海賊だから踊ろうぜ   作:ヘビとマングース

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万博観光

 わからないことがあった。

 大人たちは海賊を忌み嫌い、目に見えない脅威に怯えていた。

 喧嘩はよくないことだと教えられて、強い者に歯向かうばかりが戦いではないと言われた。

 つまり海賊が町にやってきても無駄な抵抗はせずに生き残ることを優先しろと言うのだ。

 

 かつて、町は海賊に襲われた。

 幸いにも素早く逃げたことで住民の被害は怪我を負う程度に抑えられたとはいえ、火を放たれた町は無茶苦茶に荒らされ、物資も金も持ち去られた。

 

 奇妙だったのは、港には一人の赤ん坊が置き去りにされていて、おそらく海賊が町を襲ったついでに捨てたのだろう。荒れ果てた町の中、自我すら持っていないその子がすやすやと眠っている姿に愛らしさを覚え、荒んだ心に癒しをもたらした。

 町は壊れた。だが赤ん坊の存在が救いとなったのだ。

 

 幼い頃には聞かされていた自分の出生。正しくは拾われた時の話。

 なんてひどい連中なんだ。そんな想いを抱く一方、自分が海賊の子供なのだと認識して、何というわけでもなく彼らに対する興味が沸いた。

 

 海賊について知りたいと思ったことは大人たちには告げなかった。海賊にひどいことをされたのだから良く思っているわけがない。興味があるなどと言い出せばきっと驚かせてしまうし心配するに違いないと思っていた。

 文字がたくさん並んでいて苦手だった新聞を読むようになる。どこかで海賊が暴れただとか会合しただとか、情報は毎日たくさん載せられていたからだ。

 

 少しずつ、欠片ではあったが情報を集め始める。

 海賊の中にも様々な考えの者が居て、市民から愛される者も居れば嫌われる者も居る。

 

 自分を置いていった海賊はどんな一味だったのだろう。どうして置いていったのだろう。

 興味は尽きないが知る術はない。

 会いに行くどころかどの海賊団がそうなのかさえわからなくて、ただぼんやりと全ての海賊団を眺めることしかできなかった。

 

 家族だと思っていたわけではない。ただ知りたいだけだ。

 自分を産んだ人に会って、どんな人なのかを確認したかった。

 

 海賊への関心を捨てられないまま成長する。

 十歳になった頃のことだった。

 彼女にとって一つ目の転機がやってきた。

 昼間から酒場に集まる大人たちを見つけて、何かあったのだとピンときたのである。

 

「おい……どうするんだこれ」

「どうって、一つしかないだろう。海に捨てればいい」

「ちょっと待て、本気か? 売れば数億にはなるって噂だぞ」

「誰に売るんだ。ただの商人が捌けるもんじゃないだろう。第一危険過ぎる」

「ここにあるだけで危ないんだ。いっそのこと危険を冒して金を手に入れる方が……」

 

 集まっている大人たちの間を掻き分けて進み、行き着いた先にはテーブルと、そこにぽつんと置かれている不思議な果実があった。

 不気味な外見と毒々しい色。しかしそれが果実だということはなぜかはっきりわかった。

 噂に聞いた悪魔の実ではないのか。

 少女は目を輝かせる。

 

「どうする……」

「置いておくとトラブルの元だ。さっさと処分してしまった方がいい」

「やっぱり海に捨てよう。海の悪魔が宿ってるって話だし、罰なんか当たらないさ」

「それより売った方がいい。海に出て大きな町へ行こう。そしたらどこか――」

「それだって危ないだろう! それにここのことが噂になるかもしれない。海賊に目をつけられるような状況はできるだけ避けるべきだ」

「同感だ。海に捨てるのが一番安全だし何事も起こらない、はず。今まで通りの生活を続けよう」

 

 町の人たちが海賊を恐れていることは知っていた。

 悪魔の実が珍しいことも知っていて、その実物を前にして狼狽している姿を見るのは、なぜか苛立ちを感じた。

 

 そんな珍しい物が今ここにあるのなら、食べて力にすればいい。

 海賊が怖いなら、強くなって戦えばいい。

 町を壊されたくないなら自分たちで守ればいい。

 彼女の思考は至極単純で、海賊を恐れていなかった影響も大きいのだろう。町を襲う人間が居るなら戦って勝つまで。そのつもりで勝手に棒を振り回して剣術の練習をしていた。

 

 まるで悪魔に魅入られるかのように、その果実から目が離せなくなった。

 大人たちがああでもないこうでもないと言い合いをしている。次第にその声が聞こえなくなって自分の鼓動が大きく聞こえた。

 

 何をすべきか、何が最善か。考えるまでもなく理解できていた。

 突然動き出した少女は飛びつくようにして果実を掴み、大口を開けてがぶりと噛み付く。

 ああっ⁉ と大声を出した大人たちが慌てて取り押さえるのだがすでに遅く、ほっぺたを膨らませる彼女は咀嚼を始めていて、してやったりの顔でもぐもぐしていた。

 

「何をやってるんだ⁉ お前っ、何を食べたのかわかってるのか!」

「吞み込ませるな! 吐き出させろ!」

「こらっ、噛むな! まずいって聞いてるぞ! 無理するんじゃない!」

「なんて力だ⁉ ちっとも口が開かん⁉」

「シルク~!」

 

 勝ち誇るかのような少女は驚きのまずさに青ざめながらも決して吐き出さず、口の中に放り込んだものは全て吞み込んだ。

 体の変化を感じたのはしばらく経ってからのことである。

 そうしてシルクは偶然、そして強引に悪魔の実の能力者になった。

 

 

 

 

 シルクは困惑していた。

 どうやらウタは持ち前の無邪気さで順応するのが早いようで、警戒するナミを恐れていた数分前とは一転して、いつしか素直に彼女とのショッピングを楽しんでいる。

 笑顔で歩くウタは周囲のあらゆる物へ好奇心を見せていて、ぴょこぴょこと動く髪が感情をこれでもかと表し、その笑顔を見るサンジの頬がだらしなく緩んでいた。

 

「ねぇナミ、あれって何? おいしそうな匂い!」

「たこ焼き知らないの? あれの中にタコの足が入ってるの」

「タコの足⁉」

「結構おいしいわよ。買ってみる?」

「うん!」

 

 見るもの全てが新鮮で、どれを見ても知りたくて仕方がない。幼い子供のようにきょろきょろと視線は落ち着かず、跳ねるような足取りで進んでいる。

 海賊に対する警戒心はあれども、一方では久しく見なかった大規模な祭りに心が躍って、ようやく緊張を忘れて楽しめている姿に見えた。

 

 そうなるようにナミやサンジが気遣ったから見られた笑顔だろう。

 シルクはくすりと微笑み、二人の少し後ろを歩きながら見守っている。

 

「いやぁ~よかった。やっぱり愛らしいレディには心からの笑顔が似合う」

 

 サンジの呟きに気付いてシルクが視線を動かす。

 山の如く積まれた荷物を抱えながら、つい数秒前まで両目がハート型になっていたはずの彼が穏やかな笑みを浮かべ、まるで兄のようにウタの背中を見守っている。

 

「海賊が毛嫌いされるのは当然だが、何の罪もない人から笑顔を奪うほどゲスに堕ちたつもりはないんだ。安心してほしい。君たちに何かあったらおれがなんとかするよ」

「私は最初から心配してないよ。あなたたちの情報はずっと追ってたから」

「あはは、そうか。実を言うとシルクちゃんのことは心配してないんだ。出会った時には海賊に囲まれるこの状況でも余裕があったからな」

 

 うん、と小さく頷いて返事をして、彼の発言について考える。

 言い換えればウタのことは心配していたということだ。

 彼女の緊張が伝わっていたに違いない。意図してウタを導こうとしたナミも同じはずだ。賑やかなあちこちを巡って様々な露店を見たのはウタのためだったと言える。

 

 ただの女好きというだけでないサンジの姿を目にしてシルクが安堵する。特にウタを心配してくれていることには喜びすら感じた。

 噂通りの人柄だと考える。だからこそシルクの気持ちはより強固なものになる。

 

「ウタは、海賊に滅ぼされた島で育ったんだって。複雑な事情があるみたい。だから海賊には警戒心があって、たとえそれが幼馴染のルフィでも素直に向き合うのは簡単じゃないんだと思う」

「大航海時代の犠牲者か。そりゃおれたちに怯えるのも無理はないか」

 

 海賊であるという自覚があり、恐れられるのも当然と思っている。達観した様子のサンジの態度からは相応の覚悟が感じられた。

 シルクは頷き、彼の意見に同意を示す。

 

「シルクちゃんはルフィに会って、うちに加入するつもりでいるんだろ?」

「うん」

「ウタちゃんはどうする気なんだい? さっきは違うって言ってた。また故郷へ戻るのか?」

 

 その問いにはすぐに答えを出せず、うーんと考えてしまう。

 ウタが旅に出た目的はルフィに会って話をすることだと聞いている。海賊嫌いとして知られている彼女が海賊になることは考えにくい。だが幼馴染のルフィなら、唯一あり得るのではないかという考えもあるのだ。

 

 本人は今も決めかねているだろう。

 無理強いするつもりはない。しかし可能なら一緒に来てほしいという気持ちはシルクにもサンジにもあった。

 

「どうするんだろう……ルフィに会ったら決めると思う。でも、海賊になるのは」

「海賊嫌いの“歌姫”には荷が重いかな。顔を隠してるにしても彼女は有名人だ」

「そうだね。故郷を離れてからは配信ライブもできてないって言ってたし、ファンを大切にしてるのは傍に居てわかったから、このまま旅に出るのは難しいかもしれない」

「はぁ~残念だ。せっかくなら一緒に来てくれればなぁ」

 

 演技には見えない、本音なのだろうと思える大きなため息をついてサンジは肩を落とした。

 

「まあ、決めるのはウタちゃんだから無理強いはしないが、おれたちに拒む理由がないってことは伝えておいてくれ。きっとルフィだって同じ気持ちだ。あいつはアホだが、迷ってる幼馴染をそのままにしておくほど冷たい奴じゃない」

「うん……早く会えるといいな。そしたらウタもきっと楽になるのに」

「なあに、あいつだってこの島に居る。焦らなくたっていずれ会えるさ。ただアホなのは確実だし方向音痴だからなぁ、しばらく後になるかもしれないが」

 

 ナミに買ってもらったたこ焼きに目を白黒させた後、にんまり頬を緩ませて食べているウタを見ていると、幸せを願わずにはいられない。

 今まで自分の気持ちを秘めてきたのは間違いない。色んな話をして、彼女には過去を吹っ切るほどの救いが必要なのだろうと思っていた。そして同時にルフィを頼るのはきっと間違いではないと思っている。

 

 シルクは、視線に気付いて駆け寄ってくるウタを笑顔で迎え入れた。

 島民同士で支え合いながらも貧しい生活を送っていた彼女が初めて食べたたこ焼き。きっと感動を共有しに来たのだ。シルクの前に立つとウタはすぐに興奮した面持ちで言い出した。

 

「ねぇねぇシルク! これ知ってる? めっっっちゃくちゃおいしいよ!」

「たこ焼きでしょ? 私は知ってるよー。海がすぐ傍にある港町で育ったからね」

「ほんとっ⁉ くっそ~、これ知ってたらタコ釣った時絶対作ったのにぃ!」

「ゴードンさんは知ってたんじゃないかな? 結構ポピュラーな料理だよ」

「そんなっ⁉ ゴードンめぇ~!」

 

 言いながらもたこ焼きが美味しいという事実からは逃れられないようで、怒りながらぱくぱくと次々に食べ、頬を膨らませるほど口に詰め込んだ彼女はまるで小動物のよう。愛らしいが少し間抜けに見えるその姿にシルクは耐えられずに噴き出すようにして笑い出した。

 そうとは気付かないウタはたこ焼きに夢中で、笑い出すシルクを注意するつもりもなかった。

 

 一喜一憂して感情が隠せずに態度へ出てしまう、年齢の割に幼さを残した少女。

 緊張している瞬間とは違うその表情にふと思うことがあった。

 この笑顔を守ってあげたい。辛そうな顔は見たくない。

 

 どうやらたこ焼きで感動しているらしいと知って、サンジがにこりとウタへ笑いかけた。

 先に察したのはシルクだった。

 彼は麦わらの一味でコックを務めている。腕前をその目で見たことがなくて、噂や新聞に載る情報では料理の腕についてなど教えてくれない。だからこそ知りたいと惹かれる要素であった。

 予想した通り、料理に関する提案だったようだ。

 

「どうだいウタちゃん、おれの料理を食ってみてくれないか? これでもおれは海の一流コック。旅をする中で色んな土地の料理を学んでる。君が知らないものを最高の味で教えるよ」

「本当? どんな料理? おいしいやつ?」

「ああ、もちろん」

「食べてみたい!」

「今すぐじゃないわよ。どうせ夜には宴するんだからその時でいいでしょ? サンジ君も、わざわざこんなところで対抗心燃やさないで」

「やだなナミさん、対抗心だなんてそんな。おれはただせっかくならより美味しいものを食べてもらいたいと思って!」

「十分対抗してるじゃない」

 

 得意分野が関わって嫉妬したらしく、カッとなるサンジにナミが苦笑して、二人に挟まれるウタは楽しそうに笑っていた。

 俯瞰的に見ていたシルクはくすりと笑い、彼女が安心できている状況に安堵する。

 

「今はどこ行ったかわからないけどその時は流石に帰ってくるだろうし、ルフィにも会えるわよ」

「あっ、そっか。ルフィ探しに来たんだった」

 

 うっかり祭りを楽しんでいたウタがハッとすると、ナミがくすくす笑う。

 遠くから爆音が聞こえたのはその頃だった。

 ウソップが向かったはずのスタジアムとはまた違う場所。海賊たちが乱闘でも始めたのだろう。ウタとシルクが驚いて反応するのだが、ナミとサンジは落ち着いた態度だった。

 

「なっ、何? 今の音……」

「あー気にしなくていいわよ。どうせどっかの誰かが暴れてるんでしょ。海賊ばっかりなんだから被害者だって海賊だわ」

「ナミは平気そうだね。怖くないの?」

「これまで色々あったからね。すぐ傍でもない限りは平気。それに今は何かあってもサンジ君がどうにかしてくれるから」

「もちろんさ! 君たちはおれが守る! おれがナイトだ!」

「はいはいそうねー、ありがとー」

 

 打ち解けた後とはいえ、こうした瞬間に立場の違いを知る。

 彼女たちはどれだけ友好的でも海賊なのだ。その生き方が身に染みている。

 顔を見合わせたウタとシルクは動揺を隠せていなくて、遠くの音がどうしても気になった。

 

 暴動などは当たり前。海賊ばかりが集まった島としては静かなくらいだろう。その認識が崩れるきっかけになったはずだ。

 表情を変えたのはサンジも同じだった。

 あらぬ方向を見て表情が変わり、同行する女性たちに気付かれないよう即座に笑みを浮かべる。

 

「すまないみんな、おれも買いたい物があったのを思い出した。ちょっと行ってくる」

「え? どうしたの急に」

「荷物は運んでおくから安心してくれ。用が済んだらすぐ戻るよ」

 

 そう言ってサンジは笑顔だったがそそくさとその場を後にする。

 ウタとシルクはそうなのかと素直に納得していたものの、ナミは不思議そうにしている。あの女好きのサンジが女性とのデートより自分の買い物を優先させるだなんて何かある。疑問というよりほぼ確信。明らかにおかしいと考えていた。

 思わず呼び止めようかとも思ったが、ほんの一瞬考えただけで彼の背中は群衆の中に消える。

 

 また遠くで大きな音がする。

 サンジが離れるだけでざわざわする感覚があった。

 嫌な予感がしたナミは咄嗟に彼を探そうとするのだが、名前を呼ばれたことで足が止まる。

 

 振り返った先に居たのは見慣れた仲間たちだった。

 長い黒髪を背に垂らした美女が薄く微笑み、アフロを生やした骸骨が奇抜な服装で、見るからに注目を集めて立っている。

 ニコ・ロビンとブルックの二人に気付いてナミが思わず駆け寄り、他の二人が声を漏らす。

 

「あっ。麦わらの一味の、“悪魔の子”と」

「“ソウルキング”だ!」

「あら、新しいお友達?」

「おきれいな方々ですね~。ではお二方、パンツを――」

 

 シルクとウタに言おうとしたブルックへ、素早くナミが飛び掛かってパンチした。

 

「見せるかぁ‼」

「ヨホホホッ! 言わせてももらえない! テキビシー!」

 

 バターンと勢いよく倒れたブルックはどこか楽しそうで、構ってもらえるのが嬉しくて仕方ないとでも言いたげな態度であった。

 見ていただけの二人は突然の出来事に理由を理解できず、とにかくナミのパンチが素早くて躊躇いがないことくらいしかわからなかった。

 

 

 

 

 ウタは、音楽家であるブルックとの音楽談義に花を咲かせているようだ。

 世間に素性は知られぬまま、配信を通して“歌姫”と呼ばれるようになった彼女は歌と音楽を愛する島で長らく育ったのだという。度々話に出てくるゴードンなる人物は音楽に精通した専門家であるらしく、彼に教育を受けたウタの知識も中々のものだ。

 

 歌を聴いてただきれいだ、と思う自分とでは会話の内容も違うのだろう。同志を見つけたことで彼女はいつになく楽しそうにしている。

 しかもその相手が、数々の楽曲を発表して瞬く間にスターになった“ソウルキング”だというのだから興奮せずにはいられない。ウタもまた、聴く者の心を震わせる彼の音楽に感銘を受け、当然の如く認知している。

 

 彼女の笑顔を眩しそうに見て、シルクは柔らかい微笑を浮かべた。

 海賊への苦手意識や、この島を訪れた不安を抱きながらも、今はこうして笑っている。

 あの笑顔は自分が守らなければならない。そうした使命感を持っていた。

 

「危険ね。一人で行かせない方がよかったかもしれない」

 

 ロビンの言葉を聞いて視線を戻す。

 ナミの口から、同行していたサンジが急にどこかへ行ってしまったことを告げてすぐ、その反応があった。雰囲気が違ったせいか嫌な予感がしたのだがロビンも同意しているらしい。

 意識せずとも気持ちが切り替わる。不穏な発言を聞いて緊張が走った。

 

「この島には、世界中から海賊が集まっている。それだけじゃなく一部の王族や貴族、いくつかの国の政治家や商人、政府の役人、海兵……挙げ続ければきりがないわ。みんな海賊を装って利益を得ようと考えているのよ」

「調べたの?」

「少しだけね。知ることができたのはほんの一部でしょうけど、それでもこの島が異常な状態なのは理解できるわ。それに、主催者は間違いなく何か隠しているでしょうし」

 

 思案するロビンが呟き、推測でしかないとはいえ、ナミは緊迫した様子だった。怖がりだと自称しているため青ざめるのは不思議ではないが、ついさっきまでここに居た仲間が危険に晒されているのかもしれないと考えれば尚更、彼の安否が気になった。

 高い戦闘能力を持つ男なのだから心配する必要などないはず。ただ今回は状況が違い、世界中から人が集まるという環境に不安を感じずにはいられない。

 

 嫌な予感がする。ナミが不安そうにしているのを見てロビンがふむと頷いた。

 気になるのは確かだ。何よりも女性より別の事柄をサンジが優先するなど普通ではない。よほどの事態が起こったのは事実だろう。

 

「気になるなら、私が見てくるわ。あなたたちは楽しんでいて」

「え? でも、そんな」

「案内してあげてるんでしょう? 手伝わせるのは悪いわ。それにこっそり調べるのは得意なの」

「あのっ! 私、手伝いたい!」

 

 思わずシルクが口を挟んだ。

 ナミは驚いた顔をして、ロビンは冷静に彼女を見る。

 

「あなたたちの一味に入りたいの。もし力になれるなら協力させて」

「そう、仲間に」

「ルフィに助けられたんだって。だからルフィに会って話そうと思ってたところなの。ちなみに居場所は知ってる?」

「いいえ、残念ながら。もしかしたら爆音の出所に居るかもしれないけれど」

 

 ふむと頷くロビンは思案する素振りを見せ、強引には突っぱねずにシルクへ尋ねる。

 

「海賊は大変よ。あなたの特技は?」

「実戦はほとんどないけど剣を使えるように訓練してた。我流だけど……あと能力が使えるよ」

「えっ、そうなの?」

「悪魔の実を食べたのね。どんな?」

 

 問われたシルクは右手を差し出す。

 自然とナミとロビンの視線が集まり、注目された。

 

 ふわりと音もなく変化が始まる。指先から彼女の体が消えていき、文字通り霧散していく。それと同時に彼女たちの周辺に白い霧が漂い始めていた。

 まさしくそれだとわかる状況。

 ナミが呆然とした顔で自身の足元を見回し、ロビンは確認すると小さく頷いた。

 

「霧になれるの。殴られたり物が当たったくらいじゃダメージにもならない。これも我流だけど鍛えたから、人が見えなくなるくらいの霧を作ることができる」

「じゃあ、自然系(ロギア)ってこと?」

「便利な能力ね。自然系(ロギア)はただ食べるだけですら価値がある」

 

 ほんのわずかとはいえ足元へ広げられた霧が静かに消えていく。

 同時に、消えたはずのシルクの右手は白い霧が集まって元の形になり、ぐっぱっと握って開いて何の違和感もない。どれほどのレベルまで扱えるのかは不明だが少なくともある程度操れるのは確かなようで、暴走する様子は見られなかった。

 

「ルフィに恩を返したいし、私も立派な海賊になりたい。海賊に怯えてる町の人たちを守れるような優しい海賊に」

 

 ぐっと拳を握るシルクからは強い意志が感じられた。

 その一言がきっかけで表情が変わり、ナミは何か感じ入る様子で眉根を寄せる。

 一方、まるで彼女を受け入れるかのように、ロビンは優しい笑みを浮かべた。

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