見たか! 余はカッコいいであろう!   作:息抜きのもなか

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19.そうして正義は胸を焦がす

 お母様、お父様、お二人は私のことを我慢強い子だと(おっしゃ)ってくださったのを覚えていますか。

 あのとき、私はその言葉に何も言い返さなかったと記憶しております。けれどそれは、お二人のことを失望させたくなかったからなのです。

 私は単純に自分の中で心を言語化する術を身に着けて、一つ冷静になれるストッパーを作っただけ。その許容量を超えてしまえば簡単に走り出してしまう、残念な単細胞生物なのです。

 

 寮を飛び出したはいいものの他の拠点の位置が分かりませんし、唯一の手掛かりであるあのお店は何だか天敵(ツルギさん)の予感がするので近寄れません。

 私がブラックマーケットのお店を潰したことで店主さんが報復を恐れて相談をしたのかもしれませんね。諸々を伏せて『紹介した友達の店が襲撃された』と言えばどちらが悪者か分かったものではありませんから。

 現状それを覆して説得する材料は私にはありません。ミライさんと私の証言だけではツルギさんを退けるのは難しいでしょう。せめてあの場にいた『Rabbit』の皆さんが証言してくれれば。

 

「……そういえば」

 

 ふと、ミライさんと話して下した結論を思い出します。

 どうして彼女たちはあの時あの店へと突入してきたのか。それは手元にある情報から整理してみれば簡単で、私たちよりも前に何件か同じような事件が発生しており、それを見かねた彼女たちが動いたということなのだと想像がつきます。

 私は彼らがクロだという確信はあっても、まだ証拠を得られていません。ですが彼女たちは大義名分はないにしろ正義を掲げるSRTです。部隊の行動として突入を図ったということは何かしらの決定的な証拠を見つけている可能性があります。

 そして撤退の時に見たあのヘリコプター。狙撃の準備をするわけでもなくあの場に待機していたということは、彼女はきっと前線に立つ人間ではなくオペレーターなのだと思いますが、SRTの部隊に入っているぐらいですから情報収集能力は高いはず。

 きっとあの場所だけでなく、他の拠点や店も発見しているに違いありません。

 

「……まだ残っているといいのですが」

「……! 待つっす!」

 

 正義実現委員会の方が脇道から飛び出してきますが、目標を定めて加速を始めていた私は踏み込んで跳躍して彼女をスルーします。

 呆気に取られていたのかワンテンポ反応が遅れた時点で私の勝ち。これだけの距離が空いてしまえば、あとはもう逃げるだけです。

 目標、ブラックマーケット。同族センサー全開で、二度目のランニングです。

 

「……見つけました」

 

 ブラックマーケットへの道の中程まで来たところで、こちらを見る視線に気付いて方向を転換します。リツカさんのスナイパーライフルは置いてきたので彼女かどうかはわかりませんが、そんな距離からこちらを見れる人間がそうそういては堪ったものではありません。

 もうブラックマーケットから別の場所に移動していたら正直手詰まりだったので、移動先が近くで助かりました。

 彼女がビルの中で階段を駆け下りていることを考えて、私も全速力で彼我の距離を埋めにかかります。

 彼女の目がどれだけ良かろうと、スナイパーライフル側の性能限界は存在します。どれだけ離れていたとしてもせいぜい三キロが限度です。

 私の直感を信じるならば直線距離で一キロと少しぐらいのはずなので、地下通路がない限りは追いつけるはず。

 

「……違う」

 

 私は路地に入って外に出ている配管や窓の転落防止フェンスなどを足場にしながら建物の屋上へ向かいます。

 そして彼女がいた地点付近の建物の屋上付近に目を凝らしました。

 私の肉眼ではまだ見えませんが、猶予はその建物を飛び移って屋上にたどり着くぐらいの猶予はあるはずです。他の二人が別の場所にいれば、それを待つ時間も発生するはず。

 だから早く探せ。見つけろ。どこかにあるはずだから。

 

「あった」

 

 この地域には珍しい、屋上に待機しているヘリコプター。昼に見たものと同じ軍用のヘリコプターの姿を、私は発見しました。

 思っていたよりもこちら側に近くて、少しだけ安心します。

 あの黒髪のスナイパーさんさえ見つけてしまえば、あとは彼らが到着するまで動きづらいヘリコプターを探す方が簡単です。図体も大きく、何よりこの辺りではあまり見ませんから。

 足元にも注意しながら進んで、先を急ぎます。

 彼女たちと交渉して、共同戦線を張れるのが最良。協力が得られずとも、彼女たちがあの組織の拠点を一つ残らず襲撃して壊滅させると約束してくれるのならば最悪それでも構いません。私は彼女たちの仕事が終わるまで分派の皆を守ればいいだけですから。

 少し次のビルまで距離があったため十分に加速して跳び、そのフェンスに掴まることに成功したその時には、もう逃れられないと分かりきった大きさと近さで悪寒を覚えました。

 

「動かないでください」

 

 頭に銃を突きつけながらそう言われてしまえば、私は宙ぶらりんのまま動きを止めるしかありません。ちらりと横目で下を見ますが、流石に着地に失敗したら大怪我だろうという高さです。

 お相手は二人組のようで、一人が銃を突きつけた状態のままもう一人が私の事を引き上げます。

 その顔を見て、私はギリギリで賭けに勝っていたことを悟りました。

 

「何が目的ですか、花羽リツカ」

 

 目の前にいる、二人の兎さんたち。

 私が接触していようとしていた、SRTの小隊。

 

「あなたたちと、協力がしたいです」

 

 そう言った私に、銃を突きつけたまま二人は顔を見合わせます。

 するとオペレーターの子から通信が入ったのか、銀髪の子の方が片手を耳に当てました。「ああなるほど」と小さく彼女が呟いたのが聞こえ、視線がこちらに戻ります。

 きっとミタカちゃんが攻撃されたことが共有されたのでしょう。

 ならば、私の口から語らずともこちらの目的は伝わったはず。

 

「なぜ私たちを? トリニティには正義実現委員会があるでしょう」

「あそこは、動かせませんから」

 

 私が頼んだところで動いてくれるとは思えませんからね。多分、ツルギさんに嫌われていますし。

 それに今回は向こうに先手を打たれてしまったみたいですし、何やら私がくるのを警戒していたご様子。近付いたら問答無用で撃たれそうな予感があったので避けた以上は、手を取ることは難しかったでしょう。

 ほとぼりが冷めれば冷静に話を聞いてもらえるかもしれませんが、次の被害がどこで出るかわからない以上、早めに潰しておくに越したことはありませんから。

 

「こっちのメリットは何だ? オマエの評判を考えれば、協力したことでこちらが被るデメリットの方が大きいと思うが」

「……いえ、そういうことですね。あなたからの依頼があって協力している、というポーズを取ることで、私たちの行動が独断ではないという大義名分を得られる、と」

 

 あの、私が何も言わないうちに話が進んでしまったんですが。

 メリットと言われて提示できるものがないとか、私の評判を考えれば協力することの方が不名誉とか本当に仰る通りでどうしたものかと頭を抱えていたのですが。

 銀髪の子みたいな打算とかなく、ただ考えなしに来てしまっただけなんです。

 そんな私の脳内言い訳タイムが展開されている間にもお二人は通信をしながら部隊の方とお話ししていたらしく、気付いた時には握手を求められておりました。

 

「SRT特殊学園、RABBIT小隊の月雪ミヤコです。作戦時には、『Rabbit1』とお呼びください」

「同じくRABBIT小隊所属、『Rabbit2』の空井サキだ」

「プエラ分派――いえ、今はただの一生徒(いちせいと)、花羽リツカとして。皆さんの助力にただ、感謝を」

 

 今回私がやるのはプエラ分派としてではなく、ただブラックマーケットに出向いてしまった私個人としての()()()をつけなければいけません。

 リツカさんのスナイパーライフルを置いてきたのも、名前こそリツカを名乗っていますがあくまでも自分(カタネ)として戦うため。いや嘘です単純に私の銃が二本なので邪魔だっただけです。本当ならなるべく持ってきたかったんですが、いつ壊れるかもしれないお荷物を下げながら戦えると驕るほど私は自分の戦闘能力をそこまで評価していないので。

 それに、どちらかといえば分派の名前を出してこれ以上他の方が被害に遭うような事態を避けるため、という方が意味合いとしては強いです。あそこ(ブラックマーケット)に関わったのはあくまでも個人としてであって、分派の人間を代表して行ったわけではないということを主張しなくてはいけませんから。

 

「ついてきてください。仲間のところへ案内します」

 

 彼女たちは普通に階段を使ってビルの中に入っていきます。

 少し離れた屋上に見えるヘリコプター。もうそこまで高低差もないので突っ切ればすぐなのですが、ついて来いと言われてしまった以上は仕方がありません。名残惜しくも屋上を後にします。

 二人に挟まれる形で囚人気分を味わいながらヘリコプターに乗せられ、残りのお二人の紹介をしていただきました。オペレーターの子は風倉モエさん、同族のスナイパーさんは霞沢ミユさんというそうです。

 ヘリコプター内で移動中に作戦説明を受けまして、まあ早い話が普通に降下して突入です。

 相手組織の拠点も向こうのネットワークに侵入して判明しているようで、思った三倍は多かったその拠点及び起点であるダミー店舗の数に思わず頭が痛くなりました。

 もう既に何箇所かは潰していて、今日も私と会った後に二拠点を攻略済みのようです。

 疲労は少しばかり気になりますが、これなら安心してついていけるというもの。

 そう、思っていたのですが。

 

「おい、勝手に動くな! こっちの指示に従えと言っただろう!」

「この部隊の小隊長は私です。あなたこそ私の指示に従ってください」

『くひひっ、さあドローンちゃん、ここらで爆発いっちゃおー!』

「あ、あの、私、次はどうしたら……」

 

 一拠点目の時はたまたま意見が合わなかったのかもと流していたのですが、二拠点目、三拠点目も同じような光景を見せられれば話が変わってきます。

 戦闘力は凄まじいです。正直、私の出番があまりありませんし。

 しかし悲しいことにどれだけ甘い評価を付けようとしたところで、連携は落第(ゴミ)と記入するしかないかもしれません。連携を取って必死に抵抗しようとする相手が可哀そうに思えてくるほどです。

 まあそのおかげで私のショットガンについてもその特異性には目を向けられていないようでありがたい話ではあるのですが。

 

「何なんだよお前らァ!」

 

 破竹の勢いで進む攻略戦。既にブラックマーケット内の拠点は潰し終わりました。

 夜に無理をすれば今晩中にでも終わってしまいそうなペースで進んでいる作戦ですが、小隊内の不和という火のついた爆弾も抱えているわけでして。

 これで本当に大丈夫だろうかと、そう思ってしまいました。




時系列がエデン条約編前なので、四人の仲が悪かった頃の話になりますね。
次回、別視点になります。

そろそろ先生が出てくるんですが、先生(プレイヤー)の掲示板形式って見たいですか?

  • 本編の息抜き的な感じで欲しい
  • 本編完結後にまとめて投稿の方が良い
  • いらない
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