見たか! 余はカッコいいであろう!   作:息抜きのもなか

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49.そうして予言はすれ違う

 お母様、相談したいことがあるのですが、ご都合いかがでしょうか。

 まるで何かと共鳴したか思うほど、鮮烈な夢を見たのです。赤い世界と血に塗れて(あか)(あお)でグラデーションを作る馴染み深いスナイパーライフル。そして、建物の半分以上を吹き飛ばされて半壊したプエラ分派寮。

 ただの夢と断じて軽んじることは、私にはできませんでした。

 

 ちょうどゲヘナのお店から連絡が来たので、ついでに出張サービスをお願いして備蓄品の買い込みを行いました。

 何かの準備で入り用だと察してくれたのか、注文した品物以外にもいろいろと持ってきてくれたので、ミタカちゃんや戦闘部隊のまとめ役の子の話も聞き、まるで戦争の準備をしているのではと自分でも思ってしまうほどに念入りに調達をさせていただきました。

 そんなことをすれば彼女がやってくると分かってはいましたが、それでも備えないという選択肢は私にはありえなかったのです。

 

「プエラ分派は一体何をお考えなのですか?」

「何も。先日の調印式での戦闘で減った分の補充と、ついでに備蓄を確認して買い込もうと思っただけです」

 

 実際には来年春に新入生に使ってもらう出張サービスのクオリティを確かめておきたかったという部分もありますが。結果については過去の私の判断は間違ってなかった、とだけ言っておきましょう。

 しかしそれでは納得されないであろうということは、風の噂を聞けば明らかです。

 先日もサクラコさんが酷い目に遭いましたと嘆いていましたし、下手すれば私たち以上の問題児である彼女の相手はなかなか骨が折れそうです。

 

「それならば必要分を買えば済む話でしょう。先日の結果に味をしめて、よもやクーデターでも計画しているのではありませんね?」

「アリウスの一部隊とほぼ相打ち状態だったことを聞いていませんか? 我々にそこまでの力はありませんし、やるつもりもありませんよ」

「しかしプエラ分派は調印式の襲撃の混乱の中、全勢力の中で唯一脱落者が出なかった分派です。そしてあの舞台で起こしたあなたの行動を発端として、プエラ分派以外の生徒もまるでカルト的な熱量であなたを支持する声が聞こえてきます。その支持者たちと、あの状況で崩れない戦闘部隊。それらを調印式の日に指揮を行った人間に指揮させれば実現可能な計画ではないかと、あなたがそう判断した可能性は十分に考えられます」

「確かにミタカちゃんの指揮能力は目を見張るものがあります。ですが、本人とも話してあれは上手く戦闘を避けるように動いて初めて得ることが叶った、薄氷の上に成り立った偶然と結論が出ております」

 

 私は地下に居たせいで無線も繋がらず、戦況については私が(あずか)り知るところではなかったのですが、私の黒歴史を絵にしたいと宣ったミタカちゃんと話した限りでは結果から見るよりもずっと厳しい戦いを強いられていたようです。

 噂を聞きつけてこうして飛んでくる目の前の暴走列車と暴走具合では良い勝負をしている気がするミタカちゃんが進言をしてこないということこそが、彼女の目から見てもクーデターの勝算が薄いと思っている証拠に他なりません。

 もしかしたら私がティーパーティー参加権を放棄したことで彼女が私の向かう場所がそこではないと気付いてくれたのかもしれませんが、どちらにしろ自分たちから仕掛けるつもりの人間がいないことは間違いありません。

 なのですが、やはり世間的に信用のない私がそんなことを主張したところでなかなか厳しい捉え方をされてしまうものでして。

 

「当人ができないと言ったとて、一度できたのならば再現できる可能性もあるでしょう。それに、あなたが分派の皆さんの武器を選んだことで、プエラ分派の戦闘力は飛躍的に上昇したとお聞きしております。そのように人の能力を見抜けるあなたが、その再現が可能だと判断して企てを行うことは全く以て不自然なこととは思いませんが」

「蒼森様、私は陰謀論は嫌いです。思うところがあって余分に調達を行ったのは事実ですが、それはあなたのような外部要因から身を護るためのものであって、こちらからの行動を起こすつもりは微塵も持ち合わせていないと約束しましょう」

 

 ()えて強い言葉を使うことで、彼女が止まってくれることを願います。

 ええ、今まさに背後で受け渡しと運び込みが行われているので、邪魔されると少しばかり困ってしまうのです。いえ、始末書や注文書の書き直しなどで書類仕事が若干増えるのと、皆さんの時間が奪われるぐらいの問題なので大したことでないと言われればそうなのですが。

 

「やはりどこかと戦う気なのですね。もう既に宣戦布告を受けたから、防衛準備を進めていると」

「どうしてそうなるのですか。私は悪目立ちこそしてしまっていますが、だからこそプエラ分派(私たち)に手を出そうという方々はおりませんよ」

 

 いえ、分派の皆さんが大暴走した時は開戦寸前まで行ったので正当な理由さえあれば吹っ掛けてきてもおかしくはありませんが。最近はその辺りのヘイト管理もちゃんとやるようにしていますので問題ないはずです。まあ、やってくれているのはリツカさんとミライさんのお二人なのですが。

 ちなみにとてもとても悲しいことに、ミタカちゃんは悪評を広める側です。凍結させたはずのSNSのアカウントがいつの間にか復活してましたし、ついでに言えばそれが原因で知らないところで私が炎上しました。本当にやめてほしい。

 

「平行線ですね。しかし、こうして話してみてわかりました。肝心な部分については明確な答えを返さず、別の話で私を丸め込もうとする。もしそこに悪意がなくとも、向き合うことから逃げるその精神性は『救護』が必要なのでは?」

「あー、まあ、そこは常々自覚があると言いますか、鋭意改善中と言いますか……」

「その回答も実際には改善を行わない方がよく話される言い訳ですね。やはり一度じっくりと腰を据えてお話する必要がありそうですね」

「あの……いえ、そうですね。それもいいかもしれません」

 

 私がそう返すと、ミネさんは一瞬だけその目を瞬かせ、しかしすぐに先程までと同じ厳格な表情に戻ってしまいました。しかし少なからず動揺があるのか、こちらの出方を伺うような素振りを見せております。

 ミネさんに無理やり連れて行かれて説教をされたという話自体は、彼女がトリニティに戻ってからあまり時間が経ってないにも関わらず枚挙に(いとま)がありません。しかしながら彼女の話を自ら入れられたという話は聞きませんし、今の反応を見るに彼女自身も受け入れられることを想定していなかったのだと思います。

 それなのに私が彼女の誘いに乗ったのは、単純に落ち着いて話す機会が必要かもしれないと考えたためです。先日ハナコさんや先生と話した時もそうでしたが、私という人間に対する誤解を解くためには言葉を尽くす必要があります。逆に言えば、そこの努力さえ惜しまなければ、神器のデメリットは無いも同然と言えるのです。

 

「驚きました。私のお話を受け入れようとした方はあなたが初めてです」

「私も別に、そこについて真面目に聞くつもりはありませんよ。ただ、私がどんな人間であるかを知ってもらう時間が少なからず必要だと考えただけです」

「……私を取り込むおつもりですか?」

 

 私も突然話を変えることは往々にしてありますが、彼女も結構その節がありますね。その脳内ではきっと順を追って正しい理論でその言葉に辿り着いているのだと思うのですが、こちらからすると少々飛躍しているように思えてしまいます。

 しかし取り込む、ですか。中立を保って派閥のいざこざを遠ざけていたはずの彼女からそんな言葉が出てくるとは驚きました。いえ、中立だからこそ甘言や引き入れようとする言葉は多かったのかもしれません。あるいは、最近になって政治(ティーパーティー)に口を出しているからそういった話を耳にする機会が増えたのか。

 どちらにせよそんな意図はないと切り捨てようとして、一旦踏みとどまりました。最初はこちらに疑念を向けていたツルギさんや実際に私を襲ったミカさんなど、今はもうそれなりに話せる関係になっていますが、傍から見るともしかすると取り込んだと思われているのかもしれません。

 であれば理想は心置きなく話せるようになることを目標とするならば、私はミネさんを取り込みたいと言えるのかも。

 

「ええ。そうなれば、嬉しいですね」

 

 茶目っ気を出してみた私のその回答に微妙な反応を見せて、ミネさんは今日のところは一旦失礼しますと帰っていきました。

 嵐のような方でしたが、何とか被害を出すことなく終われたようで一安心です。

 私の答えに若干息を呑むような音が聞こえた気もしますが「人たらしめ」リツカさん? 聞こえていますよ? 一体今の会話のどこでそんな言葉が出る場所があったんですか。

 ひとまずミネさんの襲来をきっかけにリツカさんに預けた業者さんとのやり取りをそのまま押し付けまして、私は一足先に首長室に戻ります。冷蔵庫を開ければビタークッキーが二つだけ残っている袋があったので、スペースを確保するために私のお腹の中に処分させていただきました。当然のことなので言う必要もないかもしれませんが、他意はありません。

 

「やあ、今日はわざわざ来てもらってすまないね」

「いえいえ。ティーパーティーのホストからの呼び出しを無下にはできませんから」

 

 次の日、私は呼び出しを受けてティーパーティーのセイアさんとのお茶会に臨んでおりました。

 現在は未だ代行のナギサ様がホストの役割を担っているようで、戻ってきたはいいもののまだ本調子ではないセイアさんは意識は取り戻しても権力は取り戻していないようです。

 

「回りくどいことはやめよう。辰カタネ、君は一体何者だい?」

「何者、とは?」

「私の予知夢、最後に見た夢だけでなく今まで見てきたその全てに君は存在していなかった。エデン条約のときも私は夢という窓を通じて先生や皆のことを見ていたが、そのときも君のことだけは見えていなかった。君があの場で大役を果たしていたことだって、私は起きた後に初めて知らされたんだよ」

 

 いや、あんなものは見る必要はありません。ただのお目汚しになるだけなので。

 セイアさんは予知夢という能力を持っていることが知られており、私が見たよくわからない夢とは違って今後起こる事象を垣間見ることが可能です。

 しかも私の黒歴史を全カットするあたり夢の取捨選択は優秀ですし、その中身はかなり信用していいのかもしれませんね。

 

「私があなたの見た未来で重要な役割を持っていないというだけではないでしょうか」

「確かにその可能性もある。しかし、私が夢の中で見たプエラ分派はもっとバラバラでまとまりのない集団だったし、君の席に座っていたのも琴宮サナという別の人間だった。君という存在を特異点として何かが起こっていることは明らかだ」

 

 その結論を出すには早いのでは?

 琴宮サナという名前には聞き覚えがありました。確か、リツカさんにプエラ分派をお任せすることを決めた、首長補佐の前任者のはずです。

 セイアさんの夢の中で彼女がまとめ役をやっていたのだとしたら、それはつまり彼女が首長補佐を辞さずに続けていたということになります。そうなると、セイアさんの夢の中ではリツカさんがプエラ分派に来ていないということなのではないでしょうか。

 それを考えると、やはり起点は私ではなくリツカさんの方な気がします。彼女がプエラ分派に来るか否かで現状が変わっているのですから。

 あれ、でもリツカさんが分派(ウチ)に来たのは引きこもっていた私の意図を探るためだったはずで、そうなるとやっぱり私が起点ということになってしまうんでしょうか。

 うーむ、頭がこんがらがってきてしまいました。

 

「もう既に先生には話しているが、いつかこのキヴォトスに未曽有の事態が発生する。空が赤く染まり――」

「赤く、染まる?」

 

 セイアさんは自分の予言についてつらつらとまだ何か語っていますが、その最初の一節が私の夢とリンクしてしまったことで私は平静さを失っておりました。

 もし、私の見た夢がセイアさんが受け取った予知夢と関連があるとしたら。

 もしも私が何かと共鳴したと思った理由が、本当にセイアさんと共鳴していたとしたら。

 

「――そして最後は、キヴォトスは跡形もなく消えてしまう」

「リツカさんが、皆が……死ぬ?」

「そうだ。我々はこの事態に対する対策を――」

「――皆さんを、守らなきゃ」

「うん? 聞いていたかい? 今はキヴォトスの皆で知恵を出し合って、あの脅威に備えるべきときだ。私の予言にいなかった君の存在は、何かのカギになるかもしれない。できれば協力してくれると助かる」

 

 考えなければ。

 セイアさんの予言と私が見た夢は似ているようですが、同じものではないみたいです。

 彼女の言葉が正しければ、彼女の見ている世界の首長補佐は琴宮サナさんです。リツカさんが寮に到着したタイミングで接触と分派の立て直し依頼をしてきたことを考えれば、恐らく彼女の見ている世界ではリツカさんはプエラ分派に来ていないはず。

 それなのに、私は彼女の銃を夢で見ています。無論、セイアさんの夢の中でも同じようにリツカさんの銃に血が付いていて、どちらの場合でもリツカさんが大変なことになるということなのかもしれませんが、私の夢の内容はあまりにもプエラ分派に寄りすぎていました。なのできっと、私の夢は今の私の周囲に準拠した内容になっていると考えた方が自然です。

 

「ミライさんと、話しましょうか」

「カタネ、聞いているかい? 今は分派の人間だけでなく、先生も含めて全員で動くべきだ」

「リツカさんには、いえ、やめておきましょう。ミタカちゃんは……、もしものとき、慌てないように話しておくべきですね」

「カタネ!」

「わかっています! ですがすみません、私はそこまで余裕を持てません」

 

 セイアさんの言うことは(もっと)もです。

 先生とセイアさんが同じ夢を見たのなら、確かにそれは憂慮すべき事態なのだと思います。

 ならその中で私が一人だけ、プエラ分派(あの子たち)に関する夢を見たのはどうしてでしょうか。そこがとても引っかかって、安易に先生を頼る選択肢を選びにくくさせているのです。

 それに、私が現時点で持っているものなど高が知れています。頭脳も戦闘も、私よりも遥かに強い人たちが大勢います。頭脳についてはカタコンベの一件でそれを痛感しましたし、戦闘においても今の私も勝ち目が怪しいミカさんが、多対一の状況だったとはいえ死すらも覚悟したという強敵がいたみたいです。そんなのが出てきたら、私は()()()()()もないでしょう。

 

「協力は惜しみません。準備もします。戦闘部隊も、必要であればお貸ししましょう」

「ああ、それだけでも助かる。人数は多いに越したことはないからね」

「ですが今は一度、分派にこの話を持ち帰らせてください」

 

 あの二人なら、きっと冷静に話を聞いてくれるでしょうから。

 セイアさんに断りを入れ、予定より早く切り上げさせてもらって寮へと戻ります。首長室がある校舎の方ではないのは、彼女たちからロビーのラウンジにいると連絡を受けたからです。

 いつも以上に余裕がない自分の、その理由がわかりません。

 寮に近付いて分派の子たちの顔を見る度に少しずつ息がしやすくなったのは、何か関係があるのでしょうか。

 皆が死ぬかもしれないと聞いてそれがとても怖くなって、皆の顔を見て彼女たちが生きていることに安心したかっただけと、本当は理解しています。

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