創作系の趣味が複数あると手が足りませんね。
59.そうして少女は手を伸ばす
目が覚める。
毛布に
押し付けたら押し付け返された、今の私の元凶。私の許に戻ってきてしまったそれはまたしばらくすれば、私に嫌がらせを始めるのだろう。
あの銃をナギサさまが私に渡した真意は、正直よくわからない。
孤立させて自分に依存させたかったのかもしれないし、単純な好意だったのかもしれない。
どちらだったにせよ、私には過ぎた代物だし、結果から見ればあの銃を貰ったことで私はこんな風になってしまった。
「最近のリツカ、変わっちゃったね」
「一緒にいてもつまんないから、友達やめよっか」
銃のせいにしていたけど、本当は私の努力が足りなかったせいだって、カタネちゃんを見ていると思わされる。
精神的に参っていた部分もあるのだろうけど、それを友人たちにぶつけるべきではなかった。
暗い話と愚痴しかしない人間のことを、人は好きで居続けるのは難しい。
ベッドの上を膝立ちで歩いて窓に近付き、カーテンを開ける。外には散歩に出ている人たちもいるのに、太陽はまだ姿を見せないまま。
光は見えず、春はまだ来ない。
カタネちゃん。私の光。
私とは比べ物にならない、純粋な優。
きっと彼女に対する勘違いが斜め上の方に行ったのは、彼女が人から注目されたくないと思っていたからなのだろう。その願いが根底にあったが故に、銃は彼女が注目される
彼女が小心者だという評価は、改めなくてはいけない。
あんなに強い人間が小心者だったら、私の心なんて塵芥のようなものだ。あれほどの勇気を、私は持ち合わせていない。
彼女のヘイローが壊れたとき、私はすぐにその身を案じなかった。
綺麗だ、と思ってしまったから。その笑顔が、空が、まるで物語の終わりを見ているような美しさを感じてしまって、私はただその光景を目に焼き付けただけ。
ミタカちゃんが寮を飛び出して駆け寄っていくのを見て、私はようやくカタネちゃんが危ない状態にあることに思い至った。周りの人たちは私があまりの衝撃に動けなかったのだと思っているようだったけど、私は彼女の心配をしなかっただけだ。
その罪滅ぼしとばかりに、私は毎日彼女の病室に足を運んだ。
カタネちゃんは当たり前のように目を覚まし、当たり前のように首長として振る舞う。
まるでそうするために生まれてきたかのような存在の彼女はあまりにも輝いていて、その眩しさに目を細めてしまう。
彼女はずっと、自分が分派に貢献できていないことを悔いていた。
正確には、大事な時に最後までやり抜けなかったことを、だ。私からすれば十分だと思えることも、彼女にとっては及第点ではなかったらしい。
その目標を達成した彼女は、一つ殻を破って迷いがなくなったように見える。自信が付いたのか、あるいは
あの時彼女が高らかに主張した『私を見ろ』という言葉が、耳に残って離れない。
彼女は、辰カタネはその行動と結果で自分を認めさせた。その献身で自らの価値を証明した。
――じゃあ、私は? 私は
そもそも、私はカタネちゃんの取捨選択をするためにプエラ分派に転がり込んだスパイだ。
しかもそこに立候補した理由がティーパーティーから逃げ出したかったからという不純な動機によるもの。膨れ上がった期待と自身と周囲の認識のズレに耐え切れなくなって、ここぞとばかりにあの場所を離れられる機会に飛び込んだ。
思えば、プエラ分派に転入できてしまった時点でこの運命は決まっていたのだろう。
私を見て欲しかった。『花羽リツカ』ではなく、私のことを。
だから場所を変えて、あの銃さえ持たなければ私を見てくれる人もいるだろうと考えて。
押し付けた相手が監視対象だったのは、あまりに想定外が過ぎたけれど。でも一目見て挙動不審な小心者だと判っていたから、安心して押し付けられた。
彼女は私を恨まなかった。それどころか外に引っ張り出したことに対する感謝すら口にした。
そのことが私の心を苦しめた。
いっそ恨んでくれたら、暴言でも吐いてくれたら、彼女が私のしたことに激高するような人間でいれば、私は諦められたのに。
辰カタネが無害であると判断した時点で、手を引くべきだった。
そうすれば私は自分の心に刻まれた傷を見て見ない振りをしながらティーパーティーの一員であり続けられたはず。居心地のいい
でも、見ていたかったんだ。
ただ発揮する機会がなかっただけで埋もれていた才能が開くところを。自分が引き摺り出した原石が輝くところを。
その輝きが想像を遥かに突き抜けて、目を焼かれることになってしまったけど。
そういえば、みんなの水を差すようで言えなかったけれど、空に浮かぶあの光は、みんなには見えていないのだろうか。
まるで全部解決したかのような口ぶりで語るから、まだあの光が私たちを見下ろしていることに気が付いていないのかと思ってしまう。
もしそうだとするならば、あの光は何を企んでいるんだろう。
私にしか見えないように隠れるなんて、私に何か用事でもあるんじゃないかと思ってしまう。
いや、逆に私がオオカミ少年だから誰も私の話など聞かないと思っているのかもしれない。信用されていないから私にいくら姿を曝したとしても問題ないのかも。
悔しいな。でも仕方がない。
カタネちゃんは何もできていないと言いながら皆にみんなに影響を与えていたけれど、本当に何もできていないのは私だから。
書類仕事はカタネちゃんにやらせた方が早いから任せきりだし、戦闘面でも役に立ったのはアリウスの精鋭と戦ったときぐらい。あれも私の実力というよりは銃のふざけた性能の配分が大きい。
上手くできなくて、取り乱して、人任せにして、それでもカタネちゃんほど結果を求めれない。
結果が出るのが怖いから。自分の実力以上の結果と評価が私の首を見えない手で絞めつけてくるのが怖くて、結果なんて出せないことがもう十分にわかっているのに動けない。
『花羽リツカ』の功績は間違いなくカタネちゃん自身のもので、私がもし同じ立場に立っていてもできたことは書類仕事ぐらいだろう。きっと、二倍ぐらいの時間を掛けてしまう気がするけれど。
空を仰ぐ。
青がどこまでも広がっているその中に、目を灼くような光が二つ見える。
その眩しさに目を細め、手を伸ばして覆い隠す。少しだけ、頭の痛みがマシになった気がした。
ふと簡単なことに気が付いて、私はスナイパーライフルと一枚の書類を提げ、ティーパーティーに向かうことにした。