見たか! 余はカッコいいであろう!   作:息抜きのもなか

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40.そうして式典は塗り替えられる

 お父様、中継は今何を映しているでしょうか。そもそもまだ繋がっているのでしょうか。

 こんなことが起こるとは私も想定外でした。恐らくそこで暴れ出しそうになっているであろうお母様のことをよろしくお願いします。これが片付いたら、ちゃんと連絡しますので。

 これ以上心配は、掛けられませんから。

 

 気絶したリツカさんをティーパーティーの比較的無事な人に預けて、私はひとまずサクラコさんとナギサ様の捜索を開始します。

 サクラコさんは単純に安否が心配ですし、ナギサ様の方はリツカさんを預けるときにお願いされてしまいましたから。それに現状トリニティを動かす力を有しているのは彼女たちです。逆に言えば彼女たちさえ無事であればトリニティは機能するのですから、探さない理由がありませんね。

 そう思って急ぎ古聖堂(既に跡地)に飛び込んだところ、どこからともなく落ち着いて進む複数の足音が聞こえてきました。バタバタと駆け回っている人が多い中でのこのゆったりとした歩き方は、恐らく敵陣営でしょう。

 リツカさんから式典用の銃を拝借してきたものの、あまり戦闘向きではないので見つからないに越したことはありません。急いで物陰に身を隠し、彼らが離れるまで息を潜めます。

 

「アリウス……」

 

 私に気が付かずに通って行った彼らの姿は、先日戦った方々と同じ装束に身を包んでいました。

 ミカさんが呼んだのかと考えましたが、彼女は牢の中で連絡手段を有していないことを思い出します。それに加えてエデン条約の警備や段取りについて詳細が決まったのが彼女の投獄後であることを考えれば、彼女にこの計画に関与している可能性は薄そうです。

 となればミカさんの一件でアリウスという脅威を知って使えると判断したナギサ様が手を組んだというのはどうでしょうか。しおらしく私や補習授業部の皆さんに謝罪行脚していたことを考えればその線も薄そうですが、彼女はトリニティ、しかもその一番上。腹に何を隠しているか分かったものではありません。

 そんな疑念を抱きながら歩き回っていた私の考えは、瓦礫の下で苦しそうに呻き声を上げていた少女の言葉によって払拭されました。

 

「辰カタネ……やはり、あなたなのですか?」

 

 瓦礫に体を挟まれながら眼前で絶望の色をありありと浮かべる彼女の姿に少し何かに目覚めそうになりながらも、周囲の警戒をしながら彼女の上から瓦礫の山を退けてやります。

 また、彼女が私を疑ってくれたことでこの爆発が彼女の企てではないことがはっきりしました。

 先程の口ぶりからして手を握っていた相手に裏切られたということもなさそうです。となるとやはり情報漏洩はゲヘナからと考えるのが真っ当でしょう。

 

「ふむ。であれば万魔殿(パンデモニウム・ソサエティ)が有力でしょうか」

 

 でもさっき上空で飛行船爆発しているのを見てしまっているんですよね。

 羽沼マコト議長がどんな人間かを私は知らないので判断ができかねますが、選挙で選出されている辺りそういった政治手腕はあるんでしょうが、しかしそれならば騙されて墜落なんて憂き目に遭うような真似をするだろうかという疑問が湧き上がります。

 トリニティ側の視点としてはやはりそこが一番怪しいと思ってしまいますが、先程から聞こえるゲヘナ生の罵声を聞くに彼らもこちらを糾弾している様子。下っ端の彼女たちには聞かされていなかったとも考えられますが、万魔殿が風紀委員会と犬猿の仲であることは有名ですし、彼女たちはまとめて処理されてしまったのかもしれません。

 しかしそう考えようにも旗手は万魔殿の方々でしたし結局は微妙なところ。その手腕を考えるのであれば確定できるような情報は何も残していないと考える方が自然ですし、ここについては考えても無駄なのかもしれません。

 

「まあ、私たち(トリニティ)にとっても彼女たち(ゲヘナ)にとっても、襲撃者(アリウス)が敵であるのは同じ話ですし」

 

 私がぶつぶつと一人考えを整理している間にナギサ様は瓦礫に埋まっていた影響で痺れていた足を動かせるようになったようで、ナギサ様が立ち上がってどこかへ向かおうとしているのが見えました。

 それを見て私は彼女の袖を引く形で制止し、声を掛けます。

 

「ナギサ様、この地は既に戦場です。どこからアリウスが出てくるかわからない上に、ゲヘナ生もこの惨状を私たちのせいだと思っています。いつ誰から攻撃されてもおかしくありません。私が先行して安全なルートを確保しますので、ナギサ様は後ろからついて来てください」

「信用できません。あなたが私を罠に誘き出そうとしている可能性を捨てきれませんし、あなたが私を助ける理由が分かりません」

 

 ナギサ様は相変わらず私を疑っているみたいです。

 状況を整理すると確かに彼女から見ると私は怪しく見えるのかもしれません。

 スパイ行為をしたアズサさんだけが知っていたナギサ様の襲撃日に、戒厳令の中を分派の戦闘部隊とフル武装で外出し、アリウスと戦闘。それでアリバイができたとばかりにエデン条約調印式への参加権を求めるかのような突然の恭順を表明して調印式に参列。

 そしてまるで知っていたかのように襲撃時の爆発を無傷で回避しており、ナギサ様を真っ先に発見した。

 傍目から見てもちょっと黒いかもしれませんね。誰か言い訳を考えてくれませんか。

 

「何が目的ですか。なぜ、私を助けたのですか。答えてください」

 

 ハンドガンを私の眉間に突きつけ、彼女は真剣な表情で私に問います。

 為政者の迫力というやつでしょうか。普通に顔が怖いし圧が強かったので、私は思わず顔を背けてしまいました。

 

「ナギサ様は、大切な人、ですから」

「…………はい?」

 

 正直に理由を答えたつもりだったのですが、何か変な返答をしてしまったでしょうか。

 あんなにも迫力があったナギサ様の顔が鳩が豆鉄砲を食ったような集中を欠いた表情に様変わりしてしまいました。

 ナギサ様はトリニティにとって大事な人。何も間違ったことは言っていません。

 このままでは混乱必死のトリニティを回避するために、さっさと彼女を見つけて現場に戻ってもらうために探していた。割と真っ当な思考回路で彼女を捜索していたと自負しております。

 確かにちょっと威圧感に負けて片言気味だったかもしれませんが、それでも普通に意味は伝わるはずです。

 

「え、ちょ、ちょっと待ってください。は、え? こんな時に、一体何を言っているんですか?」

「……? 答えろと言ったのはナギサ様ではないですか」

「そうですが……いえ、そうではなくてですね……!」

 

 ナギサ様はどうやら随分混乱されているご様子。

 そんなに私が彼女をトリニティの重要人物だと認めていることが不思議なことでしょうか。

 確かにエデン条約を軽視する発言をしてしまったり彼女の発した戒厳令を無視してしまったりと結果的にティーパーティーの桐藤ナギサを軽んじるような行動を取ってしまっていたことは否定できませんが、それでもちゃんと彼女を権力者だと認めていたつもりです。

 お茶会の招待には毎回応じていますし、先日アリウスと戦った一件も結果的にナギサ様を守ったような形になりましたし、その辺りは信用していただけると助かるのですが。

 

「ほ、保留にさせてください……。今は少し、考えられません」

「そうですね。今はこの場を切り抜けることが第一です」

 

 これは私が思っていた以上に嫌われてしまっていますね。

 私みたいなやつに評価されているということ自体が受け入れられないのでしょう。トリニティはやはり難儀な人ばかりです。

 しかし以前ミカさんを政治手腕に長けた人だと勘違いした前科がありますので、もう少しぐらい慎重な評価を下すべきかもしれません。それこそミカさんの本来の性格を知っていたハナコさんなんかはナギサ様の人となりを正しく理解していると思いますし、今後会ったときに聞いてみてもいいかもしれませんね。

 フラットな目で見ているという意味ではシャーレの先生に話を聞くのもアリですね。

 

「先生は、無事でしょうか」

 

 その存在がこの調印式の会場に既に到着していたことを思い出し、言葉が零れます。

 あの人は確かキヴォトス人ボディを持っていないはずです。この規模の爆発に耐えられているのでしょうか。下手したら即死している可能性も否めないのでは。

 同族センサーは目の前にいる人の判定にしか使えないのでこういう捜索には使えませんし、誰かこちらを狙ってくれている人でもいればよいのですが。ミユさんみたいに自己肯定感低めのスナイパーとかなら銃口がこちらを向くだけで致命傷回避センサーと共に同族センサーが働くのに。

 そんなことを考えていたら、一瞬だけ背筋がぞっとするような感覚が。

 恐らく銃口が一瞬私を捉えて通り過ぎたのでしょう。私のことを狙っているわけではなく、移動あるいは銃を構えるタイミングで一時的に銃口がこちらを向いただけだと思います。

 しかし今の一瞬だけでも恐ろしいぐらいの死の予感を感じました。それはつまり彼我の実力差が相当あるということに他なりません。それでいて照準を覗かずに銃身を動かしていたと考えると、分派の子にもいますが対物ライフルを使う方がいるのかもしれません。

 

「ここを離れます。ついて来てください」

 

 先程の悪寒から判明した敵スナイパーの位置から、その周辺地点からより離れるような進路を選んで古聖堂の外へと歩き始めます。

 桐藤家の神器を持っていない状態の私にしては驚くほどスムーズにその行程は進み、しかしやはりというべきかもうすぐ古聖堂の敷地外へと出れそうなタイミングで、『それ』が出現しました。

 

「あれは……!」

「……ユスティナ聖徒会」

 

 先日資料で見たばかりなので、よく覚えています。

 何故かその姿は青白く、来ている物も実物を見ると少しばかり過激なデザインな気もしますが、それでも間違いなく目の前の彼女たちはユスティナ聖徒会の特徴を有していました。

 まるでコピーのように同じ姿の彼女たちはその存在が幽霊のように揺らめいていて、その実在性に少なからず疑問を持ったものの、その数瞬後にはその疑念は吹き飛ばされることになりました。

 その銃口が、一斉にこちらを向いたのです。

 迷わずナギサ様の腕を引いて、瓦礫の陰に隠れました。

 瓦礫を削る弾丸の音が否応なしにその実在性を主張して、私は不運にも出口を塞がれたことに歯噛みします。先程までの若干の幸運はこれで差し引きゼロと言ったところでしょうか。

 

「戒律の乱用、と考えるのが妥当でしょうか」

 

 会場である古聖堂について、そしてそこに所縁(ゆかり)のあるユスティナ聖徒会についてサクラコさんとお勉強した内容から、私はそんな結論を出しました。

 以前スランピアで会った人形の人が関わっているのかもしれません。

 原理は分かりませんが、この不思議現象にあそこで人形たちを動かしていたような謎技術が使われていると考えれば、理解はできませんが納得はできます。黒服の人が私に渡した保険もこの計画を知っていたが故に渡したと考えれば諸々の説明もつきますね。

 

「ナギサ様、古聖堂を指定したのはゲヘナでしょうか?」

「ええ、そうです。万魔殿きっての希望で、こちらになりました」

「なるほど、となるとやはり公会議の再現を狙っていたのでしょうね」

 

 アリウスの本来の目的は、戒律の守護者の獲得なのではないでしょうか。

 古聖堂をぶっ壊したのは公会議の再現の()()()

 もしかするとそれに加えて彼女たちがETO(エデン条約機構)となることで合法的にトリニティとゲヘナをボコボコにできるという内容も含まれているかもしれませんが、言ってしまえば戒律の上書きが可能な混乱を生み出し、武力集団たるユスティナ聖徒会を顕現させることさえできればアリウスの作戦は成功だったのでしょう。

 ここまで苛烈なやり方を選んだのは、単純にトリニティとゲヘナへの憎悪故。

 

「やられましたね。エデン条約をアリウスに乗っ取られてしまったようです」

「そんな、私は、こんなことのためにやってきたわけでは……」

 

 頭を抱えるナギサ様の表情がどんどん悲痛そうなものに変わっていきます。目の焦点も合っているか怪しく、呼吸も安定していません。

 自分のやってきたことがこんな形で否定されるなんて、この数カ月をこの日のために捧げてきた彼女にとってこれ以上ない悪夢でしょう。親友に裏切られ、自分の失策で信用を失い、それでもようやく為せる筈だった大願は、泡沫のように消えてしまった。

 まるで自分の存在ごと否定されるような錯覚を覚えているのでしょう。現実から目を背けたくなる気持ちも理解ができます。

 そんな憔悴しきったナギサ様のことを、私はもう見ていられませんでした。

 

「ナギサ様、無礼をお許しください。あなたは一度、休むべきです」

「――え?」

 

 後頭部に一発。式典用の銃で思いっきりぶん殴りました。

 最近の戦い方を身に付ける中で意識の奪い方を分かってきたこともあって、私の怪力(ゴリラパワー)をもってすればナギサ様の意識を刈り取ることは容易でした。

 しかしこれが思ったよりしっかり入ってしまったみたいで、ナギサ様が目を覚ましたのは事件が全て片付いた後になってしまったらしく、私が彼女を回収したことは指揮系統の混乱の収拾に全く寄与しなかったと後日連絡を貰うことになりました。

 現場から離脱するにあたってナギサ様を若干、いや結構盾代わりに使ったことは、私以外は誰も知ることのない秘密だったりします。

 だって武器がナギサ様から徴収(わらしべ)したハンドガンぐらいしかなくて戦えなかったので。

 ナギサ様を届けたタイミングでサクラコさんの安否がまだわからないと聞いた私は、親友を探すために戦場に舞い戻りました。

 途中で私の武器を持った分派の皆さんと合流したことは、喜べばいいのか嘆けばいいのかわかりませんでした。




結構前から書きたかったナギちゃん回 in 破壊された古聖堂。
途中でサクラコ様を乱入されるか迷ってやめました。
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