見たか! 余はカッコいいであろう!   作:息抜きのもなか

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02.そうして私は引きずり出された

 お母様、お父様。お元気ですか。お変わりありませんか。

 一年も連絡せず申し訳ありません。カタネです。

 

 私は元気です。最近の外出は一か月半ほど前に深夜のコンビニへ寮母さんへお渡しする用の電子マネーを買いに行ったのが最後ですが元気です。

 最初の一か月ほどで外に出たくなるかなと思っていましたが、引きこもりの適性があったのか外出せずとも快適な生活を送ることができています。ご飯は寮母さんが運んできてくれますし、授業についても手元の端末から見れますので遅れることはありません。

 試験も深夜受験が可能でしたので補習予備軍扱いではありましたが何とか突破しております。もしかすると出席日数についての連絡はお二人に届いてしまっているかもしれませんが、私に受け取る手段がないので苦情は受けかねます。訪ねてくるのも本当にご勘弁を。

 日中に外に出ることが叶いませんので、学生証と携帯電話は私の手元にはまだ復帰しておりません。財布も正義実現委員会に届けられた後、もしかすると引き取り期限が来て売られてしまったかもしれません。

 私の名前で悪事を働いた人のせいで怖い人たちが扉を叩きにやってくるなんて事態になったらとても怖いのでやめてほしいところです。いや、本当にやめてくださいお願いします。

 

 最初の一か月ほどの引きこもり生活下での実験の成果として、人の居ない時間帯であれば外出が可能であることが分かりまして、基本寮から出るときは深夜、寮母さんに先行していただいて人が居ないことを確認してから出発させていただいております。

 しかし一年も経ちますともう社会復帰を諦めて部屋で怠惰な生活を満喫する私の態度に寮母さんの堪忍袋も切れかけておりまして、もうすぐ手綱を放されてしまうのではないかと日々怯える日々を過ごしております。後生なので三年間面倒を見てもらえませんか。ダメですか。自立しろ、と。ごもっともでございます。

 

 そういうわけで私は寮を追い出された時のことを考えて学生証の再発行ぐらいはしておかなければいけません。

 携帯の方は正直、口座に残っていたお金で引き落としがちゃんと滞りなくできているかもわからないのでもう半分捨てています。そうなるともしや自分の娘に電話したら突然『お掛けになった電話番号は現在使われておりません』となっているのでしょうか。恐怖ですね。年末や長期休みも帰らなかったので、何かあったと思われているかもしれません。寮母さんから連絡が行っていると良いのですが。

 外に出るなら人の居ない時間一択。ですが学生証の再発行を行う学生課の窓口は日中以外稼働しておりませんので、私は昼の時間に外に出る必要がございます。

 そこで考えついたのが、生徒の授業時間中に手続きに向かう手段です。一応授業時間であれば一部の活動派の部活の生徒(サボリとも言います)以外には外に出ていることは少ないですし、数も多くないはずなので避けることができるはずです。

 あとは私の身体の問題ですが、学校に行くのではなく試験を受けに行く気持ちでいけば大丈夫のはずです。実際試験を受ける際は学校まで足を運べていますので。

 

「と思っていたのですが、杞憂も杞憂、余裕でしたね」

 

 ここ半年近くはもうこのままでいいかと思って日中外出チャレンジをしておりませんので、思った以上に抵抗なくするりと玄関扉を開け出た自分に、驚いてしまいます。

 確かに引きこもり始めて二か月ぐらいは私も世間からの視線が痛いとか、みんなが真面目に学校に通っているのに自分はとか、そういったことを思っていたのですが、ある時からぱったりとそういうものがなくなっていた気がします。端的に言えば恐らく、図太くなりました。

 まあ引きこもったまま成績も上位をキープできていますし、出席日数についても追加課題を提出すれば文句を言われません。そのことが私の成功体験として記録されてこのままでもなんとかなると思い始めた私が楽観視を始めたのかもしれません。

 これなら学校に通うこともできるのでは?

 そんな考えが頭を過ぎりましたが、私は首を横に振るのみです。

 

「寮母さんに愛想を尽かされるまではこの生活を続けましょう」

 

 だってこの生活、圧倒的に楽ですし。

 好きな時間に好きな授業を見て、好きな時間に課題を行い、好きな時間に食事をして、好きな時間に寝る。こんな環境を手放すなんてとんでもない。最近はリモートワークという勤務形態も増えてきているようなので、卒業しても安心ですね。引きこもり万歳。

 階段の陰から寮のエントランスを確認。誰もいないことを確認して忍び足で扉へ向かいます。誰かが居たら引き返していました。外に出るのは問題なくなっても、寮母さん以外とのコミュニケーションはできる気がしないので、接触しないに越したことはありません。

 そうして寮の入り口の分厚い扉を開け、パタンと閉まったのを見送って外を向こうとした私は、視界の端にいた誰かに気付いてそちらを向いてしまいました。それとほぼ同時に向こうもこちらに気が付いたようで、今まさに寮のインターホンを押そうとしていた生徒と目が合ってしまいます。

 ピンポーンと止まりきらなかった指がボタンに触れ、呼び出し音が鳴り響きます。

 固まる私と大きな荷物を脇に置いた生徒。先に動いたのは相手の生徒さんでした。

 

「ちょうどいいや。これ持っててくれる?」

 

 そう言って押しつけられたのは、彼女が脇に抱えていたスナイパーライフル。青を基調にカスタマイズされている代物で、傍目から見てもよく手入れされているのが伺えます。

 押し付けられた私はといえば、突然のことに慌ててしまって目をパチパチと瞬くことしかできません。

 状況が追い付いて顔を上げた時、私の後ろで扉が開く音が聞こえました。

 先ほど私に銃を押し付けてきた彼女はインターホンを押したのですから、誰かが出てくるのは必然。油断した私は怖くて振り向くことができませんでした。

 

「ようこそいらっしゃいました。お待ちしておりましたわ、花羽(はなう)リツカ様」

 

 あの、違います。

 そう声を上げようとしたんですが、突然不意打ちで強要されたコミュニケーションを、一年寮母さん以外と会話して来なかった私にこなせるはずもなく。

 

「こちらがお荷物ですね。お部屋に私たちでお運びいたしますわ」

 

 先ほどの生徒が寮への転入生なのだとしたらどうせ運び込むことになると思いましたので、頑張って小さく頷きを返します。ギリギリのコミュニケーション。

 それを見た彼女が手を二回ほど叩き鳴らせば、何人か彼女の部下らしい生徒が寮から出てきまして、それぞれ大きな荷物を持ち上げて私を囲みます。囲まれてしまった私はフリーズして固まることしかできません。部屋までご案内しますという一番最初に声を掛けてきた人について行くことしかできない私は、あれよあれよという間に押し付けられた銃の持ち主の自室へとたどり着いてしまいました。

 そこはなんと、私の部屋の隣室でございました。こんな待遇を受ける人の隣って、私の部屋は思ったよりグレードの高い部屋なのではないでしょうか。確かに部屋があるのは最上階ですし、母が首長補佐をしていたとなったら、もしかしたら私にもそういう期待があったのかもしれません。結果はお察しでございますが。

 

「皆さま、お荷物を奥の部屋にお願いします」

 

 その指示を受けた生徒たちが荷物を名前の知らない転入生の部屋に運んでいきます。

 私がそれを見ていると、案内をしていた生徒が突然こちらに頭を下げてきました。

 

「花羽リツカ様、お願いします。どうかプエラ分派を、立て直してはいただけないでしょうか」

 

 あの、頭下げる相手、間違ってます。

 とても申し訳ない気分になったのですが、いかんせんまだ口がサボタージュを続けています。まだまだコミュニケーションに時間はかかりそうです。

 ここで私はようやく気が付いたのですが、この方々、私と同じ制服を着ています。

 そう、つまりここにいるのはプエラ分派の首長とその補佐たちなのでしょう。よく見れば去年入学式の日に私が玉砕したあの子がこの銃の持ち主の荷物を運んでいるのが見えました。彼女がまだ下働きをしているとなると、この目の前の方は三年生なのでしょう。

 

「返事はすぐにとは言いません。ですがその制服でこの寮に来て下さったということは、期待してもよろしいのですね?」

 

 いや、あの子普通のセーラー服でした。ごめんなさい私が紛らわしいことをしたばっかりに。

 私の返答を待つよりも早く、目の前の彼女は部下たちを集めて「それでは、お心が決まりましたら首長室へお越しください」と去ってしまいました。

 誤解が解けぬままなんだか物事が進んでしまったような気がします。

 まずいまずいまずい。

 私はただ玄関で銃を預かっただけだったのに、こんなことになるなんて思いもしませんでした。まずはこの部屋の主を探して、状況を説明しなければ。

 ですが先ほど案内して下さった生徒さんは私の顔をガッツリ見てしまっています。もしかすると私の顔を花羽リツカさん? とやらと間違って記憶してしまっているかもしれません。何だか私のせいでいろんな人に迷惑を掛けてしまったような。

 

「なるほど。ここまでプエラ分派は追い詰められたんだね」

 

 後ろから声がしました。

 振り返れば先ほど玄関でお見かけした彼女が、何だか楽しそうな表情でそこに立っていました。

 

「あ、あのっ、す、すみま――」

「大丈夫。全部話は聞いてたから」

 

 この廊下に隠れる場所などあったでしょうか。

 そんな疑問が浮かびますが、彼女が先ほどの話を聞いていたのなら都合が良いので無視しておきます。うまく説明できる自信がありませんので。

 ともかく、彼女が話を聞いていたなら、銃を返して彼女に首長室に行ってもらうのが一番です。

 私が渡されたスナイパーライフルをずい、と彼女の方に差し出しますと、彼女はとんでもないことを言い出しました。

 

「うん。君がリツカだと思われているなら都合がいいね。ねえ、カタネちゃん。このまま私と君、入れ替わって過ごそうよ」

「……はえ?」

 

 変な声が私の口が漏れてしまいましたが、これは私のせいではないでしょう。

 

 これが、私とリツカさんの出会いのお話。

 この出会いによって、私は引きこもりではいられなくなってしまいました。自室での自由なゴロゴロタイムを帰してほしいです。切に。




銃の形状が違いますが、花羽リツカはエデン条約調印式の左から二番目の銃持っている子(目を開けて笑っている子)のイメージです。
主人公はその右の銀髪の旗手の子イメージ。『なんで私こんなことやってんだろ……』って遠い目をしてると想像するとちょっと笑えて来ませんか?
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