見たか! 余はカッコいいであろう!   作:息抜きのもなか

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残業+一話没にした影響で更新遅れました。


43.そうして暗闇は深まっていく

 お母様が語るお父様の良さは、きちんと練習をするところらしいです。

 手を抜かずいつ本番が来ても良いように予行練習をしたり、実際に動かせる範囲で体を動かしたりしているのが可愛いのだと語っていました。

 お母様は練習が不要なタイプですし、お母様から見ると確かに新鮮なのかもしれませんね。

 

 いつものように練習の成果たる静かな着地を誰に見られることもなく華麗に決めて見せた私は、背後に見える瓦礫の山に目を向けました。

 他の場所がどうなっているかはわかりませんが、私の眼前では瓦礫が地上との行き来を拒むように積み上げられていて、当初の予定であった相手が埋まっているうちにこっそり脱出、はプランの変更が必要そうです。

 しかし見回す限りでは近くにアリウススクワッドの皆さんの姿やユスティナ聖徒会の姿は確認できず、もしかすると瓦礫によって分断することには成功したのかもしれません。私が地下側、彼女たちが地上側、というのは些か残念ではありますが。

 

「ミライさん、こちらリツカ。確認しているかもしれませんが私は無事です」

 

 そう報告をしておいてひとまず歩き出したのですが、少し歩いて垂れ流しモードにしていた皆さんの会話が入って来ていないことに気が付きました。

 最初は砲撃によって耳がやられてしまっていたのかなと思っていたのですが、どうやらそうではなく電波が届かない場所に入ってしまっていたみたいです。地下だからなのか、あるいはアリウスがどこかに電波妨害を仕掛けているからなのかは判断できかねますが、機械の故障や私の耳がおかしいわけではないみたいです。

 もう一つ可能性としてプエラ分派に何かがあってその結果通信回線が機能しなくなったという可能性もありますが、つい先ほどまで誰一人欠けることなく動いていた彼女たちです。さっきの今で音信不通レベルに叩きのめされているとは考えづらいです。

 首長室の方を狙われると少々怖いですが、古聖堂からはかなり距離がありますし、加えてミタカちゃんがいる以上ティーパーティーの指示に従わないことは必至。

 そもそも我々のような弱小分派がどこで執務を行っているかなんて知っている人の方が少ないですし、彼女たちの方に人が行っていると考えるのは無理があるでしょう。

 

「ともあれ、()く地上に戻る道を見つける必要がありますね」

 

 地上に出る手段で思いつく場所は二つあります。

 一つはこの古聖堂周辺どこかにあるアリウスが襲撃に使用したルートで、もう一つは先日ミカさんが埋まったプエラ分派寮近くの崩落箇所です。

 前者については現在も使用中であることが想定されますし、先程瓦礫で分断したアリウススクワッドの皆さんと遭遇する可能性があります。後者については先日のナギサ様目当ての襲撃で使われてはいたものの、トリニティに把握されている点とそもそもこの会場から離れているという点を考えればアリウス生と出会う確率は低いように思います。

 

「であれば、あそこを目指しましょうか」

 

 頭の中にトリニティの地図を浮かべまして、現在地である古聖堂近辺とプエラ分派寮近くにできた崩落跡の位置関係を確認します。

 すべての地下通路が繋がってるというわけではないと思いますが、闇雲に近場の出口を探し回るより多少回り道をすることになろうと見えている目標に向かって進む方が確実でしょう。

 そう思って位置関係を把握した私は、次のステップでつまずくことになりました。

 瓦礫の崩落ですっかり方向感覚を失っていた上に現場から少し離れてしまったので、どちらに進めばよいか早くもわからなくなってしまったのです。

 そうして一旦休憩を取っていた私の許に、近付いてくる足音が聞こえました。

 

「そう警戒なさらないでください。私ですよ、奇跡の担い手」

 

 胡散臭い大人の声でした。

 あの木人形の人と知り合いということで()()も今回の件に一枚噛んでいるのかなとは予想していましたが、ここにいる辺りやはり何かを企んでいるご様子です。

 私にあの端末を渡してくれたことで助かった身分なので邪険にできないのが痛いところですね。

 自分たちで仕組んで自分たちでそれを回避させているのですからマッチポンプもいいところなのですが、私の柔らかボディだと少々被ダメージがシャレにならなかった可能性もあるのでそこだけは一応感謝している部分もありますから。

 無視を決め込んでいる私に構わず近付いてくる足音によく耳を澄まします。

 彼らの持つ謎技術で隠蔽が為されていなければ、聞こえてくる足音は一つのみ。どうやら黒服の不審者さんは一人でこちらに近付いてきたみたいです。

 

「私に攻撃される可能性を考えなかったのですか?」

 

 背を壁に預けたまま、ようやく姿をこちらに見せた黒服の人に対してスナイパーライフルの銃口を向けます。

 今思い出したのですが、以前最悪な予感を感じた爆弾ってこの人たちが作ったやつですよね。

 めちゃくちゃ痛かったので一発ぶち込んであげたい気分なのですが、製作者さんとか呼び出してもらうことってできるんでしょうか。

 いや、やめておきましょう。この人たちの扱いはブラックマーケットよりも慎重に扱う必要があります。ブラックマーケットはこちらから踏み入らなければ避けられますが、この人たちは向こうから近づいてくるのですから。

 あの手この手で私たちを絡め取ろうとしてきて、利用するはずが利用されていた、みたいな状況を招きかねません。その上あの爆弾や遊園地の化け物みたいなものを作れることを考えれば、彼らと関わることは害はあっても薬にはならなそうな気がします。

 

「今回の一件については、私は基本関与しておりません。私は計画を耳に挟んで貴女に保険をお渡しして、あなたはそれを使用して生き延びた。あなたに私を攻撃する理由がないと思いますが」

「人に悪戯を仕掛ける猿も、度が過ぎると殺処分されてしまうものですよ」

「ふむ、これでは勧誘どころではありませんね」

 

 この期に及んで、またその話なのですか。

 その私の思考を見透かすように、地下通路の私を目敏く発見した不審者は私に語ります。

 

「信用されていないようなので、こちらも情報を開示しましょう。マエストロ――あなたが廃墟になった遊園地で出会った人形の身体の同志が、戒律をもとに『戦術兵器』の準備を進めています。あれが完成すれば最後、アリウススクワッドの思惑通りトリニティもゲヘナも地図から消し去ることが可能になるはずです」

 

 不安情報の提供。

 その情報の中身自体はこの状況下でありえそうな内容ですが、情報源が目の前の大人の言葉だけなので判断は不可能です。恐らくそれを理解した上で私の動揺と不安を煽っているのだと思いますが、それが事実だとしてあまり警戒対象だとは思えません。

 確かにあの木の人形の方が動かしていたドールたちの攻撃力と耐久力が強化されればそれなりの脅威にはなると思いますが、それでも絶望はしないと思うのです。

 それにトリニティとゲヘナを地図から消すという強い言葉を使っていますが、私は両校がそう簡単に破綻するとも思っていません。

 だって私が先ほどまで見てきた中でも、元々頭が失踪中の救護騎士団をはじめ、どの組織もこの非常事態にどうにか力を合わせて自分たちなりの答えを出して動いていました。その全ての判断が正しいとは断言できませんが、それでも『トリニティ』として最低限の形は保っていたというのが私の見解です。

 

「どうでしょう。このまま行方不明として消えてしまう方が、よっぽどあなたが安全に、幸せに暮らせると思いませんか?」

 

 ふと、疑問が浮かびました。

 どうして私と対面しているこの人は、エデン条約の襲撃に関与しなかったのでしょうか。

 彼の身を置いていた立場を考えれば勝ち馬に乗るような状況だったはずなのです。巡航ミサイルやアリウスという精強な武力に加えて、公会議の再現から自分たちの命令を遵守するユスティナ聖徒会と先程言っていた戒律を利用した化け物の獲得、壁になり切ろうとしていたときに聞いたヘイローを破壊する爆弾のことを考えても、この計画が破綻する見込みは少なかったはずです。

 事実、現状は彼らの目論見通りに進んでいるように思います。

 それなのに、目の前のこの悪い大人はどうして釣り下がった餌に食いつかなったのでしょうか。

 

「なるほど。この状況が、これからひっくり返ると考えているのですね」

 

 私のその言葉に、表情などあるか分からないその顔に驚きが浮かんだように見えました。

 困惑の声でなく、言葉を詰まらせたのが良い証拠です。

 ですが勝てない戦いはしないだろうという勝手な予測から思いついたその仮説が真実だとするならば、彼がどこにそれを感じていたかが重要なポイントになるでしょう。

 逆転の一手が打てる要素、不確定要素、そんなものが今の盤面に転がっていたでしょうか。

 少し考えてみて、最近裏切り者だと思われていた四人の生徒が一人の大人と共に学校を守ったという話を思い出しました。本当の裏切り者だった少女が自身の敗因として語った最大の『変数』を中心に、まるで物語のような結果を掴み取ったお話のことを。

 

 ここからは、私の想像の話になります。

 あの人の事ですから、その精神性を考えるとトリニティ以外でもきっと困っている方々が居れば尽力されたのでしょう。

 そして目の前の悪い大人もまた、私に声を掛けたように別の方にも提案を持ち掛けていることと思います。

 もし、声を掛けて手に入れようとした誰かを手に入れられる寸前のところで、あの人によってそれがひっくり返されたことがあるのだとしたら?

 もし、勝手な定義をしたがるこの大人がその一件を理由にあの人のことを『敵対してはいけない』あるいは『敵対すること自体が間違い』と認識しているとしたら?

 そうなればあの人が関与すると分かった時点で、その手を引っ込めることを決めるのでは?

 

「理解しました。シャーレの先生も、あなたのお気に入りなのですね。しかし、あの人は容体こそ安定していますが目を覚まさず、アリウススクワッドに発見されれば次は確実に殺されるのは避けられません。故にあの人が目を覚ましてひっくり返すことをあなたは半ば確信しているのに最悪を想定して動いた結果が、私だけでも確保しようというこの行動だったということでしょう」

「……交渉は決裂ですね。いつか色よい返事がもらえることを期待していますよ」

 

 図星だったのか、そんな言葉を残して悪い大人はどこかの通路に消えていきました。

 後を追おうと思ったのですが、どういう手段を使ったのか通路を覗き込んだ時にはその姿は確認できず、足音も聞こえませんでした。

 もしかするとあの大人の妨害だったりしないかなと思って通信を作動させてみますが、動いてはいるものの相変わらず反応がないままです。どうやら単純に地下だからとかいう理由が濃厚になってきてしまいました。

 ひとまず脳内地図を頼りに方角が正しいことを信じて進むことにします。

 私のフィジカルであれば壁を駆け上って天井を拳で破壊して抜け出す方法を取ることも可能なのかもしれませんが、普通に反動ダメージも大きいので最終手段として取っておきたいところ。

 少し歩いたところで、さすがに一日中動き通しだったのが堪えたのか、よろけてしまって壁にぶつかってしまいます。

 手をついたので基本的に体にダメージはありませんでしたが、跡が残って消えなかった右脇腹の傷が、少しばかり鈍く傷んだような気がしました。

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