お母様、お父様、申し訳ありません。
今朝気付いたことなのですが、お送りしたはずのお手紙の便箋が部屋に落ちているのを発見しました。昨日の夕方に間違いなく郵便ポストへ投函した記憶がありますので、書き損じのどれかを間違えて封入してしまっている可能性がございます。
便りを送ったということでここは一つ、娘の無事だけ認識いただければと思います。
便りと言えばウイさんからも先日モモトークが届きまして、頼んでいた本の写しが完成したということで連絡をいただきました。データ化して送ってくださり『お願いだから来ないでください』とのお言葉まで頂いては直々にお礼に行かないわけにはいきません。ちゃんとお土産を持っていたので半分発狂半分歓喜というご様子でした。やっぱりあの先輩おもしろ。
まあそちらの中身については案の定予想通りでしたので特に進展はなく。見たことがない他家の家宝や神器と呼ばれる特殊な装備については、その詳細な記述を大変興味深い読み物として楽しませていただきました。
退院翌日にあった定期試験は社会復帰の一環として久々にクラスでの受験となりました。すごく奇異な目で見られた上に遠巻きにされてしまってメンタルゲージがごっそりと削りとられましたが無事乗り切ることに成功しました。結果も上々。
まあ、実際はいつも受けている夜間試験の日程をいつのも掲示板を確認したら何かもう終わってたから受けに行くしかなかっただけなんですけどね。どうして救済のはずの夜間試験が本試験より前にあるんですかね。日程連絡のメールが来ていないのを不思議に思ってサイトを確認しに行ってなかったら補習授業部行きでした。恐らくシステムのエラーだと思いますが困ったものですね。
「なるほど、ハナコさんが言っていた自分と点数が同じなのに本試験に出ていないから順位が掲載されていない方がいると言っていたのですが、カタネさんの事でしたか」
「順位、ですか?」
「あれ、知りませんか? 試験結果の学年順位と点数が張り出されているんです」
え、何そのシステム初耳です。
まあ張り出されていても上位十人とかでしょうし、幾らかミスがあった私が入ることはないでしょう、たぶん。それに何か言われるとしてもカタネの名を騙っているリツカさんの方のはずなので、実質何も問題はありませんね。
試験の後はまた首長室と寮の往復生活を送っておりますが、本日はかねてより予定していたサクラコさんとのデートの日になります。
リツカさんも今日は何か予定があったらしく、二百
そんな訳で昼食の時間までに仕事を終わらせた私は、午後一発目でシスターフッドの資料室にお邪魔しております。
「こちらの資料に載っているのは、私がお母様に聞いた話と同じですね」
プエラ分派。それは突拍子もない主張をした首長を首長補佐がその敏腕を駆使して周りを丸め込み、首長を慕う者たちが集まった一つの派閥。ほとんどの資料では、このように説明されることが多いです。
その成立理由として多く語られているのが主に上記の首長補佐の尽力によるもの。生徒間で侮蔑的な意味も込めて広まっている定説が、去年の私も聞いた首長の頭があまりにも残念で同情されたから残っているというもの。これらが特に競合しないこともあって、基本的にトリニティ生徒は後者の話、知識人やトリニティ上層部はその両方の話を複合した形でプエラ分派を認識しているみたいです。
実はこれについては悪口を言われたときから気になってはいたんですが、外に出れなくなったこともあって完全に調べる機会を逃しておりまして。折角リツカさんに引っ張り出してもらって、シミコさんと出会って縁もできましたのでこうして重い腰を上げて調べているというわけです。
「しかし、どうしてプエラ分派の発祥のことを調べられているのですか?」
「おや、サクラコさんはどちらかといえばシスターフッドという立ち位置的にプエラ分派には否定的な立場にあると考えていたのですが、もしかして違いましたか?」
「いえ、プエラ分派はもともとシスターフッドと近い役割を持つ分派ですので、そこまで否定的な考えは持っていませんね」
これは意外な発言です。
一応友人間の軽口として処理するつもりですが、サクラコさんの気質的にはあまりそこで嘘を吐く方でもないですし、シスターフッド全体の意思として認識していいのでしょうか。
それに、先日ウイさんも仰られておりましたが、シスターフッドとプエラ分派には何か特別な関係がありそうですね。ウイさんはシスターフッドとプエラ分派は関わりが深いと当然のことのように言っていましたし、サクラコさんも役割が近いと言っておられました。
そこで思考をストップさせて巻き戻し。
プエラ分派って、何か役割あるんでしたっけ。なんかお馬鹿さんたちの集まっているところ、ぐらいのイメージしかないのですが。
「ああ、それについては一応シスターフッドと同様に弱者の救済が役割となっております。我々シスターフッドは門戸を広くしてトリニティ全体から気軽な相談ができるような組織として、プエラ分派はこのトリニティという社会から零れ落ちた個人に寄り添う形で拾い上げて救済する組織としてそれぞれ別のスタンスで活動しておりました。もっとも、プエラ分派はその役割をずっと前に忘失してしまって久しいですが」
「サクラコさん、その言い方だと嫌味っぽいです」
分派所属の人間である私の目の前で直接浴びせて良い語彙ではありませんよ。サクラコさんが悪気がないと分かってるからいいですが何も知らず聞いていたら泣いてしまっていたかも。
私の指摘に慌てるサクラコさんを横目に初めて耳にする情報の整理を行います。
プエラ分派の役割は弱者の救済を行うこと。それは先ほどの話から察するに先日のミライさんのような悩みを抱えた個人をターゲットに居場所を与えることが目的、ということでしょうか。なるほどそうなると待ちの姿勢のシスターフッド、フットワークの軽くこちらからアプローチをとることもあるプエラ分派みたいな住み分けがなされていた可能性もありますね。
最初の首長補佐さんが人を集めたことを考えると、その理念は最初から存在していて、トリニティの中に居場所が見つけられない人たちをかき集めて生まれた、みたいなことだったりするのでしょうか。
「役割を知らなかったのなら疑問としては一応納得できる部分はあるのですが、どうして我々がプエラ分派に否定的だと考えたのですか?」
「私からしてみれば、逆にどうしてこの分派が残っているのだろうと思ってしまうのですが」
「……? それは一体?」
「だって、『プエラ』ですよ、『プエラ』。『
いえ、主に性別がないことはわかっているのですが、一般的にフィリウスの位置に救世主を当てはめることが多いので、そこに
それに先ほどの資料を見てみればプエラ分派ができたのはアリウスを追放してすぐのことです。
かなり時間が経っていて当時の苛烈さが薄れていたのならまだ分かるのですが、各分校が団結してトリニティとしてまとまろうとしていたところに、いかに落伍者を集めた分派だとはいえ、いや逆にそうだからこそ設立を認めるとは思い難いのです。
あのピリピリした時期に『救世主は女の子だった!』っていう馬鹿が現れ、その残念さに同情されたり副官が優秀だったりしたところで、たったそれだけでそんな馬鹿な真似が許されるのだろうか、と私は思ってしまうのです。論点が違うからとかどうでもいい主張過ぎるとか、そういうのを加味した上でも公的な分派として設立できた理由がわかりません。
「ああ、それも伝わっていないのですね」
サクラコさんは私の主張に冷静に、しかしどこか残念そうにそう口にしました。
彼女がそういうと言うことは、シスターフッドのある一定以上のメンバーには伝わってきているということです。それは逆に言えば、本来それを語り継ぐべきであるプエラ分派がどこかのタイミングで失伝してしまっているということでもあります。
プエラ分派が失伝している理由はなんとなく察することができてしまうのが残念ですね。伝言ゲームの中で変質してしまったか、あるいは単純に伝えるのを忘れたまま代替わりしてしまったのか。そう考えるとあの首長の花飾りが引き継がれているのは、プエラ分派としてはすごいことのような気がしますね。
私はそんなことを考えながら、サクラコさんの方を見てその次の言葉を待ちます。
「カタネさんの言う通り、本来であれば認められなかったはずなのですが、逆に認めざるを得ない状況だったとお聞きしております」
「認めざるを得なかった?」
「ええ。プエラ分派の設立の際には『奇跡』が起きた。その『奇跡』の詳細は伝わっておりませんが、正式に分派として認められたのはその『奇跡』が起きたが故だと聞き及んでおります」
なるほど。『奇跡』ですか。そう来ましたか。
うん、訳が分からないですね。
しかしサクラコさんがプエラ分派の存在に疑問を持っていないことや、シスターフッドがそれをこんな時代まで伝えてきているという事実から察するに、シスターフッドから見てもプエラ分派が起こした『奇跡』はプエラ分派が存続する理由足り得るということ。
あの時期に情勢を覆してでさえ分派設立を認めざるを得ないほどの『奇跡』がどんなものだったのかは気になるものの、ひとまずこれまでの疑問は氷解したことですし私の調べ物は終わったと見ていいでしょう。
振り返ってみれば、私が知らなかった情報は軒並みすべてサクラコさんの口から出てきた情報でしたね。ということはつまり、この資料室の手続きとか面倒なことをせず、サクラコさんに聞けば終わる話だったのでは?
何という無駄足。いやまあ、プエラ分派内の情報が失伝しすぎてシスターフッドが情報持ってるなんて想像すらしてなかったので仕方がないことではあるんですがね。
「あ、時間」
「もうそんな時間ですか? カタネさん、お調べ物はもう大丈夫ですか。まだ何かあれば、また資料室を確保しますが」
私が設定したそろそろ店に向かいなよタイマーが作動しまして、サクラコさんがそわそわと
知りたかったことはサクラコさんの口からほぼ語り尽くされてしまったので、もう大丈夫ですと彼女に伝えて読書台に置いていた資料を畳んでサクラコさんにお渡しします。形式上のチェックを終えて資料棚に資料を戻し、サクラコさんは楽しみで仕方がないという様子を前面に押し出して、待ちきれない様子で退室の手続きを進めておりました。
調べ物の収穫もあり、はしゃいでいるサクラコさんのお姿を脳裏に焼き付け、いやはやこれ以上ない午後の時間だったのではないでしょうか。
おや、このチョコレート苦みが効いていますね。リツカさん用に店頭に持ち帰れるものがあるか見てみましょうか。ミタカちゃんが甘いもの好きなので彼女も一緒になって食べているのですが、苦みがあるタイプのお菓子があるときのリツカさんはちょっとだけ安心したような表情を見せていますので。
むむ、このジンジャークッキーもなかなか面白い代物ですね。先程のチョコレートも良い物でしたがこちらも甲乙付け難いぐらいリツカさんの好みドストライク(推定)の逸品。この少し渋みが強い紅茶とよく合って、え、この紅茶も売ってるんですか。ああどうしましょう、どっちにするのがいいか見当がつきません。
サクラコさんは、ダメですね。甘味の園に連れていかれてしまっております。
すみません、これとこれと今頂いている紅茶と、ついでにこのアップルパイもホールでお願いします。んん、やっぱりこのマカロンもお願いします! ダースで!
サクラコ様の前だと同一人物か疑うぐらい喋る主人公。
アンケートの結果掲示板欲しいとの声がかなり多かったので、次回は掲示板回となります。
ここまで読んでくださった皆様に質問。この小説、曇らせタグ必要だと思いますか?
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当たり前
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いる
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いらない