海賊だから踊ろうぜ   作:ヘビとマングース

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序幕
“少年X”


 海に浮かぶ小さな島。

 その島の奥にある高い山に小さな農場があった。

 

 住んでいるのは変わり者の老人。

 巨大怪鳥がどこぞから攫ってきた子供。

 老人に頭をぶん殴られてからめっきり大人しい巨大怪鳥。

 大きめの犬が一匹と鶏が数十羽。

 

 暖かい春島ではあるが朝方には山の上は霜が降りるほど空気が冷たくなり、そうした環境を利用して野菜を作っている。

 老人と子供は農家として暮らしていた。

 

「タロオ、変なん落ちとった」

 

 タロオは赤ん坊の頃に巨大怪鳥に攫われてこの島に来た。今年で十二歳になる。

 背がぴんと伸びた、髪とひげが白い老人に育てられたのだ。

 農業を手伝い、金はあまりないが自給自足の生活に不満はなく、毎日を仕事と生きるための活動で満足に健康的に過ごしていた。

 

 タロオという名前はセンスがないと思いながらも、町に降りる機会は少ない。どうせ呼ぶ相手はじいちゃんだけだからいいか、と一応納得してはいる。

 じいちゃんとの家族関係は良好であり、タロオは彼の影響を多分に受けて成長していた。

 

「変なんってなんだ?」

「畑に落ちとった。わし、こんな野菜作った覚えがねぇんだが」

 

 じいちゃんが抱えていたのは奇妙な見た目の果実であった。皮の全体に不気味な文様が刻まれているが人の手で付けたようには見えない。生まれた時にはこうだったのだろうか。

 決して気持ちのいい外見ではなく、タロオは思わず顔をしかめた。

 

「これ野菜っつーか果物じゃねぇべか?」

「果物も野菜もほとんど同じだべ」

「いやんなこたねぇべ。果物は甘いし野菜はメシだ」

「まあどっちでもいいだろ。そんなことよりこれ食べてみろ」

 

 それが農家の発言か、とは思うが敢えて口にはしない。

 そういった突飛な発言は日常茶飯事。タロオはじいちゃんを変わり者だと思い込んでいる。

 

 ずいっと差し出されてまさかと思った。

 血の繋がりこそないがそんな不気味な物を我が子に食わせようというのか。

 だから変人だなどと町で噂されるのだとタロオは憤りを露わにする。

 

「これ食えるもんじゃねーだろ。どう見てもダメな果物だべ」

「んなことねぇだろ。ちょっと皮が変わっとるだけだで」

「きっと中までこんなんだぞ。碌な味なんかしねぇ」

「食ってもねぇのにんなことわかるわけねぇだろ」

「んならじいちゃんが食ってくれ」

「バカ。老い先みじけぇのに死んだらどうする」

「ジジイ、オラが死んでもええって言うんか」

「んなこたねぇが気になる。とにかく食ってけれ。死にかけたら吐き出させてやるから」

 

 なんて親だこのジジイ。そう思いながらも一度言い出したら言った通りになるまで行動し続けることで有名な男だ。子供の方がまだ聞き分けがある。あいつには近付かない方がいいと囁かれるのも当然であろう。

 台所へ向かうじいちゃんは果実を切ってみようとしていたようだ。

 

 おそらく自分が食わされることになる。

 見過ごすことはできずにタロオはじいちゃんの背を追いかけた。

 

 一足先に到着していたじいちゃんは素早かった。

 包丁を手にして迷わず振り下ろす。ダンっと無駄に音を響かせて、まな板の上で不気味な果実は真っ二つになっていた。

 

「ほれ、見た目は意外とジューシーだべ。こりゃうまいぞ。きっとうまい」

「んならじいちゃんが食え」

「わしこの見た目好かん」

「クソジジイ」

 

 悪態をつくのだがその程度は慣れている。

 じいちゃんが指で摘まんで果肉を差し出してくるため、嫌々ながらもタロオは素早く、食べてみる決意を固めるしかない。結局は恐る恐る口に入れた。

 

 舌に乗せた時点で嫌な予感がして、反射で吐き出しそうになってしまう。

 必死に耐えている間に舌の上で転がり、意を決して軽く噛んでみると、より確実な実感を得る。

 

「まじぃいいいっ……!」

「やっぱ無理か。そんな気はしとったんだ」

「じいちゃんも食え! なんでオラだけ食わなきゃいけねぇんだ!」

「断る! まずいものなんか口に入れたくもねぇ!」

「こんのクソジジイがっ!」

「わし! クソジジイって言われてみたかった! むしろ本望だ!」

「なに開き直っとんだ! いいから食えっ!」

 

 じいちゃんが素早い動作でタロオの口の中へ果実の一部を放り込んだ。

 腹を空かせた巨大熊を一撃で気絶させて、威圧的なチンピラを血祭りにして撲殺しかけた男だ。隙だらけの子供に不味い果実を食わせるくらいわけはない。

 

「まじぃいいいっ⁉」

 

 突然、家がわずかに揺れた。

 机や皿がカタカタ動いて、足元が少し不安定になる。

 じいちゃんは膝をついて口元を押さえるタロオは心配せずに、まず最初に棚の食器が落ちていないかを確認した。

 

「地震か。珍しいな」

「地震よりその果物の方がよっぽど怖ぇ……」

「うーむそこまで言うならなんか使い道ねぇべかな。量産は無理か? ちょっと植えてみるべ」

「無理だろ! っつーかやめろ! そんなもん増やすな!」

 

 タロオは存外元気そうだった。

 不味い果実を食わされても特に体調の変化はなく、その後も今まで通りの日常を送る。

 変わったことなど不味い果実を食べた以外になくて、少なくともしばらくは、一度の地震も起こらずに平穏な毎日が続いていた。

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