見たか! 余はカッコいいであろう!   作:息抜きのもなか

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29.そうして廃墟は待ち侘びる

 お母様、私に稽古をつけてくださったときのことを覚えておりますでしょうか。

 ボコボコにされていた記憶しかありませんが、あの時の経験が私の格上と戦う時の心構えを形作ったように思います。その結果が脳筋根性だったのは、ひとえに私の経験不足と発想の乏しさによるものでしょう。

 

 悪寒。

 最小限の動きで後ろにステップを踏み、弾を回避してショットガンを構えて踏み込みます。相手のリロードに対して両のショットガンによる連射をお見舞いしますが、憎々しいことに全然効いている様子がありません。

 頭への照準、刹那の後悪寒。

 体が勝手に右への回避を選択したところで彼女が持つもう一つのショットガンがこちらに向きまして、マニュアル操作で方向を変えようとしても間に合わず、脳天に被弾してしまいます。

 ゴツン、とゴム弾だとは思えない音がして、目が回った私はそのまま後ろ向きに倒れ込んでしまいました。

 

「危機回避能力については良い物を持っている。だが、それに頼りきりになれば今のように狩られるのがオチだ」

「……参考になります」

 

 反応速度の速い人や少なくともサブウェポンを持っているような相手にはもう少し頭を使って立ち回る必要がある、と私の近くへ寄ってきたツルギさんからありがたいお言葉をいただきました。

 正義実現委員会の屋内演習場。それが私の現在位置です。

 先日の射撃場を分派の方にも使えるようにしていただく交換条件として、彼女は私と訓練がしたいと言い出しました。正直私なんかでは相手にならないとお断りしたのですが強引に条件を飲まされてしまいまして、案の定こうして逆に私が指南を受けるような形になっております。

 私としてはこう、サンドバッグみたいに滅多打ちにして楽しまれるのかなと思っていただけに、普通に訓練の様相を保っていて一安心です。しかし先程から私に教えてばかりいるので、彼女の訓練になっているのか疑問ではありますが。

 

「あとやはりお前のその銃では火力が足りんな。回復力が売りの私にすら通らないなら、ミネや硬い生徒には効き目がないだろう。上と戦いたいのなら根本的に戦い方を変える必要がある」

「やはり、そうなりますか」

 

 しかし、随分とツルギさんの私に対する当たりが柔らかくなった気がしますね。

 訓練で私が雑魚だと分かったが故に警戒の必要がないと思ってくれたんでしょうか。そうだとありがたいですね。今後正義実現委員会から目を付けられることがないというのは気が楽です。

 ちなみにこの模擬戦、私は実弾でツルギさんはゴム弾です。訓練が始まったときからこれですので、随分と舐められたものですね。まあ、勝てなかったどころか攻撃が通らなかったんですが。

 ショットガン用の攻撃力の高い銃弾を使用してもいいのですが、弾切れがある以上この銃のいいところを生かしきれません。途中でガクッと威力が落ちるのがバレたら耐久戦に持ち込まれて終わりですからね。

 

「銃弾を必要としない、リロード不要の連射可能なショットガン。羨ましい代物だが、効果が発現する人が限られているのだから仕方がないな」

「ええ、申し訳ありません。私の一族以外だと使えるものはごく稀のようでして」

「他の神器と比べても随分とデメリットが大きいな。いや、この場合は制限というべきか?」

 

 私の愛銃、お母様から渡されたこともありましてちょっと特別な代物なのです。

 一家相伝というやつでしょうか、トリニティの貴族みたいなお家に伝わる家宝のような類いのものになります。

 お母様が言うには本当はプエラ分派の持ち物らしいのですが、どうして私の家にそんなものがあるのかと言えば、まあ単純にプエラ分派の中でそういう管理ができる人が多くはなかったというだけです。

 ですので、別に渡したい人がいれば渡しても良いのだとか。人は選べ、とは口酸っぱく言われました。プエラ分派の歴史のように紛失して伝えられなくなったら悲しいですからね。

 

「威力は出ないが、センスはある。いくつか技術を教えるから、身に付けてみろ」

「ありがとうございます。精進します」

 

 無茶を言いますね。お母様もそうですが、強い方は自分ができることをさも他の方も簡単にできることかのように語ります。こちらが血の滲む努力をしてようやく身に付けるようなことだとは想像ができないのでしょう。

 まあ、文句を言っても始まりません。

 ツルギさんが言うにはセンス自体はあるらしいですし、今後の自分の戦い方を存分に研究させていただくことにしましょう。

 

 リツカさんも復帰し、私からすれば空元気のようには見えますがミタカちゃんやミライさんにはうまく隠せているようなご様子です。本人も気丈にふるまっていますし、ここはその意図を汲んで気付かない振りを致しましょう。

 そういえば先日お会いした先生なのですが、最近トリニティで目撃情報が多発しております。

 なんでも補習授業部の合宿とやらが始まってみたいでして、その特別顧問のような立場として一緒に寝泊まりしているらしいです。私が去年日程の勘違いで補習授業部に入れられた際は合宿などなく個人が合格したらそれで終わりだった記憶があるのですが、今年から何か変更があったのかもしれませんね。

 その合宿所がトリニティの隅っこに位置するプエラ分派寮からしてみれば校舎よりも近い場所にあるようでして、時折(ときおり)分派の子が先生のことを一目見ようと出かけて行っているのを見かけるようになりました。

 いや、やはり先生の人気はすごいですね。私は先日の気まずい空間が頭に焼き付いて離れず、とてもではないですがちょっとご遠慮したい気分です。

 そもそもあれは缶コーヒーを飲む間だけというセルフタイマーを用意して行ったからこそ叶った会話モドキでありまして、普段の私がのこのこ歩いて行って実現できるものではないのです。

 

「ミタカちゃん、この子を呼べますか?」

 

 処理している嘆願書の中に気になったものを見つけ、一年生だったので同学年のミタカちゃんに連れてくるようにお願いします。

 元気よく返事をして出て行ったミタカちゃんの後ろ姿を見届けて、改めて嘆願書の内容を確認してみます。

『友達が廃墟になった遊園地に肝試しに行って戻ってきません。友達は分派の子ではないのですが一緒に探しに行っていただけないでしょうか。』

 要望欄の文面そのまま、産地直送です。こちらが今朝届いた書類の中に入っていました。

 律儀すぎませんか。普通いつかのミタカちゃんみたいに首長室へ飛び込んできてもおかしくないような内容だと思うのですが。それを書類で出してしまうのが逆にプエラ分派の子らしいというかなんというか。

 控えめに言って緊急事態では。

 あと廃墟になった遊園地というワードに凄い嫌な予感がするのですが。私の予想通りだとすると正義実現委員会よりはヴァルキューレの管轄ですし。

 

「連れてきました!」

 

 さて、嘆願書をリツカさんにお渡ししていつも通りお話を聞くのは彼女に任せます。

 私はいつも通り調書もとい議事録の作成を行います。ミライさんはもう既に自前のパソコンからカメラのハッキングを始めているみたいで、手と目が動いているのが確認できます。

 話を詳しく聞けば、どうやら嘆願書を書いた方のご友人が肝試しに向かったのは二日前の夕方とのこと。到着したという連絡以降にこちらの連絡に対する既読も返信もなく、今日の早朝に彼女の住んでいる寮に行っても帰ってきていないとのことだったのでこちらに書類を出したのだとか。

 その友達は特に他の分派には所属していないようで、遊園地もトリニティ外の施設なので私たちぐらいしか頼める人がいなかったということらしいです。一人で向かったようで他のメンバーを捜索中ということもないとのこと。

 

「その遊園地の名前は『スランピア』では?」

「は、はい! そうです! そんな名前の遊園地でした!」

 

 ああ、やっぱり。私が両親に連れて行ってもらった遊園地ですね。

 そこは特に敵性生物などがいるわけではないのですが、電気が一人でに点いたり近くを歩くとびっくり箱が勝手に起動したり、怪奇現象が起こるんですよね。経営不振で閉業した遊園地なので最後の方に予算をケチって作られた建物なんかは歩くだけでも危ないですし、怪奇現象にびっくりした拍子に転んで怪我をする可能性もあります。

 帰ってきていないということはどこかで怪我をして動けなくなっている可能性もありますし、早々に向かった方が良いですね。

 D.U.の近郊であることを考えれば、あらかじめヴァルキューレに連絡を入れておきますか。人探しなら人海戦術が基本ですからね。人数は多いに越したことはありません。

 戦闘の心配はないと思うのですが、体力のある皆さんということで戦闘部隊の皆さんを招集して準備を行わせます。戦闘準備じゃなく捜索準備ですからねってお伝えしたつもりなのですが、皆さん熱心に残弾確認とか手榴弾の個数とかのチェックを始めています。いえ、きっとこれが彼女たちの日常なのでしょう。ちゃんと探す準備はしていくれているはずです。信じましょう。

 凄くまじめな顔で黙々と準備を進める皆さんを他所にお留守番のミタカちゃん含めた首長室メンバーで方針を相談します。うちは4人で一つの小隊を組んでいますが6小隊しか戦力がありませんので、2部隊ずつ分ける形で捜索を進めることにして、私、リツカさん、ミライさんでそれぞれ部隊を率いることにしました。

 そんなわけで今回は不穏な遊園地で安全に重視した捜索活動、となるはずだったのですが。

 

『リツカさん、見えていますか』

『こっちも別のがいるよー』

「ミライさんの部隊は捜索を継続、カタネさんの方は倒せそうなら倒してください。無理なら退避で構いません」

 

 私と一緒にいる二部隊の前を、大きな玉乗りネズミさんが塞いでいます。通信で聞いたところ、リツカさんの方にはカラスのお姿をした人形さんがいるのだとか。ミライさんはこちらが見える位置にいるようで救援に来れそうなご様子でしたが本来の目的を優先していただきます。

 おかしいですね。こんなものは前に両親と来たときはいなかったはずなのですが。いえ、打ち捨てられていたのかもしれませんが、少なくともこんな動きそうな状態ではありませんでした。流石にこんなヤバそうな代物のことを覚えていないはずがありませんし。

 そんなことを考えている私の耳に、重たい木が擦れるような軋むような音色が届きます。

 

「ふむ。なるほど、失われし奇跡の担い手たちか。そなたたちが私の芸術を理解できるとは思わないが、ドールたちの歓喜ぐらいは理解が及ぶだろうか」

 

 頭が二つある木人形。相対するスーツを着た大人の容姿を説明するそれ以上の言葉を私は知りません。

 なぜ動いているのか、なぜ言葉が話せるのか。聞きたいことは山ほどありますが、それよりも。

 

「なぜ私たちのことご存じなのです?」

「そなたは黒服が目を付けていた奇跡の担い手の一番手であろう。そしてそなたたちは元より選ばれている者たちである。その在り方を見届けるのは当然と言えよう」

 

 何だか難しい話し方をされていますが、ひとまず理解したのは顔のひび割れたスーツ姿の男の知り合いということ。去年引きこもっていた私の部屋の前で一人で喋って帰っていた変人のお仲間。

 まあつまり不法侵入者のお仲間ですのできっとこの方も悪い方でしょう。

 そして私の知らぬネズミさんとリツカさんのところにいるカラスさんは先の発言を信じるならばこの方が用意したということになります。

 しかも私を知っていて、分派の事も知っている。

 警戒しない理由が一つもありませんね。

 

「さあ、どうか喝采の準備を」

 

 ゾッとする感覚が、辺りに広がったのを感じました。

 根源的な恐怖がこの場を支配したように錯覚するほどの色濃い殺気。その発生元が目の前のネズミさんであることは疑いようがありません。

 おかしいですね。ただ行方不明になった子を探しに来ただけだったはずなのですが。しかしこんなものがこの場にいることを考えれば、未だ姿が見えない要救助者も無事かどうかわかったものではありませんね。

 逃走しようにもその眼がこちらを捉えている以上、どこまでそれを許して貰えるかどうか。

 仕方がありません。愛銃が手元にないのは心許(こころもと)ないことこの上ありませんが、どうやら分派の皆さんはやる気十分のようです。

 装備を一新してやる気溢れる皆さんの演習相手探しにも困っていたことですし、ここは一つ実戦にはなってしまいますが新装備のお披露目と致しましょう。




業務(?)連絡
曇らせタグのアンケートありがとうございました。いろいろ考えた結果一番多く票を集めた「いらない」の方向で進める方にしました。(上二つの合計?知らない子ですね……
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