お母様、お父様、お二人はいつも道路側を歩いてくださいましたね。私が危なくないようにと気を使っていただいたこと、今思うとすごく嬉しいです。
一つ質問があるのですが、中学生になってからもそれが続いていたのは背の低い私をからかうようなお心がお有りだったんでしょうか。そうではないと信じておりますので、やはりこの質問は心の中に留めておくことにします。真実を知るのが怖いとか、そういうのではありませんので誤解なさらないよう。
私の背は、お世辞にも高いとは言えません。
リツカさんと比べると頭一つ分ぐらい違いますし、ミタカちゃんと比べても少しばかり足りません。加えて表情筋のサボタージュこそあれど、美人というよりは可愛い系に分類されるのが私の容姿になります。
それが故なのでしょうか。
先ほどからリツカさんに子ども扱いを受けているのです。
危ないから手を繋ごうとか、リツカちゃんはこっちと言いながら車道側に回り込んだりとか、私は死んだ目でされるがままになっていますが、こちらにも羞恥心とかいうものはあるのです。ぜひやめていただきたいところ。
「やはりお二人は仲がよろしいですね。最初に声を掛けたのはやはりカタネさんの方なのでしょうか?」
ミタカちゃん、嫌々付き合っているというオーラを隠していない私とリツカさんのやり取りを見て、どうしたらそんな感想が出てくるんでしょうか。
しかも私からリツカさんに話しかけて交友関係が始まるなんて、いえ、ミタカちゃんが言う『カタネさん』はリツカさんのことでしたか、そういう意味では、間違っていませんね。
私でさえ混乱するのですから、どう答えるのが良いでしょうか。
そう思っていたら、リツカさんが勝手にその質問に回答しました。
「いや、最初は
ああ、そういう。
私はリツカさんが言いたいことを察して、それに乗っかることにしました。
要は、私とリツカさんのやり取りを変に取り繕おうとすればボロが出るので、バレないぐらいの範囲で本当のことを言おうという方針のようです。
リツカさんの言葉に、案の定ミタカちゃんは目を丸くします。一転して、余計にヒートアップしてないかと思うような楽しそうな表情。
こちらに向ける目がすごくキラキラしていて、何かを期待していて、目を背けたくなってしまいます。というか普通にそっぽを向かせてもらいました。
「ねえリツカ先輩! どんな風に話しかけたんですか!?」
うわあすごく楽しそう。
やめてください視界に入って来ようとしないで覗き込もうとしないですごい気まずいというか恥ずかしいので。往来でそんなにうろうろしながら歩いていると迷惑になってしまいますし。
そのオレンジ色のショートカットの向こうに尻尾がブンブン揺れている気がします。
リツカさん、早く何か答えてあげてください。私のメンタルが潰えてしまう前に。この子ちょっと距離感おかしいんです。近い、あの、ほんとに近い。
「いやぁいきなりその青い銃を預けて『これ持ってて』って言われたんだよね。後ですごい申し訳なさそうにしてたけど、いきなりは困っちゃうよね」
リツカさんのその答えに、ミタカちゃんがおとなしくなりました。
衝撃だったのか、あるいは対して面白い話じゃなかったために反応に困っているのか。目をパチパチとさせて尻尾も引っ込んだところを見るに、予想外だったのは間違いないと思います。
まだ一カ月ほどしか経っていませんが、もう随分と昔のことのような感じがします。
そういえば私たちの始まりは、そんな始まりでしたね。あれから今まで謝ってもらった記憶はないのですが、彼女の中に少しばかりそういう気持ちがあると考えていいのでしょうか。
そんなことを考えている間に、特に誰が言葉を発するわけでもなく止まってしまった話題。
ミタカちゃんはまだ何か考えているようですし、先の答えを口にしたリツカさんも下を向いています。
「ここですね」
看板が目に入りましたので、目的地に着いたことを知らせます。
途端にその場に広がっていた重たい空気が霧散します。この空気が続くと息苦しそうだったので、この店が近かったことに感謝しないといけないですね。
外のショーケースには最新のショットガンなのでしょうか。どこかツルギさんの使用しているものに形状が似ているそちらを横目に、内開きの扉を抜けて入店します。
店に入った途端、いわゆる戦闘モードというやつでしょうか、ミタカちゃんの目の色が変わりました。お宝がないか辺りに目を向けるその姿は真剣そのもの。やはりパーツマニアにとってはこういった場所はたまらないのでしょうね。
さて、ミタカちゃんがショーケースに張り付いている間に、私は奥のカウンターへ向かいます。途中でカスタムパーツが少し気になりましたが、私の愛銃につけるには強度が足りなさそうでやめました。
「店主さん、こちらの銃のパーツを探しているのですが」
そう言ってリツカさんからの借り物である青いスナイパーライフルをお見せしますと、ナギサ様から譲られたものであるからか、片目に眼帯をした猫のおじさまに随分とまじまじと見つめられてしまいました。
やはり分かる人には分かるようなモノなのでしょうか。私ですら古いものだと言うぐらいはわかりましたし、マニアの中ではかなりのレアもの扱いなのかもしれません。
本当はこの銃が何なのか予想はついているのですが、騒ぎになっても困るので黙っておきます。
欲しいパーツを手っ取り早く説明するため、その場で軽く分解して状態をお見せします。
向こうも手入れをやってきた人間でしょうしすぐにその状態が悪いことが分かったのでしょう。これはすぐに交換すべきだと言われてしまいました。
私もそう思いますと返して、パーツが店内にあるか聞いたのですが、
やはり随分と古い型のようで、ここでは取り扱っていないとのこと。
「あるとしたら古くからある家の備蓄品か、あるいはブラックマーケットだろうな。一応そっちなら扱っていそうな知り合いを紹介できるが、どうする?」
隣で見ていたリツカさんと顔を見合わせます。
見合わせたところで、何も口に出さなければその意図を理解できるわけはないのですが。
しかし正直予想はできていたことですし、こういうお店でこんなことを言われるということは他のお店にも置いていないような気がしてしまいます。
ブラックマーケットというのが少し、いえ結構気が引けてしまうのですが、他に頼れる当てがあるわけでもありません。ダメ元でお願いするのもありかもしれません。
本当は足を踏み入れるのもトリニティ的にはギリギリ……アウトなのですが、そこはナギサ様から頂戴したこちらの銃のメンテナンスということでどうにか許してもらいたいところです。使いすぎて壊れてしまうよりはいいじゃないですか。弾詰まりならマシですが、暴発して
「お願いします」
私がそう回答すると、隣のリツカさんから穴が開きそうなほど見つめられてしまいました。
リツカさんはティーパーティーの所属でしたし、私以上にブラックマーケットに忌避感があるのかもしれません。
猫の店長さんは私の答えを受けて一旦店の奥に引っ込み、そして住所と座標の書かれた紙を持って戻ってきました。
「一応向こうにも連絡は入れておいた。一応ブラックマーケットだからな、俺が紹介したこと、あんまり人に言うんじゃねぇぞ」
「ええ、もちろん」
にっこりと笑ってそう答えたのですが、店長さんが渋い顔になってしまわれました。
もしかして私の笑顔、表情筋のサボタージュの結果サクラコさんみたいな怖い笑顔になってしまっているのでは。今度鏡で確認した方が良いかもしれません。
まだショーケースと睨めっこしているミタカちゃんに声を掛け、店を出ます。
少し歩いて店から離れたところで足を止めた私たちは、今後の方針について話し合いました。
「ほんとに行くんですか、そこ?」
「……ええ。行ってみたらきっと、楽しいでしょうし」
「私は、パスでいいですか? 流石にちょっとブラックマーケットは……」
残念。二人はあまり乗り気ではないようです。
ミタカちゃんはそうかなと思っていたのですが、リツカさんが先にリタイアを宣言したのは少し意外でした。今でこそ私が使用してはいますが、彼女の銃ではあるので何だかんだついてくるものだと思っていたのですが。
そこで気が付きましたが、彼女はナギサ様の評判を気にしているのかもしれません。
元とはいえティーパーティーの人間が、それも銃を預けられるような間柄の人間がブラックマーケットに行っていたとなれば信用に関わる問題になりかねませんから。そこは最低限のラインを引くということなのかもしれません。
そういう意味では私も首長ですし『花羽リツカ』を名乗っている以上ナギサ様の方に関しても問題がありそうなものですが、ウイさんが私を見て『ヤバい人』と認識していましたし、今更悪い噂が一つ増えたところで変わらない気がします。
最悪リツカさんに関しては私との入れ替わりを暴露すればナギサ様の名誉も守ることができますし、私はもう気にしない方向でいくことにします。
「私は……すみません、私もパスでお願いします。ついていきたいのは山々なのですが、多分足手まといになってしまうので」
ミタカちゃんもリタイア。
ブラックマーケットが物騒な場所であることは間違いありませんし、戦闘が得意ではないミタカちゃんにとってはそれが正解かもしれません。
そんな訳で本来の予定とは異なりますが、ここで一旦解散することになりました。
また一人行動になってしまうのは残念ですが、最近は少しずつ会話が成立しつつありますし一人での外出も問題ないはずです。実際、ウイさんへの
ミタカちゃんはこのまま部品屋さん巡り、リツカさんは折角の空いた時間ということで久し振りにティーパーティーの皆さんのところに顔を出してくるとのことです。
私はこのままブラックマーケットに直行する予定です。
理由は単純です。このまま寮に戻ったら今度いつ行くかなんてわかったものではありませんからね。私の出不精を舐めてはいけません。
そういうわけで今すぐに出発しようと思ったのですが、座標が示す場所は現在地点から10
最短距離は、と。うん、大丈夫そう。
忘れられがちなのですが、私中学時代は陸上をやっておりまして。長距離走をメインにしておりましたので放課後は
まあつまり何が言いたいかと言いますと。
10
実は後付けどころか最初から明言されている陸上部設定。彼女のタフさの一因だったりする。
そろそろ先生が出てくるんですが、先生(プレイヤー)の掲示板形式って見たいですか?
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本編の息抜き的な感じで欲しい
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本編完結後にまとめて投稿の方が良い
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いらない