海賊だから踊ろうぜ   作:ヘビとマングース

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SCENE:1 ウタ&シルク

 その日は、特別な一日になることが予感されていた。

 世界中から数多の海賊が一つの島に集まり、世にも珍しいお宝を狙うことになっている。

 戦いが起きないはずはなくて、下手すれば時代が簡単に変わってしまうことさえ考えられる。

 

 その日は、歴史が変わる日なのではないかと予想されていた。

 多くの人が集まり、敵も味方も入り乱れて、同じお宝を手に入れるために力を競う。化学変化があるのではないかと予想する人物も居た。

 名ばかりとはいえ数十年ぶりに開催される大イベントがそう感じさせたのだろう。

 

 到着してすぐに攻撃が来るのではないか。

 そう予想していた海賊たちを裏切るかの如く、その島には祭りの様相があった。

 

 数えきれないほどの海賊が島を訪れて、思うがままに店を開き、持ち寄った商品を並べて売り捌いている。問題のない至って平和な光景に虚を衝かれる海賊も少なくない。

 このまま何も起こらず平和に一日を終えられるかもしれない、とは考えない。

 目的はあくまでも最大のチャンスが得られるお宝であり、戦闘が起こるのは間違いなかった。

 

 島にはありとあらゆる人間が集まっている。

 あまりにも多過ぎてこの場にはもはや珍しいなどという概念は感じられない。

 様々な人種。様々な立場。しかしやはり大多数を占めるのは海賊だ。

 

「すごい……これみんな海賊なの?」

「多分、そうだと思う。手配書が出てる有名な人があちこち歩いてるよ……」

 

 初めて故郷を出たのが数週間前のこと。

 道を埋め尽くすほどの大勢の人間を見るのはずいぶん久しぶりなウタは、それらが全て海賊なのかと思い、信じられないという顔をしている。

 海賊に対して免疫があるらしいシルクもまたあんぐりと口を開けて上手く話せずにいた。

 

「大半はそうさ。でも実際調べてみりゃどこぞの貴族や怖いもの見たさの一般人も紛れてる。わざわざ自発的にここへ来るのはどうしようもない人間ばかりだよ」

 

 金棒でトントンと肩を叩くアルビダが不敵な笑顔で呟く。

 “海賊万博”は実に数十年ぶりに開催されるイベント。彼女もまた初めて参加する立場だったが、こういう時はどの国からも利益を求めるハイエナが集まるもの。自らの経験でよく知る彼女は堂々とした態度で通りを歩く人々をじろりと見ていた。

 

 若い女性が二人旅ではトラブルもあるだろう。その点、アルビダは金棒を振り回す膂力と殴ってきた拳をスリップさせるスベスベの肌がある。並の男では触れることすらできない海賊であった。

 一緒に行くことを決めたのは移動の間に二人を気に入ったからだ。

 子供っぽいが行動力があり、天真爛漫で歌が大好きなウタ。大胆不敵だが他人に対する優しさと気遣いがあるシルク。このまま別れるのはどうにも惜しい。

 

「さあ行くよ。早速ルフィを探そうじゃないか」

 

 それに愛しいルフィに会うチャンスでもある。

 東の海(イーストブルー)での衝撃的な出会いと計画的な再会以来、中々会う機会がなかったのが現状だ。一時期は約二年間姿を消していた。久しぶりに会うのは今しかない。

 

 ルフィを探しに来たというウタやシルクよりもその気になっているようで、アルビダは鼻歌さえ歌い出しかねないほど上機嫌に先導を始める。

 彼女の熱意はどうやら冗談や酔狂ではなく本物のようだ。

 顔を見合わせた二人は苦笑し、素直に彼女の後ろへついていった。

 

「うわぁ~……」

「すごい人数。それにお店出してるんだね」

 

 興味津々という態度のウタとシルクは歩きながらもきょろきょろしていた。

 周囲に気になる物がたくさんある。勝手に出されているのだろう出店が数多く並び、こっちが先だと競うようにして商品を売ろうとしていた。道行く人を強引に捕まえて脅すように睨みつけるガラの悪い男も居れば、露出度の高い服を着た色っぽい女性たちが客引きしている店もある。どこも利益を上げるために必死の努力があるようだ。

 

「海賊ってそんなことするんだ。略奪するだけじゃないの?」

「もちろんそれもあるだろうけど全員じゃないと思う。そう考えると確かに、旅にはお金が入用だろうから稼ぐ手段は必要だよね」

「あっ。あれ何?」

「魚……だと思うけど」

「おじさんじゃなくて?」

「おじさんはお店に並べないでしょ」

 

 気になる物はあるがあいにく手持ちの金はほとんどない。交渉とアルビダの厚意でなんとか払えたとはいえ、バギーズデリバリーへの依頼さえギリギリだったのだ。

 うずうずしている二人だが上陸前に約束していた。お金を払うなら、本当に必要な物か絶対に譲れないくらい欲しい物にのみ。

 それだけに目移りは激しく、あちこちを見ながら歩行は遅々として進まない。

 

 時折振り返って二人の態度に微笑み、アルビダは歩くペースを落として付き合っていた。

 無暗に金を貸してやるつもりはないものの、そのままにしておくつもりもない。ちょうど良さそうな話を聞いた後だ。ルフィを探す傍ら、まずはそこへ向かおうと決めている。

 

「ねぇシルク、動物みたいな人が居る……! あれって何? コスプレ? 悪魔の実?」

「ええと、なんだろう……能力者なのかなぁ」

「あれはミンク族さ。あたしらとそう違わないし話もできるけど動物の毛と習性を持ってるんだ。ところでお二人さん、手持ちの金はどれくらいあるんだい?」

 

 数えきれないほど大勢の人間が来ているとあって、初めて見る種族もそこに居たらしい。

 簡単に解説してやり、問いかけると二人はこそこそと財布の中身を確認する。表情は優れなくてわずかに青ざめた。恐る恐るこちらを見た二人がぎこちなく笑おうとしているのを見て、肩をすくめるアルビダがふふんと笑う。

 

「そんなことだろうと思ったよ。だからドーンと稼ぎに行くかい」

「え? 稼ぐ方法があるんですか?」

「何するの? お店?」

「違うよ。海賊がこういう場に来て一攫千金を狙う時はね、何をするか相場が決まってるもんさ」

 

 胸を張って堂々と言うアルビダは顎で道の先を示し、大きなスタジアムを見せる。

 ウタはおおっと目を輝かせ、あんな場所でライブができたら最高だろうな、と思った。それもこれも彼女が海賊どころか故郷の外と接しない生活を十年以上続けていたからでもある。島の大人たちがする噂話と新聞で情報を得ていたとはいえ、世間知らずな一面があった。

 その一方でシルクは何をするのか察する。そもそも真面目に労働に勤しむ海賊の方が珍しい。

 

「ひょっとしてギャンブルですか?」

「もちろん。勝てば一気に増える、負ければゼロ。そういう勝負に熱くなるのさ」

「あ~……なるほど。でもゼロになると今日の宿とか」

「もしもの時はあたしを頼ればいい。せっかく来たんだ、醍醐味を楽しまないとね」

 

 善意で言っているのだろう、アルビダはにっこり笑った。

 不安がある上にギャンブルの経験がないシルクは困ったような笑顔を返すのだが、アルビダの発言に対して素直に頷いたウタはやる気を見せる。

 

「ギャンブルくらい私も知ってるよ。ルフィとルウには負けなしだったしね。運がいいんだ」

「そう? まあ、ウタがいいなら私もいいかな」

「で、何やるの? 色々種類があるんだよね? ギャンブル」

 

 シルクの同意を得たウタがぐっと身を乗り出してくる。

 頷くアルビダは港で聞いた話を思い出す。

 

「本来はね。でも今回は目玉になる大勝負があるそうだ。ルールもシンプルで誰が勝つのか予想して賭けるだけ。まあその分配当がどうなるかって問題はあるけど」

 

 周囲の喧騒が大きく、注意していないとアルビダの声が聞こえなくなってしまいそうだ。

 

「今日は世界中から色んな海賊が集まってる。面白い奴も居るはずだよ」

「うわぁ~すごい! 有名海賊が山のようですよ社長!」

「当たり前だ! 海賊万博だぞ! 一人も撮り漏らすな新人!」

「だから勝負をするって情報はあるけどまだ誰が出てくるのかわからないんだ」

「ちょっと通りますだべ! オラたち迷子なんだけども!」

「きん……父上を探しておる! 誰か見ておらぬか!」

「ま、見てのお楽しみってことだね」

「首を寄越せ“最悪の世代”! 僕の人気を返せェ‼」

「ぎゃああああ~⁉ なんなんだお前ェ!」

 

 ふんふんと小刻みに頷いて真剣にアルビダの話を聞いていたウタが、突然ハッとして辺りを確認し始める。素早く首を振ってなんだか忙しそうだ。

 隣に立つシルクはその仕草を不思議そうに思って素直に尋ねてみる。

 

「どうしたの?」

「今、なんか聞き覚えのある声が聞こえたような気がして……」

「そう? 私には、あっちで写真撮ってる音ばっかり聞こえるんだけど」

「んんぅ~ビッグ・ニュースの気配! おい新人、フィルムは残しておけよ!」

「えっ⁉ もう結構撮っちゃいました!」

「バカァ~!」

 

 なんだか仲が良さそうな二人が大騒ぎしている姿がやけに気になる。

 それともう一つ、迷子だと叫ぶ二人の子供が手を繋いで走っていくのが見えた。助けた方がいいのではと思ったが群衆ですぐに見えなくなったため、結局声をかけることさえできなかった。

 

 シルクは子供たちを気にしていたものの、ウタは知り合いが居た気がしたようで、しかし家族同然の故郷の人間以外となれば知り合いなどほとんど居ない。

 結局は気になる人物は見つからなかったようだ。

 気のせいか、と諦めた時に彼女は深く息を吐いていた。

 

「そんな顔するんじゃないよ。ルフィなら間違いなくここへ来るさ。あとはいつ会うか、時間とタイミングの問題だよ」

「焦らなくても平気だよウタ」

「そうだよね。宴好きのルフィがこんなお祭り見逃すはずないんだし」

「その前に、あんたらの軍資金が頼りないままじゃどうしようもないよ。この祭りを楽しむためにもまずは最初に大きく稼いでおかなきゃ」

「よーし! やる気出てきた!」

「うん! 行こう!」

 

 笑顔になった二人を連れて、アルビダを先頭にスタジアムへ向かう。

 大きな建物だ。昨日今日出来た物には見えないが、劣化した様子が見られずやけにぴかぴかしている気がする。新たに建てたのだとしたら大変な労力だろう。金もかかっていそうだ。

 初めて訪れる大規模で豪華なスタジアムに、ウタとシルクはわあと感嘆の声を発する。

 人々が向かっているらしい巨大なそれを見上げてわくわくが止まらなかった。

 

「おっきー……! 私が知ってるギャンブルとは違うみたい。流石にあそこでカードやったりしないよね?」

「ウタはギャンブルしたことあるの?」

「うん! 昔友達に教えてもらってね。ベックマンっていう副船長が、手先が器用で嘘が上手で頭良いからめちゃくちゃ強かったの。私もイカサマ教えてもらって、ルフィなんか絶対負けない一番良いカモだったんだもん」

「へぇ~。今度私ともやってよ」

「いいよ! その代わり手加減しないけどね」

 

 嬉しそうに屈託なく笑うウタを見て、シルクもまた無邪気に笑った。

 どうやら海賊に囲まれた状況であっても緊張はないらしい。

 アルビダはフッと笑い、あちこちへ目移りする二人を先導することに使命感を覚えていた。

 出会ったばかりの他人だがこれがどうして妹の如く可愛いではないか。そんじゃそこらの男に手出しさせられないと気合いが入るのだ。

 

「そういやウタ、連れはもう来てるのかい?」

「あ、ううん。ゴードンは一日遅れて到着するって。お迎えの船ありがとう」

「構わないよ。あんたらのことは気に入ったんだ。あたしが好きでやってるだけさ」

 

 スタジアムへ入ろうとする手前、アルビダがぴたりと足を止めた。唐突に振り返って二人に向き直ると優しく笑いかける。

 不思議そうにするウタとシルクは彼女から目を離さなかった。

 

「どうだい? 海賊は。ここに居る奴はみんなそうだよ」

 

 ウタに向けられた言葉だった。

 ギクッとして言葉を失った彼女はすぐには答えられず、わかりやすく表情が変わって動揺が見て取れると、逃げるように視線を彷徨わせる。

 そんな反応も予想通り。急ぐ理由はない。

 

「みんな笑って過ごしててもどうしようもない奴はこの中にたくさん居る。でもそれは本来なら海賊に限った話じゃないだろ。海賊嫌いは仕方ないけどね、あんまり意固地になり過ぎると視野が狭くなるよ。あんたらは特にまだ若いんだから」

「そう、だけど……」

「別に結論は急がせないよ。ただ、ここに居る間にもっと色々見ておくれ」

 

 腰に手を当てて堂々と胸を張って立ち、美しくもありかっこいいとさえ思う。

 間抜けな声が漏れ出ながらウタは彼女に見惚れて、ちょっと変わった部分もあるものの、こういう人も居るのかと感心した。

 

「特にルフィに会えば印象も変わるはずさ。あんたの幼馴染だろ? 悩みがあるなら結論を急がずにまずは色々見てみることだよ」

「うん……そうだね。とりあえず会って話したい。まだ何もわかんないし」

「じゃあ探しに行かなきゃね」

「でもお祭りも楽しみたい! だってこんなの本当に久しぶりだし!」

「その前に軍資金が必要だ。さあ稼ぐよ!」

 

 意気揚々とアルビダが振り向いて歩き出す。

 ウタも笑顔になって彼女に続こうとして、その時、シルクがあっと声を大きくした。

 

「あの人たちって……」

「シルク? どうしたの?」

「こんにちはレディたち! おれ、いや僕の名前はサンジ! 海の一流コックだよ!」

 

 ぐるぐる眉毛がやけに気になる、片目を隠した金髪の男が目をハートにして近付いてきた。

 だらしなく伸びた鼻の下。ハート型で輝くいやらしい目。小躍りしそうなほど落ち着かない体。

 考えずともわかる。スケベなナンパ男だ。

 ウタは思わずうっと身を引いて嫌そうな顔をしたのだが、彼女とは裏腹にシルクは笑みを深め、自ら身を乗り出すようにしてサンジを見つめ返した。

 

「麦わらの一味! “黒足”のサンジだ!」

「知ってるのかい⁉ 嬉しい~! あぁ、おれの胸は恋という名の炎が燃え滾り、今にもこの身を焼き尽くそうとして――!」

「邪魔よサンジ君」

「なんだなんだ、おれたちのファンか? いやーついにそうなっちまったかぁ。やっぱりあれか? エニエス・ロビーで政府の旗を撃ち抜いたそげキングがおれってバレちまったかなぁ。いや~それは困っちまうなぁ、うん」

 

 サンジに続いてオレンジ色の長髪の女性と、鼻の長い青年が駆けつけてくる。

 どちらも手配書で見た顔だ。

 シルクはにんまりと笑顔になって嬉しそうで、彼女の発言を聞いてハッとしたウタは、彼らこそ自分たちの探し人なのだと状況を理解した。

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