見たか! 余はカッコいいであろう!   作:息抜きのもなか

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新章。エデン条約編3章、始まります。


第四章 エデン条約調印式
39.そうして式典は執り行われる


 お母様、私はティーパーティーの一員としてエデン条約の調印式に参加することになりました。

 式典の様子が中継されるらしいのですが、テレビなどで見るご予定はお有りでしょうか。もしかすると私の姿が映るかもしれませんので、そちらで生存確認だけでもしていただければと思っております。

 

 テ、レ、ビ、出、る、か、も。見、て、ね。

 よし。相変わらずの鬼通知が一旦リセットされて通知なしの状態に戻りました。

 何が送られてきているのか確認するのが怖くてなるべく見ないようにしていたのですが、私の既読が付いた瞬間にどうしたのだの何があったのだのお願いだから何か返事をしてだのまあまあ怖い文章が送られてきていたような気がします。

 書き損じ、そんな誤解を生むような代物でしたでしょうか。書いてる途中に鼻血が出て便箋に血が垂れてしまったやつとかはちゃんと処分していた気がしますし、間違えて入れた手紙の内容が気になりますね。今日の調印式が終わったら落ち着く予定なので、折を見て電話してみてもいいかもしれません。

 

「それでは皆様、行ってまいります」

 

 何だか玄関にフル装備で集合している分派の皆さんに遭遇したので、リツカさんと二人並んで送り出されます。

 ティーパーティーの格好をしている私はかなり珍しいですし、もしかしたら一目見ておきたいと思ったのかもしれませんね。一部熱狂的なファンが写真を撮っているのは無断撮影ですが許可しておきましょう。特別な日ですからね。私は寛大なのです。

 

「首長補佐、我々はどこで待機しておけばよいでしょうか?」

 

 最近戦闘部隊のまとめ役に任命した子が私に聞いてきました。先日のアリウスとの戦いの最後まで立っていた子で、私のことを比較的フラットに見てくれる子だったのが選出理由です。

 比較的、と枕詞についてしまうのが悲しいポイントではありますが、暴走しがちな子たちの中でこうして素直に指示を求めてくれるのはありがたいものです。その様子を見て周りの子も少しずつではありますがこちらの意思を確認してくれるようになってきています。

 さて、どうしたものでしょうか。

 今日は大事な大事なエデン条約の調印が行われる日。万が一にもこの子たちが暴走して調印式をめちゃくちゃにしてしまったらそれこそ戦争の引き金を我々が引くことになってしまいます。流石にそれは避けたいところ。

 また今回の私とリツカさんの参列はプエラ分派がトリニティに恭順な姿勢を見せるという意味も多分に含んでいるのです。万が一にも飛び込み参加されたら堪ったものではありません。

 

「分派寮のラウンジで中継を見ていてください。くれぐれも会場には近付かないように」

「なるほど! 会場の近くで――」

「――寮から出ることは許しません。くれぐれも、会場には近付かないように」

 

 先手を打って、しっかりと釘を刺しておきます。ここまで言えば流石に引き下がるでしょう。

 視界の奥でミライさんも私の言葉に従うように準備を進めてくれていますし、この場は預けても良さそうです。盗撮犯から写真を受け取っているミタカちゃんは一部私の意図を曲解するきらいがありますが、命令自体は遵守するタイプですので彼女に音頭を取ってもらえばそこまで私の思惑と乖離することもないはずです。

 その二人の姿を確認した私は、リツカさんと二人で会場へと向かいました。

 

「おはようございます。本日はよろしくお願いします」

 

 リツカさんと二人でティーパーティーの集合場所に顔を出します。

 てっきり詰め所みたいな待機場所に呼ばれていたのかと思えば、そこにいたのは案内役の方が一人いるだけでして、どうやら持ち物チェックのために別で集合を掛けられたみたいです。

 リツカさんの方は本来彼女の持ち物であるスナイパーライフルを持っていなければ問題ないため軽くチェックされて今日使用する式典用の銃を渡されるだけですぐに片付きましたが、私の方はそう簡単には行きません。

 身包(みぐる)みを剥がされる勢いでペタペタと身体をまさぐられ、裾という裾を捲られ、女同士ということをいいことにひどい目に遭いました。

 

「ちっ」

 

 それでいて私が本当に何も持っていないと分かると舌打ちをするのですから、彼女もなかなか良い性格をしていらっしゃいます。粗を探すごとにボーナスが出るわけでもないでしょうに、熱心なことです。

 そうしてボディチェックを終えて会場に向かえば、(まば)らではありますがトリニティ側の旗手陣は既に到着しているようで、各々所定の位置につきながらも隣のメンバーと駄弁ったり座り込んでいたりしました。流石にティーパーティーの面々と言えど女子学生ではありますから、その辺りの気が抜けてしまうのは仕方のないことなのかもしれません。まだクロノススクールも到着しておらず弛緩できる最後の時間を存分に楽しんでいるのでしょう。

 さて、案内役の生徒さんは会場に到着するや否や私たちから早々に離れて行ってしまいまして、どこに立てばいいのか聞こうにもそれぞれのグループが排他的な雰囲気を隠しません。こういうのはリハーサルとかやっておくべきだろうと思ったのですが、私が失敗してトリニティ側の不手際と取られることより私に当日の情報を与えないようにすることの方が重要視されたみたいです。

 ちなみに先程スマホも没収されました。

 

「ナギサさまは確か一目で分かるようにするって言ってたけど……あれじゃない?」

 

 リツカさんであれば話しかけるのも苦ではないと思うのですが、何故かその素振りを見せずに旗のすぐ近くにある小さなステップ台を指さしました。

 踏み台、昇降台とも呼ばれる小さなその存在は、なるほど確かにこの調印式にあるものとしては一目で分かる異物です。

 その存在に気付いた私に向けられる視線の中に嘲るような類のものが含まれていることを考えれば、リツカさんの説が正しいことがほとんど証明されたようなものでした。詰まるところ、背の低い私を笑いものにしようと画策したのでしょう。

 それがナギサ様の主導かどうかは判別がつきませんが、ティーパーティーからプエラ分派に向けた挑発であることは疑いようもありません。

 

「相変わらずだなあ、みんな。ほんと馬鹿ばっか」

 

 そう口にするリツカさんの感情は読めません。

 私が分派の皆さんについて語るときのような愛着半分、複雑さ半分みたいな印象です。私のは最近は大分馬鹿な子たちだなぁという保護者みたいな成分が多くなってきましたが、リツカさんのはどちらかと言えば呆れの色が強いでしょうか。

 一先ず私たちはその場所まで向かって、念のため乗ってみて強度を確かめます。

 

「お、珍しくリツカさんと目線が同じですね」

「流石に細工はしてないか。こういうところはいろんな意味で安心かな」

 

 ステップ台の高さはそれほどあるわけでもありません。

 マグカップ一つ分ぐらい、私とリツカさんの身長差を少しばかり埋めるだけの小さなものです。しかしたったそれだけ視界が上がるだけでもいつもと見える景色が違うので、中々これは面白いかもしれません。

 とまあそんなことを思っていたのも精々五分ぐらいだったでしょうか。

 周りの緊張ムードに飲まれて旗を持って整列し始めてしまえば、一人で台に乗っていることの馬鹿らしさがだんだんと私の中に広がってきてしまいます。

 だってティーパーティーの皆さんは真剣にゲヘナ側の到着を待っているのに、一人だけふざけているみたいじゃないですか。それがこの台を用意した方々の思うつぼだと理解していたとしても、気落ちするのを抑えることはできません。

 

「クロノススクールです! 本日はよろしくお願いします!」

 

 台を下りるタイミングを完全に逃した私は、ただ黙って一人のティーパーティーの人員になりきることに尽力しました。

 ゲヘナの皆さんが到着して整列した後に思いっきりガンを飛ばしてきましたが、私は目線を下にずらして視線を交えないようにするしかありません。

 なんで私ここにいるんでしたっけ。

 最初から別に気乗りしていたわけではないのですが、このタイミングでいよいよ安請け合いしたことを後悔してきたかもしれません。今からでも帰って部屋に戻ったりは、できるわけありませんよねもう中継繋がっているみたいですし。

 

『そしてトリニティ総合学園におけるティーパーティーのホスト、桐藤ナギサも古聖堂に到着したようです!』

 

 遠くでカメラに向かって話すリポーターさんの声が聞こえます。

 こういう時ばかりはよく聞こえる耳を持っていて良かったなと思いますね。状況把握に困らないというのは良いことです。

 先程ナギサ様が両校の間の列を数人の護衛と一緒に歩いていきましたが、随分と緊張した面持ちでした。ここに全てを懸けてきた彼女からしたら、プエラ分派みたいのが荒らさないか心配で心配でたまらないのでしょうね。

 

「――――っ!」

 

 悪寒。

 ずっと遠くから。見られているわけではない。これは何が原因なんでしょうか。

 ゲヘナの空崎委員長が会場に到着して、車から降りてきました。今まさに古聖堂へ私たちの前を歩いている最中です。

 何か伝えるべきです。危険だと。何か良からぬことが迫っていると。

 それなのに私には視線を送るのが精一杯。体が強張って、全身が粟立ち、言うことをなかなか聞いてくれません。

 気付いて。気付いて。お願いだから。

 そんな私の願いに応えることはなく、空崎委員長は古聖堂の中へ吸い込まれて行きました。

 程なくして聞こえてくる、何かが空を切って近付いてくる音。それは恐らく耳のいい私だったからこそ聞こえた音。

 

『まさに今、その歴史的瞬間が――』

 

 恐らく計画的な犯行だったのでしょう。

 どの方角から撃てば、一番誰も気付かない間に近付けられるか。気付いたタイミングでは既に対処が難しいような軌道、撃ち方、タイミング。

 報道陣の前で式典の最初を飾るセレモニーを行う歓声で搔き消される遠くからの悲鳴や巡航ミサイルの音。

 トリニティとゲヘナが手を取るというその象徴になるであろう握手の瞬間を皆が見守るときに、逆方向の上空に目を向ける者はいない。

 この式典がどれだけ重要であるか知り尽くした上で、この計画は練られていると確信しました。

 致命傷回避センサーの予知する危険範囲は古聖堂周辺の全域。逃げ場はありません。

 

「え?」

「なにあれ?」

 

 皆さんが視認できる距離になってしまったということは、もう数秒程度しか時間はないはず。

 パニックを通り過ぎて逆に冷静になった私は、大人しく制服の内ポケットに手を伸ばします。そこには唯一没収されなかった小さな端末が入っています。

 悪い大人が用意した保険。その機能は、一度だけ自分に降りかかる災禍をその端末に肩代わりさせることができるという意味不明な代物です。ついでに私以外には見えないという副次効果もついているのですが、信じられずに回収してクローゼットの奥に投げ込んだ一品。

 それがボディチェックを潜り抜けて今この瞬間に私の手元にあるということは、その副次効果が嘘ではなかったということの証左なのでしょう。

 だからその機能についても、信じてやることにします。

 

 そして、全ては台無しになりました。

 ナギサ様や空崎委員長の努力も、シャーレの先生の尽力も、ついでに我々の思惑も。

 全ては粉々に砕かれて、爆発の中で等しく意味を失いました。

 あ、なんか上の方で飛行船も爆発しました。ゲヘナがテロを引き起こしたわけではないということでしょうか。

 となると、状況はわかりませんね。どこかの第三勢力がいるにしろ、ここまで緻密な計画であることを考えれば情報漏洩は間違いなく存在しているはずです。

 誰が信じられるのか、誰を信じるべきなのか、今の私には判断が付きません。

 ただ一つ言えることがあるとするならば、これをやったのはプエラ分派ではないということ。

 だって、あの子たちにこんな高度な作戦なんて立てられるはずがありませんから。




初っ端から独自解釈マシマシでお送りしました。調印式のスチル回収がしたかっただけとも言う。
さりげなく可哀そうなのは主人公の言葉を信じて中継を見ていた主人公のご両親。五体満足で突っ立ってる一人娘の姿を久しぶりに確認した直後にこれはひどい。作者ってやつが悪いですね。
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