見たか! 余はカッコいいであろう!   作:息抜きのもなか

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第一章 第一の事件
03.そうして誤解が始まった


 お母様、お父様、褒めてください。

 私はお二人の期待通り首長補佐に、いえ、それを飛び越えて首長に就任してしまいました。

 

 どうしてこうなったのでしょう。

 明け渡された首長室の椅子に座り、私は頭を抱えております。

 眼下には首長室にあったティーポットを用いてお茶を入れている方がお一人。本来ならば私と逆の位置に座るべき相手が楽しそうにお茶汲みをしている状況に、私はただただ頭が痛いです。

 断ったんです。

 ええ、当たり前です。私は母様から首長補佐のやり方を懇切丁寧に叩き込まれておりましたが、自分で反芻した結果実践できる気がしません。研究者の職務を全うしている母と違って、私はポンコツのコミュ障でしかないのです。

 こんな私に外交や調整などできるはずもないとようやく絞り出した言葉で伝えたのですが、リツカさんの「だいじょーぶだいじょーぶ、そこは私がやるから」と壁に押し付けられるような勢いに呑まれてしまいまして、力なく頷いてしまったのが運の尽き。

 あっという間に首長室へ連行され、私が一言も話さないまま無血開城が行われました。

 

「首長の入れ替えのための手続きもあるけど、その辺は私が上手くやるからさ。カタネちゃんはふんぞり返ってくれればいいよ」

 

 そんなことを言いながら首長席のデスクに紅茶を置く彼女の口調は、先程前首長とお話していた時とは打って変わって砕けたそれでしかありません。その変化にトリニティ生の恐ろしさを感じつつ、私は彼女が入れてくれた紅茶に手を付けます。

 ああ、美味しい。あまり良い茶葉じゃないとリツカさんは愚痴をこぼしていますが、私からすれば味の変化が分かるぐらいには美味しいと感じます。家にお金があったところで庶民的な生活をしていた私にとっては、トリニティ生の普通は私の中では高級に位置しているのです。

 私がんまんまと紅茶を嗜んでいると、リツカさんが何かバッジのようなものをこちらに持ってきました。そういえば、先程前会長さんと話しているときにリツカさんが何か渡されていたのを見た覚えがあります。

 

「こ、これは?」

「これは首長の証の髪飾りだね。代々の首長がつけてきたものらしい」

 

 そんな話は母様から聞いたことがありません。

 それもそのはず。母様は首長補佐であって、首長ではなかったのですから。きっと首長補佐になるだけならば関わらない事象なので、母様は話す必要がないと判断したのでしょう。

 それもあって、それを受け取ることを躊躇してしまいます。それを受け取ることはそれ即ち、本当にこのプエラ分派の首長になるということを意味しますから。この特殊な立ち位置に存在するプエラ分派のトップに立つというのは、一年引きこもって図太くなった私も躊躇してしまいます。

 それに、リツカさんをトップにして中心人物とするという意味では、入れ替わっている私がトップに立ってしまっては少なくない問題が発生するのです。

 

「あの、この分派は――」

「首長補佐が実質のトップ。うん。知っているよ」

 

 リツカさんは初めてこの分派に来るというのに、極秘情報であるそれを知っていました。

 そうなのです。このプエラ分派という派閥は、その成り立ち上の関係で首長補佐が実質最高指揮権を有しているのです。これはこの分派の結成に関わる話で長くなってしまうので割愛しますが、ここは首長はお飾りでナンバー2が実際のトップなのです。

 こちらは首長補佐になった方にしか説明されない秘密情報なのですが、ティーパーティの方々やトリニティの上層部には暗黙の了解というやつなのでしょうか。先ほどリツカさんがティーパーティから来たというような話をされていたので、そんなことを思ってしまいます。

 しかしその情報をリツカさんが知っているのなら、話は早いです。

 前首長はリツカさんにこの分派の立て直しをお願いされました。ということは、彼らはリツカさんを首長ではなく首長補佐にしたいということだと思うのです。

 であれば、その飾りをつけるのはリツカという名前を名乗ることになった私ではなく、私の名前を騙ることになったリツカさんの方であるべきで。

 

「ああ、そっか。入れ替わりを続けるなら私がつけるべきだね」

 

 彼女もそれを理解したのか、自身の右前髪に花の髪飾りを付けました。髪のクリーム色と白の花弁がよく映えて似合います。

 そして彼女は別の紙を私のデスクの上に置き、そこにサインするよう私に言いました。

 見れば、首長変更の書類のようで、既にもう前首長の記入とサインは終わっているようです。ナンバーツーがリツカさんなので、首長は私の名前を書かなければなりません。

 ペンを握り、(たつ)カタネの字を記入します。私なんかがお飾りとはいえ首長になってしまっていいのかと思いましたが、乗り掛かった舟です。最後まで付き合うとしましょう。

 

「それじゃあ、これで本当にカタネちゃんがトップで、花羽リツカは首長補佐になったわけだ。心配しなくていいよ。私が君の意見を聞いてるような感じで上手くやるからさ」

 

 カタネを名乗るトップの証である髪飾りを付けたリツカさんに、私はコクリと頷きます。

 それに満足そうに破顔した彼女は私が記入した紙を取り上げると楽しそうな足取りでどこかへ向かってしまいました。

 一人残されてしまった私は手持ち無沙汰で、デスクの前にある向かい合わせのソファーの片方に腰を下ろしてリツカさんから押し付けられてしまったスナイパーライフルの手入れでもすることにします。

 カスタマイズは、サプレッサーとスコープ程度。多いと思っていたカスタマイズは大半がデコレーションのそれで、持ちやすくするために凹凸を減らしたり増やしたりするためのデコレーションがついているようです。まあそのせいで統一感はない気もしますが。

 既に銃身内に入っていた弾を排莢し、少しメンテナンスをやってみます。首長室にもメンテナンスの道具が転がっているのがキヴォトスのいいところ。

 分解して、一つ一つのパーツを確認し、再度組み立てられることを確認してまた分解します。戻せないとかなったら申し訳ないですからね。

 一つ一つのパーツを並べ、丁寧に手入れを行っていきます。最近は分解まではしていなかったのか、一部パーツにダメージが残っているのが確認できました。交換するほどのレベルにはなっていませんが、予備パーツを購入しておいてもいいかもしれません。もう既に購入済みかもしれないので、戻ってきたら聞いてみることにしましょう。

 

「聞いてますの!? 弱小分派に所属してる人間とは話さないとでもいうつもりかしら!?」

 

 突然向かいから聞こえてきた怒声に、私はゆっくりと顔を上げます。

 銃の手入れに集中していて気付かなかったようで、いつの間にか対面のソファに顔を真っ赤にした生徒が座っていました。その顔に見覚えがあった私は、一瞬思考がフリーズします。

 

「あなた、ティーパーティーから来たからと言って調子に乗っているのではなくて? 先輩方がどうしてあなたみたいな余所者を首長補佐に据えたがっていたのか分かりませんわ。どこの馬の骨ともわからない生徒を会長にしたようですし」

 

 どうやら彼女は私が持つ銃と髪飾りを見て、私が首長ではなく首長補佐になったと認識したようです。

 いえ、それにしてもこの距離で顔を突き合わせて、気付かないものでしょうか。

 そうです。彼女は入学式の日に私の心を折った、母様の代の首長のお子さんです。一度顔を合わせているはずなんです。

 一年もあってなければ忘れられて当然かと思いきや、ここはトリニティ。そんなことをすればつま弾きにされてもおかしくない行為です。まあ、この派閥にいる人の()()()(特にこの方の)は少し問題があるようなので、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれませんが。

 

「不服………………か?」

 

 あ、トラウマと緊張で発音不足に。変な話し方をしてるみたいになってしまいました。

 本当は「不服があるなら直接その先輩に伝えてみてはいかがですか?」とトリニティの生徒っぽいことを言いたかったんです。

 残念ながら悪の親玉みたいな言葉の切り方になってしまったので、私は焦る心を隠すべく口角を上げて余裕ぶってみることにします。

 

「ひっ」

 

 あ、怖がらせてしまったみたいです。

 ああ待って。逃げないで。そんな調子であなたが飛び出していったら、どんな噂が広がるか分かったものではないですから。去年私にした仕打ちをお忘れか。

 いえ、忘れてるからこうして私と面と向かってあんな反応をしているんでしょうね。

 折角忘れられていたのなら、そのまま穏便に進められれば良かったのに。

 

「あはは。なんか面白いことになってる?」

 

 入れ替わるようにして戻ってきたリツカさんが笑っているところを見るに、走り去っていったあの子とすれ違ったのでしょう。

 私は静かに首を横に振って否定します。面白くないことが起ころうとしているので。

 リツカさんから事情聴取されて正直に話すと、大きな声で彼女は笑い出してしまいました。笑い事じゃないんです。このままだと私は中二病患者かはたまた怖い人だと思われてしまいます。

 

「いいね。その路線で行こうか」

 

 その路線って、どの路線でしょうか。

 まさか悪の親玉ムーブのことを言ってらっしゃる?

 そう問えば是も非も言わないリツカさんは口角を上げてにっこりと笑ったままこちらを見るばかりです。

 怖くなった私は分解されたスナイパーライフルをちゃちゃっと組み直し、メンテナンスに不備がないか確認して、最終確認を彼女に託します。

 そこでようやく彼女の意図したことに気が付きました。

 何も言わない方が、怖い。相手が勝手に邪推してくれるので、それに乗っかる方針で。

 私が察したのに気付いたリツカさんがまたスナイパーライフルを私に押し付け、そのまま私の肩に腕を回します。

 

「私これでも、ティーパーティではミステリアスで通ってたんだよ。上司からあんま喋るなって言われててね」

 

 だからきっと、上手く行くよ。

 私に対する態度からは到底そうは思えませんが、先程交渉をしていた様子を見るに化けの皮を被る才能があるのでしょう。

 私ひいては花羽リツカという人間に対しての誤解が深まっているような気がして私はどうしたものかと悩んでしまいます。

 ですが卒業してしまえば私は辰カタネに戻れるわけですし、彼女の有能な働きによってカタネの評価はそれなりの地点に落ち着くでしょう。そう思えば学生時代だけ耐えればいいのでそこまで問題ではないかもしれませんね。

 あ、でも彼女に連れまわされていろんな人に会うことになるのはキツイかも。

 やっぱりこの話無かったことには、ならないですよね。はい。頑張ります。

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