見たか! 余はカッコいいであろう!   作:息抜きのもなか

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幕間
23.そうして一歩を踏み出した


 お母様、お父様、私は最近引き篭もり生活を送っております。

 いえ、正確には怪我をして周囲から強制されている状態ではあるのですが、心配してくれる方々がいるぐらいには最近はうまくやっています。

 この手紙は本当にしたためましょうか。そろそろ連絡をしないと流石に可哀そうですし。

 

 救護騎士団にお世話になって早数日。

 私はもう動けるようになったというのに、ベッドに押し込められる日々が続いております。

 先に救護騎士団に入院していたミタカちゃんは見た目ほど怪我がひどくなかったのかもう日常に戻っておりまして、正義実現委員会からリュックとその中身が戻ってきたと見舞いにきた彼女の口から伝えられました。

 私の方は無茶しすぎだと救護騎士団の皆さんとミタカちゃんあたりに烈火の如き様相で怒られてしまいまして、ちょっと死にかけただけなのにと口を滑らせようものなら心臓が縮むぐらいのあの怒りが再燃してしまいます。

 実際セリナさんの話を聞くと本当にギリギリだったようで、どこにも後遺症が残らなかったことが奇跡だとまで言われてしまいました。店主さんに会いに行ったときはもう自分でもわかるぐらいのひどい状態だったのは記憶にあるのですが、目覚めた私を見て涙を流された人もいたことを考えれば地獄の門を叩きかけていたのかもしれませんね。

 そんなことがあったが故だと思うのですが、救護騎士団の皆さんで私の監視体制を取っていると言いますか、眠るとき以外はほとんど私の側に誰かいるような状態になっておりまして、中々身動きがとりづらい一週間を過ごしております。

 

「二日間起きなかったんだから仕方ないよ。バカなことするもんだね」

 

 本日の監視役たるリツカさんに愚痴を吐けば、そんなことを言われてしまいました。

 聞けば、リツカさんはあの後プエラ分派の皆さんに寮から出ないように指示を出し、ミタカちゃんにずっとついてくれていたのだとか。

 後のことを全てお任せして出てきてしまったので、少し申し訳ない気分です。

 

「そこは別にいいよ。もともとその辺は全部私がやるって話だったしね」

 

 そういえばそういう約束だった気がしますね。

 あれ、最近の書類仕事、すべて私がやっていませんでしたっけ。その疑問をぶつけようとしたらとても冷ややかな目で見つめられてしまったので撤退します。

 思えば私がこうして救護騎士団に缶詰めになっている間に溜まっている書類を消化しているのは彼女でしょうから、文句を言う権利はありませんね。

 そうそう、お仕事と言えばミタカちゃんです。

 彼女、私がこうして箱詰めにされている間にプエラ分派の装備を見直していたようで、候補になりそうなものを予算とお店を書いた上でいくつか提案してくれました。これは最初リツカさんが関わっているかと思っていたのですが、どうやらミタカちゃんの自主的な行動のようです。

 何だかずっと小さいと思っていた親戚の子供がいつの間にか大きくなっていたようで、その成長が喜ばしい気持ちです。いえ、まだ顔を合わせてからひと月ぐらいしか経っていませんが、こういうのは気分なのです。

 

「失礼します。なかなか時間が取れず、来るのが遅くなってしまって申し訳ありません」

 

 部屋に入ってきたのは、サクラコさん。

 シスターフッドの長として多忙なはずなのですが、こうしてわざわざ時間を作ってお見舞いに来てくださる聖人でございます。私に真っ先に心配のモモトークを送ってくださったのもこのお方でした。まあ、サクラコさん以外に連絡している人がいないので当然の話ではあるのですが。

 リツカさんはサクラコさんの黒い噂をご存じなのか、すごい微妙な顔をしていらっしゃいます。

 あの、悪い人じゃないですよ。立場上隠さなければいけないことが多いのと、笑顔がめっちゃ怖いだけで。少し話せばわかるはずです。

 

「そういえば、カ……リツカさん。来週の『計画』は、予定通りに?」

 

 あ、サクラコさん。わざわざ気遣っていただいたところ申し訳ないのですが、この方の前では無理にそう呼ばなくても大丈夫です。あなたの今目の前におられるのがリツカさんですので。

 それはさておき、来週の話を出されて、何のことだったかと頭を回します。

 そうでした。件の資料が見つかったということで、シスターフッドにお邪魔することになっていたのでした。ついでにそれが済んだ後はサクラコさんと美味しいおやつを食べに行く予定になっています。

 そこまでには退院する予定ですので、いえ退院できておらずとも無理やり突破して向かうつもりですのでサクラコさんの言葉に肯定を返します。

 

「ええ、そのままで。楽しみにしております」

 

 サクラコさんと二人、笑みが零れてしまいます。

 リツカさんが何事かと驚いた顔でこちらを見つめていましたので、ちゃんとおやつを食べに行くことと、ついでに個室でお高いケーキセットの予約が取れたことを自慢しておきました。サクラコさんがずっと行きたかったけど行けていなかったお店ということですので、期待が膨らんでしまいますね。

 それを伝えればリツカさんは何だか呆れた様子でこちらを見つめておりました。心外ですね。特にそんな顔をされるような話はしていなかったと思うのですが。

 とまあこんな感じで、誰かが見舞いに来たり監視役の方とお話ししたりというのが、最近の私の過ごし方となっています。

 

「では今日は早く眠ってくださいね。一昨日みたいに本を読んで夜更かしもダメですよ」

 

 そうは言っても退屈です。

 多少体に痛みは残っておりますが、動きが鈍るほどの激痛はありませんし、傷が残ってしまいそうなのもあの違法弾を食らった場所だけです。

 そうなれば正直私の状態は今回の事件前と比べてちょっとだけ傷が増えたぐらいのものでして。

 セリナさんに先日『動かせる』と『動かしちゃダメ』は両立するので、『動かしちゃダメ』を優先するように指摘されてしまったのですが、最後に激しい運動をするなと言われたのは昨日の事ですし、回復が進んだ今日ならばもう大丈夫でしょう。

 なるべく音を立てないように静かにベッドを下りまして、リツカさんが持ってきてくださった私の制服に腕を通します。靴下も膝上まであるロングソックスタイプのものに履き替えてしまえば、はいこれでいつも通りの肌色面積皆無の私の完成でございます。

 ではこれで準備も完了したことですし。脱走しますか。

 

「……おや」

 

 私の銃がありませんね。

 あるのはリツカさんからお借りしている壊れかけの青いスナイパーライフルだけ。リツカさんが私の部屋に戻してくれたのかもしれませんが、寮に確認しに行くわけにもいきませんし、ここはお守りとして肩に掛けていくことにしましょうか。

 この銃を持っていると、いいことがあるはずですし。

 窓から建物の外へと繰り出しまして、平然と着地をします。一度建物を振り返って、そこで私は自分の押し込められている部屋が四階にあったことを知りました。

 思ったより高かったですね。個室があるのが上の方の階だけなのか、はたまた私が逃げ出すと思ってあらかじめ高層階を選んでおいたのか、その真意はわかりませんが、こんなもので私の脱出を止められるとは片腹痛い。いやホントに痛い。ズキってしました。着地の衝撃で傷口開きましたかねこれ。

 

「……行きますか」

 

 耐えられない痛みではありませんので、そのままふらふらと歩き始めます。

 もうすっかり寝静まった時間ですのでお店ももうそのほとんどが閉まっておりまして、普段とは違う顔をしている街が私を出迎えます。昼の賑わいが嘘のように静まり返った街。

 去年の私にとっては唯一安心して歩ける時間だったがために、そこまでの恐怖も感慨もありません。むしろ昼間の雰囲気の方がまだ慣れておらず、こちらの方が慣れ親しんだ風景と言えるかもしれませんね。

 遠くに巡回の懐中電灯の明かりが見えて、裏路地に入って別の道を選びます。

 こうやって人を避けて歩くのも久し振りです。以前はそうしないと寮から最寄りのコンビニにすら辿り着けなかったことを考えると、最近いろいろな人とお話ししている自分に驚きさえ感じてしまいます。

 

「ここは……」

 

 いろいろ懐かしい想いに(ふけ)りながら歩いていたら、電車の駅にたどり着いておりました。

 ここに来るのも随分久しぶりな気がしますが、実は先日乗ったばかりです。ただ、あの時はブラックマーケットからミライちゃんを連れて帰るタイミングでしたので、彼女を座らせてその面倒を見ていたためにゆっくりする時間などありませんでした。

 時計を確認しますが、まだまだ終電には遠く、近場なら行って戻ってこれる時間は十分にありそうです。

 

「乗ってみますか」

 

 適当にホームを歩いて、行先も確認せずに来た電車に乗ります。

 扉が閉まった後に確認すれば、どうやらこの電車はD.U.地区に向かっているみたいです。

 ほぼ誰もいない車両で座席の真ん中あたりにポツンと座って、電車の揺れを感じながらぼーっとします。広告も私の知らないものばかり。時代に取り残されているのをひしひしと感じます。

 窓の外を見るとあまり開発の進んでいない気がする景色たち。暗くてよく見えないのでその感覚が正しいかはわかりませんが、連邦生徒会長が消えてからはどこもそんなものですし、あながち間違ってはいないでしょう。

 連邦生徒会長と言えば、シャーレの先生とかいう人の話がありましたね。

 入院中に暇すぎて調べてみたのですが、その評判の良いこと良いこと。あの方がキヴォトスに来て何が変わったというわけではないのですが、関わった方々は()の人を評価しているみたいです。

 

「会いに、行きますか」

 

 私の記憶が正しければ、先生はD.U.地区で働いていたはず。確か外郭地区のどこかにあったはずなので、次か次の駅辺りで下りれば向かえるでしょうか。

 そう思って検索をして調べてみれば、三つ先の駅が最寄り駅とのこと。アイドルの追っ掛けみたいな感じのファンサイトがあるようで、シャーレの行き方などが分かりやすくまとめられておりました。

 スマホを持つ手が少し、震えます。

 まだやはり、人と会うことに抵抗はあるのです。すべて(さら)け出してしまったサクラコさんはまだしも、他の方はまだまだ発言の一つ一つに気を遣いますし。

 だからこれは挑戦です。私が少しずつ、強くなるための。

 

「強く、なるんです」

 

 そうしないと、守れないと分かってしまいましたから。

 寮に戻れたら分派の皆さんとも話さないといけませんね。ミタカちゃんみたいな良い子もいるでしょうし、ミライさんみたいに何かを抱え込んでいる子もいるかもしれません。それこそ、去年の私のような子も。

 ひどいことを言われるかもしれません。キツく当たられるかもしれません。

 でもその怖さを乗り越えないことには、私はずっと引き篭もりメンタルのままです。私と接するときのリツカさんみたいなところまで行くと流石に難しいですが、それこそサクラコさんみたいに皆さんと普通に話せるレベルを目指しましょう。サクラコさんは距離があると言って悩んでいましたが、私にはきっとその距離感がちょうどいいはずですので。

 一歩ずつでも、進みたいと思います。

 

「ここが……」

 

 ファンサイトの指示通りに建物までやってきまして、ビルを見上げますとまだ電気がついている階が見えました。

 先日作戦中に会った名も知らぬ男性も遅い時間に歩いていましたし、大人というのは遅くまで仕事をしているのかもしれません。折角ですので何か差し入れでも持って行ってあげましょうか。

 そう思ってシャーレの建物内にあったコンビニ(モド)きで缶コーヒーを二本買いまして、エレベーターを上がります。はい、この缶コーヒーを飲みきるまでは頑張るつもりです。暖かいのを買いましたので一気飲みはできません。逃げ道を自分で無くしていきましょう。

 心臓がドクドクと警鐘を鳴らし始めますが、エレベーターホールで大きく息を吐きまして震える身体を宥めます。

 なんとか覚悟を決めて、私はその戸を叩きました。

 

「"こんな時間にいったい誰だろう?"」

 

 そんな声が部屋の中から聞こえます。

 足音が近付いてくるごとに体の震えが大きくなります。それでもいつも通り、マニュアル操作でだまくらかして。

 

「夜分遅くに失礼します。近くを通りましたので、ご挨拶をと思いまして」

 

 顔を出した大人の男性に、一緒にいかがですか、と温かい方の缶コーヒーを差し出します。

 ここまではテンプレート。事前に決めた通りの演技をしただけなので、コミュニケーションについてはここからが本番になります。

 そもそも受け取ってもらえるかどうかすら不安だったのですが、「"ありがとう。いただくよ"」という言葉と共に不審者の差し出したコーヒーを受け取っていただけました。そこに危機感の欠如を感じて少し心配にはなりますが、受け取ってもらえなかった暁には布団の中が私の住所になっていたはずですので一つ胸を撫で下ろします。

 快く受け取ってくださった御仁をよくよく見れば、どこかで見覚えのある人型の男性です。

 

「"この前の子だよね。空から降ってきた"」

 

 やはり私の見間違いなどではなく、あの時の男性だったみたいです。正直深夜で、それも外だったので似ているだけの別人の可能性もあるかと考えていたのですが、流石に人型の大人の男性がそう何人もいるわけがありませんね。

 というか、その情報で事前に紐付かなかった私が間抜けなのでは。

 

「その節はお恥ずかしいところをお見せしてしまい、申し訳ありません」

「"全然。天使が舞い降りたみたいで思わず見とれちゃったよ"」

 

 ……………………え。

 私がフリーズしてしまったせいで、その場を沈黙が支配しました。

 ええと、こういう時はなんと返せばいいんでしょうか。

 予想外の出来事に表情筋がカチコチに固まったような気がします。慣れてないので、反応ができないんですよね。

 完全にフリーズした身体機能はマニュアル操作も受け付けてくれません。こうなれば最後の希望は口。何かしゃべろうとすれば勝手に動いてくれるはず。何とかこの場を繋いでください。

 

「ひとまず、中に入れていただいても?」

 

 すみません先生。話題を逸らすのが精いっぱいでした。力なき私をお許しください。

 私にはまだいろいろと耐性が足りていないのです。軽口ですらちょっとした動作不良を引き起こすぐらいには経験不足です。

 いえ、先生が私と同じイメージを共有できていることはとても嬉しいことなのです。

 それは私がイメージ通りの動きをできたことに対する称賛であり、この上ない誉め言葉だと受け取っております。

 ですがちょっと言い方が良くないです。まるで口説かれているような気分になってしまいますから。勘違いする子、多分結構いますよ?

 

「改めまして、先生。私は花羽リツカと申します。以後、お見知りおきを」

「"…………。よろしく、リツカ"」

 

 いきなり名前呼び捨てとは。やりますね、先生。

 この距離感の詰め方はどこかの分派のか弱い一般人を騙して首長に仕立て上げてしまった人とよく似ている気がします。無遠慮に入ってくる感じなのに嫌な感じがしないのは何なんですかね。

 意識を逸らすために部屋の中を見回しますが、中は意外と物が少なめです。まあ普通のオフィスといった感じですね。

 積み上がる書類はまあ、見なかったことにしておきましょう。

 

「いつも、こんな時間までお仕事を?」

「"あー、うん。いろんなところに出かけているうちに、かなり溜まってしまってね"」

 

 なるほど。確かに聞いた話ではアビドス砂漠に行ったり、ミレニアムの催し物の手伝いを行ったりと様々な場所に出向いていた記述があったように思います。それなりの期間ここを空けるとなれば、必然に仕事も溜まってしまいますよね。

 私も首長しか決済できない書類が一週間分ぐらいは溜まっているので、早めに復帰して仕事を片付けてしまいたいところです。

 そういえば、シャーレの先生は銃弾一発で致命傷を負う非常に脆い体の造りをしているらしいですね。見たところ銃は携帯しているようですが、あれではすぐに取り出せません。自分の身を守る手段ですので、もう少しすぐに動けるようにしておいてもらいたいところ。

 いろんな動き回るということはそれだけ危険な場所に行く機会も多くなるということですから。

 なるべく安全に、怪我のないように過ごしてもらいたいものですね。

 

「先生。外出時はお気をつけて。何が起こるか、わかりませんから」

 

 気の利いたことをいうつもりが、私の口から出たのはごくごく普通の当たり前のこと。

 そんなことわかってるよと軽く流されるかなと思っていた私の予想を裏切って、帰ってきたのは想像以上に重たく受け止めたような先生の表情と声音。

 

「"……そうだね"」

 

 何か事情があるのだろうと察しつつ、缶コーヒーをひっくり返します。なかなか中身が出てこない。ああ、もう空のようです。

 時間切れですね。

 いや、正直頑張ったと思います。いつもより遥かに長い文章を口から放出していましたから。

 

「それでは先生。私はこれで失礼します」

 

 今更ですが、これ、外出時の注意を呼び掛けて帰るってなかなか脅しみたいな真似をしていませんか。次に外出たときに襲いますみたいな犯行声明と捉えられてもおかしくないのでは。

 気付いたところでもう口に出してしまいましたし、そもそも私のコミュニケーションゲージはもう既にポイントを使い切っていますのでこれ以上この場にいることは不可能。できることはありません。

 しかし、そこは先生を信じることにしましょう。きっとそんな勘違いはしないはずです。

 

「"うん、ありがとう。またね"」

「ええ、また」

 

 最後にギリギリそれだけ出力して、私はシャーレを去りました。

 やりきった達成感はありますが、まだまだ課題点も見つかりました。もう少し自分の行動と言葉を照らし合わせて考えないと、変な誤解を生むかもしれませんね。

 まあそれでも、今日の挑戦には価値があったのではないでしょうか。

 時計を見て、あ、昨日かと思い直し、しばらく歩いてから私は立ち止まります。

 シャーレの最寄り駅、もう営業終了してました。

 そうですよね。日付変わってますもんね。ここは意外と外側ですし終電も早いですよね。ええと乗換案内でトリニティの救護騎士団病棟は、と。

 …………。歩いて帰りましょうか。走ると傷口開くかもしれませんし。




次回、別視点。

ここまで読んでくださった皆様に質問。この小説、曇らせタグ必要だと思いますか?

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