見たか! 余はカッコいいであろう!   作:息抜きのもなか

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04.そうして誤解が広められた

 お母様、お父様、便りがなかったことをお許しください。

 ほら、報せが無いのは良い報せ、というではありませんか。頼りない私からの連絡がなかったのは申し訳なかったですが、こちらにも事情があったのです。平にご容赦を。

 

 ええ、そうなのです。

 ついに私は携帯電話の新調が叶いました。リツカさんに連絡が取れないのは不便と言われまして、学生証を失くして契約できないことを伝えたら、速攻で学生課と携帯ショップへと連行されてしまいました。

 私が何も話さないうちにすべての手続きを彼女が終わらせてくれたようで、私の手には再発行された学生証と最新モデルのスマートフォンが握られています。あまりにも怒涛の展開に私は目が回ってしまいます。

 

 それに加えて、リツカさんの影響で生活にも変化がありました。

 早朝に玄関ベルを連打され、朝早くから校舎へ向かうようになったのです。

 首長というのは準生徒会のような権限があるようでして、なんとその特権で授業に出ずとも良いそうなので、皆さまが授業を受けている間は首長室で優雅に書類仕事です。ええ、仕事です。憶えることがたくさんありますので。

 

「これとこれと、ああこれも。サインよろしくね、リツカさん!」

 

 どこに耳があるか分からないということで、私とリツカさんはお互いの呼び名を入れ替えて呼び合うことにしています。

 もともと誤解から始まって彼女にとっても不本意の事象であるはずなのですが、何やら彼女はこの入れ替わりに前向きです。ノリノリと言ってもいいでしょう。水を得た魚のように、いえ、井戸から這い上がって広い世界を目にした蛙のような自由を謳歌しているような雰囲気さえ感じます。

 そんなに『ティーパーティの花羽リツカ』という肩書きが嫌だったのでしょうか。

 どうして将来有望な場所で地位を得ていた人間がこんな弱小ヘンテコ分派に来たのか、私はまだその理由を聞いていません。彼女が語ろうとしないのは聞かれていないからというのもあるでしょうが、少し一緒に過ごした時間の中で聞いてほしくないような雰囲気を感じました。

 あまり気持ちの良い理由ではないような気がします。それこそ私が引きこもりを決めた、この学校にのさばっている悪意のようなものが関係しているのかも。中央に近い立場にあった彼女は、それらの攻撃に曝される機会も少なくなかったはずです。

 

「あれ、どうしたの? 何かわからないところあった?」

 

 いえ、終わったんですが。

 こちとら母から首長補佐になるためのノウハウを叩き込まれていましたから。

 確かに初めて見る種類の書類は読むのに時間が掛かりますが、それは単純に経験の少なさ故。一度フォーマットや見るべき場所を抑えれば内容理解と対処にそこまで時間はかかりません。

 それに、この分派は首長補佐が実質のトップであるのですから、お飾りの首長にそこまで難しい書類が回ってくることはあり得ないのです。

 

「……終わってる。ミスもなさそうだね。……判断を早まったか?

 

 聞こえていない振りをします。それは無粋というものです。

 疑問の表情から目を丸くしたかと思えば考え込むように眉を寄せる彼女の表情は、やはりミステリアスで通っていたとは思えないほどの百面相っぷりです。もしそれが抑圧されていたことの反動なのだとすると、少しいたたまれないような気持になりますが。

 ですがそれは裏を返せば、この分派にいることで彼女が心置きなく過ごせているということかもしれません。それならば彼女がこの分派に来た意味もあったというもの。喜ばしいことです。

 

「大丈夫そう。ほんとは私がやっちゃうつもりだったんだけど、こっちもお願いできる?」

 

 どん、と重みを感じる書類の束を引き渡されました。少し中身を見てみれば、先程の内容確認だけしてサインを書けばいいようなものではなく、過去の書類と照らし合わせたり在庫資料を見ながら決定を下さなければいけないものも含まれています。これは骨が折れそうです。

 自席に戻り、書類に目を通します。

 校舎の改修要望の見積もりがおかしい。明らかに桁が一個多いです。過去の資料を見てもどう考えてもプエラ分派の建物にそこまでのお金をつぎ込む必要がありません。よくよく書類を読み込めば、『責任者に予算の配分を一任する』の一文を発見。問答無用で否を出しました。

 丁寧に赤線と過去資料を添付して再発防止を図らねば。こういう輩は徹底的に心を折らないとあの手この手で利権を得ようとするとお母様が言っていました。許しがたいですね。

 他にもよく調べると親戚の会社の粗悪品を分派の支給装備にするように訴える丁寧な提案書や、校則を平気で上書きしようとする分派規則の制定を推し進めようとする嘆願書など、このトリニティという学校の陰湿さやプエラ分派の民度が心配になるような書類が盛りだくさんです。弱小分派のここでこうなのですから、トリニティ全体を仕切るティーパーティはどうなってしまうのだろうと想像して身が竦んでしまいます。

 

「――失礼します!」

 

 突然、首長室の扉が開け放たれました。

 集中していたので気付きませんでしたが、時計を見ればもう十二時を回っています。もしかすると、お昼ご飯の時間だと伝えに来てくれたのでしょうか。

 それにしてはとても焦っているように見えますが。

 

「分派の生徒を誘拐したという犯行声明が、SNSに上がっています!」

「は?」

 

 資料を見るために開いていたパソコンのブラウザで、SNSに上がった犯行声明を探します。いくつかのSNSでプエラ分派という文字で検索を掛け、それらしいものがないか確認します。

 見つけた。

 部屋にあるプロジェクターを引っ張り出し、首長のデスクの正面に画面を映します。学生に人気のSNSで、不特定多数が日々の小さな事柄を吐き出すそのツールの中に、その物騒な宣言はありました。

 

「『トリニティ総合学園のプエラ分派の生徒は預かった。返してほしくば身代金を用意せよ』ですか。これまた派手にやってくれましたね」

 

 お嬢様モードに入ったリツカさんが画面を見てそんなことを(こぼ)しました。

 トリニティの生徒が誘拐ということでティーパーティも動くかもしれません。しかし、身代金の金額は先ほどまでプエラ分派の資料を見ていた私だからわかりますが、到底分派の予算から出せるような金額ではありません。それこそ0が一つ違います。

 この金額ではティーパーティなら応じるのかもしれませんが、それでも大して重要でもないプエラ分派の人間の救出を行うでしょうか。分派のことは分派の方で、と言われる可能性もありえなくはないかもしれません。

 正義実現委員会が動けばいいのですが、どこまで期待していいのやら。

 

「この、相手は……」

 

 犯行声明を発信したアカウントの名前に見覚えがありました。私の地元のヘルメット団の中では規模が大きく勢力を拡大していたところだったはずです。

 地方ではなく都会のこちらに進出するにあたって、足掛かりに弱小分派の我々が狙われたのかもしれません。抵抗する力を持たず、いいなりになりそうなところを。

 しかし都会だからと金額を大きくし過ぎた気がします。流石にこの金額ではどの学校、どの分派だろうと躊躇するでしょう。もしもそれが大家のお嬢様の友人とかだったらその人のポケットマネーから出したのかもしれませんが、生憎プエラ分派にはそんなことができる人は存在しません。

 この前分派名簿を貰って家族関係とか確認したので間違いありません。出せてもせいぜいが現在要求されている半分、いや四分の一ぐらいかもしれません。

 こういう場合、どうするのがよいのでしょうか。やっぱり素直に正義実現委員会に連絡してお願いした方が良いのかも。でもあそこはティーパーティの管轄ですし、あまり恩を作ってしまうのはトリニティ的には不味い気もしますし。

 

「なるほど、この程度の相手であれば分派だけで殲滅が可能ということですね!」

「……?」

 

 リツカさんが何やら変なことを言い始めました。

 もしかして、この辺にいないヘルメット団だから弱小だろうと判断してしまったのでしょうか。

 そうであればマズいです。どうにかして彼女に彼らが危険な集団であることを伝えなければいけません。でも現状『リツカ』を演じているはずの私が彼らを知っているのは変ですし、一体どうすればいいのでしょうか。

 

「カタネさん」

 

 ひとまず意識をこちらに向けるために、彼女に声を掛けました。

 すると彼女は自信満々の表情でこちらを向いて、わざとらしく拳で胸を叩いて忠誠を誓うようなポーズを見せます。

 そして一言。

 

「はい! 討伐部隊の編成は私にお任せください! 必ずや彼女を取り戻せるような人員を集めて見せますとも!」

 

 いや、そうじゃなくてですね。

 私が反論する間もなく部屋を出ていってしまったリツカさんを目で追っていると、その過程でこの事態を伝えに来てくれた生徒がぽかんとしているのが目に入りました。

 ええそうでしょう。何が何だかよくわかっていませんよね。私も同じ気持ちです。

 でも、こういうときはなるようにしかなりません。お茶でも飲んで落ち着きましょう。

 そう思って紅茶を淹れてソファの前に置けば、私の一連の動きを目で追っていた彼女は意識を取り戻したようで、ハッと体を震わせました。

 

「どうぞ」

 

 彼女にお茶を勧めて自席に戻り、私も一杯紅茶を飲みます。

 それを見ていた彼女はおっかなびっくりといった様子でぎこちない動きをしながらソファに座りました。

 

この状況下でこの余裕……彼女は一体……

 

 違います。単純に現実感がなくて事態を飲み込めていないだけです。余裕があるのではなく理解できていないんです。

 ちゃんと聞こえていますからね。言わないですけど。

 リツカさん。出撃するというのなら、これから作戦会議とかやりますよね? 早く戻ってきてくれませんか。こういう雰囲気、苦手なんです。

 

 リツカさんが連れてきた代表者たちが部屋に入ってきたとき、ティーカップに口を付けていた私は動揺を悟られないように見なかったことにして目を瞑りました。こちらを見た彼女たちが一瞬目を瞬いていたように見えたのですが、たぶん気にしない方が良いでしょう。

 会議は踊ります。そして優秀なリツカさんがどんどん進めていくので、私はプロジェクターに映す地図とかヘルメット団のプロフィールとかを出すしか役割がありません。

 とんとん拍子で決まった攻略作戦は、リツカさんの説明を聞いてるとなんだか成功するような気がしてきました。その中に私の単独行動が含まれていたのは、釈然としませんが。

 いやだって、このリツカさんのライフルで戦えって言うんでしょう? 私スナイパーライフルを使ったことはありますが、カスタムとか違うのでうまく戦えるか分からないんですが。

 

「あ、あの!」

 

 作戦行動に組み込まれていなかった私と気まずい時間を過ごしたあの子が、唯一の護衛として立候補してくれました。やっぱり、お飾りだとしても首長を一人で戦闘地帯に放り込むとか、おかしいと思うんです。

 リツカさんは少し悩んだようでしたがそれを了承し、彼女は私と一緒に動くことになりました。

 何だか部屋に入ってきたときとは打って変わって自信に溢れている皆さんと一緒に私は戦場に連れ出されます。

 足手まといにならないと良いのですが。間違えて味方の頭を打ち抜いてしまったら、そんなことを考えて表情が硬くなってしまいます。

 なぜか私に先頭を歩くように促したリツカさんの前を征き、私は戦場に向かいます。

 お母様、お父様。どうか私の無事を祈ってください。

 私は今日、ボコボコにされるかもしれません。

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