見たか! 余はカッコいいであろう!   作:息抜きのもなか

5 / 61
05.そうして飛躍が始まった

 お母様、お父様、私の部屋は綺麗にしてありますか。

 物置とかにしてやいませんか。もうすぐ帰ることになるかもしれないので、どうか準備を。袋叩きにされてズタズタになった私がある日その扉を叩くことになるでしょう。

 

 現実逃避をしても仕方がありません。状況確認を優先しましょう。

 目の前には銃口から煙が立ち上るリツカさんの青い銃。現在は私が使用しているそれが、なぜか火を噴きまして。

 スコープを覗けばあら不思議、トリニティ生徒の服の生徒が倒れているではありませんか。

 ええ、そうです。やっちまいました。

 

「い、いきなり何やってるんですか? 作戦開始はまだですよね?」

 

 監視役としてついてきた子――ミタカちゃんというらしいです――が困惑の声を上げます。

 うん、気持ちはわかります。まだ狙撃ポイントに到着したばかりで、本隊はまだ突入前。私が何か動くような必要性はなかった。ましてや味方を狙い撃ちする必要なんて。

 でも、ミタカちゃんも悪いと思うんです。自分だけ双眼鏡を持ってきて、私は他の人たちの状況を通信かスコープのどちらかからしか得られなかったんです。いや、私が何の対策もないまま出てきてしまったのが悪いんですが。でもあの場で準備するから待ってとか言えなくないですか?

 まあそこは一旦置いておきましょう。

 ですが、いきなり声を掛けてくるのは本当にダメだと思うんです。

 びっくりしてトリガーを引いてしまいました。実際にこの銃を使うのは初めてだったので、動作確認をしている最中だったのに。

 

『いきなり何?』

『狙撃? どこから?』

『あっちからってリツカ様の狙撃ポイント側じゃない?』

『まさかヘルメット団と共謀して私たちを?』

 

 あ、まずいです。他の人たちにも気付かれ始めました。

 本格的に終わりですね。監視がいるので言い逃れもできず、味方を撃ち抜いた裏切り者として処断されることでしょう。

 ここはそういう話に飢えた獣たちの蔓延るトリニティですから、分派外にも瞬く間に広がって言葉の刃と謀略でぼろ雑巾になるまで傷付けられることは避けられないでしょう。いえ、雑巾で済まないかもしれませんね。布かどうかも判別のつかない糸くずにされるかもしれません。

 個人回線の通信音が聞こえます。リツカさんからです。正直、開きたくはありません。

 私と二人でいるときの砕けた感じではなく、外行きの笑みを張り付けた状態で糾弾されることが分かりきっているからです。あの状態のリツカさん、苦手なのでできれば遠慮したく。

 本当はとても嫌、すごーく嫌で嫌で仕方がなのですが、下手人であることに加えて立場上の問題もあるので通信を受け入れるしかありません。

 

「何?」

 

 開き直って、さも何もなかったかのように振る舞います。

 視界の隅でミタカちゃんが双眼鏡を覗きながら目を丸くして何か呟いていますが、悪いのは彼女なんです。いきなり後ろから声なんて掛けるから。

 しかし通信に映し出されたリツカさんの表情は、私が想像していたよりも険しいものではありませんでした。どころか逆にいつも二人のときに見せるような子供っぽい笑顔のように見えます。

 もしかすると本当は怖いトリニティ生の実態の一つ、マジギレしているときは笑顔になるというやつでしょうか。ひょっとするとリツカさんは烈火の如く起こっているのかもしれません。

 念のためスコープをもう一度覗きます。クリーンヒットして伸びてしまったトリニティ制服の生徒が見えます。

 これはやはり有罪(ギルティ)

 魔女裁判にかけられて分派の寮の前にある広場で磔刑の後に火刑かもしれませんね。

 

『いやはや、驚きました。いきなりこちらを撃たれるものですから、敵襲かと勘違いしてしまいましたよ』

 

 うん、ですよね。本当に申し訳ない。

 なのであの、できればお手柔らかに対応していただけると有り難いのですが。

 

『ですが不思議なことに、撃たれた彼女のことを知っている分派の方がいないんです。プエラ分派は小さく、ほぼ皆が顔見知りのはずなのに』

 

 いえ、私は引きこもって皆様に会わないようにしていたので、全くそんなことはありませんが。

 実際にこうして私がリツカさんだと誤解されているように、顔なんて覚えていない人ばかりなのでは? トリニティ一般の風潮として、成績は悪くとも相手の顔だけは忘れないみたいな雰囲気がないとは言いませんが。

 そこで私は、違和感に気が付きます。

 咄嗟に反論を述べそうになりましたが、確かにおかしな話なのです。

 今回このヘルメット団の討伐に出てきた面々は分派の戦闘部隊のメンバーです。そんなに頻度は高くないのかもしれませんが、顔を合わせて連携強化を図ったり演習を行ったりはしていたはず。

 それなのに誰も知らない生徒が戦列に加わっていた?

 それはつまり――

 

「……あの方、まさかヘルメット団の?」

 

 双眼鏡を覗いているミタカちゃんの方から、呟きが零れました。

 慌ててスコープを覗き込みます。伸びている生徒の顔をよく観察すれば、いつもと違う表情なのでわかりにくいですが言われてみれば確かに部隊を編成した時にはいなかったような気もします。

 その場の様子も最初の通信の感じとは雰囲気が違って、今にも倒れている子を縛り始めようというような雰囲気です。

 ということは私、不幸中の幸いを引き当てたのでは?

 

『まさか私たちの部隊に敵が潜り込んでいただなんて気が付きませんでした。まだ敵陣と距離があったので油断してました』

 

 ということは、何ですか。

 私とミタカちゃんが狙撃ポイントに移動するために別行動を開始した後のタイミングで、トリニティの制服を着た敵の一人が何食わぬ顔でリツカさんの部隊の列にしれっと加わっていたということでしょうか。滅茶苦茶怖いことしますね。

 銃撃戦が始まったら味方を撃って乱戦と内部分裂を狙う。そこらのヘルメット団とは作戦立案能力が違いすぎます。危険極まりない。

 やはりこの討伐は中止した方がいいのでは? 素直に正義実現委員会に力を借りて対処してもらうべき案件かもしれません。

 そんなことを考えていたら、リツカさんが通信先で声を張り上げました。

 

『これより、我々は敵地へ突入する! 潜り込んだネズミを一撃で仕留めたように、我々の背中はリツカ様によって守られている! 我々の役目は仲間を疑うことではなく、目的達成のために同胞を信じ前に進むことだ! 総員、突入するぞ!』

 

 何を言っているんですか、リツカさん。

 そんなことを言ったら皆困惑して動揺してしまいます。大体、なんで私が狙って撃った前提で話しているんですか。ミタカちゃんが一言『コイツ私が声かけたら飛び上がって引き金を引いてましたわ』と告げ口するだけでミンチが確定する砂上の楼閣なのに。

 そんなことを思っていたら、いきなり後ろから声が張り上げられました。

 

「『その通りです! リツカ様はこのポイントに到着してすぐに皆様を肉眼で確認し、その中に邪魔者が潜り込んでいることを見抜いて寸分の狂いなくその狙撃を実行されました! 皆様はただ目的完遂のため心置きなく前に進んで下さい!』」

 

 今度は引き金を引きませんでしたよ。ええ。流石に二度目はありません。心臓に悪いので止めてほしい気持ちは溢れていますが。大きい音は苦手なんです。

 全体通信の音声と耳から入ってくる音の微妙なラグで頭が混乱しますが、無視してスコープを覗きます。

 ミタカちゃん、こっち側に付いてくれるんですね。魔女狩りルートは避けられましたかね。

 いえ、まだ安心はできません。今はただ士気を下げないように口添えをしてくれただけで、学校に戻ったら本当のことを公開するつもりなのかもしれません。ああ、何だか寒気が。

 何か私がこういう目に遭うことを楽しんでいる節があるリツカさんはまだしも、下級生のミタカちゃんにまでこんな扱いを受けるなんて散々ですね。いえ、本気で言っている可能性もありえないわけではないのですが。え、流石にないですよね? 

 スコープを覗けばやはり、と言いたかったのですが、何やら皆頷きあって神妙な表情をしていらっしゃります。そして息を合わせて『応!』とリツカさんの言葉に返したのが通信越しに聞こえました。

 どうしてそんなに自信が持てるのでしょう。

 

「移動する」

 

 私はミタカちゃんへそう言って建物の屋上から隣の建物へ飛び移ります。

 後ろから「へ?」という素っ頓狂な声が聞こえてきたような気もしますが無視です無視。作戦を放棄した扱いになるのは手痛いですが、さすがに私の腕ではこの位置からだと射撃精度に難があります。

 失態を少しでもカバーするためにもせめて援護射撃で貢献しないといけません。であれば、私が当てられる間合いから狙撃するのが一番でしょう。

 後ろを向けばミタカちゃんはビルを飛び移っては来ていないようだったので、念のため合流ポイントの地図情報を通信で連絡しておきます。流石に慣れていないとこれは怖いんでしょうか。

 

「ん? あれは……」

 

 皆さんが作戦行動している先の方で爆発が起こったのが見えて、一度足を止めてスコープを覗きます。パッと見る限りでは負傷者はいないようです。というか、爆発箇所とこちらの部隊の位置はまるで違いますね。

 爆発があった場所には何やらヘルメットを被った集団が掘削機のようなものを扱っているように見えます。ヘルメットと言っても、フルフェイスのものではなく頭に被るだけのやつです。

 あの姿には私も覚えがあります。自らの所属する自治区のみならずキヴォトス全域で活動する厄介者。ところ構わず部活動の大義名分を押し付けて破壊活動を行う温泉ジャンキー。私の故郷でのランニングルートを爆破されたときは愛銃を持って報復(やつあたり)に臨んだものです。

 これは作戦を急がないといけないかもしれません。人質の安全が保障できなくなってしまいました。リツカさんがこの事態に気付いてくれていると良いのですが。

 個人回線の通信依頼をリツカさんに投げながら、私はミタカちゃんに送った合流ポイントに急ぎます。

 

「温泉開発部です」

 

 繋がった通信にそれだけ言いおいて、通信を切ります。

 別に会話がしたくなかったわけでも状況確認を怠ったわけでもありません。彼女と話している余裕がなくなってしまっただけで。

 

「な、何でここが分かった!?」

「…………」

 

 建物の屋上、スコープを覗き込んでよそ見をしながら隣のビルに着地したら、どうしたことでしょう。ヘルメット団の皆さんに囲まれてしまいました。

 見知った顔(ヘルメット)とマーク。今回私たちが討伐しようとしていた相手に他なりません。

 屋上には三人。スナイパーライフル持ちが二人、その護衛兼指揮官であろうアサルトライフル持ちが一人。彼らがここに狙撃ポイントを構えているということは、私が勘で適当に決めた合流ポイント地点も悪くない位置取りだったということでしょうか。

 この距離で本職ではないスナイパーライフルで、三人を相手に立ち回れるでしょうか。

 もしかすると他の人員も下から上がってくるかもしれませんし、やるなら早めに終わらせたいところ。いや、そもそも勝てるのかという問題もあるのですが。

 一番は他のビルに逃げ出すことなのですが、いかんせん既に囲まれてしまっている状況です。抜け出そうとしたところを集中砲火されて向こうのビルに届かず落下、なんてことがあったら流石のキヴォトスボディですら致命傷は避けられません。

 だとすると、どう足掻いても戦闘は避けられない。

 一年以上ブランクがある人間に一対多の戦闘をさせるなんてひどい話です。分が悪いことこの上ない状況ですが、やるだけやってみることにしましょう。

 戦闘、開始です。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。