見たか! 余はカッコいいであろう!   作:息抜きのもなか

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サブタイトル付け忘れて「35.そうして」になってたので追記しました。
いつも話数と「そうして」だけで仮置きして書き始めてることがばれてしまう。


幕間
35.そうして真実は伝わらず


 お母様、聞いてはいけない話を聞くときはなるべくその存在感を失くすこと、というその教え、まさか実践の機会があるとは思いませんでした。

 いない者扱いで話が進むのは少々……あれ、思ったより気楽でいいですね。自分に注目が集まらないことはいいことです。人と関わることを決めた以上は多用はしないようにしますが、私が居ることで不和を生みそうな場では積極的に活用しても良いかもしれません。

 

 あれから少し経ちまして、私は今回は比較的すぐに退院できましたので、サクラコさんに呼ばれてシスターフッドにて情報共有を行っておりました。

 何でも補習授業部とシスターフッドでトリニティのクーデターを阻止したんだとか。私たちが戦ったアリウスの部隊もその一部だったようでして、私の知らないところで大変な事件が起こっていたことを知りました。

 途中から先生が登場し、私は突然のことに機能停止。

 何も言わずに先生と話し始めてくれたサクラコさんに感謝したものの、そこで交わされる私が知っていいのか判断に困る情報の数々に、私は置物になることを決意することになりました。

 それから早数分が経過し、いつの間にか先日お会いした変態さん(浦和ハナコさんというらしいです)が合流して事態は一層深刻化し、私が自分は壁だと自己暗示に必死になっている間にサクラコさん含むシスターフッドの皆さんが退出してしまわれました。

 

「…………」

 

 しかしどうやって壁になり切ろうか思索したところで、耳から入る情報からはなかなかどうして逃れられないものでして。

 セイアさんが不在である顛末、ミカさんのクーデターのお話とその動機に対するハナコさんと先生の熱い議論を聞かされた私の脳はあまりの情報量にパンク寸前です。変態さんの乱高下する知能指数もそれに拍車を掛けました。

 しかし一連の話を聞く中でハナコさんと先生、それにお二人が関わってきた方々の知らない一面を知ることができたのは、良い収穫だったのかもしれません。ミカさんは私の想像とはまるで反対の性格だったようで、とんでもなく勘違いをしていたようですし。それから考えてみますと、私が接した彼女の中では瓦礫に埋まっていたときのお姿が一番彼女らしい姿だったように思えますね。

 また、先生についてもその行き過ぎた善性を目の当たりにすることになりまして、最初にお会いした時の印象とはまた違った感想を抱くことになりました。

 

「……羨ましいですね。そんな考えを貫けるのは」

 

 思わず口から溢れ出た言葉にハナコさんと先生がこちらを向き、私は壁から人間へとその存在をランクアップさせられてしまいます。

 しかし本当に先生の考えは凄まじいものです。

 信じること。単純なように見えて、とても難しいことです。

 その思考を貫けるのは無論当人の強靭な精神力があって初めて実現するものではあるのですが、少なからず先生が育ってきた環境要因も関わっているはず。トリニティで政治に関わる身であればその思考を維持できるはずもないと考えてしまうのは、自身の経験が枷になっているでしょうか。

 私は今の自分の環境を考えて、手放しで信頼できる相手はいないと断言できてしまうのです。

 リツカさんは何か隠していますし、サクラコさんはどちらも派閥を率いる者としての立場が枷になります。ミタカちゃんは信じるという言葉のベクトルが違いますが暴走する危険がありますし、分派の皆さんはそもそも私が騙している分しっぺ返しが恐ろしいです。交流がある中でそういったしがらみがないのはウイさんぐらいですが、彼女は私と古書だったら迷わず古書を選ぶ気がしますし。そこが彼女の良いところでもあるんですがね。

 まあ何が言いたいかと言いますと、こんな人間が大人になったからと言って先生のような人になれるとは思えないということです。

 

「"カタネはみんなのこと、信じたくないの?"」

「信じてみようと思うだけで、きっと楽しくなると思いますよ、カタネちゃん?」

 

 先生、一度ご自身の発言をお確かめを。

 信じてほしいのであれば、一言で疑わせるのをやめていただかないと話になりません。

 先生には『花羽リツカ』という名乗りをしていた記憶があるのですが、どうして私の本名を知っているのでしょう。補習授業部の顧問をするにあたってナギサ様やミカさん辺りから漏れたのでしょうか。もしそうだとしても、そこについて一言欲しいものですが。

 ハナコさんの方は何でしょうね。先程の会話を聞いているだけでも優秀さが伝わりますし、何でも知っているみたいな雰囲気が溢れ出ていましたから、もうこっちはどうにでもなれとしか言えません。あのサクラコさんを手玉に取るのですから、私なんかもうマリオネットでしょう。

 それにしてもハナコさん、ミカさんの件で気になる部分はあるようですが、以前深夜にお会いした時よりも随分と自然体であるように思います。迷いが晴れたという表現が正しいかわかりませんが、肩の力が抜けているように見えますね。

 

「あなたは、随分と楽しそうですね。大事なものができたようで何よりです」

 

 きっと、先生や補習授業部の皆さんと過ごす日々がとても有意義なものだったのでしょう。困難があった分、絆が育まれたのかもしれません。彼女のこれまでの様子から考えれば、真正面から向き合ってくれる友達ができただけかもしれません。

 友達がいるというのは良いものです。サクラコさんと交流を始めてから実感していますが、それだけで毎日の活力になりますから。サクラコさんやウイさんは今年で卒業してしまうため、来年のことを考えるとちょっぴり憂鬱ではありますが、その頃には私も社交的になっている予定なのできっと大丈夫でしょう。

 ともあれ、ハナコさんという渡り鳥が居場所を見つけられたことは喜ぶべきことなのです。

 

「"それだとまるで、カタネには居場所がないみたいに聞こえるね"」

「『カタネ』にはありますよ。いえ、ここではリツカと呼んだ方がいいですか?」

 

 私は所詮偽物の虚像。本物が戻れば失墜する束の間の代理人です。

 リツカさんが卒業するか入れ替わりをやめるか、どちらにしろその瞬間に私は再び異物に戻ります。入学した直後と同じように爪弾きにされて放り出されて、当てもなく彷徨うだけ。その時はシスターフッドか、あるいは訓練場に通うことで知り合いの増えてきた正義実現委員会にでも身を寄せることにしましょう。

 また、入れ替わりの発覚に関してはリツカさんの方は特にお咎めはないだろうと考えられます。というか恐らく、咎めることはできません。

 だって、彼女はまだティーパーティーを抜けていませんから。

 リツカさんは派閥をフィリウスからプエラへと移動しただけで、生徒会をやめたわけではありません。ミライさんと二人でデータベースを確認したので、間違いないと思います。

 彼女がそれを隠していた理由については、彼女が語るまで問うつもりはありません。私が去年の顛末を話していないように、彼女にも探られたくない腹はあるはずですから。

 

「"もしかして、カタネは今居場所を作っている途中なのかな"」

 

 思わぬ視点を提供されて、私は目を伏せて考えてます。

 私は自分を流されてその役割を全うしているだけと思っていましたが、最近は割と積極的な行動を心がけております。

 それは立場上皆を守るために強くなる必要があるから、などと言い訳をしておりましたが、なるほど確かにそういう部分もあるのかもしれません。自分がこの場所に立つことが許されるような実績を求めて、結果を出そうと足掻いているのかもしれません。

 そう考えると、私みたいな落伍者の居場所になることが目的であるプエラ分派のトップが、自分で自分の居場所を作ろうとしているというのはなんとも滑稽なお話に思えてきますね。

 その可笑(おか)しさに思わず笑みが零れてしまいまして、私は漏れた笑い声を誤魔化すように言葉を続けました。

 

「ふふふ、面白いことを言うんですね」

 

 おや、割と本気で笑い話だと思っていたのですが、お二人の顔が浮きませんね。

 てっきり先生もハナコさんもプエラ分派の役割を知っていて言っているのかと思っていたのですが、この様子では違うみたいです。くつくつと笑う私を他所にお二人は神妙な顔でこちらのことを見つめております。

 ここは一旦話題転換をと思って口を開こうとしたところで、この空気を察したハナコさんに先を越されてしまいました。

 

「カタネちゃんも、別の場所でアリウスと戦ってくれたんですよね。酷い怪我だったと聞いているのですが、もう大丈夫なのですか?」

「ええ。今回は回復が早かったもので。それなりの結果に満足していましたし、気分が良かったからですかね」

 

 不思議なことに、私は先日の戦闘で酷い怪我を負ったにも関わらず、僅か二日で退院することが叶いました。前回の一週間以上の入院が嘘のような回復速度に自分でも驚いております。

 原因を自分なりに考えてみたのですが、思いつくのはメンタルの状態ぐらいでして。

 前回の入院時は熱もありましたが、体調の悪化と共にかなりネガティブな状態になっていた記憶があるのです。それに加えて過保護な皆さんによってひたすらに拘束され続けておりまして、気分が晴れない日々が続いておりました。

 しかし先生に会いに行ってリフレッシュしてからは傷の直りが早くなりまして、本来ならばサクラコさんとの予定に間に合うか怪しかった退院に余裕ができるほど早く回復が進みました。

 そんなことを思い出して提出する結果が、私のメンタル状態によって回復速度が変わるかもしれないという何とも判断に困る代物でございます。

 今回の快復のスピードには救護騎士団の皆さんや見舞い兼事情聴取に来てくださったツルギさんも驚いていましたし、分派の方々はちょっと思い出したくないぐらいにお祭り騒ぎでした。

 そんな私の思考を遮るように、先生とハナコさんが私に畳みかけます。

 

「"どうしてアリウスと戦ったのか、聞いてもいいかな"」

「それは私も聞いてみたいですね。プエラ分派が倒した部隊はアリウスの中でも精鋭部隊だったようで、ミカさんが投降していたとはいえ彼らが合流していたら厳しかったとアズサちゃんは言っていました。カタネちゃんが探していた道が、まさかアリウスが通るルートのことを言っていたとは私も想像ができませんでした」

「"ナギサの暴走も事前に忠告に来てくれたよね。気を付けろって、私に言ってくれた"」

「アズサちゃんのようにセイアちゃんから何か事前に聞いていたりしたんですか?」

 

 おや、正義実現委員会から報告を受けていないのでしょうか。

 何だか話が飛躍している気がしますし、伝達に難があったよう気がしてなりません。

 事情聴取については病室でツルギさんに全て正直に吐かされまして、後はこっちで上手くやっておくと言われたのですが、どんなカバーストーリーになっているのでしょうか。

 ちなみにミタカちゃんとリツカさんはアリウスと戦ったこと、特殊な爆弾が使用されたことについては報告していたようですが、我々があの場にいた理由については『首長補佐の考えることは私たちにはわかりませんから』とか言って逃げたらしいです。そこを頼んだつもりだったんですが、まあ飲み込むと致しましょう。

 戒厳令を知らずに散歩してたこと、なんか分派の子がついてきちゃったこと、戒厳令が出てることを知ったタイミングでアリウスと会敵してしまったこと、それらを事細かくベッドの上で死んだ魚の目をしながら説明させられたことについては特に何にも思っていません。首長室の冷蔵庫から二人のお気に入りのおやつが一つずつ消えたことは私の知るところではないのです。

 

「戒厳令を知らずに分派の皆さんと仲良く散歩していたところに、たまたま補習授業部の合宿所に向かっていたアリウスの方々と会敵した。それ以上でもそれ以下でもありませんよ」

 

 どれだけ嘘だと思えるような話でも、それが唯一の真実ならば受け入れるしかないのです。

 というわけで先生、先程のお言葉通り生徒の言葉を信じていただければ幸いです。

 

「"わかった。そういうことにしておくね"」

「私たちはいつでも、待っていますから」

 

 えと、あの、『先生として生徒のことを信じる』というお言葉はどうされたのでしょうか。

 もしかして裏切った生徒に対する『その時は事情があると思うから』というお言葉を適用してしまってはおりませんか。

 ハナコさんも、あなたほど聡明で情報網を持っているなら私の本質を掴んでいるのでは。それこそリツカさんとかなら彼女の人脈的に交流があってもおかしくないと思うのですが。単純にプエラ分派の子たちがまともにスパイとして機能しないから情報が足りないとかなら全然納得はできてしまいますが、そんな感じではありませんし。

 もしかして私が変なクリティカルを出しているせいで彼女の目から見ても掴みどころのない人間だと思われてしまっているんでしょうか。それだと、あれ、どうしようもなくないですか。

 それからエデン条約の調印式を迎えるまでというもの、お二人と顔を合わせる度に温かい目を向けられてしまいました。

 それをリツカさんに相談したら、堪えきれていない笑いを隠しながら『そのエミュレートに振り切ってみたら』と言われました。冷蔵庫から彼女のおやつがもう一つ消えました。




ちなみにツルギは上手いカバーストーリーが思いつかずそのままハスミに伝えました。
ハスミもハスミでツルギからリツカだと言われている人物が主人公であると聞いていたので、
プエラ分派の子だしそのぐらいのバカはするだろうと思ってそのまま各所に報告しました。
結果、サクラコさん以外信じませんでした。
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