海賊だから踊ろうぜ   作:ヘビとマングース

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交渉と対峙と因縁

「予想はしてたけど騒がしい島だなぁー。みんなそんなに焦らなくたっていいのに」

 

 はぐれたルフィはどこへ行ったのか。

 気楽に微笑んで通りを歩くキリはぶらぶらしていて、探そうという意思は薄く、一応の目的として定めているが焦ってはいない。

 のんびり探して見つければいい。どうせそれまでに騒動は起こるだろう。事前に阻止しようなどとは思わずに、めんどくさがる彼は静観しようとしていたのだ。

 

 ばたばたと駆けてくる子供たちを目にする。誰が居てもおかしくはない環境下だがその中でも子供だというだけでやけに注目を浴びる。

 二人の内、片方は和装であった。おや? と思うのには十分な理由だ。

 

「侍かな? 珍しい」

「すいませんですだ! オラたち人を探してますです!」

「へぇそうなの。どんな人?」

 

 偶然目が合ったせいか、声をかけられてしまった。

 にこりと微笑んで対応するキリに安堵した様子で二人がぐっと顔を近付けてくる。

 

「エースって名前の男なんだ! オラを置いてどっか行っちまった!」

「父上を知らぬか⁉ ワノ国の……と、とにかく武士だ!」

「ううん、これは困ったな。どう答えてあげればいいものか」

 

 キリは思い悩む素振りを見せた。きっかけは口調が訛っている少年の発言を聞いたからである。

 エースは死んだ。もうこの世には居ない。それなのに探しているというのは奇妙な話で、思考を巡らせるとふと思いつくことがある。

 

 とある映像で噂になったゴールド・ロジャーの姿。まるで復活したかのように見せていたが十中八九偽物だろう。となればエースの偽物が居ても不思議ではない。

 果たしてそれを伝えるべきか否か。

 考えるのが面倒になったキリは素直に答えることにした。

 

「悪いけど知らないよ。どっちも見てない。ちなみにエースとは友達なんだ」

「ほんとだべか⁉」

「そうか……」

「でも、なんだかよからぬ話を聞いたんだ。エースは死んだって。オラはちゃんと会ったのに」

 

 どうやら誰かに聞いた後らしい。キリはふむと頷く。

 

「自分が信じたいものを信じればいいよ。そこは君の自由だ」

「でも……本当はどっちかだけなんだべ?」

「僕の知ってる真実は一つだけど、聞きたい?」

 

 問いかけると少年は黙り込んだ。知るのが怖いと言っているかのようだ。

 不安そうな顔をする二人に微笑みかけ、キリは優しい声で言った。

 

「まだ怖いなら先送りにしてもいいんじゃない? 知りたくなったら調べればいい。どっちにしても君にはショックが大きいだろうから」

「キリ」

 

 背後から声をかけられて振り返り、ロビンの姿を見た。

 ぽかんとする二人とキリに視線を向けられて、普段と違って笑みは浮かべておらず、いくらか緊迫した様子が感じられる。

 

「ちょっと面倒なことになっているみたいなの。一緒に来てくれる?」

「それは面倒だなぁ」

「行きましょう」

「あんまり聞いてくれないみたいだ。ごめんね二人とも、また機会があれば会おうよ」

 

 そう言ってキリはロビンと共に行ってしまい、二人はぽつんと取り残された。

 

 

 

 

 到着した頃にはすでに佳境に入っている様子だった。

 冷静に状況を確認しようとするロビンとは裏腹に、何も考えずに前へ進むキリは軽く手を振りながら接近していく。

 

「やあやあどうも。みなさんお揃いで楽しそうだね」

 

 ぎょっとした顔で振り返るサンジに笑いかけ、対峙している男たちにも友好的な態度を見せた。緊迫した空気などなんのその、一人緩んだ雰囲気で顔を突っ込んでいく。

 誰からも歓迎はされていなかったが本人は気にしていなかった。

 

 顔を見れば所属がわかる。

 長い手足と卵のような体型の紳士、タマゴ男爵。

 背丈は低く手足も短い人型の獅子、ぺコムズ。

 葉巻を銜える低身長の黒スーツの男、“ギャング”・ベッジ。

 いずれも高額の懸賞金をかけられた賞金首。ビッグ・マム海賊団幹部級のクルーであることは間違いない。

 

 唐突に現れたキリを見て空気が一変する。

 彼自身は緩んだ雰囲気を纏って敵意など欠片も見せず、どう見ても隙だらけという立ち姿なのだがだからこそ警戒せずにはいられない。

 名前を売って噂を知られているのは彼も同じ。彼らの態度はあからさまだった。

 

「邪魔が入ったようだな」

「しかし、好都合でもあるのだボン」

「ガオ! つまりこいつがママが言ってたリンブルか」

「本名やめてよ。恥ずかしいから」

 

 にこにこしながらキリが口を挟んできたことでサンジが小さく舌打ちをする。

 状況や彼の態度を見ただけでなんとなく事情は察した。

 介入した方が良さそうだと改めて判断し、サンジの隣に立ってキリが彼の顔を覗き込んだ。

 

「なんだか面倒なことになってるみたいだね。脅されでもした?」

「向こう行ってろ。お前が絡むと話がこじれる」

「まさかそんな。これでも結構お喋りは得意な方だと思ってるよ」

「余計なお世話なんだよ。いいから黙ってろ」

「で、どういう話?」

「おい、今すぐ口を閉じて向こうへ行けクソ野郎。楽しんでんじゃねぇ」

 

 いつになく緊張していたのは確かで、怒りを覗かせるサンジは三人に語り掛けようとするキリの頭を掴んで引き離そうとする。しかし異様な力で彼はその場を動こうとしない。無駄な小競り合いでしかないが二人の争いは長引いた。

 緊迫していたのが嘘のようなやり取りに呆れてしまう。

 やれやれと言いたげに嘆息し、タマゴ男爵がそのキリへと語りかけた。

 

「失礼、我々に彼を傷つける意思はないのでソワール。しかしのっぴきならない理由があり、一緒に来てもらう必要があるのだボン。事を荒立てたくない、本人も納得してくれるはずでジュール」

「ふーん。その理由は聞かせてもらえないの?」

「おらっ、うだうだ言ってねぇで去れ。ルフィのお守りしてろって」

「これは誘拐や脅迫などではなく招待だプレ。理由は――」

「おい!」

 

 遮るようにしてサンジが声を大きくした。

 咄嗟にタマゴ男爵が口を閉ざすが、その様子を見てからキリがサンジに視線を移し、何も言わずにじっと見つめる。

 その目を見てサンジも狼狽え、流石に隠し切れないと判断したようだ。キリが再びタマゴ男爵に向き合っても口を挟もうとはしなかった。

 

「理由は?」

「ヴィンスモーク・サンジの婚姻。シャーロット家の35女、プリン様との結婚のためだボン」

「ふむふむ……それは大変な事態だね。何から触れたらいいのか」

 

 意外にも驚いた様子は見られない。

 心配して気まずそうにしているサンジとは裏腹にキリは冷静で笑みを湛えたまま。

 聞いたことのある名前だ。動揺は少なく、すぐさま確認しようとする。

 

「つまり政略結婚ってことだ。サンジのそういう事情は知らなかったけど、ヴィンスモークの名前は聞いたことあるよ。科学と戦争で地位を向上させる遊泳国家の王族」

「別に……隠そうと思ってたわけじゃねぇ。おれにとっちゃすでに終わった過去だ。あいつらとはもうすでに何の関係もねぇんだ」

「いいよ、責めるつもりはないから。家族間のごたごたは僕やルフィも同じだし」

 

 キリとサンジの会話に割り込むようにしてタマゴ男爵が口を開いた。

 

「ヴィンスモークからの依頼で我々はヴィンスモーク家三男、そこに居るヴィンスモーク・サンジを捜索していた。そして魚人島での邂逅で黄身(きみ)を見つけ、あらかじめ聞いていた特徴と一致していることに気付き、改めて招待に参上した次第だボン」

「ママは逆らう奴には容赦しないが従う奴には寛容だ。悪いことは言わねぇ、余計な犠牲を生む前に言うことを聞いておけ」

「ってことはやっぱり脅された? 本命は僕らかバラティエかな」

「両方でスフレ。理解しているなら結構。ママに逆らえば確定された未来が来るソワール」

 

 タマゴ男爵の態度は落ち着いている。そして穏やかな口調ですでに脅迫されていた。

 ビッグ・マムの命令に従わなければ犠牲者が出る。自分の大切な人が死に、従わなかった人間にその死に様や死体を見せ、従わなかったことを後悔させる。そうしてビッグ・マムは圧倒的な恐怖で人々を従わせてきた。

 

 サンジが困惑している状況とタマゴ男爵の発言により現状を理解する。

 さてどうしたものか。

 打開する方法を探ろうとするキリが口を開く前にタマゴ男爵が言い出す。

 

「彼を助けたいかね? それなら交渉の余地はあるボン。黄身ならわかるのではないか?」

「僕を連れていくって話? できれば避けたいなぁ」

「もしくはニコ・ロビンを引き渡すこと」

「それはダメだ!」

 

 気付いた時には咄嗟にサンジが叫んでいた。感情的な姿を見せるのは弱点を晒すだけなのだが確かに彼は女性が絡むと弱い。だが考えようによってはすでにバレているだろうから問題がないとも言えるだろう。

 冷静さを欠くサンジを後ろに下がらせ、キリが前に立つと、タマゴ男爵は動じずに発言する。

 

「ヴィンスモークの件はこちら側は三男でなくとも十分に話を進められるボン。彼らが時間をかけて三男を結婚させようとしているのはあくまでもあちら側の事情。腹の底では我々に従うつもりなど毛頭ないという表れだボン」

「気持ちはわかるよ。僕もそうしたい」

「強者の脅迫は避けようのない未来。我々はママの機嫌一つで人を殺し、国を滅ぼす。黄身たちにはいくつかの選択肢が与えられているだけ幸せなのだシフォン」

「その割には四皇のナワバリは滅ぼさないけど、それはビッグ・マムがびびってるってこと?」

 

 空気が一変する。ピリリと突き刺さるような張り詰めた空気に誰もが緊張し、特にタマゴ男爵とぺコムズが怒りを覗かせた。

 冷静さを保ったタマゴ男爵とは違い、ぺコムズは思わず拳を握る。

 

「口の利き方には気をつけろ……! ママを侮辱するならおれが許さねぇ!」

「落ち着くのだボン、ぺコムズ。これも彼なりの策略。心を乱せば覇気が乱れる。そうして作った隙をついて仕留めるのだソワール」

「僕のこと知ってるんだ。どうもありがと」

「有名人だジュール。私は黄身のことを侮っていない。それ故に話したいのだ、我々の今後を」

 

 サンジだけだったならば話の進め方は違っていたはずだ。

 キリが現れたことで考えを改め、タマゴ男爵は彼へ語り掛ける。

 数多の噂を聞いて一筋縄ではいかないであろう相手であると予想している。それだけに対等の実力者として向き合おうとしていた。

 

「我々はママの願い通りにヴィンスモークとの婚姻を成功させたいのでソワール。しかし黄身を敵に回したくないというのも本音なのだボン。あくまでも私個人のだが」

「でもビッグ・マムは僕を消したがってるんじゃない?」

「もちろんその通りだボン。古代文字を読めるニコ・ロビンの情報も掴んでいるブプレ。上手く付き合うことはできないか?」

 

 ぺコムズは、なぜそこまでタマゴ男爵が警戒しているのかわからずにいた。

 彼らが対峙したことによって口を挟めるような雰囲気ではなくなり、当事者であるサンジも感情的になるぺコムズも口を閉ざしたままである。

 一方、その場に居るベッジとロビンは初めから口を挟むつもりなどなく、全て任せて静観しようと決めていたようだ。

 

「僕を見逃すから情報を寄越せってこと?」

「簡潔に言えばそうなる。黄身が海賊共和国に属しているのは調査済みだジュール」

「ちょっと前の話さ。今は麦わらの一味だよ」

「そう簡単に繋がりを断つとは思えんのだボン。黄身のバックにはクロコダイルが居る。急速に勢力を伸ばす彼の組織を警戒するのは当然でソワール」

「やだなぁ、買い被り過ぎだよ。今は小さな一味の一応の副船長なんだから」

 

 能天気に笑うキリだが、状況を理解するとサンジへ振り返った。

 交渉を求めているらしいが面倒だ。彼の思考は短絡的で、危険性を知っていながらタマゴ男爵の問いかけに興味を示そうとしない。

 

「やめといた方がいいよ。ビッグ・マムは約束を守るような相手じゃない。例えば言うこと聞かないなら僕らを殺すとかバラティエを滅ぼすとか言われたかもしれないけど、一旦守るふりをしてもどうせ後で殺すし滅ぼす。今従っても一時の延命にしかならない」

「チッ……だが、これはおれの問題だ。お前らを巻き込むわけには……」

「サンジの問題なら僕らの問題だ。ルフィがそんな話聞いて無視すると思う? ロビンを救うためだけに世界政府に喧嘩売ったのに」

 

 微笑むキリが言って、サンジの視線がロビンへ動くと、彼女がにこりと笑った。きっと同じ気持ちなのだろう。すでに迷いなど持っていないのだ。

 自ら捨てていた過去が今更になって重くのしかかる。しかもそれが仲間に迷惑をかけ、自分の力だけでは解決できそうにもなく、申し訳ない。

 責任を感じる彼の表情は辛そうだ。それもあってキリは無責任に笑う。

 

「心配し過ぎだよ。僕らがそう簡単にやられると思う?」

「……クソジジイどもはどうすんだよ。東の海(イーストブルー)まで引き返せるのか?」

「バラティエの人たちって、守ってあげなきゃいけないほど弱かった?」

 

 へらへらした態度だ。気に障るが堂々とそう言われてしまうと、一体何を心配していたのだと後悔してしまう気持ちがある。

 深く嘆息し、サンジの表情が変わった。

 選択肢は一つ。そもそもルフィが以前に喧嘩を売った相手だ。守りたい気持ちがあるならば覚悟を決めるだけだった。

 

「そういうわけだから、結婚はできないってさ。ヴィンスモーク家によろしく」

「我々はそれでよくても、彼らはどうするかわからないでソワール。そしてママも」

「別にいいよ。むしろうちの連中は問答無用で襲われた方がやる気出るから。一部を除いて」

「できれば穏便に進めたかったが……」

 

 タマゴ男爵は自身が被る帽子に手を触れ、佇まいを直して立ち去ろうとした。

 

「今回はこの程度にしておこうブプレ。またいずれ」

「またねー」

「しかしこれで終わりとは思わんことだソワール。私は黄味に興味を持ったボン」

「どうも。じゃあできればもう会いたくないな」

 

 言い終えるとタマゴ男爵は振り返らずに歩いていき、ぺコムズは最後まで納得していない様子を隠そうともしなかったが何も言わずに、結局は手を出さずに去っていく。

 唯一、無言で見つめてくるベッジに対し、キリが小さく手を振った。それを確認すると彼もまた踵を返してその場を後にする。

 

 今後も安泰とは言えないが、一旦は脅威を退けることに成功したらしい。とはいえ島に居る間に再び顔を合わせることになるだろう。その時は今度こそ戦闘だ。

 ようやくロビンが近付いてくる。突っ立っている二人に合流した。

 

 サンジの表情を見れば何も言わずとも複雑な心情が伝わってきた。

 全ては自分のせい、だとでも考えているのだろう。

 過去を隠していたこと。自分の意思とは無関係に捨てたはずのそれが関わってきたこと。そして今は仲間たちに危害を加えようとしている。

 責任を感じて緊張した面持ち。普段とは違って、ロビンが目の前に来ても緩まなかった。

 

「大丈夫サンジ? 疲れているみたい」

「ヴィンスモークとは驚きだね。ひょっとしてトラウマ触れた?」

「うるせぇ……すまないロビンちゃん。隠してるつもりはなかった。おれの中ではすでに終わった過去だったんだ。それがまさか今になって現れるなんて……」

「私は平気。それより、ビッグ・マムにまた関わることになったわね。今度は本格化しそう」

 

 そう呟くロビンにはサンジを責めるつもりなどなかった。だが関わるきっかけになったのは自分だと考える彼は眉根を寄せて苦悩する。

 反応は明らかで、キリとロビンは顔を見合わせる。

 こうなったら元気付けてやらねばならないとキリがやる気を見せ、彼の肩を軽く叩いた。

 

「まあまあ、そう落ち込まないで。考え込んだってどうしようもないさ。切り替えて明るく楽しく気楽にいこう」

「アホのお前と一緒にすんな。最初からお前らがどうなろうが知ったこっちゃねぇが、ナミさんとロビンちゃんを巻き込んじまったことが申し訳ねぇんだ……」

「そんなこと言わずに。本人も気にしてないって言ってるんだし」

「ええ、そうよ。一人で背負いこまないで。あなたが私を助けてくれたように、私にもあなたを助けさせて。遠ざけられるよりそっちの方がずっと嬉しいから」

「ロビンちゃん……!」

 

 ロビンが声をかけると、サンジはわかりやすくじーんと感じ入った様子で、恥ずかしがるわけでもなく目に涙を浮かべていた。先程の後悔が嘘のように消えてしまって、早くも立ち直って元気になった様子だった。

 女好きの彼らしい、わかりやすい態度だ。これほど効果的な状況はない。

 

 キリが何を言っても無駄だっただろうがロビンの一言で精神状態は劇的に変わる。

 状況を見ればもう何も言わなくてもいいはずだ。

 それでもキリはにっこり笑って、表情が緩んだサンジへ次の反応を予想しながら言った。

 

「気にしなくてもその内いいことあるよ。実はサンジに言ってなかったことあるんだけど」

「なんだよ、どうせ禄でもねぇことだろ? もう向こう行っていいぞ。おれとロビンちゃんの間に入ってくんじゃねぇ」

「僕さぁ、みんなと離れてる間に女ヶ島(にょうがしま)に行ったんだけど、スケスケの実なんて食べてないのに女湯に入ったんだよ。あはっ☆」

 

 サンジの動きがぴたりと止まった。

 傷ついた心を癒すためにロビンだけを見つめていようと思ったのに、ぐるりと振り返る。顔には張り付けられたかのような笑み。彼はにっこり笑っていた。

 キリもまたにっこりと微笑みかけて、期待するようにロビンが二人の姿を凝視する。

 

「へーそうなのか」

「うん、そうなんだよ」

「そういやおれもお前に言ってなかったことあったっけなぁ」

「なになに?」

「オルルルルルルァアアッ‼」

「うひゃっ」

 

 突然、怒りの形相となったサンジの全身が炎に包まれ、なんでも燃やし尽くしそうな蹴りが一切の躊躇いもなくキリへ向けて繰り出される。棒立ちだった彼はしかしすぐさま反応して跳び退り、素早く離れて回避した。

 期待した通りの展開である。嫉妬で狂いそうなサンジとは裏腹にキリは楽しそうだ。

 

「こんのクソゲス野郎がァアアアッ‼ 女ヶ島で女湯だと⁉ 美しい裸体のレディたちと一緒に湯に浸かっただとォ⁉ なんでてめぇだけそんなイイ想いしてんだコラァ‼」

「サンジにだけはそんな風に言われたくないなぁ。言っとくけど僕は覗きなんてしないし、ぜーんぶ合意の上でだからね?」

「もう勘弁ならねぇ! 前からお前のそういうところが気に入らなかったんだ! てめぇは性根を叩き直すまで蹴りまくってェ! 全ての記憶を忘れさせてやる‼ 覚悟しろオラァ‼」

「わー怖い。その力はヴィンスモークとビッグ・マムのために取っといてよ」

「紙っぺら野郎ッ! ふざけんな‼」

「おっと危ない」

 

 気を取り直したサンジの猛烈な蹴りを避け続け、軽快に跳び回るキリは軽やかに笑っていた。

 どうやらいつも通りの雰囲気に戻れたらしい。

 二人を見守るロビンは柔和な微笑みを浮かべて安心していた。

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