見たか! 余はカッコいいであろう!   作:息抜きのもなか

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キリがいいとこまで書いたのでいつもより少し長めです。


09.そうして罪人は裁かれる

 お母様、お父様、どうして子供のあやし方を教えてくれなかったのですか。

 まあ、親戚に子供が生まれたわけでもない当時中学生の私にそんなことを教えたところで何になるという話ではあるのですが。

 

 とはいえ必要な事態に陥ってしまったので、どう応じればいいのか誰か教えてください。

 いきなり泣きつかれて、縋りつかれてはどうしようもありません。

 

「私、怖くでぇ! いぎなり連れてかれて、分派の人が助げてぐれるなんて、思っでなくて……」

 

 安心したのか、涙と鼻水のバーゲンセールです。ぐしゃぐしゃにしちゃって、かわいい顔が台無しになってます。

 同じ分派の人間と分かったのは、私がプエラ分派独自の制服を着ていたからでしょう。あまりいいことないと思っていたのですが、たまには役に立ちますね。

 はい、現実逃避です。どう対処すればいいのかわからなくてフリーズしているだけです。

 言葉もかけず、ただ背中をさするぐらいしかできません。

 

 さて、目の前のどうにもできないことは棚に上げて、現状を整理しましょう。

 決して見抜いていたわけではないのですが、何やら人質に化けたヘルメット団員が罠を張っていたみたいです。確かにシミコさんはヘルメット団の服装をしていましたし、その可能性も考慮に入れておくべきでした。

 尻尾を出した瞬間に撃ち抜けたのは、ヘルメット団だと思っていたミノワさんが暴れださないか構えていたからなのですが、シミコさんの反応を見る限り変な誤解が増えているような気がします。あまり言いふらさないように口止めをしておかないとですね。

 

「でももう寝顔を見られぢゃったじお嫁に行げません……、貰ってくだざい……」

 

 変なことを言っている子は無視しましょう。

 これからやることはこの建物からの脱出が最優先事項で、次点で他の部屋にいるかもしれない人質の解放となるでしょうか。

 できることなら、人質のお二人の荷物の回収しておきたいですね。複数分派の生徒が攫われているならば、正義実現委員会が出てくる可能性が高くなりますから。治安維持部隊に押収された品は問題がなくともそれなりの時間は取り出せないことも多いですし。

 ひとまず、本隊の方に連絡を入れておきましょうか。

 

「…………」

 

 繋がりません。

 故障でしょうか。あるいは、妨害電波でも出ているのかもしれません。

 そう思って端末をよく見てみれば、一部が(ひしゃ)げてしまってします。屋上での戦闘の際にそこそこ攻撃を受けましたし、当たり所が悪かったのでしょう。画面の操作はできるみたいなのですが、通信は一向に繋がりません。

 仕方ないので連絡は諦めて、本来の目的遂行に戻ることにします。

 まずは隣の牢で転がっているヘルメット団の子の身ぐるみを剥いでミノワさんを着替えさせました。脱がして確認してみたところ、刺繍などの意匠が同じところに施されていたのです。ブラックマーケットで入手したものではなく、人質の子のものをヘルメット団は着ているようです。

 そうなるとシミコさんの制服は本隊に潜入していた方が着ていたものの可能性もありますね。通信が回復したらリツカさんに回収をお願いしておきましょう。

 

 部屋を出て、警戒をしながら建物を降り始めます。

 ヘルメット団の方が持っていたハンドガンはミノワさんに持っていただきました。彼女の銃ではないのですが、何かしら自衛の手段があったほうがいいですから。

 あと、シミコさんが積み上げられていた漫画の山を抱えて「私はこれで!」と宣言したこともハンドガンがミノワさんに渡った原因の一つです。ちょっと変じゃないですか、この子。

 部屋を小窓から覗いたり少しだけ開けて中を見たりしながら他に捕まっている人や押収品置き場がないか確認しながら進みます。

 いくつか部屋に入った後で今更なのですが、いきなり開けて頭だけ出すってなかなか危険じゃないでしょうか。扉が少し動いた瞬間にこちらに狙いを定めていたらヘッドショットを貰いかねませんし。

 ということで、次から扉を開けるときは一応ノックをすることにしましょう。ハチの巣にされるのは嫌ですからね。

 

「ん、誰だ?」

 

 そんな理由でノックを試してみたら、あら残念。中に誰かいるようです。

 私は後ろに続く二人に静かにするように人差し指を立てると、扉に耳を当てます。足音か何かで人数を判断していけそうなら制圧しようと思ったのです。残しておいて後ろから攻撃されるみたいなことがあっては困りますからね。

 ノックの音だけして何の反応もないのが気になったのか、中から椅子を引くような音が聞こえてきました。廃墟なので扉も薄いのだとおもうのですが、足音は一つだけのように思えます。

 これは突破してもいいかもしれませんね。

 足音が扉に近付いてきて、扉に耳を当てずともわかるよう近さになったので、扉の脇に一旦下がります。開けたときに目の前にいては気まずい時間が生まれてしまいますからね。

 

「おいどうした? 誰かいるんじゃないのか?」

 

 若い声。大人のそれではないようなので、やはりヘルメット団の方でしょうか。

 しかしこの横柄な態度は少し気になります。もしかすると幹部の人だったりするでしょうか。それは勝てるか怪しいので遠慮願いたいところです。なんだかんだヘルメット団は叩き上げみたいなところありますから。

 一応手元の端末でSNSのアカウントに写っている幹部たちの写真を開いておきます。まあ皆さんヘルメットをしているので顔は見えないのですが、色と模様が違うので判別はできるでしょう。

 扉が開かれます。

 相手が顔を出すよりも早く、先手必勝、奇襲を仕掛けます。

 

「ぐぉっ! なんだお前!」

 

 体当たりして押し倒し、マウントポジションを取ります。手に持つ銃は叩き落として蹴飛ばしたので、注意するべきは自爆覚悟の手榴弾や隠し持ってるハンドガン、あとはナイフなんかも怖いですね。

 その喉元に銃を突きつけ、抵抗の意思を奪います。(ひたい)じゃないのはヘルメットが邪魔だからですね。やっぱり生身に当たるほうが痛いですから。

 

「その制服、トリニティのやつらか! ああクソ! 見張りは何してやがる!」

 

 この物言い、そしてこのヘルメットの色、もしかするとこの人、まさか団長さんでしょうか。その割には抵抗する力が弱いのが気になりますが。

 私が彼女を制圧したのを見てシミコさんとミノワさんが部屋に入ってきます。

 それを見てヘルメット団の団長さん(仮)は「人質も解放されてるじゃねぇか、くそっ」と悪態をつきました。当然の反応と言えばそうなのですが、やはり上の方にいる人の雰囲気がありますね。

 

「あなたが……っ」

 

 直接聞こうとしたんですが、思いつかなかったので中断。なんて聞けばいいんでしょうか。

 あなたが団長ですか、と聞いたら保身のために首を横に振るかもしれないし、あまり有効な質問だとは思えません。かといって別のことを聞いてもそれはそれで意味不明なので、その先の言葉が見つかりません。

 そんなことを考えていたから力が緩んでいたのでしょう。

 突然グイっと体を持ち上げられ、そのまま横に叩きつけられます。

 それを受け身を取った勢いのまま立ち上がり、距離を取ります。暇だったのでベッドの上でかっこいい受け身をしこたま練習していたあの時間が活きる日が来るなんて。

 団長さん(仮)の方を見れば、やはり隠し持っていたのでしょう。シミコさんの方にリボルバーを向けてこちらを睨んでいました。

 

「来いよ! ワナワナヘルメット団の団長である俺様が相手してやんよ!」

 

 団長さん(確定)が怒号を上げます。耳がキンとするぐらいの音量です。

 もしかすると今の声を聞いて下から団員が上がってくるかもしれません。撤退か、撃破か、どちらにしろ迅速に行わなければいけないことに変わりはありません。

 しかし私は部屋の内側に投げられてしまっていて、ミノワさんも団長さんの方が若干扉に近い位置。シミコさんは唯一すぐ外に出られる位置にいますが、彼女は丸腰も同然です。ミノワさんの愛銃が何かはわかりませんが、いきなり渡された銃だと調子が出ないでしょうし、第一何人かのヘルメット団に捕まっているぐらいなので団長さん相手だと戦力として期待はできません。*1

 どうにか気を逸らして撤退が楽な気がしますが、何をすればいいのやら。

 

「あ、あの本! 私があの時持っていたやつですね!」

「テメェのだったか! だがあれはもう俺様のもんだ!」

「なっ! 図書館の本ですよ! ちゃんと返してください!」

 

 シミコさんと団長さん(確定)が何やら言い合いをしていますが、机に置いてあるあの分厚い装丁の本のことでしょうか。

 団長さん(確定)がこちらを見ていないのを確認してその机に忍び寄り、ひょいとその本を拾い上げます。『大きなのっぽの王子様』というのが表題でしょうか。確か少し前に話題になっていた本だった様な気がしますね。確か、ふざけたタイトルに見えるようだが蓋を開ければ背の小さい主人公と年上の高身長の男性との純愛の物語、というような触れ込みだったような。

 あ、え、シミコさんはまだしも、団長さん、そんな態度なのにこんな嗜好があるんですか?

 

「ふふ……」

 

 思わず笑みが零れてしまいます。

 だって、なんだか面白いじゃないですか。不良の親玉をやっているのに、その実年上の格好いい男性との恋愛にあこがれているなんて。かわいいところもあるものですね。

 自分の口角が上がってしまっているのがわかります。

 まあそれはそれとして、さっさと突破しないとですね。

 

「ヒィッ!」

 

 何だか怖いものを見たような声を上げた団長さん(確定)の動きが鈍ったのを見て、その懐に入り込みます。

 護身用のハンドガンの残り弾数が心配ではありますが、近くならこちらの方が扱いやすいので、すれ違いざまに腹に二発撃ち込みます。

 その際に何発か貰ってしまいましたが、一旦シミコさん側に来ることに成功しました。痛い。

 目は団長さん(確定)に向けたまま無言でシミコさんに先ほどの本をお渡しし、視界の隅でミノワさんがゆっくり扉の方に移動を試みているのを認めた私は意識をこちらに向けるために団長さん(確定)に話しかけます。

 

「なぜ、プエラ分派を?」

 

 単純に疑問だったので、投げかけてみます。

 宣戦布告自体はトリニティに向けてされたものでしたが、基本は人質になった分派の方々が対応するのが常です。いえ、正義実現委員会が動く方が多いのですが、それは主要分派の方々であればティーパーティの権限を使って正義実現委員会を動かすことができるからです。

 それ故に主要分派以外は恩を売られる形になるのを飲み込んで正義実現委員会に頼むか、自分たちの戦力だけで対処するしかありません。それに、主要分派以外はあまりお金を持っている家が多いわけではないので、法外な身代金には対応できないのです。なので、トリニティ生を誘拐する際は主要分派か、あるいは無所属でないと旨味がないというのが共有認識になっているようです。

 誘拐するにあたってトリニティを調べれたのであれば、そのぐらいはわかっているはずなのですが、まさか「トリニティ生=全員金持ち」みたいな軽率な判断で事を起こしたのでしょうか。

 だとすると、トリニティの中ではちょっとおつむが弱い軍団であるプエラ分派の皆さまが可愛く思えてきますね。

 あ、ミノワさんが扉の近くに辿りつきました。

 その位置であればすぐに逃げ出すことが可能でしょう。

 

「……もういいです」

 

 時間稼ぎの必要がなくなったので、答えを渋っていた団長さん(確定)に向けてそう言い放ち、リツカさんの青い銃のトリガーを引きます。

 私はそれを合図にお二人に部屋の外に逃げていただくつもりだったのですが、着弾音と共にパリッと何かの割れる音がして、悲鳴が響き渡りました。

 見れば、私の放った銃弾がヘルメットのシールド部分――顔の前面や目を守る部分――に吸い込まれて、割れてしまったようです。キヴォトス製のヘルメットなら銃撃戦に対応して丈夫に作られているはずなのですが、古いものだったのでしょうか。あるいは、単純に運が悪かっただけか。

 団長さん(確定)が悶絶しているのは、恐らく割れたシールドが目に触れてしまったのが原因でしょう。キヴォトス人ボディですから眼球が傷ついたり失明したりということはないと思いますが、眼球を指で触れるとめちゃくちゃ痛いのは変わりませんから。想像するだけで痛いですね、可哀そうに。

 その悲鳴の裏で、複数の足音が近づいてきているのを認め、私は二人に警戒を促します。

 

「動くなァ! 正義実現委員会だァあああ!」

 

 飛び込んできたのは、正義実現委員会の委員長、剣先ツルギ。ええ、いかに引きこもりであろうと、さすがに知っていますとも。

 予想していたよりもずっと早いその到着に驚きつつも、私は向けていた銃を下ろします。

 リツカさんはティーパーティーに所属していたと言っていましたから、もしかしたら私の知らないところで伝手を使って呼んでいたのかもしれません。

 しかし正義実現委員会が到着してしまったとなると、持ち物の回収は諦めるほかありませんね。

 残念ではありますが自分で取りに行ってもらうことにしましょう。私はついて行きませんよ。あんまり上手く話せる自信がないですし。

 

「目的は果たしました。あとはお任せします」

 

 うん、少しずつ話せるようになってきていますね。

 人質の子は分派――といっても私一人だけですが――の力で回収できましたし、作戦自体は成功と言っていいでしょう。面倒な後処理や外までの安全確保はお任せできますし、そう思うといいタイミングで来てくれたかもしれません。

 そう思っていたのですが、脇を抜けようとした私をツルギさんがすごい険しい視線を向けてきます。正直言ってハチャメチャに怖いですが、先ほどまで動いていたはずの表情筋がサボータジュを始めてくれたおかげで冷静な自分を取り繕ったまま「何か?」と返すことができました。

 ツルギさんの目が細められます。私たちは初対面のはずなのですが、何だか随分と(いぶか)しがられているような気がします。

 そして団長さん(確定)が悶える姿に一度目を向けてから、再び私に目を戻しました。

 

「私刑はあまり感心しない。その激情の使い方を間違えるなよ」

 

 激情? はて、何のことでしょう。

 団長さん(確定)のシールドが割れてしまったのはかわいそうだとは思いますがわざとではありませんし、私刑も何も牽制に撃った弾がたまたまそこに入ってしまっただけなのですが。

 

「知りませんね、そんなことは」

「……過ぎたことをすれば、私がお前を連行する」

 

 ツルギさんはそう言いおいて、団長さん(確定)の方に向かっていきます。私も話は終わったと判断して部屋を出ました。誤解が解けていなさそうなのは、少しばかり怖い部分がありますが。

 後詰めの正義実現委員会の人が向かってきていたので、その対応はシミコさんにお任せします。というか、なんか勝手にやってくれました。おしゃべり好きなのか、はたまた私ではダメだと思われたのか。

 ミノワさんはといえばどういうわけかぽわぽわした雰囲気で頬を染めています。意味が分かりませんね。

 

「そんなに私のことを思ってくれるなんて……」

 

 何やら変なことを呟いていますし、私が前を歩いている間にシミコさんにさっきの本を貸りて読んでいたのでしょうか。そこまで読み進められる時間はなかったと思うのですが、ものすごい速読ができるのかもしれません。

 結局、建物を出るまで特に何か起きるわけではなく、ところどころ正義実現委員会の人に縛られているヘルメット団の方々を横目で見ながら通り過ぎました。

 建物を出たところで正義実現委員会の人といたミタカちゃんと合流し、ミタカちゃんと別れてからのこちらの状況を報告します。

 

「聞きましたか!? リツカ様はすごいんです!」

 

 そう目を輝かせるミタカちゃんは置いておいて、彼女から通信機を借りたのでリツカさんの方にも人質は解放したと連絡を入れます。

 リツカさんたちは温泉開発部の方とまだやりあっているようで、終わったのならこちらに向かわせた部隊と合流して手伝ってほしいとのことだったので、それを了承します。

 シミコさんとミノワさんは誘拐された被害者ということで連れて行くわけにもいかず、正義実現委員会の方に預けておきます。ミノワさんはついて来たがっていましたが、まずはその身を休めてくださいと言い聞かせて留まらせました。

 シミコさんにはお礼がしたいので図書館に来てくださいと言われてしまったので、どこかのタイミングで顔を出すことにしましょう。……少し調べたいこともありますし。

 さて、もう一仕事、頑張りましょう。もう既に今日は半年分ぐらい動いた気がしてますが。

*1
セリカでさえ捕まっているので多分普通は無理。




めちゃくちゃ濃いキャラ付けをされてしまったミノワちゃんですが、恐らくもう出番はない。
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