海賊だから踊ろうぜ   作:ヘビとマングース

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最前線の傍観者

「よお、ご苦労だな野郎ども。悪そうな顔ばっか集まって何よりだぜ」

 

 口火を切ったのは不健康そうな少年だった。

 肌が青白く、薄暗い部屋の中で堂々と椅子に座っているのだが、その姿が闇に溶け込むことなく存在する。対照的に髪と服は黒一色。目の周りには簡単には消えないだろう濃い隈があり、まるで幽鬼のように怪しげな雰囲気を醸し出していた。

 

 彼はすでに十代も半ばの年齢に達するのだが、発育が悪く小柄でより幼く見える。

 それでいて態度は堂々としており、誰よりもふんぞり返って、不敵な笑みを浮かべて集った大人たちを迎えていた。

 

「知らねぇ奴も興味ねぇって奴も居るだろうから改めて自己紹介しとこう。セブンってんだ。名前に大した意味はない、単におれが七番目だったってだけさ」

 

 そう言ってセブンはにやりと笑った。

 人が集まった薄暗い一室。幅広の長い机に椅子がいくつも並べられ、そのいくつかや机の上にどかりと座る男たちが居る。

 多くが誰に従うわけでもなく自らの意思でそこに居た。緊迫した空気が部屋を満たしている。

 

「集まって何しようって言ったらよ、要するに邪魔な奴蹴散らして成り上がろうぜって話だ。王様気取りの敗北者どもに、支配者気取りの世界政府、とにかく上の連中ってのが嫌いなんだ。おれたちでそいつらを消してやろう」

 

 椅子の上で両膝を抱え、不気味な雰囲気を醸し出しているのだが楽しそうだった。その姿に怯える者などこの部屋には居ない。

 彼の言葉につられて、にやりと笑う者は少なくなかった。

 

「おれの目的は単純明快で、ただ世界中のみんなに混乱してほしいだけなんだ。思いっきり暴れて思いっきり壊そうぜ。そしたらみんな平等だろ?」

「ゼハハハハ! まったくてめぇは狂ってやがるぜ!」

 

 大声を響かせて黒いひげを生やした巨漢が笑う。

 マーシャル・D・ティーチは“黒ひげ”とあだ名される海賊だ。つい最近になって突如表舞台へ現れた新星だが海賊としての人生は長い。幼い頃に大海賊の船へ乗り込み、地道に実力を高めながらチャンスを窺っていた。そしてついにその時が来たから動き出したのである。

 

 波乱や混乱は望むところ。これからは派手に好き勝手に暴れたい。

 心からそう願う彼は誰よりも早くセブンの提案に乗った人物だった。

 

「過去のことは水に流そう。お前はおれの大事な計画をぶち壊したが、こっから先の世界が誰にも予想できなくなるんならおもしれェ。おれはお前を許すぜ」

「そりゃどうも」

「勝てなかったおれが悪いのさ。また新しい計画で楽しもう! ゼハハハハ!」

 

 豪快に笑うティーチを見てもセブンは大した反応を見せなかった。

 許すか否かは彼の勝手。興味はない。だが力を貸すというのなら迷わず甘えよう。

 自分は無力だと知っているが故の判断だった。セブンは笑みを崩さない。

 

「言うのは簡単だ。問題はお前に計画があるのかどうか」

 

 問いかけたのはピンク色の鳥の羽のようなコートを肩にかけた金髪の男だ。サングラスで目を隠していつになく厳めしい顔をしている。

 見るからに友好的な態度ではなく、敵意を滲ませている。

 

 ドンキホーテ・ドフラミンゴは様々な顔を持つ男だった。

 世界政府に海賊行為を認められた“王下(おうか)七武海(しちぶかい)”の一角。ドレスローザという国の国王。そして裏社会で多大な影響力を持つ闇商人“JOKER”。

 彼は数多の顔を使いこなして過酷な環境を生き抜いている海賊である。

 

 問いかけに反応してセブンはくつくつと笑い声を響かせた。

 その部屋が静寂に包まれているせいか、小さな笑い声ですらはっきりと聞こえてくる。

 

「実を言うと何もねぇんだ。さてどうしようって感じでな。詳細はお前らで決めてくれていい」

「なんだそりゃ。手を組む意味あんのか?」

「フン、物知り顔で語り出して、おれたちを集めといてそれか?」

「おれたちは味方ではあるが仲間じゃねぇ。同盟を組んで連合軍を作って、この後に始まる激動の時代を生き抜きましょうって約束をするだけだ。お前ら命令なんかされても聞かねぇだろ?」

 

 だから好きに生きろと彼は言うのだ。

 確かに、誰かの下につくのは嫌だと思う人物ばかり。船長として一味を率いる者ばかりがこの席に座っている。計画に従えと言って結果が期待できるはずもない。

 

「ただし備えはあるぜ。おれからのプレゼントだ」

 

 ゴトっと重い音を立ててテーブルに紫色の貝が置かれる。

 見るからに自然界のそれではない。探せば同様の色があるかもしれないが、人為的だろう機械的な細工が随所に見られた。

 何か理由がありそうだなと察して一同は口を噤む。そしてセブンの説明が始まった。

 

「つまらねぇだろうがまずはおれのルーツを聞いてくれ。おれは政府の連中がやってた秘密の悪魔の実に関する人体実験のモルモットだった」

 

 語り出すセブンに、誰も邪魔せずに聞き入る。

 

「身寄りのねぇガキどもに実を食わせて、その能力を兵器に転用できねぇかって実験だ。集まってんのがガラクタばっかりだったから長年何の結果も出せてなかったんだが、データだけは取れてたんだろう。ある時、人体実験ってのは隠してベガパンクにそいつを渡したんだよ」

 

 置かれている貝を指先で突いてコツコツと揺らしながら彼は語る。

 

「やっぱりあいつは天才だぜ。ちょちょいのちょいであっという間に能力を利用した兵器を開発しちまいやがった。ところがガキどもを使って研究してるってのがバレちまってな。非人道的だってんでせっかくの研究成果が破棄されちまったんだ。表向きにはな」

「それがそいつってことか」

 

 相槌を打ったティーチの言葉でセブンが笑みを深める。

 改めてその貝を持ち上げ、掲げて見せる。

 

「おれはパニパニの実を食った“パニック人間”ってとこだ。本来は触れた相手に強制的に不安やら恐怖やらを叩き込んでパニックにするっつーつまんねぇ能力なんだが、そいつを利用してもっと使い勝手よく強くできねぇかと作られたのがこれよ」

「すげぇな。洗脳系じゃねぇか」

「こいつは“狂乱(マッド)(ダイアル)”。こいつが吐き出す霧を吸い込んじまったら最後、正気を失ってパニックになっちまうって寸法だ。まあつまりは洗脳が可能だっつー話だな」

 

 効果はすでに見ている。まさかと思う話だが疑いようはない。少なくとも使用した現場に居合わせたティーチとドフラミンゴはそうだった。

 疑いを向けるのはスクラッチメン・アプーである。彼は特殊な立場にあり、誰に肩入れするかはまだ見極めている最中。使えないとわかれば離れる可能性も十分にあり得た。

 

「本気か? そんなもん一つで他人を洗脳できりゃそりゃあ世の中の勢力図も変えられるな。だがそう上手くいくもんかね。いくらベガパンクが天才っつっても限度があんだろ」

「じゃあ証拠を見せよう。まあ、すでにさっきっからそこに座ってんのもそうなんだが」

 

 セブンの視線に気付いて首を動かし、アプーは座ったままで話さない巨体を確認する。

 一説によればバーソロミュー・くまは人体の改造を受け、完全に機械となってしまったらしい。如何なる命令も忠実に実行する最強の奴隷兵器。政府から奪ってきたのなら何も言わずに大人しく座っているのは当然かと思えた。

 まだ信じるわけにはいかない。だがアプーの表情は彼が居るだけでも歪んでいた。

 

 パチンと指が鳴らされる。気取った仕草だがわかりやすい。

 扉が開いて数人が部屋に入ってくる。

 このために控えていたのか、その顔触れを見て誰もが驚愕した。

 

「サプラ~イズ。さあみんな、お友達にご挨拶」

「やあ。おれは干害(かんがい)のジャック。趣味は破壊、特技は家を踏み潰すこと。この屋敷なら破壊し尽くすのに十秒もいらないぞ」

「やあ。おれはスイート三将星のシャーロット・クラッカー。サクサク甘いクッキーはいかが? 無限に出てくる甘いお菓子で地獄が見れるぞ」

「やあ。おれはダイヤモンド・ジョズ。ダイヤモンドの皮膚は岩でも鋼鉄でも破壊しちゃうぞ」

 

 誰もかれもどこかで見た大海賊。トータルバウンティが如何ほどになるのか、考えるだけでぞくぞくしてしまう。

 壮観である。少なくともアプーは思わずにやけてしまっていた。

 嫌がりもせず片手を上げて間抜けな自己紹介をした後、棒立ちになって大人しくしている姿を見てしまうと、間違いないと確信を持った。

 

「アッパッパ! なるほど、こりゃすげぇや!」

「苦労したんだぜ。このレベルを捕まえてくんのはさぁ。しかしこれだけでおれたちは大戦力を手に入れたわけだ」

 

 三人が持ってきた袋の中身をテーブルの上にぶちまける。

 先程紹介されたダイアルが新たに数十個出された。乱暴に扱ったからでもあるがテーブルから落ちてしまうほど大量に差し出される。

 

「好きなだけ使え。で、その先は当然、おわかりでしょってわけだ」

 

 各々が戦力を集め、競うように覇を唱える。そういうことだろう。

 それでいて同盟を組むなどと言っているのだからしばらくは味方としての関係が続く。しかしこれは永遠ではない。いずれどこかで亀裂が走り、崩壊と同時に新たな戦いが起こる。そしてその頃には個としての戦いなどではなく間違いなく戦争が始まるのだ。

 

 けらけら笑うセブンを見やり、ティーチが笑みを深めた。

 謎が多いようでいて彼には隙が多い。それが敢えてなのかどうかは気にしなかった。

 

「そりゃありがてぇ提案だが、まだ何か隠してんだろ。戦争で見せたのはこれだけじゃなかったはずだぞ。ありゃ兵器か? それともお前の能力か?」

「慌てんなよ。そりゃこれからのお楽しみだろ? 謎が多い男の方が魅力的らしいぜ」

「ケッ、何が謎だ。だがこいつはすげぇ存在だ。簡単にこの世を丸ごとひっくり返せちまう」

 

 その気になったティーチはダイアルを手にして早くも思考を巡らせる。

 他の面子も同じだろう。

 人数の多さは問題ではない。手駒はこれからいくらでも増やすことができる。問題なのはそれを扱う人物がどう動くかだ。

 

「話がわかったんなら早速始めようぜ。いいか、おれのスローガンはこうだ。みんな楽しく激しく一緒に戦争しましょう。世界の端から端まで巻き込んで大混乱を起こしましょう。世界中全部丸ごとぐちゃぐちゃにしてみんな揃って遊ぼうぜ。そのための力はここにある」

 

 リーダーではないが発起人ではある。ようやく賽を投げることができた。

 心底楽しそうにセブンはにやりと笑っていた。

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