お父様、仲直りをするためにはぶつかり合うのが一番だと仰っていたのを覚えていますか。
当時はお母様との主張の違いより、お母様と喧嘩するといつもお父様の方がボコボコにされていいるのにお父様がその主張をするのかと思って頭に入ってこなかった記憶があります。今考えても思うのですが、やはりお母様と逆ではないでしょうか。
長らく現金のみ使用可能だった寮の食堂に首長権限を使って電子マネーとカードが使えるようなシステムを導入しまして、これで私はいつ財布を無くしても部屋の机の中でお眠りになっているゴールドカードで食事にありつけるようになりました。
あの時はもう空腹も精神もボロボロで大変でしたからね。同じようなお馬鹿さんが出ないとも限りませんし導入するに越したことはありません。
精神面がボロボロと言えば、最近仕事に集中できていないリツカさんが当てはまるでしょうか。
今日の朝の食事に出てこなかったので部屋を訪ねますと、珍しく熱を出して寝込んでおられたようです。弱っているついでに近況をお聞きしますと、どうやら先週の週末ナギサ様と喧嘩をしてしまったみたいでして。どうやら絶交ぐらいの温度感で出ていかれてしまったようで、大分弱っているご様子でした。
病は気からとは言いますし、恐らく落ち込んでいるところに体調不良が重なってしまったのでしょう。早く良くなってもらいたいところです。
今日は少し遠出の予定がありますので、寮母さんにリツカさんのことをお願いしておきます。ついでに先週のお菓子を渡しそびれておりましたので届けていただくことにしました。ミタカちゃんの前だと渡しにくく、後回しにしてしまっていたんですよね。
「どうしてあなたがゲヘナにいるのかしら」
はい、そんな訳で分派の標準装備の調達にやってきたのですが、お店の場所が思いっきりゲヘナの真ん中あたりでして。どこからか連絡が行ったのか空崎委員長が飛んできてしまいました。
やめてください。ミタカちゃん、そんなに目を輝かせないで。
臨戦態勢を取る分派の皆さんに手で待ったを掛けまして、空崎委員長と向き合います。
これはモエさんの方はうっかりさんだと思いますが、ミタカちゃんの方は確信犯ですね。お店の住所を確認しなかった私が悪いとは思うのですが、これはいつもの彼女の過激な勘違いによる暴走なのではないでしょうか。今日皆さんのテンションがやたらと高かった原因は九分九厘これが理由な気がします。
私が何かがおかしいことに気付いたのはゲヘナ行きの電車に乗った後。ミライさんの少しばかり青くなっている表情に自分たちの行動の問題点に気が付いた後は、何も問題が起きませんようにとお祈りをすることしかできませんでした。
違います。断じてエデン条約を控えたこの時期に問題を起こしてぶっ壊そうだとか、分派の戦闘メンバーを集めて侵略しようだとか、そういった意図はこれっぽっちもないんです。……私には。
「お久しぶりですね、空崎委員長。今日は少し、取引に来まして」
「取引?」
「ええ、こちらにあるお店を紹介されまして。聞いた話では、とってもサービスが良いんだとか」
焦って変な言葉選びをしている気がしますが、本当のことをちゃんとお話しします。
空崎委員長が取引という言葉に目を細められましたので、ちゃんとモエさんから聞いた情報もお伝えしました。一人一人に向き合って対応してくださり、モエさん自身が行って対応してもらったように外部の生徒にも真摯に対応いただけるそうです。パーツの取り寄せだったり別の店の紹介などもしていただけるようで、いつかの眼帯猫さんのような罠に嵌められることもないのだとか。
後ろの皆さんからとても注目されている気がします。そんなに見てもあげませんよ。
「このまま回れ右で帰ってもらえると仕事が減って助かるのだけど」
「無理な相談ですね。お店にも大型注文のアポを入れておりますので確認いただければ」
そう言ってお店の情報を空崎委員長にお見せすると、行政官の方と連絡を取られて確認を行ったようでした。
提案書を見てモエさんの一言で何も考えずに人数と銃の種類だけお伝えして訪問の予約を入れてしまったのが失敗でした。こんなことになると分かっていれば、先にリツカさんに相談したのに。
一触即発の状況でしたが、予約の確認ができた空崎委員長はまだ疑いを残しながらも正式な訪問であるとは理解いただけたようで、風紀委員数名の同行を条件に一旦見逃していただくこととなりました。
空崎委員長と遭遇した時点で最悪全滅強制送還を想定していた自分としては温情に感謝しかありません。後ろの方々が暴走しなくて本当に良かった。
「イオリ、メリサ、直接店の方に向かって。道中は私が付いていくから」
そんな訳で後ろから冷気と勘違いしそうな仕事増やしやがってオーラを感じつつ、お店へと向かいます。トリニティ制服を見つけて突っかかってきたゲヘナ生徒さんを一蹴する空崎委員長を見て分派の皆さんも青ざめてました。本当に皆さんが喧嘩を売らなくてよかった。
そんな訳でお店の前で褐色銀髪ツインテール悪魔とかいう属性過多な方と空崎委員長の緑版みたいな方と合流しまして、そのかなり広い店内にお邪魔しました。
店長のサラリーマン型ロボさんは我々がトリニティ生徒だと知って少しばかり驚いておられましたが、特に何の不満もいうことなく受け入れてくださいました。どうやら大口ということで午前を貸し切りにしていただいたようで、他のゲヘナの生徒さんもいらっしゃいません。
「お気遣いに感謝します。まあ、別に他の生徒さんがいても良かったのですが」
その言葉に風紀委員会のお二人が少し反応していましたが、気にしないことにしましょう。
店内に試し打ちスペースもあるようで、もともとご用意いただいていたいくつかを皆さんに触っていただきます。店員さんの対応は評判通りかなり丁寧で、それぞれの特徴や利点など、かなり詳しく説明していただけているみたいです。
私はと言えばミライさんと一緒に店長さんと予算の相談をしたり、弾薬の定期購入のプランの説明を受けたり、ワイワイ新しい銃を試している皆さんを横目にお仕事に勤しみます。
対応は私的にはかなり満足しておりまして、来年の新入生分もお願いしたい気持ちが山々なのですが、エデン条約が成ったとしてここまでの道中で空崎委員長の露払いが一度や二度ではなかったことを考慮すると、新入生が一人でここにきてゲヘナ生に混じってお買い物というのはなかなか厳しい気がしてしまいます。
その不安を聞いてみますとどうやら出張サービスもやっていただけるようで、一室をお貸しすれば実物を持ってきて案内ができるようです。標準を決めてしまえば持っていくものも少なく済みますし、トリニティでは利用はないものの他の学校ではそれなりに利用されているところもあるのだとか。予算を見ながらミライさんとも相談しまして、お願いすることに致しました。
「別件で相談があるのですが」
商談がまとまったところで、私は店長さんを呼び止めて持ってきたケースを開きます。
今日はリツカさんからの預かり物のスナイパーライフルだけでなく私の愛銃もケースに入れて持ってきておりまして、カスタムパーツとスナイパーライフルと同時に普段使いできるような持ち運び用の道具の調達をお願いしようと思っていました。
先日のブラックマーケットの一件で愛銃を持ち出した際にスナイパーライフルが邪魔で置いてきてしまったのが少し引っかかっておりまして、両方普段から持って切り替えながら戦えると楽だなと思った次第です。
こちらは流石に前例が無いようでしたので、オーダーメイドになると言われましたがそれも想定内です。金ならいくらでも出す、と言いたいところですが払うのはゴールドカードになりますので上限は決めています。イメージをお伝えして採寸をし、見積りを後日いただいてから作成ということになりました。*1
カスタムパーツの方は耐久重視で弾速を早められるものがあればという形でお願いしたら、かなり古い型だというのにいくつか見繕ってくれました。スナイパーライフルの方も如何ですかと言われたのですが、こちらは借り物なので遠慮しておきました。
「あ、あの! トコさんにロケットランチャーをお勧めしたのは首長補佐とお聞きしたんですが、私にもどの銃が良いか見繕っていただけませんか?」
私が試し打ちスペースの端っこの方でカスタムパーツの使用感を確かめておりますと、分派の子が一人私に話しかけてきました。
少し目を後ろにやればミライさんが申し訳なさそうに頭をペコペコしております。恐らく先程から響く轟音の持ち主のことを質問された結果でしょうから、仕方がないことなのかもしれません。
どうやら彼女は私がトコさんの素質を見抜いたと思っているようでして、とても面白そうだからお渡ししたとは言えない雰囲気です。ひとまず話だけ聞いてみますと、彼女は自分に合う武器が
考える振りをするためにいつかのヘルメット団の映像を見直した時のことを脳内で何とか引っ張り出してきて、それなりに扱えていたことを思い出します。いえ、彼女の戦い方を思い出したわけではなく、アサルトライフルの使用者に違和感を覚えていなかったことを思い出しただけです。
確か一人だけ随分とばらまくような打ち方をしている方はいましたかね。マシンガン系の方が好きなのかもしれないとか思った記憶がありますし、もしかしたら彼女がそうなのかもしれません。
そう思って重機関銃を進めようとした私の目に、店内奥にある珍しい銃が映ります。いえ、正確に言うとあれは銃ではないのですが。
そうですね。ここは一つ、トコさんのあれはただふざけていただけなんだと理解していただくためにも突拍子もない提案をしてみましょう。
「それでは、あちらはいかがですか?」
そうして私の指さしたものに、彼女は目を丸くして言葉を失いました。
それもそのはずです。それは今日この場に試し撃ち用に準備していただいたものではなく、店内に見世物のように置かれているものを指定したのですから。店員さんに無理を言って持ってきてもらい、念のため皆に退避してもらった上で使ってみてもらいます。
半信半疑の様子の彼女が失望してくれるのを期待して待つこと数秒。
思い切ってトリガーを引いた彼女の目の前に、特大サイズの炎が噴き出しました。
「あー、やっちゃいましたね、リツカさん」
いつの間にか来ていたミライさんにそう言われてしまいます。
はい、自分でもそう思ってます。出来心の成功(実質失敗)、二回目です。でも言い訳させてください。
火炎放射器に謎の適性があるとか、分かる訳なくないですか?
それから彼女の開花を見た他の方が私も私も相談に来られまして、対物ライフル、火縄銃、手榴弾ともはや武器ですらないものにまで手を伸ばしたのにトンデモ適性を見せつけられた結果、私は無難な銃種を挙げるだけのマシンとなりました。
結局三十人に満たないプエラ分派の戦闘人員全員の銃種を見直すことになりまして、変えなくていいですよと言った方もなぜか威力が上がった気がすると言われてしまいました。どうして。
そんなこともありながら無事に終わった武器購入と標準装備の決定を終えまして、午後はその注文書と午前仕事をしていない分の書類を片付けて現在私は深夜徘徊に励んでおります。
昨日の変態さんが同じルートを通る可能性を考慮して別の方角を選びまして、こちらは昨日までに作成したルートの確認を行っておりました。
しかしトコさんで起きた昨日の異常事態が連日発生したように、不測の事態は続くもの。
「ゲヘナなんかに行ったり深夜にコソコソ動き回ってたり、ホント何がしたいの?」
苛立った声が後ろから聞こえてきまして。
銃を構える気配と共に感じた悪寒を信じてその場を飛び退きますと、直後に容赦ない発砲音が聞こえてきました。
体勢を立て直しながらその下手人を確認すれば、昨日の変態さんと似ても似つかないお嬢様がそこにおりました。声から察しておりましたが、案の定ミカさんです。
しかも、以前と違って敵意を隠していないご様子。
RABBIT小隊と同じ時間を過ごしたからわかるようになった感覚ですが、ミカさん、私じゃ手に負えそうにありません。
「これ以上ナギちゃんを困らせないでくれるかな? カタネちゃんが動きすぎると私の方にも影響が出そうだし」
だからさ、と彼女は冷たい声で私に告げます。
銃口を向けられた段階で、頭を狙われたわけではないのに悪寒がします。ブラックマーケットでお見舞いされてしまった違法弾同様、彼女の攻撃は私にとっては一撃で致命傷レベルのようです。
「しばらく消えてくれない?」
跳躍、回避、回避、回避、回避。
背を向けて逃走を図ります。しかしぴったりついて離れない悪寒。凡才の限界値に天才が一瞬で追い縋る絶望。
トリニティ郊外の夜の森に、いくつもの銃声が響き渡ります。
トップスピードなら負けていないはずですが、スプリントはそこまで得意ではない私は戦闘におけるスピードがそこまで早いわけではありません。少なくとも、訓練していない本物のフィジカルゴリラに負けるぐらいには。
「なんか今失礼なこと考えなかった?」
リロードを終えた彼女の攻撃を間一髪のところで
表通りであれば巡回の正義実現委員会の方などを頼れたかもしれませんが、人通りが少ない道を選んでいたせいで助けが到着するのを期待するのは絶望的。
自分で何とかするしかありません。
「ねえ、追っ掛けるのも結構疲れるんだけど」
「生憎命は惜しいですので、見逃していただけると助かります」
しかし見ているとわかるのは、RABBIT小隊の方たちほどは戦闘慣れはしていなさそうなこと。
であれば少しばかり搦め手を使って攪乱するのが吉となるでしょうか。粉砕して突っ込まれたらどうしようもありませんが。
そんなわけで私のいつもの煙幕弾を叩きつけまして、煙に身を隠します。
全自動致命傷回避センサーは視界外からの攻撃にも対応可能ですので、身の安全はそちらに任せて周囲の状況把握を行います。
幸いミカさんは突然反撃を開始した私に対して警戒しているのか動きを見せません。
さてその時間を使って手に入れた周辺状況ですが、悲しいほどに使えそうなものがありませんでした。諦めて次の策を練ることにしましょう。
もうすぐ煙幕も切れますしとりあえず時間稼ぎの手榴弾でも投げますか。
「手榴弾? こんなの当たるわけないじゃん」
普通にバックステップで躱されてしまいましたね。
手榴弾は空振りして悲しく爆発を――
「何これ!?」
崩落の音。耳を塞ぎたくなるような轟音が辺り一帯に響き渡ります。
地盤が緩くなっていたのか手榴弾が爆発した周囲の地面が一気に崩落し、後ろに距離を取ったはずのミカさんのところを含めて地面にぽっかりと大きな穴が開いてしまいました。
私のつま先数センチのところで起こった悲劇に、私も思わず目を瞬かせます。
「これが狙いだったんだ。まんまと誘導されちゃったよ」
いえ、全然そんなことはないのですが、驚きすぎて声が出せません。
少なくとも声がしましたのでミカさんは無事なようです。奇襲に遭わないよう念のために周囲を警戒します。
砂埃が晴れるのを待って穴を覗き込めば、そこには瓦礫にすっぽりと
足元に注意しながら穴を下りまして、ひとまずミカさんの銃だけ穴の上に放り投げます。
「ねえちょっと、動けないから助けてほしいんだけど」
「助ける義理が、ないと思いますが」
「いやわかってるよ!? 自分でも都合良いなとは思うんだけどさ、流石にこの瓦礫だと上手く
さて、どうしましょうか。
このまま放置するのは流石に問題でしょう。ですが今この場で彼女を出してしまえば、先ほどの鬼ごっこ再開は避けられないでしょう。
では正義実現委員会を呼びますか。前回の反省を生かすのならやはりそれが一番丸いのですが、この状況の言い訳が通らない気がしますね。私が手榴弾を投げたことが原因でこうなったのは事実ですし。
なら取れる選択肢は――あ、一個だけありますね。
「ね、ねえ、なんで手榴弾を取り出してるの?」
「私の力だと瓦礫を持ち上げれそうにないので、手榴弾で爆弾を使った撤去をしようかなと」
「それ私にも当たるやつだよね!?」
ミカさんを救出しつつ、私の事を追ってこれない程度に痛めつける。
それが私が考えられる、この状況を切り抜ける最善の方法です。追い掛けられて殺されかけた憂さ晴らしとかのつもりはありません。ないったらないんです。
さて二度目の崩落とかがあったら怖いので一旦私は上に戻りまして「ねえその場合私は埋まっちゃうよね!?」、今持っている手榴弾をすべて取り出しました。
先日のブラックマーケットの一件、学んだことはもう一つありまして。ミヤコさんやサキさんとか、強い人たちって軒並み防御力も高くて簡単には気絶してくれないんです。違法弾を平気で数発腕で受け止めたり、撃破のために捨て身で飛び込むみたいな選択ができてしまうような耐久力があるんです。
まあなので、彼女みたいな人には過剰なぐらいがちょうどいいんです。なあに、手榴弾一個の直撃ぐらいなら私でもギリギリ耐えられるんですから。彼女なら六発七発間近で爆発しても平気だと思うんです。
「あ、あの、カタネちゃん? わ、悪かったからさ! もう手を出さないって約束するから!」
「では、行きますね」
結果から言えば、彼女の周囲の瓦礫の破壊には成功しました。
目を回して比喩でもなんでもなく頭から煙を出す彼女を救護騎士団に放り込んで、崩落現場で埋まっているところを助けたことを説明。嘘はついていません。崩落した場所についてもちゃんと正義実現委員会に連絡を入れておきました。
いやしかし、あの崩落が無かったらどうなっていたことか。崩落現場を見る限り何らかの通路があったような形跡でしたし、今は使われていない秘密通路とかの上だったのでしょう。メンテ不足で衝撃に耐えられなかったのだろうなとは思いますが、そう考えると舗装されていない場所での戦闘は同じことが起きそうで恐ろしいですね。
最後折角手を出さないって言ってくれたのに提案を蹴っちゃいましたし、対ミカさんの方法を考えておかないとまた会ってしまったときに殺されかねません。
分派の皆さんもよくわからない理由で強くなってしまいましたし、私自身も根性以外で戦える手段を身につけないといけませんね。馬鹿の一つ覚えみたいに連射するだけだと芸がないですし、何か攻撃力不足でもどうにかなる方法を探さなくては。
サブタイトルをひらがなにしなかっただけ温情(と作者は思っています)。
メリサは別作品のオリキャラ(曇る)。別名ゲヘナミドリモップ。ここ以外に出番はない。