紀元7世紀、メソポタミア。王族の娘と、家来の少女の秘密。

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クテシフォン

ササン朝ペルシアの都、クテシフォンは朝日を浴びて黄金色に輝いていた。

 

大きなティグリス川が静かに流れ、宮殿の白い壁を照らす光が神々しい。

 

王族の娘サリナは、窓辺に立ち、眼下に広がる広大な都市を見下ろしていた。

彼女の胸は不安で満ちていた。外では、イスラム勢力が徐々に迫り、ササン朝の栄光は薄れつつあった。

 

「どうなるのだろう…この国は。」

 

王宮の中は表面的には平穏を保っていたが、将来への不安は誰もが感じていた。

サリナもその一人だった。

 

彼女は若く、美しいが、王家の責務を背負い、自由な恋や楽しみから遠ざけられて育てられてきた。

 

ある日、彼女のもとに新しい侍女が送り込まれた。

 

アラブの捕虜の一人だという。

 

彼女の名はリヤーナ、サリナと同じくらいの年頃で、黒い瞳と深い褐色の肌を持つ謎めいた少女だった。

 

「リヤーナです、どうかお仕えさせてください。」

 

彼女は深く頭を下げ、静かな声で挨拶した。

 

サリナは最初、リヤーナに距離を感じていた。彼女は敵国からの捕虜であり、信じてはいけない存在だと教えられてきたからだ。

しかし、リヤーナの優雅で落ち着いた態度と、彼女が示す繊細な優しさに次第に心を開いていった。

 

二人は共に過ごす時間が増え、サリナはリヤーナに自分の不安や悩みを打ち明けるようになった。

 

「戦争が続けば、私たちの未来はどうなるのだろう…」

 

サリナはある晩、リヤーナと星を見上げながら呟いた。

リヤーナは静かにサリナの手を握り、囁いた。

 

「恐れないでください。あなたはとても強い心を持っています。きっと、どんな困難も乗り越えることができるでしょう。」

 

その言葉にサリナは救われた気がした。彼女の心は次第にリヤーナへと惹かれていった。

 

 

サリナは次第にリヤーナに依存するようになり、彼女を信頼していく中で、友情以上の感情を感じるようになっていた。

 

ある日、リヤーナが宮殿の庭で花を摘んでいる姿を見つめながら、サリナの胸の中に何かが芽生えた。

 

「私は…彼女を愛しているのかもしれない。」

 

だが、その思いを口にすることはできなかった。

リヤーナは敵国の捕虜であり、彼女を愛することは許されない。

ましてや、二人の愛は女性同士のものであり、王族の娘としては絶対に許されないものであった。

それでも、彼女の気持ちは止められなかった。

 

ある夜、サリナはリヤーナを自分の部屋に招き入れた。

二人は静かな夜の中、ただ隣り合って座っていた。

月の光が彼女たちの顔を優しく照らし、二人の間には深い沈黙が流れていた。

 

「リヤーナ、私は…あなたに伝えなければならないことがあります。」

 

サリナの声は震えていたが、彼女はリヤーナの目を見つめた。

リヤーナは何も言わず、ただサリナの手を握り返した。

 

彼女の瞳には、言葉では表現できないほどの優しさと深い感情が映っていた。

 

リヤーナは静かに囁いた。

 

「私も…あなたと同じです。」

 

その瞬間、二人の唇が重なり合った。

 

サリナは、自分の中にある情熱と欲望が爆発するのを感じた。

彼女はリヤーナを強く抱きしめ、決して離れたくないと心から願った。

 

 

サリナとリヤーナの愛は、禁じられたものでありながらも、止めることのできない激情によって燃え上がっていった。

 

ある夜、二人は再び密会し、言葉では伝えきれないほどの愛を交わすことになった。

リヤーナの手がサリナの顔に触れ、その指先がそっと彼女の頬を撫でた。

サリナは目を閉じ、彼女の温もりに包まれながら、自分の中にある抑えきれない欲望を感じていた。

 

「あなたは…私のすべてよ。」

 

サリナは静かに囁き、リヤーナを抱きしめた。

二人はそのまま夜を共に過ごし、互いの心と体を求め合った。

彼女たちは言葉を超えた場所で結ばれ、その夜の情熱は二人の心に永遠に刻まれるものとなった。

 

 

 

時が経つにつれ、イスラム勢力はササン朝に対してより攻撃を強め、決定的な戦い、ニハーヴァンドの戦いが近づいていた。

 

クテシフォンの宮殿内でも緊張が高まり、サリナの父や兄弟たちは戦に備えていた。

 

サリナもまた、宮廷の女性たちと共に準備を進めていたが、リヤーナの存在だけが彼女を支えていた。

 

しかし、ついにサリナはリヤーナがスパイであることを知ってしまう。

 

彼女は偶然、リヤーナが密かに書いた手紙を見つけ、それが敵軍への報告であることに気づいたのだ。

心が引き裂かれるような思いで、サリナはリヤーナを問い詰めた。

 

「あなたは…裏切っていたの?」

 

サリナの声は震えていた。

 

「私は…私は初めからそのつもりだった。だけど、あなたを愛してしまった」

 

リヤーナも涙を浮かべていた。

二人の愛は、最初から許されないものだった。

しかし、サリナはリヤーナを罰することができなかった。

彼女は愛してしまった相手を許したいと思ったが、心の中の葛藤は消えなかった。

 

 

 

やがて、ニハーヴァンドの戦いはイスラム勢力の勝利に終わり、ササン朝は崩壊の運命を迎えた。

 

クテシフォンも陥落し、サリナの家族は滅び、彼女自身も追い詰められていた。

 

混乱の中、リヤーナは密かにサリナを宮殿の裏道へ導き、彼女を逃がそうとした。

 

「もう一緒にいられない」

 

リヤーナは涙を浮かべながら告げた。

 

「私たちは違う世界の人間だった。でも、私はあなたを愛してしまった。それが私の罪だ。」

 

サリナも涙を流していた。

 

「あなたを憎みたい」

「でも、できない。私も、あなたを愛してしまった。」

 

最後に、二人はクテシフォンの廃墟で抱き合い、別れのキスを交わした。

 

しかし、その瞬間、突然背後から兵士たちの声が響いた。

 

サリナが振り返ると、イスラム勢力の部隊が現れ、リヤーナに向けて頭を下げた。

リヤーナは、まるで別人のように冷静な表情で、サリナから少し距離を取った。

 

「リヤーナ、これは…何?」

 

サリナは戸惑い、震える声で問いかけた。

 

リヤーナは目を伏せたまま、静かに口を開いた。

 

「サリナ、私はあなたに嘘をついていた。私の任務は、ササン朝の滅亡を確実にすること。そして、あなたをこの瞬間まで生かしておくことだった。」

 

「どういう意味?」

 

サリナの心臓が激しく鼓動を打ち始めた。

 

リヤーナは鋭い視線をサリナに向けた。

 

「あなたはただの王族の娘ではない。あなたの存在そのものが、ササン朝の再建を望む者たちの最後の希望だったの。

あなたを生かし、そして今、イスラム軍に引き渡すことが、私の本当の使命だった。」

 

サリナは目の前の光景を信じられなかった。

 

リヤーナが私だけに見せてくれたこれまでの優しさと愛情は、すべて偽りだったのか?

それとも、彼女の愛は嘘ではなかったのか?

 

「じゃあ、今までのことは…全部、嘘だったの?」

 

サリナは涙を抑えきれず、叫んだ。

 

「…いいえ。」

 

リヤーナは一瞬、苦しそうに顔を歪めた。

 

「あなたへの気持ちは、本物だった。けれど、私は祖国のためにあなたを裏切らなければならなかったの。」

 

リヤーナは震える手でサリナの頬に触れた。

 

「私が愛してしまったことが、最大の失敗だった。それでも、私はこの道を選んだ。」

 

サリナは絶望と怒りの中で、リヤーナの手を振り払った。

 

「もう私に触れないで!」

 

だがその瞬間、別の兵士がリヤーナに近づき、静かに彼女の耳元で何かを囁いた。

リヤーナの表情が一変し、再びサリナを強く抱きしめた。

 

「サリナ、今すぐ逃げて!」

 

リヤーナは切迫した声で言った。

 

「何を言ってるの?」

 

サリナは驚きながらも、リヤーナの腕から離れようとしたが、リヤーナは彼女を放そうとしなかった。

 

「彼らは、あなたを処刑するつもりなの。イスラム軍は、もうあなたを生かしておく価値がないと判断したのよ。でも私は、あなたを死なせたくない!」

 

リヤーナの瞳は、これまでに見せたことのない激しい感情に満ちていた。

 

「でも、あなたは…私を裏切ったのに?」

 

サリナは混乱し、怒りと愛情の間で揺れていた。

 

「そうだ。私は裏切った。でも、最後にもう一度だけ信じてほしい。今だけでいいから!」

 

リヤーナは泣きながら、サリナを強引に隠し通路へ押し込んだ。

 

「あなたを愛してる。それだけは…!」

 

サリナが通路の中へ入ると、リヤーナは最後に彼女に微笑んだ。

それは、彼女が見せた中で最も美しい微笑みだった。

 

そしてリヤーナは、兵士たちの前に立ちはだかり、自らの命を捧げるようにその場に留まった。

 

 

 

サリナはリヤーナの言葉を信じ、泣きながら通路を抜け、クテシフォンの外へと逃げ延びた。

彼女の心には、リヤーナとの愛と裏切り、そして最後の瞬間の真実が深く刻まれていた。

 

リヤーナは、サリナを救うために最後の選択をした。

 

そして彼女自身は、イスラム軍の命令に背き、その場で処刑された。

リヤーナの最期の行動は、彼女が愛する相手に対して見せた唯一の真実だった。

 

サリナは新しい時代の中で生き延びたが、リヤーナのことを忘れることはなかった。

 

滅びゆくササン朝と共に、彼女の愛もまた失われ、二人の物語は歴史の中で語られることなく、静かに消えていった。

 

しかし、サリナの心の中には、いつまでもリヤーナの微笑みが残り続けた。

 


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