お父様、知らない人について行ってはいけない、の知らない人の定義について話し合ったことがありましたね。
私とお父様の結論では顔見知りの人でも親族でなければついて行ってはいけない、という結論になっていたかと思います。トラブルに合ったときに面倒ですし、基本的に碌な目に合わないという見解だったかと記憶しております。
そんなことを思い出した原因は、今私の後ろに並ぶ方々にあります。
黒服の人と会ってからかれこれ一週間弱が経過しておりまして、しかし人員呼び込みは未だ続いております。この一週間だけでも抗議の手紙や一触即発の状況に何回も遭遇しておりまして、
そんな中私は今日も習慣になりかけている深夜の散歩に出かけようとしておりました。
本日は気分を変えるために久々にショットガンの方を持ちまして、もう随分と平常心で触れるようになった寮の玄関に手を掛けたとき、後ろから足音が聞こえたのです。それも一つではなく、大勢のもの。
これは何事でしょうかと思って振り返ったのですが、そこにいたのは戦闘部隊の小隊長さん方。後ろに部隊の子もちらほら見えました。
「どうしても、行かれるのですね?」
一番前に立つ方に何だか真剣な表情で問われてしまいまして、私は他の方に目を向けて様子を探ります。皆さん武器を持っておりまして、どうやら替えの弾薬もお持ちのご様子。手榴弾や小細工用の道具を持っている方も見えますし、臨戦態勢が整っているのが見て取れました。
いえ、私もいつも手榴弾などを持ち歩いてはいるのですが、それは最早習慣みたいなでして、特に意味はありません。
そういう意味では私、常に臨戦態勢を取っているように見えていたのかもしれませんね。
無意味に相手を警戒させていたかもしれない事実に気が付いて、今度から必要ないときは手榴弾ぐらいは置いて来ようかなと思いました。皆さんから戦闘狂みたいな扱いを受けていたの、もしやこれが原因だったのでは。
彼女たちが私を止めた理由は、私の深夜外出を咎めての事でしょう。校則の決まりこそありませんが、トリニティ的にあまり褒められた行為ではありませんし、分派の評判にも少なからず影響しますので、武力をもって阻止しようとしているのでしょう。
こんな人数が集まっているのは、恐らく過去の悪評に尾びれがついた影響ですかね。簡単には止められないと思われているのだと思います。
私もこの人数を制圧してまで外に出たいかと言われればそういうわけではないのですが、最近の夜の散歩が気に入っていたのも事実ですので、外に出れなくなるというのも面白くありません。
ですので、ここは話をすり替えさせていただくことに致しましょう。
「ついてくるのですか? あまり、面白い物ではありませんよ」
言外に、特に何も企んでいないという旨をお伝えします。
ただの散歩、しかも景色もほぼ変わらない裏道ばかりなので何も面白いところはありません。
ほとんど完成に近づいているランニングルートは、一度案内したら二度と同行しようと思う人間がいないであろうというレベルで面白味の無いルートを開拓しておりますので、きっと私が何も企てていないということが容易に伝わると思います。
しかし私がこの時間に外に出かけているとどうして気付かれたのでしょうか。
リツカさんにもお話ししておりませんでしたし、ラウンジにいつも何人かいるのは知っていますが出入口を見るような方はいなかったと記憶しているのですが。私が気付いていないだけで把握されていた可能性は否めませんね。でなければこうして皆が集められることもなかったでしょうし。
「ええ。首長補佐一人だけで行かせるわけにはいきませんから」
やはり信用されていないのでしょう。
人間として信じられていないだけでなく、戦力としても最大限の警戒をされているようで、まだまだ階段から戦闘部隊の皆様が下りてきまして、もはや出撃前の整列みたいな様相を呈してきております。
しかし先程の彼女の言葉を考えるに、ひとまず外出の許可は頂けたみたいです。
そんなことを私が考えていますと、私と言葉を交わしていた小隊長さんとは別の隊の隊長さんが一歩前に出てきまして、私の背中の銃に視線を向けました。
「その銃をお持ちということは、今日なのでしょう? 我々もお供いたします」
あ、これ疑われてるとかじゃなくてカチコミに行くと思われていたやつですね。
であれば皆さんが戦闘準備万端にして次々とこの場に集まってきている理由も説明が付きます。
自分が標的でなかったことに対する安堵と何でそんな物騒な勘違いが起こっているのだろうという疑問が
私が自分の感情と戦っている間に、いつの間にか戦闘部隊の皆さんの整列が完了していました。
ここまで目を輝かせて待機されてしまえば、ただの散歩なんですと言って引き揚げさせるのも忍びないですね。寮に戻ってきたときに今日は下見だったんですとでも言い訳して事なきを得ることに致しましょう。
「わかりました。では、共に参りましょう」
そんなわけで、私は自身のランニングルートをなぜか分派の皆さんを連れて歩いております。
こんなところをティーパーティーや正義実現委員会の方々に見られたらどんな疑いを掛けられるか分かったものではありませんので、
私は先頭を歩いているのですが、後ろの緊張感というのは伝わるもので、いつものルートであるにも関わらず随分と新鮮な心持ちです。だからといって
相も変わらず夜の道というのはなかなか音が少ないもので、木々の揺れる音や我々の足音が良く響きます。
そんな中で話をしていれば、足音があっても耳の良い私には届いてしまうものでして。
「どこと戦うんだろう?」
「やっぱティーパーティーじゃない?」
「パテルじゃないの? あそこずっと突っかかってくるじゃん」
「やっぱ正義実現委員会でしょ。緊急配備されているみたいだし、冤罪した人を助けに行くんだよ」
案の定私の予想通り、どこかに戦うつもりで皆さん出てきているみたいです。
騙しているようで胃がキリキリしてきましたね。本当に申し訳ない気持ちです。もう半分ほど道は進んでおりまして、今日はもうこのまま寮に戻るだけなんて知ったら彼女たちはどんな顔をするのでしょうか。
それと一番最後に聞こえた情報、知らないのですが。今日の午後はまるっきり学校からの情報を確認していなかったのですが、そんなことが起こっていたんですね。リツカさんやミライさんが何かあったら教えてくれるだろうと高を括っていたのですが、流石に確認しているだろうと思って共有してくれなかったパータンでしょうか。普通にあり得そうですね。私が悪い。
正義実現委員会の緊急配備というぐらいですから、何か重要な拠点を守ったりしているのでしょうか。
補習授業部の先日の不運を考えると、もしかするとその建物が試験会場なのに正義実現委員会が厳戒態勢を敷いていて入れない、みたいなことがあったりするでしょうか。流石にそんな偶然が二度も起こるわけありませんか。まあ想像する分には自由ですからね。
そんな呑気なことを考えている私の耳に、聞き捨てならない情報が飛び込んで参ります。
「いつもみたいに敵を釣ろうとしてるだけなんじゃないの? わざわざ全員で出る必要なかったと思うんだけど」
「戒厳令出てるのに外に出ようとしてたんだから、理由がないわけないでしょ?」
それを聞いて思わず、私は足を止めてしまいました。
待ってください。何か嫌な言葉が聞こえた気がするのですが。
いやいやまさか。そんなわけないですよね。思いっきりプエラ分派を叩く材料与えてしまってませんかね、これ。
皆さんと仲良く散歩していただけです、あはは、では済まなくないですか。
命令無視して出歩いているだけでアウトなのに、分派の戦闘要員全員連れているは何も言い訳が効かない気がしてしまうのですが。
悪寒。
「首長補佐!?」
右前面から飛んできた弾丸を、ショットガンを抜く動作に合わせて上手く流します。
頭を狙ったそれはツルギさんと練習した動きですので、かなりの威力の弾まで受け流せる優れものです。咄嗟に出せるか自信はなかったのですが、訓練の成果が出ているようで嬉しいですね。
私が銃を抜いたことで後ろに続いていた分派の皆さんも戦闘態勢に入りました。
先程の全自動致命傷回避センサーから相手の位置を逆算しますと、おや、これは以前ミカさんが勝手に崩落した位置の近くですね。
崩落で表出した地下通路は調査の結果カタコンベという場所に繋がっているのだとツルギさんから伝えられておりましたが、エデン条約が迫っていることとカタコンベが複雑な構造をしていることから詳しい調査は後で行うとお聞きした記憶があります。
トリニティ全体に外出禁止令を出してティーパーティーが秘密裏に調査を進めようとしたのかもしれない、などと根拠のない推測はいくらでもできますが、あまり納得できるこちらへの攻撃理由が思いつきません。
そんなことを思っておりますと、ざ、ざ、と複数の、しかもそれなりの人数の足音が正面から聞こえて参りました。だんだんと見えるようになったその姿は白い制服にガスマスク、胸にはプロテクターのようなものも身に着けていらっしゃいます。
生徒というよりは軍人や傭兵と呼んだ方が似合いそうな風貌をした方々の道を塞いでしまっている形になってしまっておりまして、狙撃もいなしてしまったのでとても気まずい状況です。
「おかしいな。戒厳令が出ていると聞いたんだが」
「そうなのですか? 知りませんでした」
リーダーっぽい方にそう言われてしまいまして、私は正直にとぼけるしかありません。
知らなかったと言って許して貰えますかね、これ。いや、私が知らなかったのは紛れもない事実なのですが、後ろに並んでいる皆さんはどうもそれではないみたいなので、ちょっとそこが心配になってしまうのです。
あれ、でもそれを言うなら今正面にいるこの方々も同じことが言えるわけで。
改めてその纏っている装備や制服を見ますが、トリニティで過ごしていて見たことがないタイプです。いくら私がポンコツお飾り分派首長を名乗っていたとしても、執務の一環で学内に存在するすべての分派と公認・非公認問わない部活に加えて、自警団のような自主活動グループの装備や制服は頭に叩き込んでおります。
ですから言えるわけです。おかしい、と。
様子見をしてくれている相手に感謝しつつその制服をよく視察し、腕章のようなものを左腕に巻いているのを発見します。
そのマークに見覚えがありまして、私は彼らに問いかけてみることにします。
「あなた方の方こそ、こんな時間に何をしているのですか? アリウス分校の皆さま」
聞き方が良くなかったのでしょうか。向かい合っていた皆様が一斉にこちらに銃を構え始めてしまいました。
リーダーっぽい方ももう完全にダンマリモードに入ってしまわれたようで、これは交戦は避けられなさそうです。
アリウス分校、アリウス分校ですか。
判断に迷いますがトリニティとしてまとまる前の分派ですし、分校と名がついていますから、倒してしまっても一応は不法侵入者を制圧したという大義名分が付くでしょうか。
「臆するな。我々は精鋭部隊。烏合の衆などすぐに突破して、本隊と合流するぞ」
リーダーさん(確定)がなんか言ってますね。精鋭部隊とか聞こえた気がするんですが、
でもまあ向こうもやる気みたいですし、こちらも気合を入れていきましょう。
私もツルギさん相手ばかりで身に付けた技術が他の方々にどれだけ通じるか試したいところもありましたので、いい機会かもしれません。痛いのは嫌ですし過剰防衛ぐらい許されるでしょう。
皆に合図を出すために右腕を腕を上に向けまして、相手の動きを伺います。
相手の身体が動き出したのにほんの一瞬遅れて、私も右手を前へ向けて降ろしました。
始まった銃撃戦で後ろからの炎に焼かれないように前へ進み、アリウス分校の生徒さんが並ぶ中へ煙幕弾と共に飛び込みながら、私は一つ思うことがありました。
手榴弾、やっぱりいつも持ち歩いた方が良いですね。何が起こるかわかりませんから。
ランニングルートの帰路が合宿所からプエラ分派の寮へ向かう道の途中だった結果、会敵。