見たか! 余はカッコいいであろう!   作:息抜きのもなか

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当社比短め。


42.そうして混乱は足を掬う

 お父様、昔、お友達の線引きについてお話したことを覚えていますか。

 クラスメイト、知人、友人、親友。よく定義されるそれらの境目はどこにあるのだろうと議論した記憶があります。

 確か当時の結論は当人同士の判断という無難な着地点に落ち着いたかと思いますが、私は双方が同じ意識でなくとも良いと最近は思うのです。各人が見えている情報と有している情報に差異があるのですから、一方が知り合いと判断してもう一方は友人だと認識しているなんてことがあってもいいと思うのです。要は当人同士の問題なのですから。

 

 現実逃避終了です。

 ツルギさんから思いのほか気にかけていただいていた原因が判明しましたが、私のやることは変わりません。

 いえ、これから彼女に対する立ち振る舞いにはもう少し軟化させるというか歩み寄る姿勢が必要なのだと思いますが、現在の時間軸において取るべき私の行動は変わらないという意味です。負傷者の救出とユスティナ聖徒会からの被害低減。それが私とプエラ分派にやるべきこと。

 

『こちら2班! 崩落した尖塔の中からサクラコ様を発見しました! 重傷です!』

『了解! これで重要人物の発見は完了ですね。シスターフッドに連絡を入れます!』

『こちら1班! 正義実現委員会のツルギ委員長の意識が戻りました! こちらは救護騎士団からハナコさんへ連絡を入れてもらいます!』

 

 サクラコさんが見つかりました。

 どうして尖塔部分にいたのかはわからないですが、もしかすると上からセレモニーを見ていたのかもしれません。そこに爆発と尖塔の崩落が襲ったことで、彼女は大きなダメージを追って動けなくなってしまったのでしょう。

 いろいろ思うところはあります。意識は戻っているのでしょうか。重傷だと言っていましたが、目を覚ます見込みはあるのでしょうか。できれば自分で見つけたかった。

 でも今はそんなことよりも、会いたいという気持ちが一番大きく私を支配しています。

 彼女の姿を一目見たい。その姿を見て安心したい。

 そんな熱に浮かされてどこの病院へ運ぶつもりか聞こうとしたところで、強烈な悪寒が私を襲いました。

 

「辰カタネだな。いや、今は花羽リツカと名乗っているんだったか」

「精鋭部隊を破ったプエラ分派の首魁だね」

「…………(この前精鋭部隊を倒した人たちの実質的なリーダーだね)」

「ああ、どうやってあの爆発の被害を逃れたのかは知らないが、今もなお我々の妨害を続けていることに変わりはない。絶対的な信頼を受けるこいつを落とすことで、プエラ分派を絶望させる」

「えへへ、苦しいですね。ここまで頑張ってきたのに、何もかも無意味になっちゃうなんて……」

 

 仮面をつけた人が手話をしたり、他と違って普通のマスクをしていたり、お腹を出していたり、アリウスにしては珍しく顔を隠していない人がいたり、統制が取れているアリウスという集団においては随分と異端側の存在に見える方々が、無舗装の道を歩いていた私の前に姿を現しました。

 サクラコさんのところに早く行きたいのに、と思考する頭にストップをかけ、強行突破を図ろうとした自分を律します。

 彼我の実力差は明らかです。以前ご一緒したRABBIT小隊の方と同じか、それ以上と見積もった方が良いでしょう。彼ら相手に無策で突っ込むのは自殺行為。命をドブに捨てているのと変わりません。ヘイローを破壊する爆弾を彼らが所持している可能性を考えれば、気絶ないし動けないレベルで敗北することはこの世とのお別れに繋がるかもしれません。

 

「アリウススクワッド、ですね」

「ほう。やはり私たちのことを知っているか」

「まあ予想通りか。ここで殺しておくべきだね」

 

 ミライさんから伝聞で特徴を聞いていただけだったんですが、訂正するのも面倒なので様子見を選択します。

 さて、どうこの場を切り抜けましょうか。

 伝わってきた情報によれば、負傷していたとはいえ空崎委員長でさえ先生を守り切れなかったという相手です。状況的にもツルギさんたちの負傷にも関わっていそうですし、周囲を隙間なく埋めるように集まってきたユスティナ聖徒会も考えれば控えめに言って状況は絶望的です。

 恐らくはETO(エデン条約機構)を乗っ取っていると考えられる彼女たちに攻撃を仕掛ければ反乱鎮圧の命でユスティナ聖徒会が動くのは明らかですし、何を選択するのが正解でしょうか。

 彼女たちの攻撃に応戦した時点で二十人では下らない人数のユスティナ聖徒会が私の蹂躙を始める可能性もありますし、抵抗せず降伏するのが一番に見えます。しかし先程『殺す』と明言されてしまっているので投降したところで見逃してはくれないと考えた方が良いでしょう。

 

「私を殺したところで、もうあの子たちは止まりませんよ」

「何?」

 

 おや、試しに言葉で惑わせてみようかと思ったら、意外と反応してくれましたね。

 先程プエラ分派を絶望させるとか言っていたので適当に思わせぶりなことを言ってみただけなのですが、彼女の動きを制するには十分な言葉だったようです。

 

「もう彼女たちは私の手を離れています。指揮を執っているのは私ではありませんし、彼女たちは私が倒れてもその役目を全うするでしょう。既に指示は伝え終えていますから」

「ハッタリだな。頭が潰れれば組織の混乱は必至。お前の分派とて例外ではない」

「確かに動揺はあるでしょう。しかし、私たちの分派をティーパーティーと一緒にされては困ります。上がいなくても回るようにしておくのが、組織というものでしょう?」

 

 優秀な人が多く在籍しているティーパーティーと違って、こちらは一人潰れたら終わりなんですから。サクラコさんがハナコさんに緊急時のシスターフッドを任せたように、首長たるもの自分がいなくなったときの保険はかけておくべきなのです。

 まあ今回の指揮を任せたのは別にそういう意図があったわけではありませんが。単に私が自由に動きたかったから面倒な部分を押し付けただけなのですから。

 適材適所とか言う言葉を使ってだまくらかしていますが、私が楽をしたいだけなのです。それで実際結果が出ているのですから、文句を言われる筋合いもありませんよね。自分より上手くできる人がいるのなら、そっちに任せた方が良いに決まってるじゃないですか。プライドはありません。

 

「そちらはアズサさんをお探しですか?」

「だとしたらなんだ? お前を殺してアイツもすぐに同じところへ送ってやるさ」

「いえ、別に彼女と知り合いではありませんのでそういった気遣いは不要です。ですがまあ、いえ、やめておきましょう」

 

 危ない危ない。

 うっかりトリニティ節が出そうになりました。このタイミングで『裏切り者の対処は大変ですよね』とか言うと煽りと受け取られて怒りに任せた蹂躙(リンチ)が始まりかねません。

 ひとまず上手く思わせぶりな発言をすることができましたので、稼いだ時間を使ってこの状況の打開方法を考えます。

 気付かれない程度に視線を周囲に向けて使えそうなものを「なるほどな」探していたところで、先程から私に言葉を返しているお腹を出している人がこちらに鋭い視線を向けました。

 その刺々しさに思わず怯んだ私に、彼女は目を細めて私の意図を言い当てます。

 

「時間稼ぎか。何を待っている? いや、聞く必要はないか」

「そうだね。もうこれの話は聞かない。それでいいよ」

「話を聞いてもらえないなんて、悲しいですね……。でも、時間稼ぎをしたところで結果は変わりませんし、やっぱり無意味なんですね……」

 

 不味い。臨戦態勢を取られました。

 引き伸ばしの延命というこちらの意図を看破された以上、もうこちらの言葉に耳を傾けてくれるはずもありませんし、本格的に詰みかもしれません。

 こちらに向けられる銃口が四つ。

 その全てに致命傷回避センサーが過敏に反応し、私に警鐘を鳴らします。脳内マップに広がる自分を狙う者の位置に立てられたピンは目の間に集中していて、その総数も五と目の前にいるアリウススクワッドの皆さんの人数と、あれ、一致していませんね。

 よく気配を探れば、少し遠くからギリギリ致命傷ぐらいの攻撃をこちらに向けている何かの存在に気が付きます。

 あまりにも目の前の四人の危険度が高すぎて薄れていたんでしょうが、脅威は脅威。

 その距離と位置を考えれば、何者が何の武器で私を狙っているかは予想がつきました。

 

「いえ、これで十分です。もうすぐ届きますよ」

 

 その言葉にアリウススクワッドの皆さんが周囲を警戒してくれる中、私の耳はもうその飛来物の音を捉えておりました。

 頭が消えたところで、やはり彼女たちの優秀さがなくなったわけではありません。

 ティーパーティーが誇る砲撃部隊の攻撃が、敵の密集地であるここ目掛けて発射されておりました。私は巻き添えを食った形になりますが、私がいることがわからなかったのか私だったらまあいいかと判断したのかはわかりませんが、結果的に助かったので抗議はやめておきましょう。

 私より数瞬遅れて砲撃に気付いた皆さんが行動を決めかねている間に、私は迷わず足元へ銃を向けました。

 

「何を――」

「ミカさんですら無力化されるとっておき。一か八かやってみましょう」

 

 古聖堂近くの無舗装の地面。地下にカタコンベがあるのなら、やってみる価値はあります。

 砲撃の着弾より私の方が早く地面を撃ち、その衝撃で足元が揺らぎます。()()が広がっていくその様を見て私の意図を察した彼女たちは私に銃を向けましたが、そのせいで対空は疎かになってしまいました。

 情報の多さに振り回された彼女たちが引き金に指を掛けるよりも先に、砲弾の雨が降り始めました。その威力と衝撃で、不安定だった地面は決壊を迎えます。

 

「さあ、落ちましょう」

 

 砲撃の直撃を運よく免れこそしましたが、足元の崩落は私のところまで広がっていました。

 彼女たちはせめて私に一矢報いようと試みた様子でしたが、しかし足場の崩壊で宛先を急遽変更された鉛玉たちは私に届くことなく、衝撃を加えて崩落の範囲を広げるだけに終わります。

 大量のユスティナ聖徒会をも巻き込んで、私は地下通路へと落ちていきました。




主人公が言おうとしていた『裏切り者の対処は大変ですよね』は元々『求心力がない組織は大変そうだと思いまして』というもっとトリニティ成分マシマシの煽りの予定でした。撃たれても文句言えませんし主人公はこんなこと言わないと思って本編の形に落ち着きました。

おまけ
パテルモブA「辰カタネを発見! 古聖堂付近で敵と話し込んでいるようです!」
パテルモブB「戒律の守護者で囲んで介入させないようにしていますし、明らかな黒でしょう!」
パテルモブA「話している相手は先生を撃ったという集団と同じ特徴を有しています!」
パテルモブC「つまり、そこに倒すべき相手が集まっているということ。集中砲火でまとめてやってしまいましょう!」
パテルモブ隊長「撃て!」
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