見たか! 余はカッコいいであろう!   作:息抜きのもなか

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超息抜き回。


37.そうして理解者は口を閉ざす

 お母様、お父様、以前監獄の見学に行ったことを覚えておりますでしょうか。

 あれは社会勉強の一環と言われてお二人に矯正局の見学に連れて行かれたのだったと記憶しておりますが、殺伐とした空気と不躾で悪意を多分に含んだ視線を向けられて子供ながらに絶対こんな見学させるべきじゃないだろ馬鹿かと思った記憶がございます。

 

 あんな社会の隅っこ、良好とはいえない環境の監獄を普通の監獄なのだと思っていた私は、トリニティの監獄に入って随分と過ごしやすそうな空間だなと感涙しております。

 一応上の身分の人向けの少し豪華な造りの牢だとは理解しておりますが、外に出られないこと以外は特に不自由なく過ごせそうな部屋を見て、私は呆気に取られておりました。

 

「どうしたの、カタネちゃん? まさか思ってたより牢屋がきれいでびっくりしちゃった?」

「ええ。随分と過ごしやすそうな部屋で驚きました」

 

 頑張れ私。

 今日はリツカさんの銃を持っているのでもう一言付け加えないと多分誤解を生む気がします。

 

「てっきり矯正局のような牢を想像していたもので、トリニティの牢は進化しているのですね」

 

 これでどうでしょうか。

 そう思いながらミカさんに目を向けたのですが、とても訝し気な目を向けられてしまいました。

 別にミカさんが矯正局に入った方が良いとか思っているわけじゃないんです。本当です。単純に牢屋とは思えないほど快適そうなので安心しただけなんです。

 そんな内心で言い訳をする私にミカさんは鬱陶しそうな様子を隠しもせずに茶会用の椅子に腰かけました。

 

「で、何の用? カタネちゃんに話すことなんてないと思うんだけど」

「サクラコさんに、行って来たらどうかと言われまして」

「サクラコちゃんが?」

 

 私が今日ミカさんの牢にお邪魔したのは彼女の提言によるものです。

 ミカさんの置かれている状況を考えれば、プエラ分派本来の役割を果たすつもりであれば接触するべきなのではないか、と。

 サクラコさん的にはたぶん分派の方針に迷う私と危うい立場に置かれているミカさん双方に向けられた気遣いなのだと思いますが、いかんせんタイミングが悪いです。

 なので丁重にお断りをしようと思ったのですが、すごい良いことをしたとばかりに自然に笑うサクラコさんの表情が珍しくてですね、うっかり頷いてしまったんですよ。だっていつもの怪しい笑顔じゃなくて、ただ可愛いだけのニコニコ顔だったんですもの。もったいないじゃないですか。

 そんなわけでまあこうして監禁中のミカさんの元を訪れまして、お話をさせていただくことになったというわけでございます。

 

「ミカさんは、プエラ分派の本来の役割をご存じでしょうか?」

「え、知らないよ。ただのおバカさんの集まりじゃないの?」

「……八割ぐらい合っているので正解をあげたい気持ちがありますが、昔はどうやら違ったみたいなのです」

 

 それからサクラコさんから教えてもらったプエラ分派のことをミカさんにも共有しました。

 それを聞いたミカさんは流石にウチの分派の子ほどは理解力が足りていないわけでは無いようでして、私の言いたいことに気がついたのか不機嫌そうにこちらを睨みました。

 

「下手な同情を貰っても鬱陶しいだけなんだけど」

「まあ、私も義理立てで来ているだけなので期待はしていません」

「何それ。私を引き込まなくてもカタネちゃんの計画には何の問題もないってこと?」

 

 何かすごい嫌われてますね。

 まあ分派の成り立ちを知っている者が私たちに声を掛けられたら、「お前トリニティで()()()()()()からウチに入れよ」みたいな感じに思ってしまいますもんね。いや、実際こちらから声を掛ける場合は意図としては大差ないんですが、もうちょっと慈愛の心は持っているつもりです。

 それにしてもミカさんは以前からずっと私の事を警戒していますね。

 てっきり先日の事件を聞いた時は自分の計画を邪魔されないか気にしていたんだろうなと考えていたのですが、今のお言葉を聞く限りやはりそれ以前に何か私が企んでいると思っているご様子。

 ナギサ様といいティーパーティーの方々は私の事を何だと思っているのでしょう。

 

「大体なんですか計画って陰謀論もいいとこですよ子供の妄想かよ、……あ」

「へ?」

 

 思わず口に出てしまいまして、即座に思いっきり白を切ることに決めました。

 ちらっと視線だけで探ればミカさんは目を見開いて驚いているようです。ぱちぱちと効果音が出そうなぐらい目を大きくしたまま瞬きを繰り返し、先程のとげとげしい雰囲気はどこへやら。

 しかし最近気が付いたのですが、皆さん揃いも揃って私が何やら怪しい計画を立てているだのクーデターを画策しているだのどこから出たのかわからないような情報に踊らされておりまして、そんなことで本当に政治ができるのかと心配になってしまいます。

 最近ようやく花羽リツカに関する変な噂をばら撒いているSNSアカウントを発見いたしまして、通報してアカウントが凍結されているのを確認しました。この前首長室でミタカちゃんがSNSアカウントがBANされたと嘆いていましたが知ったことではありませんね。

 ついに消されたとかちょっとした騒ぎになってた気もしますが、たぶん既に鎮火していることでしょう。しててくれ頼むから。

 

「皆さんよく私が何かを計画していると仰いますが、何か証拠でもお持ちなのですか?」

「仕切り直そうったってそうは行かないよ!?」

「何のことでしょう」

「さっき思いっきり『……あ』って言ってたの聞こえてたからね!?「ちっ」 今舌打ちしたでしょ! 聞こえてるからね!」

 

 崩落で埋まってた時も思いましたが結構いい反応しますよね、この人。あの時は私も彼女の魔の手から逃れるために余裕がなかったですが、彼女の人物像を知った上でこうして落ち着いた状態で向き合ってみるとなかなか彼女は愉快な人なのかもしれません。

 もしかすると彼女は新種のウイさんか何かなのかも。

 そういえば最近ウイさんのところに遊び(からかい)に行っていませんね。二度目の奇跡があった年代も割れていますし、その付近の書物などがないか探しに行ってもいいかもしれません。

 それはさておきこの現場です。

 うっかり漏らしてしまった本音によって場の空気が終わったこの空間、どうすれば収拾が付けられるでしょうか。私から何かしようにもこういった経験があまりなくてですね。ほら私基本一人で走っているだけの人間だったものですから。

 

「もしかしてカタネちゃんって、結構面白い感じの人だったりする?」

「そっくりそのままお返ししましょうか、その言葉」

「なんかもう遠慮してる感じがなくなったね!?」

 

 面白い人、面白い人ですか。

 そんな評価をされたことは生まれてこのかた一度もなかったので、なかなか新鮮な気分です。

 しかもこのトリニティでは珍しく素直に自分の気持ちを語られる方ですので、彼女の言葉が迂遠な言い回しをしたものでないことを知っていればそのまま受け取れるというもの。

 いやはや、権謀術数で殴ってくるトリニティでこれ以上の清涼剤はないかもしれませんね。

 ウチのお馬鹿さんたちもまあ素直に言葉を吐く子たちではあるのですが、あの子たちはちょっと別の意味でまともな会話にならないので。

 

「そっかあ。じゃあ仲がいいって言われてたサクラコちゃんとも単純にお友達なのかぁ。あの子もいろいろ立場とかもあって苦労してるみたいだったし、気の許せる相手ができたのなら良かったのかもしれないね」

「ええ。それなのに毎回会うたびに陰謀論が出るなんて失礼ですよね。普通にお菓子食べて駄弁りたいだけなのにそのせいで毎回個室を取らせられるこっちの身にもなってほしいですよね」

「個室なんて取ってるから密談とか言われてるんじゃないかな……」

 

 それはそうかもしれません。でも普通のカフェとかだ落ち着かないんですよね。私とサクラコさんが言葉を発する度に何かの隠語だと勘繰られてざわざわしますし、注文を頼んだら裏メニューがあるのかと噂されてオーダーが通らなくなりますし、この前なんか二人でランチしようとしたらお店の人に悪い噂が立つのは嫌なのでお願いだから帰ってくださいとまで言われたんですよ。あんまりだと思いませんか。

 ま、まあ私とサクラコさんには行きつけの完全防音の個室「それだよね?」があるお店もありますし? 毎回多めにチップもお渡しちゃうぐらい「それだよね?」良くしてもらってますし? 毎回満足して帰るのでサクラコさんと一緒に満面の笑みでお店も出れてますから「それだよね!?」ああもううるさいですね!

 

「人の惚気ぐらい黙って聞いたらどうですか?」

「いやいや突っ込みどころありすぎて困るぐらいなんだけど!?」

 

 私とサクラコさんのデートを言うに事欠いて突っ込みどころだらけだなんてひどいことを言うもんですね。

 ああダメもうダメですこの人もう許しません。

 せっかくミカさんが好きだって聞いたお菓子を持ってきてあげたのにこんな調子なら、私が目の前で食ってやりますよ。

 (おもむろ)に持ってきた鞄の中から可愛らしい包装の箱を取り出しまして、テーブルの上でそれをこれ見よがしに開いて差し上げます。箱を取り出した時点でそれが何か気付いたミカさんの視線が私の手元にばっちり向かっておりましたので、試しに右へ左へと動かしてみればそちらに視線が誘導されます。あ、ちょっと可愛いかも。

 でもダメです。遊ばれていることに気付いたミカさんが頬を膨らませて抗議するような目で見てきますが無視です無視。

 何ですか。そんな目で見てもあげませんよ。あなたが悪いんですからね。

 

「うう、ひどい……カタネちゃんがいじめるよぉ……」

 

 一つ食べてみましたが想像していたより美味しいですね。ミタカちゃんが好きそうな甘さです。

 でもこれを買うときミカさんの御用達のお店だったからかいろいろと囁かれてしまいましたね。

 次はミカ様を取り込むつもりなのかとか、これはパテル派への戦線布告なのではないかとか、あとミカ様単純だからお菓子でつられちゃうかも、とか。

 来る途中で調べたら通販もやっているみたいなので、今度からはそちらで届けてもらう方が事を荒立てずに済みそうです。もう手遅れかもしれませんが、一応配慮はしておくべきですからね。

 

「お店の人に後で謝りに行かなきゃ……まさかこんなところで迷惑を掛けちゃうなんて」

「大変ですね」

「カタネちゃんのせいだよ!?」

 

 いちいち声が大きいです。

 渡さないと思っていたのに思わず口にお菓子を突っ込んでしまったではないですか。黙らせるのにちょうどいい位置にあったのがいけなかったですね。

 いきなり口に物を放り込まれた彼女は最初は驚いていたのに、今やもぐもぐと口を動かすことに集中する生き物になっていました。口に放り込まれた正体を理解すると同時にだんだんと頬が溶けて幸せそうな表情になっていく様をまざまざと見せつけられた私には予想外のダメージが。

 本当に好きなんですね、このお菓子。

 その表情を見てさすがに意地悪してしまったかなとちょっぴり罪悪感が募りました。

 

「ちょっと! いきなり何す――」

 

 それはそれ。これはこれ。面白かったので追加といきましょう。

 幸せそうな顔で食べるので、見ていて飽きませんね。こっちまで嬉しくなってしまいます。

 それから彼女が食べ終わる度に口の前にお菓子を運んでいたら、餌を求める雛鳥のように吸い込まれて行きました。

 途中から彼女が待ちの姿勢になって口を開け始めたので、こちらも完全に餌付けの気分。食べているときは黙る彼女の様子が面白くて次々に投下していきました。そうしてダース分あった箱の中身がなくなるまで食べきった彼女は、そのことに気が付いてカロリーに絶望しました。

 

 そんなことがありましたが、結局ミカさんはプエラ分派に来ることには頷かず。

 それでもサクラコさんへの義理も果たしましたし、私とミカさんの関係も少し改善されたので、成果があったと言ってもいいのではないでしょうか。

 しかしミカさんには不思議な縁を感じます。先生と最初に会ったときの不思議な感覚と似ている気がしますが、それがいったい何なのかは想像がつきませんね。同族とは思えないですし。

 それとは別に、今の彼女であればプエラ分派に入れるだろうなという確信めいたものも感じました。まあ、ナギサ様とかが必死で止めると思うので実現することはないと思いますが、もしかするとプエラ分派への編入にはその人が来ることができる時期というのがあるのかもしれません。

 そう思うとリツカさんが今年の春に入ってきたのも何か運命じみたものを感じますね。

 相変わらず謎が多い分派です。皆さんが分派に入ってきた経緯なんかも、もう一度洗ってみた方が良いのかもしれませんね。




実は主人公はナギちゃんと似ているのかもしれない。
次回は久々の別視点。今回の話と負けず劣らず息抜きの予定です。
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