ロアルドロスに転生した話   作:黒木箱 末宝

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今回はエピローグ的なお話なので、少し長くなりました。


ギルドナイトとの話

 吐き落とした水ブレスがタル爆弾を起爆させる。その瞬間、巻き上がった爆風に煽られて、俺は空を飛んでいた。

 

 うおおおお! 高ええええ! 最高おおおお!

 

 空。孤島の空だ。月光に照らされた、美しく輝く海が見えた。

 静寂の中で舞い上がった俺を、地上の全てが注目している。そりゃテンションも上がるってもんだ。

 

「グルア!?」

 

 近く聞こえた驚き混じりの鳴き声。見ると、リオレウスが此方に向かって飛んで来ていた。おおかた大砲の音で叩き起こされたから、その騒音の元凶を黙らせに来たんだろう。もう殺っちまったぞ。

 

 呆然とした顔で俺を見るリオレウスだったが、次第に上昇して俺を見下ろしてくるようになった。

 

 生意気だな。まぁ空じゃ勝てないのは仕方がないが。……それにしても上がり過ぎじゃ……──あ、違う! ()()()()()()()()ッ!!

 

 頭から真っ逆さまに落ちる。流石にこのままじゃ無事ではすまないだろう。だが、俺には秘策がある。

 

 うおおお! 秘技、ロアルドロス流着地術!!

 

 説明しなければなるまい。ロアルドロス流着地術とは、空中で捻りながら回転し、たっぷり水を含んだ海綿体から着地することで落下エネルギーを回転エネルギーに変換する技である。……要は五点接地のクッション付きバージョンだ。

 

 海を泳ぐ様にして空中で回転、落下角度が横に逸れ始めた。

 そして、地面に叩き付けられる瞬間に、海綿体である(たてがみ)を先に地面へと付ける。

 

 海綿体とそこに含まれていた水が想定通りにクッションになり、少しみっともないがゴロゴロと転がることで、無傷で着地に成功した。

 

 ……ふぅ~~~~あっぶねぇ~~~~……今までで一番危なかったかもしれねぇ。いやぁ、何事も回転すれば解決出来るってさ、憧れのヒーローから学んだことだったが、実現出来て良かったぜ。ありがとう、我らの光よ!

 

 それはともかく、どうすっかな~これ。エリア5番は変なタル爆弾の所為でクレーターができてるし、そこら中が人間の血肉でまみれている。

 

「うぅ……」

 

 ん、生き残りがいたのか。

 

 呻き声が聞こえたので見に行くと、岩壁を背に倒れる密猟者のリーダーがいた。辛うじて生きているものの、手脚がひん曲がってるし、体中に破片が刺さりまくっている。出血も酷いし、このままじゃ死ぬだろう。

 

 ……いや、よく見たら刺さっている破片に骨やら歯やらが混じっている。しかも、背中側に何人か人らしき残骸と血溜まりもある。

 

 ……成る程、その身を盾やクッションにしてリーダーを守ったのか。部下には慕われていたようだな。

 

 まあ、こいつ以外の密猟者は全滅したようだけども。

 

 どうした、密猟者達のリーダー。こんなもんで終わるとか、勇敢なドスジャギィくんの方が群れを良く率いていたぞ?

 

 そうして死にかけの密猟者を鼻で笑う。

 

 するとその時、俺の耳に、密猟者の生き残りであろう存在の呟きが聞こえた。直ぐに見付けたが、俺が手を出す必要はなさそうだ。

 

「……作戦は失敗……部隊は壊滅……直ぐに帰投して──え?」

 

 此方の様子を見ていたであろう、報告役っぽい密猟者が後から殴られた。

 

 目を見開き倒れる密猟者。そしてその後に、見慣れた紅い衣装を纏った男が、月光に照らし出される。

 

 腰の銃は飛竜には歯が立たず、腰に掲げた長剣は飛竜との戦いに使われる物ではない……そう、それは小さな悪を討つためにあるッ!

 

 ギルドナイトのエントリーだ!

 

 アイエエエ!? ギルドナイト!? ギルドナイトナンデ!?

 

 ふざけている場合ではない。ギルドナイトはハンターギルドのルールを無視する悪を調査し、時に討ち取ると噂されている。だが、その中には人類の脅威に対応するという任務も存在していたはずッ!

 

 ……成る程、密猟者はオマケで……俺が本命か……なんかしたっけ!?

 

 俺は、フィールドに降りてきたギルドナイトを見た。そして理解した。コイツはヤバイと。

 

 ……ヤバいぜこいつ……見ただけで分かるぜ……敵を壊す戦いを得意とする雰囲気だ……。

 

 初めて人に警戒する。ハンター達を撃退して驕っていたが、それはもう役に立たんから捨てるわ。

 

 取り敢えず、こいつの介錯をしとくか。起き上がって茶々入れられても困るし。

 

 そうして前脚を上げて密猟者のリーダーを踏み潰そうとしたその時だった。俺の鉤爪に、小石が当てられたのだ。

 

 小石の軌道を逆読みして見れば、そこには何かを投げた姿勢のギルドナイトがいた。

 

「悪いが待ってくれ。そいつを殺されたら困る」

 

 ほう、それはどうして?

 

 問い掛けるように目を合わせ、ついでに密猟者リーダーの心臓付近に鉤爪を添える。

 そうすると、ギルドナイトは本当に困った様子で説明を始めた。

 

 「俺達は……そうだな、君を助けに──違う違う、嘘じゃないんだ!」

 

 たかだかモンスターだと侮られている気がしたので、鉤爪で密猟者リーダーの折れた腕を()ねる。既に感覚が無いようで、何一つ反応を返さない。

 

「ああ……本当に賢いんだな君は……分かった、全て話そう」

 

 そうしてギルドナイトは、今度は本当の事を話し始めた。

 とある国の公爵が俺を狙っており、密猟団に依頼した事。

 本来はもう少し早く密猟者達の身柄を確保するはずだったが、密猟者達の支援者に密猟者の船以外を強引に停められた事。

 

 そのせいで出遅れ、俺や孤島のモンスター達を危険に晒して申し訳ないと謝罪し、そのうえで密猟者リーダーの交換交渉をしたいとギルドナイトは言う。

 

 何でそんな事をと思ったが、ギルドナイトが「獲物の横取りに成ってしまうから」と言ってきたので、そこで漸く理解した。

 

 ……まあ、別に人なんか食いたか無いし、俺も大して被害とか無いからいいか。

 

 俺はギルドナイトに頷くと、密猟者のリーダーが使っていた大剣を咥え、返り血を流しに滝を浴びに向かった。もういらないだろうし良いよね。

 

 ……あ、そうだ。交換とか言ってたけど何くれるんだろ。

 

 そう思ってなんと無く振り返ると、なんとそこにはギルドナイトの他に、更に5人の人影が増えていた。そんな気配を微塵も感じさせない人影が、油断無く俺を見つめている。

 

「……フン……!」

 

 強がりで鼻を鳴らし、堂々と歩く振りをする。

 

 ……怖~~~~!!! え、全く気付かなかったんだけど!? いつからいたんだあいつら!

 

 ……えー、ギルドナイトは実在した挙げ句、ハチャメチャ怖いですー……近寄らんとこ。

 

 

 

 ■

 

 

 

 密猟者で遊んでから2~3日経った後、再びアプトノスが荷車を引いて来て、それの護衛としてハンターちゃんが現れた。

 

 どうしたハンターちゃん、またお使いか?

 

 そう問い掛けるように首を傾げて見せると、ハンターちゃんは愚痴を吐き始めた。

 

「……ねえ、何かあったでしょ。アイシャが……村の受付嬢……なんて言ったら伝わるかな……」

 

 何言っても伝わるぞ。

 

「ああ、友達が真面目な顔して“絶対駄目です!”って森に行かせてくれなかったんだ」

 

 ……成る程、ギルドから警告でも出てたのかな? 密猟者が来てるって分かってるなら、村も危ないだろうし。

 

 何かを考える素振りの俺に、ハンターちゃんは言ってもしょうがないと思ったのか、溜め息をついて荷車を指さした。

 

「あれ、ギルドからの指名依頼。それと伝言『交換の支払いだ』……私は荷運びでも伝言係でもないんだけど……何したの?」

 

 交換……あ、あー密猟者リーダーとのやつだ。へー、ギルドナイトも律儀だねぇ、無視しても問題ないのに。

 

 感心したように頷く俺に、ハンターちゃんはまた溜め息を吐いた。そんなに溜め息つくと運気下がるぞ。

 

 ……まあ、ハンターちゃんなら別に言っても良いか。止められてないし。

 

 そうして、俺はハンターちゃんに事の顛末を身振り手振りで話す。

 

 しかし、これが伝わらない。

 

 ハンターちゃんも頑張って当てようとするが、そもそも答えを知らないのか思い当たらないのか……言葉で理解し合えないってのはこんなにもむず痒いのか。

 

 途中から苛ついて鉤爪で地面に字を書いたが、そもそも字も違うんだからこれも伝わらない。

 ただ、ハンターちゃんが真剣にその文字をハンターノートに書き写してたのは面白かった。

 

 結局、その文字の向きとか書き順とかの練習で時間が過ぎて、何一つ伝えることはできなかった。しょうがないね。

 

 

 

 ■

 

 

 

【密猟団・大水獣調査報告書】

・孤島へ遅れて到着。既に戦闘が行われていた。

・大水獣の残虐性を確認。以下、現場の走り書きを添付。

・違法タル爆弾を確認。現物の回収は不可。破片を回収。

事故死(プランE)の失敗を確認。

・人類に対する敵意の確認を認めず。静観(プランA)を推奨。

・密猟団の幹部と連絡役を捕獲。幹部は瀕死の状態、治療中。意識が戻り次第に尋問を開始。

・尋問の結果、確たる証拠を自供したので調査を開始。

・密猟団の一部を捕縛に成功。しかし、依然として密猟団は壊滅に至っていません。注意されたし。

 

 

【現場観測者の走り書き】

・大水獣は演技をします。密猟者達はそれに騙され壊滅しました。

・道具を使用した。荷車を武器や盾に利用して密猟者達を殺害。

・技術を理解している。ボウガン、大砲の攻撃を脅威と見て、弾に密猟者をぶつけて無効化した。

・高く跳ぶ。

・タル爆弾を理解し、利用。キレイ。

・特殊な着地法を使用。かいてん→水クッション→かいてん。あとでかく。

・ナイトの意図か意思を感知、理解。

・人の価値観を理解。あやうい。

・言語を理解。交渉の結果、幹部を交換。追︰支払いをお願いします。

・密猟者の大剣を回収。注意。

・ギルドナイトの存在を理解。隠れていた他5名の存在を感知。

・私はバレてなかった。何故?

 

 

【特殊な着地法の清書】

・空中で体を縦軸に回転→落下軌道を逸らす→鬣(クッション)を利用して衝撃の減衰→回転して衝撃の向きを変えてる。

・五点接地でした。ロアルドロスがなぜ、どこで?

 

 

【モガの村ハンターの報告書】

・例のロアルドロスに変化なし。見知らぬ大剣が立て掛けてあった。拾ったらしい。

・会話を仕掛けたら、身振り手振りで何かを伝えようとしていた。言語は伝わっている様子。

・鉤爪を使い地面に文字を書き始めた。書き写そうとしたら文字を教わった。その文字と文書らしきもののメモを添付する。

 

『みつりょうしゃ に おそわれた。ぜんいん たおした。ギルドナイト に あった。つよそう でした。』

 

・もう一つ何かを書き始めてた。直ぐにかき消されたので分からなかったけど、覚えている文字を書き記しておく。

 

『チンユ』

 

・最後の文字の横線を書く時、何か焦った様子で爪が乱れ、そして掻き消した。その文字を消した後、ロアルドロスは申し訳無さそうにしていたので、恐らく重要な文字か伝えてはいけない文字だと思う。

・その表情に既視感。村の男の子を思い出した。何故かは分からない。

 

「……うーん、ますます分からんのぉ……」

 

 その報告書を呼んだタンジアのギルドマスターは、頭を抱えるのだった。




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