見たか! 余はカッコいいであろう!   作:息抜きのもなか

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モエ未所持で作者の彼女の解像度が低いため、解釈違いを起こしたらお手数ですが作者を切り刻んでください。


22.そうして現実は突きつける

 お父様、ショットガンの反動に苦戦する私に筋トレを勧めてくださったのは、お父様でしたね。

 おかげで私は今ではムキムキ。見た目はそこまで筋肉質ではないですが、反動をものともせずに両の銃を撃つことができています。

 まあそんなことができたところでお母様の銃の威力には勝てませんでしたが。私が無理やり十連射して壊す的を、お母様は一撃で壊すのですから。才能の差というと残酷ですね。私の筋力(これ)は、ディスアドバンテージを埋めるぐらいにしか役に立たないみたいです。

 

 目が覚めました。ヘリコプターの駆動音がします。

 ああ、傷がズキズキと痛む。動きたくない、でも、動けるから、動く。起き上がる。

 

「起きちゃだめだよー」

 

 まだ視界はぼんやりとしていてはっきりしませんが、耳はきちっとモエさんの声だと判別を行ってくれます。

 誰かが近付いてきた影が見えて、その優しい手つきに流されるまま横たえられます。

 抵抗も虚しくされるがままにされてしまって、ようやく自身の身体の異常に気が付きました。

 おかしい。力が入りません。何だか頭もぼーっとしていますし、何でしょう。薬でも盛られましたかね。

 

「皆さんは?」

「ミレニアムの目標拠点を制圧中。順調みたいだから、私もこうして君とお話しできるってわけ」

 

 ああ、行かなくては。

 皆さんだけ働かせて、自分だけこうしてサボっているわけにはいきません。

 

「熱が出てるんだよ。多分傷口から菌とか入っちゃったのかな」

「なるほど……それでは、厳しいですね……」

 

 ああ、こんな。こんな足手纏いになるつもりはなかったのに。

 最後の一番重要な作戦を怪我と熱で離脱してしまうなんて。やはり普通の私は運が悪い。

 それにしても熱ですか。いつぶりでしょうか。皆勤賞は途絶えたことがないので、お母様からの詰め込み教育中の知恵熱が最後ですかね。あれは確か土曜日に熱が出て、翌日の昼ぐらいまでは寝込んでいた記憶があります。体調が良くなったからと夕方のランニングに出かけようとして怒られたことが懐かしいです。

 ここまでキツいのは、熱が出るのが久し振りだからでしょうか。それとも、体力的な問題で本当にギリギリだったからか。

 いえ、こういうのは医療従者に聞いてみないと分かりませんね。生兵法はなんとやら、です。

 

「あのさ、どうしてそんなに頑張るの?」

「……頑張る、ですか?」

「うん、そう。今回だって別に、私たちが動いてるのが判ってたでしょ? だったら君が頑張る必要なかったんじゃないかなって。私みたいな性質(たち)でもなさそうだしさ」

 

 モエさんは自分の疑問として聞いてきているみたいですが、もしかするとそれはRABBIT小隊の皆さん全員の疑問なのかもしれません。

 今回は、私がブラックマーケットに入ったことでミタカちゃんが被害に遭いました。そして、私があの店の人たちを倒してしまったから報復されました。

 今回の件はリツカさんや他の人に流されたのではなく、私が決めて私が引き起こした事態です。

 だから、そこはちゃんと責任を取らなきゃいけません。

 でも言われてみれば、そうですね。私の行動は中途半端です。

 実力が足りないことが分かっていて、RABBIT小隊の皆さんのメリットは皆無。実際は私が入ったことによってうまく回っていたみたいですが、それは結果論でしかありません。彼らが元から連携が可能な部隊であったのなら、私という異物は足を引っ張るだけの荷物になっていたはずです。

 そんな状態で、私はどうして戦うことを選んだのでしょう。

 頭に血が上っていたからでしょうか、許せなかったからでしょうか、でもそんなのはこうやって拠点を潰していくうちに冷静になっていって、冷静になればなるほど戦場(ここ)にいる理由が曖昧になっていきます。

 元は正義実現委員会に任せる予定だったのに、どうして自分でやろうとしたんでしょうか。

 上手くまとまらない思考は、グルグルと堂々巡りを続けました。

 

「あ、その顔。分かってなかったんだ、自分でも」

「……恥ずかしながら、そう、みたいです」

 

 けじめをつけなければいけない。責任を取らなきゃいけない。

 だけど、そのやり方が分かりません。恐らくはそれが理由で、私は分からないままここにいる。

 明らかに自分の手の届く範囲(キャパシティ)を超えていると理解しているのに、RABBIT小隊の皆さんと一緒に戦っていたのは、きっとそういう理由なのです。

 であるのならば。

 

「すみません。中途半端で。ご迷惑、だったでしょう」

「いや? 君が入るまではもっとグダグダだったし、結構感謝してるよ。それに、その中途半端な動機でこんなボロボロになるまで頑張れちゃうのはすごいと思う。すごすぎてちょっと気持ち悪いぐらい」

 

 だからさ、とモエさんは言葉を続けます。

 

「責任どうこうじゃなくて、もっと単純に行こうよ。リツカちゃんはさ、何がやりたい? 今思っていることでいいんだよ。何でもいい。相手の店を爆破してやりたい! とかだったら私の好みドストライクなんだけどね。くひひ」

 

 楽しそうに語る彼女の様子を見ながら、考えます。

 モエさんはああ言うけど、私は一つ一つ整理する方が性に合っているのです。

 私は何についてけじめをつけたいと思っているのか。

 私はどうやって責任を取りたいと思っているのか。

 最も大きいのはやはり、ミタカちゃんに怪我をさせてしまった責任でしょう。それに責任を取りたいのであれば、本当は相手の排除ではなくて、ミタカちゃんの怪我が治るまで面倒を見る形の方が適切なんじゃないでしょうか。今更ながら、そう思ってしまいます。

 ではミタカちゃんが襲われた結果、モノを奪われてしまったことについてはどうでしょう。これは簡単ですね。ミタカちゃんの荷物を取り戻すことです。一つ残らず。

 あとは、ブラックマーケットに入ってしまったことでしょうか。いえ、入ったこと自体が問題なのではなく、そこで問題を起こしたことの方が問題なんですかね。待った、その認識は良くありませんね。そんな認識では、また同じことを起こしてしまいます。故にまず『入ったこと』についてけじめをつけなくてはいけません。そしてそれは、認識を改める以外には難しいでしょう。甘く見ない。なるべく関わらない。今後、いや現時点からそれを徹底しましょう。

 では、ブラックマーケットで問題を起こしたことについてはどうでしょう。この点については、誘われた場所が罠だった時点で避けられなかったように思います。ですのできっと、反省すべきは問題があった時点で正義実現委員会に連絡しなかったこと。倒してしまったことを含めて相談していれば、ミタカちゃんの被害は防げた可能性もあります。

 思いつく最後は、分派の人間を危機に晒したことでしょうか。これについては平に謝るのがけじめの取り方だと思いますし、首長をやめろと言われたならおとなしくこの身を引くしかないと思っています。

 

 こうやって整理していくと、やはり私が戦う理由はなく、あの店を調べてもらってミタカちゃんの持ち物を返してもらえばよかっただけの話ですね。それならこんな回り道はせず、ツルギさんとぶつかることになっても正面から行くのが一番早かったのではないかとすら思えてきます。

 いえ、これはモエさんからミタカちゃんがどこで襲われたのか聞いていたから言えること。あの時点の私はやはり、RABBIT小隊の皆さんを頼らざるを得ませんでした。

 効率よくやるのであればモエさんがオペレーターであることに注目しミタカちゃんの襲撃場所を調べてもらい、ツルギさんを説得できる材料を提供してもらうのが一番早かったかもしれません。

 さて、そんなことを整理した私にも残っている感情を見つけました。

 何をどう理屈をつけようと、やはり可愛い後輩を傷つけられて黙ってはいられないのです。

 

「あの眼帯の猫店主さんを、一発殴ってやりたいとは思っているかもしれません」

 

 きっとそれが、私が自分の愛銃(ショットガン)まで持ち出して、寮を飛び出した理由なのでしょう。

 大義名分をこねくり回してしまって埋もれていた、ミタカちゃんという友達を傷つけられて苛立っていたという単純な感情。それが今回、私が戦うことを選んだ理由。

 ツルギさんや皆さんが自分を警戒する理由が、分かった気がします。

 

「聞いたね、皆。この後はトリニティに行って、リツカちゃんのサポートするよ!」

『『『了解』』』

「は?」

 

 通信で皆さんの声が聞こえて、開いた口が塞がりません。

 聞かれていたんですか、今の。私がみっともない半端者であるということも。結局私が自分の感情に振り回されていただけの愚か者であるということも。

 それなのにどうして、皆さんはそれに付き合おうというのですか。私の醜い欲望なんかに皆さんが手を貸してくださる理由なんてないのに。

 

「別にいいじゃん、単純でもさ。下手な建前とか理由をこねくり回されるよっぽどわかりやすくて安心するし」

 

 だからもっと素直に生きていいんじゃない、とモエさんは続けました。

 それは恐らく、私の弱い自分を表に出せ、ということなのでしょう。それはいわば、お母様から伝授された化けの皮を捨てるということ。トリニティらしからぬ()()()()()の私を見せるということです。

 それを想像してみると。

 

「怖い、ですね。それは」

 

 私はトリニティの恐ろしさを身をもって知っています。取り繕うことができなかった去年の私がどうなったか、思い出す度に虚しくなるぐらいには。

 今の私がやれているのは、皆さんのことが怖いが故にずっと緊張の糸を張っているからの部分が大きいと思います。常に取り繕って目を配っているからなんとかなっている。それをやめてしまえば私は終わってしまう予感があるから、ずっと肩に力が入った状態で過ごしているのです。

 もう少し私の心が強くなれば、もっと楽に生きることができるでしょうか。

 

「さ、もう一回寝ときなよ。トリニティの方に着いたら起こしてあげるから。殴れるぐらいには回復しないといけないしね」

 

 モエさんに促されて目を閉じれば、気付かぬうちにまた私の意識は沈んでいきました。

 この時彼女が私のスマホを勝手に開けて自分のモモトークを交換していたと気付いたのは、事件が終わって少し経った後の話になります。

 

 肩を揺らされ、意識が浮上します。

 全身の痛み、倦怠感、朦朧とした意識。バッドステータスのオンパレードですが、皆さんの好意を無駄にするわけにはいきません。

 立ち上がって、体をマニュアル操作で動かします。

 

「大丈夫、ではなさそうですね。肩を貸します」

「……助かります」

 

 断ろうと思いましたが、正直厳しそうです。

 熱さえなければここまでではなかったと思うのですが、無理をしすぎたツケが回ってきたのだと思います。

 耳鳴りがする。自分の足音と後ろのヘリコプターの稼働音だけがいやに大きく聞こえます。

 視界も怪しい。前を行っているのは、サキさんでしょうか。しかし彼女のトレードマーク(だと勝手に思っている)ヘルメットがないように見えますが。

 あ、止まりましたね。誰かと話しています。

 耳を澄まして会話を聞こうとしても、音量ミキサーが狂ってしまっているような頭に響く音たちに阻まれて叶いません。

 それにしても私は今、どこを歩いているのでしょう。ミヤコさんに誘導されるまま階段を下りたり立ち止まったりしながら歩いてきましたが正直一つ一つの動作に集中して転ばないようにするだけで精一杯です。

 どこかの建物に入りました。細い廊下、左右に見えるのは、ガラスケースでしょうか。

 そこまで確認してやっと、自分が既に目的の店舗まで到着しているのだと気が付きました。

 

「着きましたよ、リツカさん」

 

 ミヤコさんにそう言われて、立ち止まります。

 先ほどのガラスケースの空間からいつの間にか別の部屋に来ていたようです。

 私を支えていた支柱が離れていきました。一思(ひとおも)いにやってください、ということなのでしょう。

 

何なんだよお前! ふざけやがって! 戻ってきたら真っ先にお前のとこのやつらを――

「うるさいですね」

 

 耳がキンキンします。何言ってるかわからないですし。

 でもなんか多分猫耳っぽいですし、この方が店長さんなんでしょうね。暴れていないのはもうRABBIT小隊の皆さんが事情を話して拘束済みだからでしょうか。猫耳さんの後ろに黒いものがちらっと見えるので、多分正義実現委員会の誰かが捕まえているんでしょう。

 約束通り殴ろうかと思って拳を握って、ああこれは無理だな、と悟りました。

 

「怖かったですか?」

 

 なので代わりに、聞きたかったことを聞いてみます。

 

「仲間がどんどん消えて行って、怖かったですか?」

何を言ってんだお前?

「最後は自分だってだんだん理解していくの、怖かったですか?」

なっ――

 

 何を言っているかはわからないけれど、息を飲んだのだけはわかりました。

 距離感が判らなかったので手を伸ばしてその頭に触れて、その感覚を頼りに無理やり顔を近づけます。ああ、ようやく見えました。

 顔を引き()らせて化け物を見るような目でこちらを見る、眼帯の猫さんの顔が。

 その顔が見れただけで、今日は満足することにしましょう。

 

「その恐怖を、忘れないでくださいね」

 

 私もとても、怖かったので。

 これに懲りてもう手出ししてこないと嬉しいのですが。

 

 その店舗から離れ明るんできている空を見上げたときに、ようやく終わったのだと実感がありました。不格好ではありますが、ひとまず終わらせることはできたはずです。

 ミタカちゃんの荷物は正義実現委員会に届けさせるように約束させたというミヤコさんの言葉を信じて、私は帰路につきました。今の私に、あのリュック一杯の荷物を持つ余裕はありませんし。

 ミヤコさんの支えがあってさえ重くなる脚に辟易していると、突然ふわっと体が浮いた感覚がありました。誰かに背負われたみたいです。

 自分の状態が悪いときいうのは不思議なもので、誰のものか分からないその背中が随分と大きく頼もしいものに思えてしまいます。

 脱力して、その身を預けます。一度そうしてしまえば、もうピクリとも体が動いてくれません。

 自然と考えてしまうのは、自分のこと。

 結局、自分は最後までやりきれなかったなと思ってしまいます。

 今回については言わずもがな、この前のヘルメット団と温泉開発部の件についても最終的に場を収めたのはツルギさんの言葉でした。私は結局その場にいただけで何もできなかった。

 

「強く、なりたいなぁ」

 

 戦闘能力もそうですが、精神的な強さも足りない。

 自分の無力さを、現実を突きつけられた私は、誰かの背の上でそんなことを思いました。

 願わくば、この背中が私の知る誰かでないことを。




これにて第二の事件は終了。
いろいろとお残しはありますが、幕間で回収しつつ次へ進みたいと思います。

そろそろ先生が出てくるんですが、先生(プレイヤー)の掲示板形式って見たいですか?

  • 本編の息抜き的な感じで欲しい
  • 本編完結後にまとめて投稿の方が良い
  • いらない
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