見たか! 余はカッコいいであろう!   作:息抜きのもなか

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41.そうして混乱は加速する

 お母様、連絡できず申し訳ありませんが、私は無事です。

 テレビの前で暴れてお父様に迷惑をかけてはいませんか。どうかお父様の体力に余裕がある段階で冷静になってください。あなたの鍛えた愛娘はちゃんと五体満足で動いておりますので。

 

 分派の方々から武器を受け取った私は、古聖堂まで引き返してまいりました。まだ炎は上がっていますが爆発当初よりは鎮まってきていて、しかし辺りにはユスティナ聖徒会がうじゃうじゃと湧いていてなかなか思うように動けません。

 部隊の指揮については今回はミライさんにお願いしました。理由は単純。前回のアリウス戦の時に一人夢の中だったことを悔しがっていたからですね。

 私が指揮しない理由は以前説明した通り彼女たちの方が適任というのもあるのですが、私の言葉だと曲解されかねないというのも理由の一つです。信者みたいな方々がいるというのはなかなかどうしてストレートに言葉が伝わらなくて困ってしまいますね。

 

『1、2班、状況はいかがですか』

『こちら1班。古聖堂に到着しましたが、ゲヘナ残存勢力に発見されてしまいました』

『できる限り退避をお願いします。戦闘行為は避けて、あくまで負傷者の発見と救出を優先させてください』

『こちら2班、幽霊のような見た目の生徒たちと交戦中。ミタカさんの指揮で欠員なく対処できています』

『首長補佐が言っていたユスティナ聖徒会ですね。復活したとの話もあるので、こちらが消耗するだけかもしれません。撤退か突破か、判断はミタカちゃんに任せますので彼女の指示に従ってください』

 

 届けられた無線通信機から聞こえる通信を聞きながら、瓦礫を除けつつ辺りの散策を続けていると、少し先に転がっている人影が見えました。

 よく見れば赤のラインが入った黒い制服の方が二名と、随分と着崩しているようですが修道服だと思しき物を身にまとった方が一名、計三名がヘイローが消えた状態で倒れています。傍目から見ても酷い怪我をしている様子が見て取れるほどですので、早々に救護騎士団にでも運んであげたいところなのですが、彼女たちの周囲に激しい戦闘の跡があることを考えれば迂闊に近付くのは危険に思えます。

 一度ミライさんに周囲の確認をしてもらった方が良いと判断した私は、報告と指示が飛び交っている無線の中に連絡を割り込ませます。

 

『5班です! クロノススクール生徒が戦闘に巻き込まれているみたいです!』

『ターゲットがこちらにならないように注意しつつ安全圏への退避を手伝ってあげてください!』

『4班戦闘入った! 火炎放射で牽制中だけどミタカちゃんの方は借りれそう?』

『こちらミタカ。2班は先程状況終了しています! 座標を教えてください!』

「ミライさん、負傷者を三名発見しました。戦闘の跡がありましたが現在私の周囲にはどれほど敵影がありますか?」

『首長補佐の周囲は今のところ大丈夫です! しかし先程からその辺りを巡回しているユスティナ聖徒会がいるようなので警戒は怠らないようにしてください!』

「わかりました。ありがとうございます」

『6班は先走った別分派の武力集団を誘導中! この先ゲヘナとかいないよね!?』

『大丈夫です。その先ではティーパーティーの砲撃部隊とゲヘナの風紀委員が衝突中なので程々で撒くようにお願いします』

 

 無線の内容を聞く限り、負傷者の救出、各勢力の誘導、ユスティナ聖徒会の間引き、各自それぞれの役目を果たしてくれているみたいです。戦闘はミタカちゃんの指揮のおかげでまだ脱落者も出ずに動けています。

 私の状況はミライさんの話では近くに巡回中のユスティナ聖徒会がいるとのこと。十中八九負傷者を回収しに来た人を狙おうとしている動きだと思いますので、やるのであれば迅速な対応が必要になります。

 ですがまあ今日はリツカさんのスナイパーライフルを持ってきていただいたので、大胆な行動をしなければ問題はないでしょう。神器のデメリットはもう半分受け入れている状態ですし、恩恵である幸運の付与さえ受け取れればこの悪い状況の中でも針に糸を通すことは可能なはずです。

 周囲を目視で確認して、身を(かが)めながら倒れている三人に近付きます。

 その中の一人の正体に気が付いて、私は驚きを隠せませんでした。

 

「ツルギさんが、負けた……?」

 

 そこに倒れていたのは、正義実現委員会の委員長、ツルギさんだったのです。

 周囲をよく観察すれば、一方向だけ銃痕が少ない方向がありました。そしてその方向の少し離れた場所には空崎委員長が付けたと思しき弾痕が広がっています。

 式典の直前に先生がシスターフッドの生徒と歩いていたという話もありましたので、もしかするとこのお三方が先生を逃がすためにゲヘナの風紀委員会である空崎委員長と協力したのかもしれません。倒れていたもう一人がハスミさんだと気付いてしまったので少しその自信はなくなりましたが、ツルギさんの冷静な判断に諭されて先生を空崎委員長へ託した可能性は十分に考えられます。

 

『首長補佐? 剣先委員長を発見したのですか?』

「ああ、繋がっていましたか。負傷者は正義実現委員会二名とシスターフッド一名です。応援をお願いできますか」

『承知しました! どうやら浦和さんがシスターフッドとティーパーティーの一部勢力をまとめ始めたようなのですが、彼女たちへ連絡は入れますか?』

「いえ、ここでツルギさんが脱落した報を入れるのは危険です。戦闘面で絶対的な信頼を受けている彼女が敗北したとなれば、皆の心が折れかねません。ツルギさんの最も特筆すべき能力は回復力ですので、彼女に回復の目途が立った時点で情報を共有するようお願いします」

 

 ハナコさんがそんなことをしているとは驚きました。そういう場に出るのを嫌がっていた記憶があるのですが、先日の一件と非常事態である現況を考えて止むを得ず協力しているということなのでしょうか。

 しかし彼女を筆頭に方向性が定まるのは良いことです。エデン条約が奪取されたとて、それで全て終わりというわけではありませんから。

 アリウスが公会議の再現という状況を利用して無理矢理に横入りをしてきたということは、このエデン条約というシステム自体に穴が存在するということの証左なのです。彼らにできたのですから、こちらが奪い返せない道理はありません。

 私に思いつくのはせいぜいが戒律の守護者が動く理由を失くす、(すなわ)ち介入の原因となるトリニティゲヘナ間の衝突を避けるという手法ぐらいです。プエラ分派の皆さんに動いてもらって少しでもそれを実現できればと思っていますが、有効かどうかは分かりません。

 ですがこの状況で行うべきが戦闘行為ではなく時間稼ぎであることは理解しているつもりです。

 時間が必要なのです。

 冷静になるための時間が。

 誰が敵なのかを見極めるための時間が。

 この事件に関わった全ての人間はまだ、息継ぎすらできていない。

 

「う……ぐ……」

「目が覚めましたか、ツルギさん。動かないでくださいね、普通に致命傷なので」

 

 体力の減り具合を考えて失礼ながら体重が重そうな順に彼女たちを安全な瓦礫の裏に運んでいたのですが、その最後にツルギさんを背負って移動中に、彼女は私の背で目を覚ましたようでした。

 力が入らないようで、私に体重を預ける彼女はされるがままに私に運ばれています。

 

「お前……カタネ、か? あの時と、立場が……逆になったな」

 

 ツルギさんは自分を背負っているのが私だと気が付いたようで、そんなことを宣いました。

 その言葉の意味が理解できず一瞬足を止めてしまいますが、すぐに歩みを再開しました。今はそんなことを気にしている場合ではないのです。思考よりも体を動かすことが必要な場面で、前者を優先して時間を浪費するのは愚者のやることです。

 歩を進め、先に運んでいた二人を寝かせている瓦礫の裏に彼女を横たえます。

 周囲の警戒をしてから彼女の下に戻れば、ツルギさんは痛みに顔を顰めながらも私の方にずっと目を向けていました。

 私はここまで重症の方の手当てはしたことがないため、手を握ってあげるぐらいしかできることがありません。下手なことをして彼女が再起不能となるよりは、先程頼んだ応援と共に彼女を救護騎士団へと運んで正しい治療を受けてもらう方が良いことは判りきっているのですから。

 

「見たところ、お前は、無事のようだな。無茶をしなくなったようで、何よりだ」

「痛い目を見ましたからね。私は私にできることをするようにしただけです」

「ああ。そう言えるように、なったのか。精神面も、ちゃんと強くなっているじゃないか」

 

 応援が到着するまで、手持無沙汰な私は思考を整理することにします。

 一旦ツルギさんの発言は横に置いておいて、現況の整理を優先します。ナギサ様については彼女が被害に遭ったとなれば余計に対立を煽る可能性があるとして保護した状態で情報を秘匿。

 待ってください立場が逆とはどういう意味でしょう。私がツルギさんに背負われたことなんてありましたっけ。

 いやいや余計な思考は放り投げて整理を、あれ、そういえば何でツルギさんの態度がいきなり軟化したんでしょうか。あのブラックマーケットの一件以降だったかとは思うのですが、稽古をつけてくれたり正義実現委員会の施設をプエラ分派に貸してくれるようになったりと、やたらと気にかけてもらえるようになった気がします。

 

「安心しろ。お前はちゃんと、強くなっている」

「待って。待ってください」

 

 そこまで言われれば、流石に私も気が付いてしまいます。

 しかしこのタイミングで結構恥ずかしい事実が明らかになって混乱しているのですが。

 あの時、死にかけてボロボロになっていた私のうわ言を、熱にやられていた私の弱音を聞いていたのはツルギさんだったということですか。

 彼女の口から明言こそされていませんが、そう考えるとツルギさんの行動の変化に納得ができる部分が多々あります。彼女が私の本質が世間で語られるような禍々しい姿でないと認識を改めたことも、私が強くなりたいと思っていたことを知っていたことも、説明ができてしまうのです。

 思わぬところからメンタルダメージを食らった私は、彼女たちの護衛に到着した2班の方々が来るまでツルギさんの顔を見られませんでした。

 そうしている間にいつの間にか彼女は眠ってしまったようで、他の二人と共に大人しく救護騎士団へと運ばれていきました。

 

「皆さん、適宜休んでくださいね」

 

 忙しなく動いてくれる皆さんに、一応上司として声を掛けておきます。

 もう夕方になろうというのに、まだサクラコさんは見つかっていません。

 ユスティナ聖徒会との関係を否定するためにも彼女の存在は必須なのに、いえ、それは建前に過ぎませんね。

 私はただ自分の友人がまだ傷を負ったまま瓦礫の下にいるのが許せないだけなのです。

 そんな中、先生が撃たれて意識がないという話が通信で飛び込んできます。その報を受けて一部の方は恐慌状態に陥って、トリニティに混乱が広がっていくのがわかりました。

 私はサクラコさんが無事であることを祈りながらただ捜索を続けることしかできませんでした。




エデン条約調印式編の時間軸について。
メインストーリーを読み直して考えていたんですが、素直に読めば古聖堂襲撃の翌日の昼ぐらいにブルアカ宣言が出てそうな感じなのに、スクワッド登場シーンの背景がノイズで混乱しました。
ヒフミアズサ会話→アズサVSスクワッドの順番が確定してて、ヘイロー破壊爆弾の被ダメ直後の背景は夜になってるんですが、スクワッドがトリニティに攻め込むって言ってる時の描写は遺跡の日差しの色とか外が明るい描写的に朝っぽいんですよね。
本作では遺跡の朝日みたいなやつを月明かりという風に解釈してアズサVSスクワッドは事件当日の深夜、ブルアカ宣言は事件翌日の日中ってことで進めます。
じゃないと主人公が二徹三徹することになってしまうし、他も整合性取れなくなる描写が一杯出てきちゃうので。
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