見たか! 余はカッコいいであろう!   作:息抜きのもなか

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視点戻ってカタネ(主人公)です。


08.そうして意図は広められる

 お母様、お父様、以前お化け屋敷に連れて行って下さったことを覚えていますか。

 子供騙しのそれと思っていた当時は仕込みなしの本物の怪異が発生する遊園地に連れていかれるとは思ってもみませんでしたが、今となってはまさか当時の経験が活きると思いませんでした。

 

 ええ、そうです。お二人から学んだ廃墟の歩き方、なぜか実践の機会に恵まれております。

 崩れかかった足場の見分け方。どうしても歩かなければならない際の体重のかけ方。子供の時と体重に大きな隔たりがあるので思うようには歩けておりませんが、未だ廃墟の亡霊には成らずに済んでおります。

 先ほどシミコさんが盛大に危険な足場を踏み抜いて壁の一部が崩落するという憂き目こそありましたが、五体満足で階下に歩を進めております。

 そう、このシミコさん、どうやら何を間違えたか上階に向かってきてしまっていたようなのです。警備や見張りを避けるうちにあれよあれよといううちに屋上付近まで来てしまっていたとか。

 タイミングが悪ければ人質()を取られていたのはこちらだったかもしれませんね。

 そう思うとほんの少しばかり運が良い気さえするのだから不思議ですね。一人で敵地に飛び込んでしまったことが幸運であるはずはないのですが。

 

「その角を右に曲がったところに、牢のようなものが誂えられた部屋がありました!」

 

 一度危機に瀕してから私が先導する形で歩を進めておりますが、建物の構造などは私にはわかりませんから、シミコさんがここまで伝って来た道を戻るような形になります。

 先の崩落の一件で随分とおっかなびっくり歩くようになってしまっておりますが、シミコさんがここまで登ってこれたようにそこまで建物自体に危険な場所は多くありません。あってもワンフロアに一か所程度でしょうか。

 ここまで歩くまでに後ろから襲われなかったことを考えると、シミコさんは本当にトリニティの生徒さんかもしれません。少なくとも武器は有していないことは間違いないようで、私の背中にぴったりとくっついて動きを鈍らせてくる以外は特段疑う余地はないように思います。

 まあ、腰が抜けていた子もいましたし敵に回すと自分の身が危ないと思っている可能性も否定できなくはないですが、私が悲しいのでその選択肢は切り捨てておきましょう。

 

「開きました」

 

 見張りっぽい子が持っていた鍵を回せば、扉が開錠を告げるように手応えがなくなりました。

 袋叩きコースを避けるため、念のためシミコさんを前に置きながら部屋に侵入します。

 後ろ手に扉を閉めながら部屋の中を確認しますが、待ち伏せの心配はなさそうです。誰かが這い出てきそうな穴や隠れ場所もなし。奥に設置された牢も格子で構成されたもので、見通しは万全です。

 部屋にあるのは見張り用の机と椅子、見張りが時間つぶしに読んでいたであろう漫画の山とスナック菓子の残骸、飲みかけのペットボトル、脱ぎ捨てられたジャージ類。鍵の管理はしっかりしているのか、壁に鍵掛のようなものは見当たりません。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 牢の奥に人影を認めたシミコさんが格子の方に近付いていきます。

 部屋の奥に二つある牢の左側、トリニティの制服を着た子が牢の奥の方で震えていました。意識はあるようで、ヘイローも見えています。

 牢の右側には折檻中のヘルメット団員でしょうか、ジャージを着てヘルメットを被った子が倒れています。いえ、ヘイローが消えているところを見るとどちらかというと牢に放り込まれたけど寝ているだけかも。身内に気絶するまで何かするとは考えにくい気がしますし。

 鍵は束のようになっていたので、この部屋の鍵が含まれていたことを考えると、どれかはこの牢の鍵かもしれません。

 

「い、今ここを開けて助けますからね!」

 

 シミコさんが励ますような声を牢の奥にいる子に掛け、牢に身を預けながらこちらを見ます。

 そんな顔をされるとやりづらいことこの上ないのですが、すくなくともトリニティの制服を着ている子は私たちプエラ分派のターゲットもとい誘拐された子ではなかったようです。

 やけに準備が良いので別分派にも手を出しているかもと思っていましたが、シミコさん同様に捕まっている人が居るところを見ると、犯行声明がまだ出されていないだけでそれなりの数の分派に喧嘩を売っている可能性が出てきましたね。

 そう考えると、ここで助けて恩を売るのも悪くはない選択肢なのですが、助けたことで面子を潰されたと言われる可能性も捨てきれません。うーむトリニティの政治は面倒です。

 私の反応が歯切れが悪いのを見て、牢の中にいた子が牢のこちら側に寄ってきます。そして後ろ手に縛られたまま牢の前で膝立ちの姿勢で、私に涙ながらに訴えてきました。

 

「あ、あの私、突然攫われて、一体なんだか分からなくて、あの、助けに来ていただいたんですよね!? お願いです! 解放してください!」

「……名演ですね」

 

 素直な感想が私の口から零れました。

 やはりトリニティの生徒はすごいです。本当は内心「はやく助けろよこのクソボケが」とでも考えて荒れ狂っているでしょうに、ここまで情に訴えることができるというのは流石としか言いようがありません。

 シミコさんは慌てふためいていただけでしたが、まだ一年生なので、その辺りの演技力がまだ磨かれていないのでしょう。そこは先輩として大人しく目を瞑っておくことにしてあげましょう。

 私の言葉に牢の中の子がびくっと肩を跳ねさせました。そこまで冷えた声音ではなかったと思うのですが、怖がらせてしまったかもしれません。

 本当に本心からの誉め言葉なのですが。

 

「ええと、それは、どういう……?」

「そのままの意味です。純粋に感心しているんです」

 

 少し会話に慣れて来たでしょうか。人間らしい話し方が戻ってきたような気がします。

 まだ緊張と抵抗が抜けないので少し硬い気もしますが、これであれば要らぬ誤解を生じさせることはないでしょう。怯えさせるような真似はしたくありませんからね。

 そう思っていたのですが、シミコさんは訳が分からないと言った様子で、牢の中の子は目を瞬いた状態でお二人とも固まってしまっています。牢の中の子は若干体が強張っているように見えるのは気のせいでしょうか。

 まあ、何にせよトラブルの元なのは間違いないのでその子は後回しにしましょう。どこの分派の人かもわかりませんし、私たちの用事が片付いた後に戻ってくるでも十分なはずですから。

 

「えっちょっ、何でそっちを開けるのさ!」

 

 おやおや、お嬢様言葉が崩れてしまっていますよ。

 私が彼女がいる牢とは逆、ヘルメットをした子が転がっている方の牢の扉の前に立てば、抗議の声が上がってきました。

 一応明確な理由はあります。しかし態々それを語ったところでくだくだと不満を垂れ流されるだけと分かりきっているので口にはしません。

 これからこの牢の中で寝転がっている子に対して尋問をするのです。

 内容はもちろん、プエラ分派の攫った子をどこに繋いでいるのか。こういうのはやはり無暗矢鱈に探すよりも内部の人員に聞いて案内してもらう方が早く済みますから。

 

「その子のヘルメットを取ってください」

 

 何本か鍵を試してようやく錠が開いたので、分からなくならないように使った鍵を外す作業をしながらシミコさんにそうお願いをします。

 特に深い意味はありません。

 ただなんとなく、尋問されるときに普段自分の素性を隠すヘルメットを取られた方が心理的に圧迫感があるかなと思っただけなので。いつも悪いことをしている時は自分の頭部を覆ってくれているヘルメットが、いざというときはそれがあるべき場所にないという状況は、なかなか彼女たちにしてみれば不安になるのではないかと思うのです。

 後から聞いた話ですが、私のこの行為はヘルメット団的には禁忌の行いだったようです。ブラックマーケットに出入りすることもあるため、顔が割れて素性がバレるというのは取り返しのつかない事態になる可能性があるのだとか。

 シミコさんは私の言葉にその意図を図りかねているようでしたが、動いてくれました。牢の中に転がる彼女を起こさないようにその脇に座り込んで、部屋に転がっていたジャージで腕を拘束し、そのヘルメットに手を掛けます。

 

「お、おい、やめろ、危ないって!」

 

 もうお嬢様口調など忘れたのか、隣の牢から抗議の声が聞こえてきますが、関係ありません。

 私が鍵束から牢の鍵を外すのとほぼ同じくして、私の指示に未だ困惑した様子のシミコさんが床に転がった子のヘルメットを外し終わりました。

 その顔を確認した瞬間、私の思考はフリーズしました。

 それでも反応が間に合ったのは、彼女が解けるぐらいの緩さとはいえ後ろ手を縛られていたことが大きいでしょう。シミコさんに向けた時の反省を活かして、ちゃんと狙いを定めましたから。

 

「え?」

 

 シミコさんが、驚愕に目を丸めました。

 彼女の眼には突然、私が隣の牢のトリニティ生を突然撃ち抜いたように映ったでしょうから。

 

「クソッ、なんで、バレた……」

 

 ようやくリツカさんのスナイパーライフルのコントロールに慣れてきました。とはいえ、クリーンヒットしたのはまぐれのところが大きいですが。

 脳天を撃ち抜かれた彼女は悪態を吐きながらドサリと牢の床に転がって、倒れ込んだ際にその衝撃で意識を手放したのかその後頭部からヘイローを消失させます。解かれたロープと床に転がったハンドガンを一瞥してその脅威が無力化されたことを改めて確認を終えてから、私は足元に転がる少女の許に腰を落としました。

 シミコさんが行ったジャージによる拘束を解き、その肩を揺らして意識の覚醒を促します。

 その目的を尋問から切り替えたことで、先の予定より随分と優しく行われることになりました。

 

「んむぅ……」

 

 ゆっくりとその瞼が開かれて、微睡んだ瞳が私を捉えます。

 その瞳の色を確認して、私は自分の判断が間違いでないことを確信しました。

 私は努めて穏やかな声音で、彼女に問います。

 

「あなたが、牧本(まきもと)ミノワさんですね?」

 

 ヘルメット団に連れ去られたプエラ分派の少女は、コクリと私に頷きを返しました。




何か暢気に寝ている子がいたからいたぶって話を聞こうと思ったら、その子が探している子だったという。
先にヘルメット外しておいて良かったですね。主人公たぶん結構容赦ないやり方で「お話し」する気がするので。
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