見たか! 余はカッコいいであろう!   作:息抜きのもなか

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この作品で一番適当なサブタイトル。
原作の時系列的には正しいですが作品の内容とは合っていませんね。


44.そうして暗闇は光を掴む

 お父様はお母様が何かに没頭している様を見るのが好きなのだとか。

 目の前のこと以外の全てを排して集中しているお母様の様子は、私から見ると恐ろしいなとしか思えないのですが、お父様から見ると魅力的に映るみたいです。

 そう語るお父様の表情がお父様について話すときのお母様そっくりで、やはり仲が良いのだなと感じた記憶が残っています。

 

 そんな現状に関わらないことを考えて現実逃避している辺り、私の疲労も限界が近づいているようです。

 運よく戦闘にならず地下探検に成功してはいるものの、出口は辿り着けずに早八時間。

 通信端末の充電が切れそうなので常時受信設定をオフにして通信機能を切り、必要なタイミングで時間の確認にのみ使用しています。

 本当は二、三時間歩いたところで諦めて休息を取ろうとしたのですが、足音が聞こえてきて追いかけっこが発生してしまったんですよね。必死で逃げているうちに脳内に描いていたはずの地図はめちゃくちゃになって、それが何回か続いた今の私は当てもなく彷徨う哀れな子羊です。

 

 疲れすぎて逆に体の調子が良くなっていると錯覚し始めたとき、少し先に光が差し込んでいる場所を発見しました。

 外かもしれないと思いましたが、もしかするとアリウスが拠点に使っているポイントかもしれないことを考慮に入れて、なるべく気配を消した状態でそこへ近づきます。

 不思議と軽くなった気がする足を光の見える場所の近くまで運べば、そこが少し開けた空間になっていること、少しばかり崩れている天井から差し込んだ朝日がその空間に降り注いでいることを確認することができました。

 人の気配はなかったものの、相手が気配を消すことに優れている可能性を考えて少しだけ頭を出して安全確認も行います。

 

「誰もいませんね」

 

 そうして数時間ぶりに明るい場所に体を晒した私は、明順応によって一瞬だけ視界を奪われてしまいます。戦闘中であれば逃してもらうことの方が難しい時間ですが、平時であれば特に気にもならない数瞬の出来事でしかありません。

 光に慣れた目でその開けた空間を見回せば、足元に何らかの文様を発見しました。

 以前シスターフッドで見かけたものとは全く違う意匠なので、隠し扉の類ではなさそうです。

 先程限界を迎えて通り過ぎたはずの眠気が私の邪魔をして視界を霞ませますが、そこに刻まれているのはどうやらトリニティのマークのようです

 何かの儀式ができてしまいそうなぐらい地面に大きく刻まれているそれの上に立つと、妙な感覚に襲われました。

 

「悪意、でしょうか。抽象的でわかりにくいですが、そういったものを感じるということはなんらかの儀式に使われたことは間違いなさそうですね」

 

 休憩がてらそのトリニティマークを調べてるための地面に手をついて紋章を触ってみたりつついてみたり、いろいろと無遠慮に触ってみます。

 ぺたぺたと四つん這いになりながらその紋章を調べていたのですが、一部、気になる部分がありました。文様の一部が最近塗り直されたように他の部分と比べて随分とくっきりとしているように見えるのです。

 もしかすると最近復元活動か何かが行われたんでしょうか。ですが先日サクラコさんとお勉強した内容だとここカタコンベの調査や解明はまだまだされていないというお話だったはず。物好きな歴史研究家の方が個人で足を踏み入れて折角だから修正をしていったのかもしれませんね。

 ですがそういう方がいたとするのならここはやはり地上から来やすい場所にあるのではないでしょうか。

 そこに気付いて少し元気を取り戻した私は立ち上がって、私が入ってきた道とは別の場所からまた地上への道を探ることにしました。

 

「いやいや、普通に考えて『戒律』では?」

 

 その空間から暗い地下道に足を踏み入れようとしたところで、自分の愚かさに気が付いて方向転換します。

 徹夜の影響か思考力の低下が著しいようです。普段ならすぐに気が付く程度のことに、ここまで時間を要してしまうなんて。

 それに、普通足元の文様よりこれ見よがしに置いてある石板の方に目が行くはずではないでしょうか。注意が散漫になると碌なことがありません。やっぱり徹夜なんて百害あって一利なしです。

 石碑の内容を確認しようと思って手を触れたら、バチリと何かに弾かれたように衝撃が奔りました。突然の出来事に眠気が吹っ飛び、私はパシパシと目を瞬きます。

 しかし、目の間にあるものがエデン条約の戒律だとすれば、自ずとその理由は見えてきます。

 

「公会議の再現を利用して戒律の守護者を呼び出したのならば、第一回の公会議では存在してすらいなかったプエラ分派にはそこに干渉する権限がない、ということでしょうか」

 

 そう考えると納得はできますが、少し承服できかねる部分もあります。

 目の前にあるのは恐らく公会議の再現としての戒律ではあると思うのですが、それでも現状戒律の守護者がアリウスに従っているのはアリウススクワッドがETO(エデン条約機構)を自分たちが担うと上書きしたからであるはずなのです。

 つまり、戒律自体はエデン条約に作用しているということ。

 それならば、現トリニティの一部である私たちが介入してはいけない理由はないはずです。

 

「なんだか腹が立ってきましたね」

 

 こうなったら無理やり何か書き換えてやりたくなってきました。

 アリウススクワッドの方々を下にみるわけではありませんが、彼女たちですら戒律の上書きを実行することが可能だったのですから、そこまで難しい言語で記されているわけでもないでしょう。

 オーパーツ的なものであるなら音声認識的なものもあるかもしれませんし、どうにか悪戯をねじ込むことはできないでしょうか。

 脳内で屁理屈を捏ねながら石板に触れますが、何度やっても同じように弾かれるだけ。素っ気ない対応に涙が出てきてしまいそうです。

 しかし、こうなったら根比べです。

 私の体力が尽きるか、戒律側が呆れて折れるか、はたまた第三の乱入によって流れるか。

 深夜テンションの悪ふざけであることは半分ぐらい理解していましたが、ダメと言われたらやってみたくなるのが人の性というものです。サクラコさんの無事を確かめることすらできていない現状に募らせている鬱憤を晴らしたいという気持ちも少なからずありました。

 

「ふむ、ロイヤルブラッドの件で弱まっていた戒律を見に来てみれば、まさか奇跡の担い手の一番手がここにいるとは。これも一つの巡り合わせか」

 

 ガコガコと自身の存在を主張する木の駆動音を響かせる乱入者のことは無視して、私は石板へのアタックを続けます。

 少なくともその言葉で私が今やっている行為がからきし意味のない物ではないことが確認できたのは幸いでした。やはりこの空間でエデン条約の戒律に介入したのは間違いないみたいです。

 

「しかし、そのようなことをしても介入は不可能だ。そなたは再現元(さいげんもと)の公会議には参加していない派閥の人間である。たとえ今日に限ってティーパーティーという仮面を被っていたとして、そんなものは厳正なる戒律の前には意味をなさない」

「うっさいですね。そんなことはわかりきってるんですよ!」

 

 あーもう面倒ですね。ぶっ壊してしまいましょうか。

 そう思って手を引っ込めて、そのまま背中に持っていたリツカさんからの預かり物、青色のスナイパーライフルを引っ張り出しました。

 息を吸い込んで力を込め、歴史的意味とか完全に頭から吹っ飛んだ状態で石板にぶっ放して、とんでもない衝撃音が響いたことで我に返りました。

 

「旧時代の神器。そなたがそれを有しているのを見たときはまさかとは思っていたが、やはり幸運の神器と奇跡の担い手が合わされば事象を捻じ曲げることも可能となるか」

 

 やっちまったと頭を抱えていた私はその言葉に石板を覗き込んで、弾かれずに触れるようになっていることに気が付きました。パッと見る限り石板自体に傷はついておらず、その表面を覆っていた透明な何かの一部が私の銃撃によって壊れただけのようでした。

 恐らくそのバリアのような何かが私の戒律への接触を阻んでいたのでしょう。石板に触れていることでエデン条約で結ばれるはずだった文言が頭に流れ込んできて、私がそれを編集できることが本能的に理解ができました。

 しかしそれは僅かな時間だけのようで、透明なバリアのようなものがだんだんと戻りつつあるのが視界に映ります。

 

「黒服が目を付けるのも頷ける。実に興味深い逸材だ」

 

 試しにアリウススクワッドが付け足したであろう文の句読点を触ってみますが、思ったより反映に時間がかかります。

 例えるならば表計算ソフトでカーソルだけは一瞬で動かせるのに、裏で動いてる関数の処理が重たすぎて文字の削除には時間が掛かるようなイメージでしょうか。

 ともかく、アリウスの書いた全文を消すなんてことは時間的に難しそうです。

 変なところを消して戒律の守護者たちが暴走するのも避けたいところ。元がユスティナ聖徒会であることを考えると、流石に手が付けられなくなる可能性が高いですからね。

 視界の隅でもうすぐ石板のバリアが元に戻ってしまいそうなのが目に見えます。

 もうそこまでのことはできません。何かできて三文字か四文字が精いっぱいでしょう。

 そんなタイミングで、先程の不審者さんとの会話を思い出しまして、私は戒律に追加する文言を何とか打ち込むことに成功しました。

 石板に張り付いていた私は再びバリアによって弾かれて両腕に酷い痺れが奔ります。

 

「なるほど、『戒律の閲覧・編集は先生とアリウススクワッドとベアトリーチェのみ可能とする』か。奇跡の担い手同士何か通ずる部分があったのか、はたまた単純な信頼故か。面白い。そなたが期待する先生とやらの働きには私も期待している。これはこのままにしておくとしよう」

 

 ざっと戒律に目を通していて、一番致命的(クリティカル)だと思ったのはこの部分でした。

 私が戒律に弾かれていたのもこちらが原因のようですし、こちら側の誰かがアクセスできるようにする必要があったのです。

 先生という言葉を選んだのは、この学園都市(キヴォトス)において教師という立場の者は数多かれど、先生という解釈ができる人間はそう多くはないと考えたからです。役職という曖昧な表現ではありますが、ことこの世界においてはある特定の人間を指す言葉として機能するはずです。

 そもそも先生を選んだのは単純に文字数の問題との兼ね合いですね。本当はトリニティとかティーパーティーとかの組織名やあるいは辰カタネとか桐藤ナギサみたいに個人名を入れるのが最善ではあったのですが、そもそも文字数で無理だった組織名もありますし、苗字や名前だけでは少し不安がありました。

 無論『ゲヘナ』とか『公安局』とか、それぐらいだったら行ける可能性はあったのですが、信用できてかつ短めの言葉という条件を満たせるのが『先生』ぐらいしか思いつきませんでした。

 

「見逃していただきありがとうございます。それでは、私はこれで」

 

 あの不審者が期待していたのと、この人形さんも以前先生に対してプラス感情を抱いていた記憶があったので、書き換えられないだろうという打算も存在していました。

 こうして人形さんが足を運んでいる以上戒律の更新はこの場所で行う必要があるのでしょうし、文面や触った感触では内容が誰かに通知されるなんてこともなさそうな様子でした。私の悪戯はアリウススクワッドがここに来るか、あるいはベアトリーチェとかいう知らない人が直接この場所に姿を現さない限り見つかる心配はないと考えていいでしょう。

 従ってこの後のプランとしてはどこかのタイミングで先生にこのことを共有し、戒律を書き換えてもらうというような流れになりそうです。

 しかし先生が戒律を更新するより先に他の方が到着してまた上書きされてしまっても困るので、先生をここに連れてくるのはできるだけ早い方が望ましいですね。

 

「となれば、最終手段を使うしかありませんか」

 

 こちらのダメージと崩落で生き埋めになる可能性を考えて実行していなかったのですが、この状況下では外に出ることが最優先事項でしょう。手段など選ばず迷子にならない範囲のところで天井部分を突き破るのがベター。

 そんなことを考えながら儀式の部屋から通路に入ったところで、少し先に何かが転がっているのに気が付きました。

 近付いてよくそれを確認すれば、どこかで見たことのあるような旗。

 少し脳内を検索してみれば、直近一日以内のフォルダが強くその存在を主張しています。

 

「あ、ゲヘナのですね、これ」

 

 どうしてこんなところにあるのかと思ってふと上を見上げてみれば、ほんの少しだけ穴が開いているのが見えました。この旗がちょうどギリギリ通るぐらいのもので、斜めになっているのかその上の様子は見えません。

 しかし、ゲヘナの旗があるということは、私はどうやらいつの間にか調印式の会場だった通功の古聖堂の下まで戻ってきていたようです。

 場所的にもわかりやすいですし、ここを上にぶち抜いてしまいましょうか。時間的に分派の皆さんはまだ休んでいるかもしれませんが、昨日はこの近くの地上で動いていたので合流するにも都合がいいでしょう。

 ついでにゲヘナの人たちはこの地下通路に旗を取りに来れるとは思えませんし、この旗も一緒に上に持って行ってあげるとしましょう。

 

「いち、にの、さん!」

 

 左手にゲヘナの旗、右手に拳を握りしめて、ダッシュを始めます。流石にいきなり垂直に走り出せるほど私は壊れた性能をしているわけではないので、十分に加速してから壁を駆け上がります。

 歯を食いしばって、拳を振るってその勢いのまま全身を使って天井に体当たり。

 流石に舗装された地面をぶち抜くのは厳しかったのか、突き抜けることは叶いません。

 しかし地盤へのダメージを入れることには成功したようで、大分ぐらぐらした状態にできた感覚はありました。実際それなりに天井を押し出せてはおりますので。

 ほんの一瞬だけ翼を使って落ちないように滞空して、旗を持つ方の腕で少しばかり押し込むことに成功した天井を支え、押し上げたことでできた亀裂の部分に空いている手でぶら下がります。

 体を持ち上げて足も亀裂に引っ掛け、ナマケモノのような体勢になった私は、左腕でぐぐっと岩盤を持ち上げまして私が入り込める隙間を作ります。そこに無理やり体をねじ込んで背中と足で落ちないよう支えて、ようやく自由になった右手でスナイパーライフルを抜き、そのまま天井にぶつけました。

 

「よし。行けますね」

 

 ひびが入ったことを確認した私は、そのまま岩盤を持ち上げたことで自分の身体がすっぽ抜けないようにだけ注意しながら少しずつ岩盤を持ち上げては新しくできた隙間に体をねじ込むことを繰り返し、時にはスナイパーライフルで無理やり足を置くところを作りながら格闘すること数分。

 私の右手が、ついに外の空気と触れることに成功しました。

 そうなればこっちのもの。足を使って岩盤を支え、両腕を外に出してそのまま上半身を地上に引き出します。その後は流れで脱出完了。久しぶりの地上です。

 私が持ち上げた岩盤の上にトリニティの旗が転がっていたので下に落ちたら可哀そうだとこちらも回収していると、どこからか大きな声が聞こえてきました。

 

「私には、好きなものがあります!」

 

 思わずその方を見れば、補習授業部の面々が崩壊した古聖堂の瓦礫の上に立っていました。それに相対するように、手話をしていた子以外のアリウススクワッドの人もいます。

 あ、先生もいますね。

 というか、周りを見ると正義実現委員会、ゲヘナの風紀委員会、後なんか知らない人たちもいますね。委員長も揃い踏みで、役者は揃っているように見えます。

 あの、誰か教えて欲しいのですが、なんだか私の知らない間に最終局面に突入しようとしてませんか、これ。




独自解釈モリモリ。主人公は徹夜で深夜テンション。その状態でも主人公はゴリラです。
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