お父様、私が戦い方を身に付けたのは、実はお父様からなのです。知っていましたか。
理由は少し言いにくいのですが、お母様では参考にならなかったからです。お母様は精神的なものは学べましたが、身体能力という前提が違いましたから。
いつもお母様と喧嘩してボコボコにされているお父様からは、受けられるものは受けて確実に反撃することと無理なものは無理と諦めて回避するというとても大事なことを学習しました。ええ、いつも私がお二人の喧嘩をニコニコ見ていたのは、実はそういうことだったのです。
あの頃の事を思い出すような懐かしい気分になりました。
一方が一方を蹂躙する様。必死の抵抗をするも焼け石に水で悪戯に殴られる時間を増やすだけ。
『指示出す間もなく終わったんだけど』
「こちらもです」
大玉を弾き返し、爆弾のバラマキには対空射撃で対応し、玉乗りネズミさんのアイデンティティである玉から叩き落として集中砲火。わずか一分弱の悲しい出来事でした。
連携を確認するというよりはただただ個人技で押し切ったような形での幕切れに、良かったのかどうか判断に迷ってしまいます。無事に初陣を勝利で飾ったのですから喜ばしいことであることはあるのですが、演習として見たときに次へ繋がる戦いであったかというと微妙なところです。
ネズミさんの一回目の攻撃は全員が様子見と回避を選択して、多少の被弾はありました。
ですが見どころと言えば、それだけです。
二回目の行動にはもう見飽きたとばかりに皆さんが対応し始めて、それぞれが自分の思う最適解で動いて、終わってしまいました。もう少し小隊で連携したり全員で手を合わせて乗り越えたり、スリルを求めるわけではありませんがそういった対応方法が取りたかったと思ってしまいます。
「我々の相手をするには、少しばかり強度が足りなかったようですね」
もうちょっといろいろ試してみたいことがあったのですが。
多少武器が強くなったところでいきなり爆発的に強くなるわけではありませんし、戦闘技能が向上するわけでもありません。ですので演習を行って多少は緊張感のある戦いをすることで、実戦経験を積むような機会があればと考えていたのですが、これではあまり意味がないかもしれません。
そう思って念のための死体撃ちを続ける彼女たちの方を見れば、しかし少なからず益はあったのかもしれないと思い直します。
表情が良い。
先程まではやる気こそありましたが、だからといって自分たちの力を信じ切れずにいるような不安も少しばかり混じっておりました。だからこそ彼女たちの現在地が知れるいいチャンスだと思っていたのですが、今回の圧勝でそこについては少なからず効果があったようです。
自信を持てたことは良いのですが、彼女たちの性格を考えると天狗にならないか少しばかり心配になってしまいますが。
「ふむ、強度、強度か。試作品故その可能性もある。だが今回の結果の原因については、その本質は相性の問題であろう。奇跡という神秘を有する担い手にとって、
「相性が悪い? どういう意味です?」
「だがそなたが言うように出力不足は明白。彼らがレプリカであることを考えれば、それが意味することは情報の細かさ、ひいては密度の問題と言えるか。教義のミメシスを作る際はその部分についてより追求してみることにしよう。さすればあの先生とも我々の芸術を共有できるに違いない」
駄目ですねこの人。あの不法侵入者さんより会話にならないです。いや、スーツ着てる人の時は私が全然話せなくて一人語りさせちゃったんですが。
トリップしちゃってる木人形の方は放っておきまして、こちらは障害は排除しましたので本来の目的を遂行しているミライさん率いる捜索部隊に進捗を確認します。戦っている間にステージの裏を確認してくれたようですが、人影は発見できずとのこと。捜索は続行ですね。
てっきり先のネズミさんたちが制圧した後に裏側に放り込んでいるものと考えていたのですが、そういうわけではないみたいです。
であれば他に考えられる場所を人海戦術で探していくしかありません。
ちょうどヴァルキューレの到着の報もありましたので、探索範囲を手分けするとしましょうか。
「ここへ来て行方不明になった生徒がいるのですが、どこにいるか知っていますか?」
「ふむ、どれのことだ?」
念のため知っているか木人形さんに聞いてみたら、嫌な答えが返ってきました。
複数人ってことですか。この立地なのでもしかしなくともトリニティの子以外もいるってことですよね。ちょっと他学園と問題を起こすとナギサ様に睨まれそうなのでご遠慮申し上げたいのですがその辺り如何でしょうか。
「四つ。それらは未だこの地にて惑い続けている。すべてそなたと同じ学び舎の
「……場所は?」
「それは私が預かり知るところではない。私はこの地に足を踏み入れて未だに離れない者たちの数を把握しているに過ぎない」
要するに全員トリニティの生徒で園内にいるのは把握しているけど自分たちで探せということですね。どういう仕掛けなんでしょうね。自動で入園記録でもつけてるんでしょうか。
私は今しがた不審者から聞いた情報を全員に共有し、捜索目標をトリニティ生徒四名に拡大しました。
ヴァルキューレにも情報をお渡しし、木人形さんは用済みになったのでこの世とお別れしてもらおうと思ったのですが、いつの間にこの場から離れたのか少し目を離した隙にどこかに姿を消しておりました。放っておくと今回みたいに物騒なことをするつもりだろうと思ったが故の判断だったのですが、決断が些か遅かったようです。
『こちら中央の城エリア。足を踏み外したのか城の外壁裏で倒れてる子を発見しました。まだ双眼鏡で確認しただけですが、見たところ結構重症に見えます』
「了解。ヴァルキューレと協力して安全に注意しながら降下、応急処置をお願いします」
『こっちも見つけた。トロッコエリアの下の水に浮いている子を発見したよ。意識はあるみたいだけど浮き続けるので精一杯みたい。あ、ヴァルキューレの人が何人か飛び込んだ。ロープかなんか探して助けるね』
「はい、お願いします」
『はーい、ヴァルキューレの合歓垣だよー。地下のキャストエリアで迷子になってた子を保護したから、食べ物とか渡して一緒に地上に上がっとくねー』
「感謝します。よろしくお願いします」
手分けして探した結果か三人の救助対象者を発見しました。しかしその容姿を確認したところ最初の捜索対象の子ではないみたいで、結局最後に最初から探すつもりだった予定の子が残ったことになります。
私たちの部隊もそれなりの範囲の捜索を行っていたのですが、少なくとも屋外には行方不明者を発見できませんでした。ですので、私たちはこれから屋内のアトラクションエリアへと足を踏み入れます。
正直、気乗りはしません。
やはり一番のネックは建物の老朽化と手抜き建築による欠陥。床板を踏み抜いて落下とか、中途半端に体制を崩して骨折とか、そういった可能性を考えると歩き方を知っていたところで進みたくない場所なのです。
「……ゔぁー」
いくつか建物を歩いたところで、呻き声のようなものが耳に届きました。
後ろを歩く分派の皆さんに聞こえていたか確認するように振り向けば、ブンブンと皆さん首を横に振られていたのでやはりその声が聞こえていたようです。
私は周囲に懐中電灯の光を振りまして、どこかに落下したような場所がないか、人が落ちそうな隙間がないか確認していきます。その間にも断続的にどこからか呻き声は続けて聞こえてきておりまして、分派の皆さんは少しばかり怖がっている様子です。
建物の奥に進めば、足場が抜けているところばかりで自分たちの踏み場の確保すら苦労する場所に出てしまいました。穴だらけになっていることを考えればここを前に歩いた誰かが危険な板を踏みまくったのかもしれません。
「首長補佐!」
別の床穴を確認していた子から声がかかって、皆の目がそちらに一斉に向きます。
私から手で皆はそのまま作業を続行してという合図を出しまして、私がその子が確認していた床穴を覗きますと、何か荷物が落ちているのが見えました。手を伸ばして引き上げるには届かないぐらいの深さがあるので、回収するなら一度下りる必要がありそうです。
カバンは白いリュックタイプで、相談に来た子が伝えてくれた持ち物と一致します。荷物がここにあるということは、やはりあの呻き声の正体は今回の捜索対象が発しているもので間違いないでしょう。
「うわっ」
誰かが声を上げて、直後板が割れる音が空間に響きます。私たちがそちらを見た少し後、重たいものが落下した音が続きます。
見れば、一人の子が体勢を崩して別の子に寄りかかり、私の記憶が正しければその足元の床板が抜けています。ざっと人数を確認したところ変わりはありませんので、先の落下音は床板が地下に落ちた音ということでしょう。
しかしこれで、捜索対象がどうしてここで荷物を落としたかの理由は判明しました。
宙に浮く謎の光球。それが分派の子が驚いて足を滑らせた理由です。
最初はバランスを崩した彼女のすぐ側に現れていたそれはだんだんとその数を増やし、そこら中に現れ始めました。この遊園地ではオーソドックス寄りの怪奇現象で、お母様曰く特に害はないみたいです。言ってしまえばただの驚かせ要素ですね。
その光景が初めてではない私はまだしも、分派の皆さんにはやはり刺激が強いようでちょっとした悲鳴も上がり始めました。私が制止を指示しているが故に何とか小康を保っていますが、一体どう収拾を付けたものか。
「誰か、いるの?」
混乱を断ったのは、弱々しい、しかしはっきりと人のものだと認識できる声。
先ほどの落下音でこちらに気付いたのでしょうか。縋るような色で発された声が我々の耳に届きました。
その声で皆が怪奇現象に怯えてこそいるものの、その声を聞いて顔を見合わせ頷き合います。
私はその様子を確認して大丈夫だろうと判断して、迷いなく床穴へ飛び込みました。
「皆さんは安全に気を付けながら建物の裏へ向かってください。床が安定している場所から人を引き上げられるようなロープの準備もお願いします」
無事に着地した私はそれだけ上に伝えて、床下を進みます。
私の推測が正しければ、彼女がいるのは床下のどこか。床の抜けている数を考えればそれなりに歩き回ったのは確かでしょうし、奥の部屋の床はきれいな状態だったので、いるのであればここのはずです。
また、呻き声をあげていたことを考えれば、落ちたタイミングで床板と彼女の位置関係が入れ替わって、何かに押しつぶされている可能性もありそうです。上から照らして見えないというのは恐らくそれが理由でしょう。
上からの落下物に気を付けながら白いリュックサックを回収し、床下の探索を続けます。
他より気持ち少しだけ盛り上がって崩れている床板はすぐ見つかりました。唯一自慢することができる
「迎えに来ました」
「……きゅう」
私を見て気絶してしまった少女を担ぎ上げまして、地下から建物の裏側に回ります。
後から聞いた話ですがこの子、私が簡単に床板を持ち上げて、しかもその容姿がトリニティらしく天使に近いものですから、私の言葉も相まっていよいよ幻覚が見えてお迎えが来たのだと勘違いしていたみたいです。
建物の裏側に回ってもらった皆さんは二人の人間を引き上げられそうな場所がなかったようでして、その報告を受けた私は床下から側面に人が一人は通れそうな通気口があったのでそこを粉砕して外に出ました。
ちなみにこの一件は皆様に見られていたこともありリツカさんに伝わってしまいまして、
いつもなら文句を垂れていたところですが、リツカさんが少しばかり元気になったので今回は飲み込むことに決めました。これで少し心に余裕ができてくれるといいのですが。
救出した四人は私が助けた子を除いて三人の栄養状態がかなり怪しい状態ではあったのですが、命に別状はなくしばらくしてから学校に復帰しました。ミライさんに調べてもらったところでは今回行方不明になっていた四人は全員無所属だったようで、それ故に発覚が遅れていたみたいです。
一応ウチに来ますか、と宣伝しておいたのですが、結局誰も入ってくれませんでした。残念。
シロクロは残念ながら章ボスではありません。トコ(ロケランの子)に大玉を弾き返されたり、火炎放射器の子にティーカップを燃やされたりして散々な目に遭いました。
この章は前二つのように大きなテーマがあるというよりは現状の分派の様子をご案内という感じ。
幕間が並んでる間隔で読んでもらう方が良いかもしれませんね。