめんなさい。

 とにかくまあ、何かの手段で催促の連絡が入ったのでしょう。

 これ以上お待たせするのも申し訳ないですし、一度挨拶をしに行っておきましょうか。

 

「よしよし。これでシミコさんも喜びますね!」

「ええ! リツカ先輩が来ないと嘆いていたシミコちゃんの連絡もこれにてフィニッシュです!」

 

 あの、お二人とも、部屋を出てすぐにそんな会話をしたら聞こえてしまいますよ。いや、もしかしたら聞かせているのかもしれませんが。

 先の話を信じるのなら、どうやら連絡が入っていたのはミタカちゃんだったようです。

 まあ確かにヘルメット団の拠点にいたのはミタカちゃんでしたし、その時にモモトークの交換をしていたのかもしれないですね。同じ一年生同士で話が通じる部分もあったのかもしれません。

 何にせよ余計な気を使わせてしまったことは確かです。

 調べものもありますし、古書館ならちょうどいいですね。招かれたのは図書館でしたが、きっと誤差の範囲でしょう。

 

「誰もいませんね」

 

 ノックをしたのですが反応がなかったので勝手に入ってきてしまいました。

 返却担当の方がここにいると聞いていたのですが、まあ古書館自体の出入りが厳しくチェックされているわけではないので大丈夫でしょう。しかし返却の担当者が図書委員長とは驚きですね。なんでも重要な書物が多いのできちんとチェックしたいのだとか。

 しかし暗いですね。人が来ないので電気を消しているのでしょうか。あるいは古い施設なのでもう既に電気がつかないとか。いえ、きっと前者ですね。本も日焼けをすると言いますし、電灯の熱で本が傷むことを避けているのでしょう。古書はデリケートですからね。

 では返却担当の方が戻ってくるまで、暗闇でお目当ての本でも探すことにしましょうか。

 

「分派創設時の話か、あるいは名家の家宝一覧とか……」

 

 古書ですのであまり触らないようにしつつ、その題名を確認していきます。

 図書委員長は「古書館の魔術師」との呼び名があるらしく、確かにこうして蔵書を見ていてもわかりやすく分類がなされています。

 その分類を目印に私の目当ての内容が書いていそうな本を探していたのですが、題名から想像がつかなかっただけなのか、単純に置いていないのかわかりませんが見つかりませんでした。

 仕方がないので手持無沙汰を解消するため、トリニティの創設期の古書を手に取ります。基本的には既知の内容が多いのですが、細かい部分や裏事情についても記載があったため、なかなか楽しめました。

 そうして何冊か読んでいたのですが、トリニティ総合学園の設立時の会議に参加した分派の名前が書き連ねてある古書が見つかりました。当時のものではなく、当時の資料を基に再編されたもののようなのですが、細かい記述もあり他の資料との齟齬もないのでなかなか信頼度は高そうです。

 フィリウス・パテル・サンクトゥス・ヨハネ・アリウス……。

 その古書を見落としがあったり古書自体に落丁・落頁がないか丁寧に見返しますが、何度繰り返してみても結果は変わりません。

 

「やはり、プエラはいませんね。後から成立した分派だということでしょうか?」

 

 その独り言に、大きな反応を見せた方がおりました。

 

「だ、誰ですか!? ど、泥棒ですか? こ、この子たちは渡しませんよ!?」

 

 少しだけ走る音、その後、スイッチ音。

 突然の眩しさに目を細めながらも、古書館に明かりがついたことを確認します。

 そして音がした方に少し歩いてみれば、挙動不審な動きをしながら周囲を警戒する生徒の姿が見つかりました。

 その姿にどことなく親近感を覚えていた私が和んでいる間に、向こうも私に気が付いたようで、声をかけてきます。

 

「だ、誰ですか。な、何が目的ですか。その制服、プエラ分派の、ということは最近話題になっているヤバい人なんじゃ……。わ、私は屈しませんよ!!」

 

 慌ただしい人ですね。私は固まって動けなくなるタイプですが、この方は口も体もバタバタと動いてしまう方のようです。

 見ていて面白いですが、何か聞き捨てならないフレーズが聞こえたような。

 追及しても碌なものが出てこなさそうなのでそちらは一旦記憶の彼方に放り投げておくとして、私は本来の目的であるリツカさんから預かった返却予定の古書をその方に見せました。

 向こうも私が持っているこれに見覚えがあったのか、目を真ん丸にして私の顔と本を見比べます。

 

「その子は花羽さんに貸したものです。なぜあなたがそれを、いえ、確かあの子のSNSではこの方が花羽さんと呼ばれていたような気がします。ええと、混乱してきました。はっ! まさかその子を人質に私に言うことを聞かせるつもりですね! うぐっ、ですがその手には乗りませんよ。その本の内容は覚えていますし、既に複製も作成済みです! 残念でしたね!」

「いえ、普通に返却なのですが」

「………………はい?」

 

 私がリツカさんの代わりに古書を返しに来たことと、手続きをお願いしたいことを説明すると、「あ、はい」と急に冷静になって淡々とその処理をやってくれました。

 どうやら先ほどまで眠っていたようで、寝起きで私の呟きを聞いてパニックになってしまったみたいです。

 そんな彼女ですが流石は委員長というべきなのでしょうか。手際の良さが傍目から見てもわかるぐらいスムーズです。それでいて古書は心底大切にしているのが伝わる丁寧なタッチで触りますし、なるほど確かにこれは古書館の主と呼ぶに相応しい存在ですね。

 彼女が「はい、これで返却処理は完了になります」と告げて私の用事(おつかい)は完了したのですが、少し彼女のことを観察してみます。

 整えられていない髪、背後に見えるソファの布団、そして何よりこの目つき。役満でしょう。

 彼女は間違いなく引きこもりです。私の同類ですね。

 ですが彼女はここに引きこもりながらも図書委員会の仕事をしたり、暴走気味ではありますが相手に言葉を届けたりしているので、ぐうたらな私とは比べるべくもないのですが。

 親近感ついでに、一つ彼女にお願い事をしてみます。

 

「図書委員長さん、プエラ分派の設立当初、その背景が分かる資料は何かご存じですか?」

「プエラ分派の? いえ、確か古書館の方にはなかったかと。プエラ分派はシスターフッドと関わりの深い分派ですし、向こうにはもしかすると何かあるかもしれませんが……」

「いえ、十分です。あともう一つ、トリニティ名家の家宝が乗っているものはあるでしょうか?」

「あるにはあるはずですが、秘匿とされているものも多いので禁書の方ですかね。公表されているものぐらいなら写しを用意できるかもしれませんが……」

 

 委員長の提案に「お願いします」と答えて、それを最後に古書館を去りました。

 引きこもりは人と会うのが苦手なんです。話せないことはないかもしれませんが、それでも苦手なことに変わりはありません。

 用事が済んだらすぐにその場を辞すことが私にできる一番の思いやりなのです。

 一応資料ができたら受け取らないといけないので、モモトークの交換をしておきました。

 古関ウイさん、というらしいです。私的にはかなり波長が合うというか馬が合うというか、結構やりやすい感じがするので、ご迷惑でなければ古書館に定期的に足を運ばせてもらってもいいかもしれません。

 それを伝えてみると「やめてください。本当に」とすぐに返信が返ってきました。

 何となく、リツカさんの気持ちが分かったような気がします。

 私やウイさんみたいな人は、ちょっかいを掛けたくなるようなオーラを出しているのかもしれませんね。

 そうしてそこそこの成果を得て首長室に戻ってきましたが、何か忘れているような。

 

「シミコちゃんには会えましたか?」

 

 あ。

 

 翌日ちゃんと図書館に向かって、おすすめの小説を教えていただきました。

 読んでみると主人公が敵にも味方にもひたすらに優しい本ばかりをおすすめされていたのですが、何か意味があるのでしょうか。

 トリニティはやっぱり難しいですね。

*1
約1名。ミノワさん。




古書館で調べものをするためにウイさんとの縁を繋ぐシミコさんとの出会いが必要だったんですね。

ちょっとしたアンケート。終わり方についていくつか候補があるのですがお好みはどれでしょう?しばらく置いておきます。

  • 主人公(カタネ)の物語だけでスパッと完結
  • 蛇足を付け足して大団円
  • うるせー、一生続きを書け
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