見たか! 余はカッコいいであろう!   作:息抜きのもなか

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書き分けが上手くないのでわかりづらいけどミライさん視点。ミレニアムの人じゃないよ。
あと今回からカタネ→カタネ、リツカ→リツカなので逆に混乱しないように気を付けてください。


53.そうして決断は見送られる

 通信は、ずっと繋いでいました。

 だから何が起こったのかはすぐに理解することができました。

 

「カタネさんの容体はどうですか?」

 

 けれど私だけが彼女の傷だらけの姿を知らず、彼女の部屋にも入れないまま。

 だからこうして、憔悴しきったお二人に話を聞くしかありません。

 

 カタネさんが倒れた後の分派の様子は、どれだけお世辞で塗り固めても酷いとしか言いようがありません。

 自分が花羽リツカだと明かされてしまったリツカさんは、動揺も隠さないまま代役である自分がやらなければという一心でどうにか分派の音頭を取っています。

 ミタカさんの方も駆け付けてしまったがためにカタネさんの惨状を見てしまったようで、明らかに冷静な思考ができていないように見受けられました。

 そんな状態だとしても、持っている能力は素晴らしいものがありますから、何とかギリギリの状態で混乱は抑え込めている状態です。突如出現した赤い壁についても、カタネさんが倒れた後に輝き始めた上空の光も、どちらも見るな触れるなという周知を徹底し、色彩に暴露したのはトコさん含めて五人で済んでいます。

 

「正直、生きているのが不思議なぐらいだよ。二発目が入ったのがまずかった。一応分派にいる人間で応急処置としてやれることはやったけど、すぐにでも救護騎士団に運ばないと不味い状態っていうのは変わらないね」

 

 努めて冷静にそう告げるリツカさんは、目を泳がせながら度々こちらの様子を伺っています。

 寮の談話室に臨時で設置した首長室にはリツカさんとミタカちゃんに加え、戦闘部隊の隊長さん方と寮母さんがいます。私も部屋が使えるようになってからは自室からパソコンと寝袋をこちらに運んできて、事態が解決するまではここに居座る用意をしています。

 リツカさんがこんなに挙動不審なのは、トコさんの言動に加えて彼女自身がカタネさんの名前を叫んでしまったことで、彼女たちの入れ替わりが露見してしまったことが原因です。

 実際、この人数の分派でこの異常事態です。一瞬で分派内に情報は広がってしまって、本当は彼女が花羽リツカであるということはほぼ全員の耳に入っていても何らおかしくはない状況です。それに加えて彼女自身に分派の皆の事を騙していたという罪悪感も少なからずあるのか、はたまた最近トリニティ内で騒がれる『魔女』の話と自分を重ねてしまっているのか、彼女はこれから受けるかもしれない糾弾に怯えているようでした。

 

「ひとまず、今は小康状態ということですか?」

「全然そんなんじゃない。いつ死んでもおかしくない状態がずっと続いてるよ。ヘイローが壊れてないことはあの場にいた私たちが確認しているけど、ひびは入ってた。それもちょっとじゃなくてもう壊れるんじゃないかと思うぐらい。だから、もしかしたら、あの子は……」

(ここ)には点滴みたいなものもありません。なので、そういう意味でもなるべく早く意識が戻るのを願うしかない状態にあります」

 

 ミタカちゃんがリツカさんの言葉を補足して、現在の彼女が置かれている状況が厳しいものであることを再確認します。

 先程リツカさんが言っていたように、カタネさんの傷は本来ならば救護騎士団を呼ぶレベルのもの。いえ、ヘイローの話が本当ならば救護騎士団を呼んでも助かるかどうかという状態です。

 また、もし傷に対してなんとか峠を越えたとしても、点滴などが用意できない以上明確なタイムリミットは存在します。ミタカちゃんが言っているのは、傷がどうにかなったとしてもあの壁が壊れずに意識も覚醒しない場合、栄養失調で命を落とす可能性があるということなのです。

 

「今は誰が?」

「ミノワちゃんを。一応戦闘部隊の子じゃない子たちに交代でついてもらうつもり」

 

 彼女ですか。私が来る前、カタネさんとリツカさんの初陣の舞台で救出された子ですね。少しネジが外れている子ですがカタネさんに対する感情の大きさだけは本物ですし、交代までは大丈夫だと思いたいところです。

 しかし若干の不安はあります。リツカさんとカタネさんの入れ替わりが明らかになった件で、今までとは違って彼女に対する盲目的な信頼は崩れたと言っても過言ではありません。

 ミノワさんは良いとして、交代で付く子が彼女に対して献身的であると言い切れるでしょうか。また、今は暴露していないだけであの狂気の光の影響を受けてしまっているとしたら、トコさんのように本人の意思に反してカタネさんを攻撃する可能性だってあります。

 まだトコさんが正気に戻った理由も分かっていないのに、そのチェックが完璧にできるとは思えません。

 こんなとき、カタネさんならどう判断するでしょうか。

 そうやって思わず彼女の選択を考えてしまった自分に、随分と分派に毒されているなと呆れてしまいます。

 

「首長補佐、あ、ホントは首長なんだっけ? 彼女の容体はわかったけど、今はそこじゃなくて花羽リツカ、あんたのことじゃないの?」

「二人で入れ替わってたみたいだけどさ、この先どうするわけ?」

「それは……」

 

 厳しい言葉が飛んできて、耳が痛いのかリツカさんは目を伏せます。

 だからきっと彼女に声を掛けた二人の表情を見ることがなかったのでしょう。そこを見ていれば少しぐらいは違和感を覚えれたと思うのですが。

 このままリツカさんに沈んでもらっていても困るので、私は打ち明けてしまうことにしました。

 

「リツカさん、あなたとカタネさんのお二人が入れ替わっていることについては、それなりに前から皆さん気付いていますよ」

「へ?」

 

 目を丸くして、その顔がこちらを向きました。

 私の表情を見てそれが本当の事なのだと気付いて分派の隊長さんたちの方にも顔を向け、先程言葉を投げた二人を含めてその全員が気まずそうに顔を逸らしたため、口をパクパクとさせて状況の処理を拒んでいるご様子です。

 しかし正直なところ、バレたくないのであればもう少し普段の行動に気を使ってほしかったところです。

 分派内で話が広まったのは、私が分派に移動してきた後ぐらいだったように思います。

 私を捕まえていた組織との戦闘で入院していたカタネさんが退院後、試験を受ける際に二年の教室に向かったことがきっかけだったかと思います。

 

『なんで花羽リツカが二年でテストを?』

『二年生のはずのカタネさんが三年生の教室で試験受けてたって!』

『そういえばカタネさんってちょこちょこティーパーティーのとこ行ってるよね』

『リツカさんの方は逆に元ティーパーティーにしては対立しすぎじゃない?』

 

 戦闘部隊の人たちにとって決定的だった出来事は、アリウスの精鋭部隊と戦ったときのこと。

 もう終盤も終盤でそれを聞いた人数こそ少ないですが、ヘイローを破壊する爆弾がトコさんに向かって投げられそうになったときに咄嗟に彼女はリツカさんを本当の名前で呼んでしまいました。

 そして、彼女が意識を手放す前に全体回線で放った言葉。記録上では端末を触ったような形跡があるので、恐らく個人回線と間違えて開いてしまったものと思います。その言葉に込められた意味を考えれば、リツカさんがティーパーティーから来たことを指しているのだと理解することは難しくありませんでした。

 私自身は当時すっかり眠っていたので、それに気が付いたのはミタカちゃんから録画データを貰って分析と確認をしたタイミングになります。

 

「え、知ってた、って、ミタカちゃんはどうなの!?」

「まあ、はい。というか一番先に気付いて方針を決めたのが私ですし」

 

 そのミタカちゃんの回答に、リツカさんが心底驚いたように目を瞬きます。

 そうなのです。ミタカちゃんは私が分派に入ったタイミングで既にお二人の入れ替わりに気付いていたようで、その事実に気が付いた子に声を掛けては入れ替わっている方で呼んであげてほしいと頭を下げていました。

 私にカタネさんのことを名前で呼ばず『首長補佐』とだけ呼ぶようにアドバイスをくれたのも、実はミタカちゃんなのです。頭が混乱して咄嗟の時に間違えてしまいそうだったので、その助言にとても感謝したことを覚えています。

 その助言はそれなりの人数にしていたようで、お二人の入れ替わりに気付いた人はそのほとんどが首長補佐と呼ぶようにするか、あるいは話しかけないようにしようとするかのどちらかを選んだみたいです。

 その中でただ一人カタネさんのことを『リツカ先輩』と呼び続けたミタカちゃんは、個人的には結構すごいことをしていると思います。

 

「私が気付いたタイミングは、割とわかりやすかったと思うんですが」

 

 いくらあまり表に出ないようにしていたと言っても、桐藤ナギサの左腕という異名まであるので青いスナイパーライフルを持っているという情報以外にも少なからず情報は出回ります。

 その中で容姿やその行動に関するものが、ミタカちゃんが日々接する中で感じ取っていたカタネさんとはまるで違ったようで、最終的にフィリウス分派の人間に直接確認し、二人が入れ替わっている確信を得たみたいです。

 

『あの日あのお二人に道で投げた質問は、本当に単純な好奇心だったんですよ?』

 

 私がカタネさんに救出された日に店へ向かう時に投げた質問の事も、ミタカちゃんは私たちに説明してくれました。というか、彼女の行動の根拠がここにあったみたいです。

 最初に声を掛けたのはリツカ。

 その意味深な言い方にこれは本物のリツカさんの方のことを言っているのだなと察したミタカちゃんは、もしかしたら入れ替わりの経緯が分かるかもしれないとわくわくして当時の様子を聞いたみたいです。

 しかし、その回答を受けてミタカちゃんの考えは変わったのだとか。

 もしかしたらカタネさんはリツカさんが自身を象徴するその銃――すなわち立場を手放したくて入れ替わっているのかもしれないという仮説が思い浮かんたみたいなのです。

 だから、元々はカタネさんの偉業を伝えようとしていたSNSを、辰カタネを『花羽リツカ』で上書きするための道具として使い始めたらしいです。それはミタカちゃんなりの気遣いであり、本物のリツカさんを知る人たちに『花羽リツカ』の入れ替わりを周知することで分派の子たちの耳に入らないようにし、このことに気付かれないようにとの意図が合ったみたいです。

 想定以上の成果があって思ったより『花羽リツカ』の悪名が広がってしまったのはどうやら誤算だったようですが。

 

「というか、普通に去年のトコちゃんの件を覚えてる人は覚えてるしね」

「最近はサクラコさんと友達になったみたいで安心したよね」

 

 そもそも、今日最悪の形で起爆したというだけで、カタネさんとトコさんの間にはいつ爆発してもおかしくなかった爆弾があったのだと隊長を務めている方々は語ります。

 私もミタカちゃんも、リツカさんもその話は初耳で、カタネさんが自らトコさんを呼びに行ったことを知っている私は驚きを隠せません。

 だって、戦力になるからという理由だけで、自分のトラウマ相手に戦闘部隊への加入をお願いするなんて真似、なかなかできるものではないからです。ましてや、トコさんがもしそのことを覚えていたのだとしたら、去年の焼き直しが行われていた可能性すらあったのです。

 それこそ今日のように、彼女にとって最悪な事態が起こっていた可能性もあったはずです。

 

「リツカさん、決めて下さい。今後私たちはあなたを、なんとお呼びすればよいですか?」

 

 私は彼女に問を投げます。

 カタネさんの容体は、今の私たちには祈ることしかできないことです。しかし、カタネさんの名前の件については、彼女が本来の名前に戻すことを決めれば済む話なのです。

 しかしリツカさんは、どうやらそこを決めかねているようでして。

 

「それ、は……、あの子とも、話さなきゃいけない、ことだから」

 

 それがお茶を濁すためだけの言葉であることに気が付かないほど、この場にいる人間は馬鹿ではありません。

 その態度に苛立って一人の隊長さんがリツカさんを詰めようとしたところで、外を警戒していた部隊から通信が入りました。

 

『敵が現れました! 寮の敷地外に、ユスティナ聖徒会が出現しました!』

「――っ! 戦闘部隊、準備を!」

 

 リツカさんがすぐさま号令を掛けて、一気に状況が動きます。

 赤い壁での隔離から、ユスティナ聖徒会の投入。明らかに私たちを害する意思が感じられます。

 もしこれが色彩からの攻撃なのだとしたら、この壁の外に出られない私たちは、外の誰かがこの事態に気が付いて事態を解決してくれるのを祈ることしかできません。

 はるか上空に未知のエネルギー体があることを赤い壁のエネルギーを解析することで突き止めた私は、先生やそこに集まる生徒の皆さんがその異常存在に気付いてくれることを願うのでした。




難産でした。ウイポ新作が出たことはあまり関係ありません。ないったらない。
ちなみにミタカちゃんもミライさんも当初のプロットには存在してませんでした。何でこんな話の中核にいるのか私も分かっていません。
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