海賊だから踊ろうぜ   作:ヘビとマングース

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海賊万博
みんな一緒に遊ぼうよ


 それはある日突然、人々に見せられた。

 

《グランドラインのクソッタレども、元気にしてるか? おれは元気だ》

 

 映像が記録された(ダイアル)がばら撒かれた。偉大なる航路(グランドライン)を主として世界各地へ届けられたようで、あらゆる場所で目撃されている。

 最初に映し出されたのは不健康そうな少年の姿だった。小柄で体の線は細く、黒一色の服に身を包んでおり、ボサボサの髪もまた黒く、肌が青白いせいか、目元を覆う濃い隈が浮かびあがるように見えていた。

 

 まるで幽鬼のような存在である。

 にやりと不敵な笑みを浮かべ、不気味な雰囲気で朗々と語り出した。

 

《どうせおれのことなんか知らねぇだろうから一応自己紹介しとこう。セブンってんだ。名前に大した意味はない。ただおれが七番目だってだけさ》

 

 淡々として冷ややかな声だがどこか楽しそうな調子も感じられた。聞いていて違和感を覚える声色で言葉はつっかえることなく次々に出てくる。

 白い背景にぽつんと立って、画面の向こうを見ながら本題に入る。

 

《今日はお前らにハッピーなご報告です。この度おれも関わった楽しい楽しい大イベントの開催に目途がつきました。大はくしゅ》

 

 ぱちぱちと気だるげに手を叩き、にやけた顔ですぐに手を下ろす。

 

《みんなこぞってご来場ください。睨み合いに飽きた海賊諸君も、一向に大海賊を捕まえられねぇ海軍も、裏でこそこそやってる政府の連中も、戦争したくて堪らねぇ革命軍も、或いは何も考えてねぇ市民のアホ様も大歓迎だ。ぜひご期待してくれ》

 

 面倒そうな態度ではあったが笑みは崩れず、楽しそうなのは間違いない。

 セブンと名乗った少年はがりがりと首筋を掻きながら言う。

 

《それじゃちょっとうちのキャストを紹介しとこう。みんな明るくて優しくて楽しい奴らばっかりなんだ。お客さんを迎えたくてうずうずしてる》

 

 映像が切り替わり、別の人物が映し出された。

 

《やあ。おれは旱害(かんがい)のジャック。趣味は破壊。特技は家を踏み潰すこと。マンモスに変身して貴様らを背中に乗せたり踏み潰したりしてやれるぞ》

 

 野性的なファッションに身を包み、マンモスを思わせる牙の装飾を付けた大男が、片手を上げて挨拶をする。

 顔の下半分を鉄で作ったマスクで隠した強面。見間違いでなければ高額の手配書が出回り、誰もが知る大海賊なのだが、噂を聞く限りはそんな挨拶をする男ではなかったはずだ。

 

 映像が切り替わる。

 次に映ったのはこちらも大柄だが先程に比べれば小柄に見える男だった。

 

《やあ。おれはスイート三将星のクラッカー。サクサク甘いクッキーはいかが? 手を叩けば無限に出てくる美味なるクッキーが食べ放題》

 

 結った髪の先からバチバチと火花が散り、逞しい肉体に世界に一本しかない長大な剣。見た目は違うがその名は有名だった。こちらも世界的に知られた賞金首である。

 軽やかに手を叩くと周囲に大小様々なクッキーが生まれた。楽しそうに手を叩いて次から次に無数のクッキーを生み出す、その姿はまさにクッキーの支配者であった。

 

 再び映像が切り替わる。

 次に映ったのは多くの人の関心を引くだろう、姿を消したはずの男だ。

 

《やあ。おれは白ひげ海賊団三番隊隊長のジョズ。体がダイヤモンドになってきれいだぞ。これで突進すると頑丈な岩盤やお前らの骨を粉々にしてやれるんだ》

 

 手配書が出回っている無骨な大男、ジョズが左手を上げて挨拶をした。

 戦争の影響で右腕を失い、隻腕になっている。長らくその姿が確認できなくなって行方不明とされていたのだが、再び姿を見たのはまさかのタイミングだった。

 厳つい顔で淡々と口上を述べて、その威圧感は映像であっても以前と変わらない。

 

 映像が変わると再びセブンが映し出される。

 にやりと笑って挑発的な態度に見えた。

 

《どうだ? 楽しんでもらえてるか? 他にもたくさん居るんだが割愛させてもらうぜ。時間がいくらあっても足りないからな。でも今日はスペシャルゲストが来てくれてるんだ。そいつだけは特別に見せてやろう。きっとお前らも待ち望んでただろ》

 

 映像が変わって、パッとカメラを向けられた途端、そのタイミングを待っていただろう男が一拍遅れて反応し、すぐににかっと笑った。

 腰に手を当てて胸を張り、言われた通りに自己紹介を始める。

 

《おお! おれはゴール・D・ロジャー! 海賊王になった男だ! わははは!》

 

 映像はすぐに変わってしまった。

 不敵に笑うセブンが直立している映像に戻り、彼が改めて説明する。

 

《驚いただろ? おれがオファーしたらぜひってことで冥土から駆け付けてくれたんだぜ。死んでるくせに元気な奴だな。みんな大好き海賊王くんだ。会うなら今がチャンスだぞ》

 

 けらけら笑い、非常に楽しげにカメラを見る。

 

《言いたいことは大体わかったな? それでもお前らアホで臆病だからダメ押しに言ってやろう。君たちが欲しくてしょうがないお宝を用意しました》

 

 そう言ってポケットに右手を突っ込み、取り出した物を掲げて見せた。

 取り出したのは砂時計にも似た指針。目的地を指し続ける、海を行く上では欠かせない物だ。

 “永久指針(エターナルポース)”を顔の前に置いて、深まった彼の笑みもよく見えた。

 

《“ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)”だ。欲しけりゃ取りに来な。おれを殺した奴にくれてやるよ》

 

 手の中でエターナルポースを投げて弄び、ふんと鼻を鳴らす。

 

《早い者勝ちだぜ。楽しみにしてる》

 

 その言葉を最後にぶつんと映像は切れた。

 これが世間に広まったのは、他ならぬセブンが情報を世に広めたからだとされている。

 血の気の多い海賊たちはこれを機に大声で叫び、立ち上がった。

 一発逆転、海賊王になるチャンスが巡ってきたのだ。

 

 

 

 

「実を言うとこれから先のことは決まってない」

 

 革張りのソファに座ってセブンが呟いた。

 計画を主導してきた自負はあるが、時折思いつきで行動してしまって、当初の予定とは異なる展開になることも少なくなかった。

 

 ブエナ・フェスタが死んだのもそうだ。

 殺したいと思ったわけではないのだが説得するには食えない男で面倒に感じてしまい、さっさと殺してしまった方が楽だと思ったのが大きい。

 その後はそれなりの苦労があったことを思えば、どれだけ面倒でもやはり生かしたまま上手く動かした方がよかったように思う。

 

 頭の良い奴はそれができるのだろう。

 そんな奴に憧れたものの、残念ながら学がないため思い通りにはできない。

 苦難と失敗の連続で、それでも生きているのは悪魔の実の能力があるおかげだった。

 

 広い部屋には物が溢れ返っている。統一感のない調度品が場所も考えずに設置されていて、子供が好みそうなぬいぐるみや玩具が散乱しており、テーブルの上にはお菓子が山と積まれている。

 雑多な印象で趣味は悪いが、カラフルで賑やかな一室だった。

 足の踏み場はあるものの、入ったばかりでは過ごしやすいとは思えない。

 

「ただまあ、人が集まりゃ戦争になる。海賊がいっぱい来たらそりゃもう戦争だろ? だからそのために海賊万博にしたんだ。人が大勢集まるそうだから」

 

 高い塔の一番上。ガラス張りの壁の向こうを眺めて街を見下ろす。

 そうしながらセブンは部屋の入口に立った人物へ語りかけていたのだ。

 気配は感じられない。自身に戦うための力など備わっていない。それでも室内にある特別大きなソファにバーソロミュー・くまが座ったままであったため、危険がないのはわかっていた。くまが自身を守るからだ。

 

「一番乗りはお前だったか。意外だが、まあ、何かしらの事情があるんだろう」

 

 ようやく振り返ったセブンが侵入者の姿を確認する。

 招いた客ではない。勝手に入ってきて、敢えて見逃したからここまで来た。

 黒いコートにシルクハット、その上にはゴーグル。金髪で、左目は前髪で隠されている。一目でそれとわかる精悍な青年であった。

 

 噂に聞いた革命軍の参謀総長。名前はサボ。

 険しい顔つきでセブンを見ていて、入室と同時にくまの姿を確認し、動揺していた。その理由も知っているためセブンは敢えて聞こうとは思わない。

 

「もうすぐここに海賊どもがやってくる。たくさんだ。お前のお目当てもきっとな」

「おれを知ってるみたいだな」

「ああ。くまが教えてくれたよ」

 

 眉間に皺を寄せたサボは、セブンを警戒しながらも視線を動かす。

 ソファに座ったままのくまは微動だにしない。以前とは違って本を読むことすらせず、人形のように一点を見つめて、生気さえ感じられなかった。

 まさか、という気持ちはあって、セブンが同意したことで受け入れざるを得なくなる。

 

「そいつに話しかけても無駄だぜ。もう死んでる。今は従順に命令に従うお人形さんだ」

「お前がやった……わけじゃないんだな」

「いやぁ、どうかな。そもそも機械になったのはおれのせいじゃねぇよ。でもその後は結局おれが奪って使ってんだから似たようなもんさ。お人形遊びは嫌いじゃない」

 

 表情を歪めて嫌悪感を示したがすぐに引き締め直し、堪えた。

 深く息を吐いて落ち着いたサボはセブンを見る。その時には彼はすでに町に視線を戻していて正面から向き合うことはなかった。

 

「返してくれないか。おれの仲間なんだ」

「そりゃあ、無理な相談だなぁ。今となっちゃおれの仲間で友達だ。救いたかったんならずいぶん遅かったんじゃねぇか? こいつにはもう自我はねぇよ」

「それでもこいつはおれたちの知るくまだ。このままにはしておけない」

「アハハ。面白いこと言うねぇ。昔の仲間だから所有権は自分たちにあるってか?」

「くまは物じゃないっ」

「物なんだよ。今となっちゃこいつは死体で機械で人形だ。それくらいわかるだろ」

 

 楽しげに言うセブンがソファの上で立ち上がり、次いで背もたれの上に尻を置いて座った。

 体の向きを変えて正面からサボへ向き合う。

 距離はあった。彼の力量があれば一歩と言わずに詰められるだろう。もしそうなった時にセブンに勝ち目はない。だがセブンは恐れていなかった。

 

「元々はお前らのもんだろうが今はおれのだ。なんでかって政府に奪われたとこをおれがもらってお前らがちっとも迎えに来ねぇからだろ。ひょっとしたらこいつは助けてほしいと思ってたのかもしれないぜ? ぐだぐだ言うくらいなら最初からちゃんと守ってやれよ」

 

 辛そうな顔になるが暴力に訴える真似はしない。サボは必死に自分を抑えているようだった。

 そうした彼の態度に笑みを浮かべ、セブンが楽しそうな声で言う。

 

「“火拳”もそうやって死んだんだろ?」

 

 今度こそサボは大きな反応を見せた。目を見開いて唇が震え、どっと汗が噴き出す。最も触れられたくない話題であったことは間違いない。

 からからと笑ってセブンはその顔を見ていた。

 

「お友達の魚人くんから聞いてるぜ。義兄弟だったんだって? あぁ、そうだ、あいつなら連れて帰ってくれていいぞ。もう用は済んだんでお人形みたいにお行儀よく座ってるさ。いらねぇんなら使わせてもらうが」

「ハックに何をした……」

「傷一つ負っちゃいねぇよ。それに何が起きたかは大体わかってんだろ?」

 

 わざわざ聞くなと彼は言うのだ。

 ペースを乱されている。このままではいけない。

 

 深呼吸したサボは自らの心を落ち着け、再び冷静になって彼と対峙しようとした。

 もしもの場合は戦闘も辞さない。だからといって戦いたいわけではなかった。可能な限り対話をして情報を聞き出し、最も望ましい展開は戦わずに事態を治めることだ。彼が誰も攻撃しないという状況は有難い。

 

 話し合いで解決できるのならその方がきっといい。

 感情で動いて話も聞かずに襲い掛かるのでは獣と同じだ。

 サボは仲間の心配をしながらも、瞬く間に動揺を消して表情と声色を元に戻した。

 

「おれたちの敵はあくまでも政府だ。お前と争うつもりはない。平和的に解決できないか」

「できるんじゃねぇかな? 言っとくけどおれはあんたを嫌ってなんてないぜ。ただお友達を無理やり連れて行かれるのが嫌ってだけさ。あいつのことは大切にしてる。このまま黙って見過ごしてもらえるなら協力もできると思うんだけどなぁ」

「……事を荒立てたくない。くまの件は、ドラゴンさんと話し合ってみるつもりだ」

「でもいずれは返せって? 世間知らずのガキは意外と大人を信じないもんだぜ。つっても無理に引き剝がそうもんならあいつが暴れるだけだろうけどな」

 

 彼からは強さを感じない。おそらく戦闘に関しては全くの素人。警戒もしていないし、全く反応させずに気絶させられる自信がある。

 一方で得体の知れない不気味さがあった。警戒しなければならない、何かがある。そう思わせる不思議な雰囲気が感じられる。

 下手に動くことはできない。サボは必要以上なほどに慎重に接しようとしていた。

 

「そんなに心配すんなよ。おれはあんたを応援したいんだ」

 

 そう言ってセブンがパチンと指を鳴らすと、すぐに立ち上がったくまが自分が座っていたソファを差し出してきた。

 座れと言いたいのだろう。かつての仲間であるくまがそうしていることに違和感が付き纏って、だが今は気にしていられる状況ではない。

 

「座って話そうぜ。いや、というよりおれの話を聞いてくれってとこだな」

「何の話だ?」

「実はプレゼントがあるんだ。頂上戦争からこっち、二年くらいは色々と頑張ったから、手に入れた物はかなり多い。その中にはお前が欲しがってた物もある」

 

 ソファには腰掛けず、突っ立ったままのサボはセブンを見ていた。

 くまがのしのしと歩いて、部屋の隅にある小さな宝箱を開け、中から何かを取り出す。大事そうに両手で持ち上げたそれを掲げて見せた。

 

 炎を思わせる外見。オレンジ色の表皮。美しいとも不気味とも言える果実。

 自然系(ロギア)のメラメラの実。

 サボが探していた悪魔の実だった。それが今まさにここにある。

 冷静で居ようと努めていたサボがわずかに眉毛を動かし、動揺を見せて、しかし先程のように致命的な隙は見せずに即座に動揺を消す。

 

「こいつをあんたにやろうと思ってる。ただし条件が一つ」

「まあ、そうだろうな……だがそいつは是が非でも欲しいもんだ。命を賭ける価値はある」

「ハハハッ、エースの力だもんなぁ。そう言うのも不思議じゃない。安心してくれ、別にあんたを殺したいわけじゃないんだからさ」

 

 すでに覚悟は決めたらしい。

 セブンはほくそ笑んで宙に投げ出した足をぶらぶらと揺らした。

 

「つっても、寝首を搔かれて死んだ方がマシって思うかもしれねぇけど」

「何をやらせる気だ。さっさと条件を言ってくれ」

「エースの死に際を見る勇気はあるか?」

 

 意味を理解できなかった。

 一体何を言い出すのか。聞き流すわけにはいかなくて集中する。

 セブンの口角が、大きく上がった。

 

「おれもあの戦場に居たんだ。お前と違ってな。エースがどう死んだのかはよく覚えてる。ついでに麦わらも死にかけてたなぁ」

 

 心臓が跳ねるのを感じる。

 体が一気に熱くなった。

 それは彼のトラウマを刺激する言葉だ。

 

「おれが全部見せてやる。ついでにおれのことも教えてやろう。エースが死ぬとこを見ても折れずにいられたら、義兄弟の能力はあんたのもんになる。……どうするよ?」

 

 危険性は承知していた。それでも退くなどという考えはない。

 サボは迷わず頷き、彼の提案に乗った。

 それがどれだけ危険な行為であろうとも、自分だけは目を逸らすわけにはいかない。彼の最期を知っておかなければならない。

 死すら覚悟してサボが答えた時、セブンは心底嬉しそうに笑っていた。

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