ロアルドロスに転生した話   作:黒木箱 末宝

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未熟な英雄の話

「最高のお面完全復活っチャー!」

「やったンバー! 早く変わるンバ!」

「ンチャー!」

「ンバー!」

 

 村の中心で元気に踊るチャチャとカヤンバを眺めながら、私は何処か浮足立つ気分に陥っていた。

 

「おう! ……うんむ。良くやったな、狩人」

 

 そんな私に気付いた村長は、しかし責めることも無く労ってくれた。

 

「違うんです村長……私は、村長に期待されていたのに……大水獣に守られてばかりで……」

 

 村長に期待されて依頼されたクエストだったのに、その殆どが大水獣によって乱されてしまった。そんな未熟な自分に、気分はどんどん落ち込んでいく。

 

「何があったんだ?」

「……実は──」

 

 私は自身の不甲斐なさや未熟な所、大水獣に対する思いを吐き出した。それを村長は一つ一つ解きほぐしてくれた。

 

 『狩りに乱入は良くあることだ』と理解を示し『お主は白海竜から逃げた訳ではないのだろう?』と、意思を尊重してくれた。そして『それだけで見限る程老いておらん』と、私の不安を笑って打ち砕いてくれた。

 

「しかし『大水獣が分からない』か……うんむ。それは当たり前だぞ狩人よ」

「……分からないのが、当たり前……?」

「そうとも。お主わしの事をどれ程知っておる?」

「えっと……村長で、息子がいて……見た目と喋り方とタバコを吸うことに──」

「わっはっはっは!」

「!?」

 

 突然大声で笑いはじめた村長。驚いて見ていると、村長は言った。

 

「そうだ。だが、それくらいだろう? わしの好物は? 嫁の名前は? 知らぬだろう。伝えておらんからな」

「……確かに、全然知らない」

「そうだ。だが、それが普通でもある」

 

 村長の言いたい事が解った気がする。そうだ、私は何を焦っていたんだろう。相手の事は知らないのが当たり前で、それがモンスターが相手で更に特殊な個体なら尚の事だった。

 

「うんむ。いい顔に戻ったな」

「はい、ありがとうございます村長」

「おう」

 

 そうだ。私は確かにあいつ──大水獣の事を知らない。でも幸いに大水獣から敵対意思は見られないし、幸いにもコミュニケーションを取る手段がある。

 

 それに、未知をこの目で見て確かめるのがハンターだ。

 

「フフッ」

「やっと笑ったっチャ」

「ミーのダンスのおかげンバ!」

「チャー! オレチャマのおかげっチャ!」

 

「ありがとね、二人とも!」

 

 

 

 ■

 

 

 

「ウオオオオオオ!!」

「ピィー!?」「ヒュイー!?」「……フッ」

 

 頭の中で暴れる不快感に、俺はルドロス達を轢かないよう気を付けつつ、叫びながらゴロゴロと転がり暴れていた。

 体重と地面に挟まれて、(たてがみ)から水がバシャバシャと溢れ出し周囲を水浸しにする。

 

 うわあああああ! イキリ無双を見られた上にドン引きされた!! 挙げ句に獲物を横取りしちゃったしさぁ!! ぬぁにが『ハンターちゃんの糧になってもらおう』だッ!!あークッソ恥ずかしぃ~~メッチャ恥ずかしーー完全に嫌われた~~!!

 

「オウ!」

 

 三義兄弟の内、一番人臭いやつに嗜められた。

 その視線から、俺の行動に理解している意思が伝わってくる。黒歴史という概念をご存知で?

 

 ごめんごめん、それで何だっけ? ……ああ、トレーニング。強くなりたいんだっけ、いいよ!

 

 どうやら三義兄弟は俺と白海竜の戦いを水辺から見ていたらしく、あらためて俺の強さに感銘を受けたらしい。

 それで、今度は自分達で群を守れる様に力が欲しいと言ってきた。まあ、それで黒歴史が蘇り暴れ出したって訳だが。

 

 トレーニングね。それは良いが、お前達はどうなりたい?

 

「ピ? ピィー!」「ピュイー!」「ウオウッ!」

 

 傷だらけの長男がただ強くなりたい。

 片目に傷のある次男は速く強くなりたい。

 義兄弟一デカイ三男は俺の水流ブレスが射てるようになりたい。

 

 ふむ、それなら簡単だ。良いかお前達! 強く成りたければ、よく動き、よく学び、よく遊び、よく食べて、よく寝ること! これこそが最高の修行方法だ。解った?

 

「ピィ?」「ピュイ?」「オウ」

 

 “それで良いのか?”と鳴く三義兄弟。良いに決まってる、なにせそれをやって俺は強くなったんだからな。

 それに宇宙最強の人型ラージャンのお墨付きだぞ? 間違い無いって!

 

 そうして三義兄弟に俺のやっていた修行を教えていると、不意に何かを忘れてるような、不安な気分に襲われた。

 

 すると、イビルジョーの雄叫びが聞こえてきた。驚いて音の位置を確認するが、再び響いて来た声の位置が妙に高いことに気付いた。

 声を追って上を見ると、何とリオレウスとリオレイア、その亜種の両夫婦によって海へと運ばれ、叩き落されるイビルジョーが見えた。

 

 フフッ……クククッ……ダハハハハハハハハ!! ええ? 別々のリオ夫婦が協力して? イビルジョーを運んで……海に捨てた! アハハハハハ! ザマァ無いぜ! ……ん、待てよ? あいつ泳げるとかないよな?

 

 思わぬ光景に爆笑していたが、このままだとイビルジョーがこっちに向かって泳いでくるのではと考えてしまった。

 もしもその考えが当たっていたら、この海岸でイビルジョーが暴れ出し、群れに被害が出かねない。

 

 ルドロス達に避難するよう伝え、急いでイビルジョーの落ちた場所まで泳いで行く。すると想像通り、体を波打たせて泳ぐイビルジョーが、海岸に向かって来ていた。

 

 ええ? マジで泳いでやがった。……うーん、進行方向が縄張りの方だな。このままじゃ不味いな、死んでもらおう。

 

 尻尾を振り、脚をバタつかせ、小さな前脚をピコピコと動かして必死に泳ぐイビルジョー。

 俺はそんなイビルジョーの背中に鈎爪を食い込ませ、そのまま水中へと引き摺り込み沖へと引っ張って行く。

 

「ゴボボボボボ!!?」

 

 普通に戦っても勝ち目は薄いし疲れるからさ、このまま溺れて死んでくれよ。

 

 必死に暴れて抵抗するイビルジョー。沖へ出る度に海水によって体が冷やされ、暴れる程にスタミナが減って行き、動きが段々と鈍くなってきた。

 常に高い体温を維持する為に全てを喰らうイビルジョーに対し、その逆である冷めたエサの少ない世界へと引き摺り込んでいく。

 やがてイビルジョーは極度の空腹となる。しかし最後の抵抗とばかりにブレスを吐くが、その度に酸素が減っていく悪循環に陥り、軈て死亡した。飢え死にか溺死かか分からないのがイビルジョーの恐ろしい所だ。

 

 ……死んだか? それなら離しても──うーん、このまま放っておいたら、何か陸に流れ着いた瞬間に生き返りそうだな。……そうだ!

 

 周囲を確認すると、そこに程よい窪地と岩石を見つけた。その窪地にイビルジョーをハメて、浮かんでこないように岩乗せる。これで大丈夫だろう。

 暫く見て、イビルジョーが浮かんでこない事を確認した俺は、ルドロス達に安全を伝えに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。所々が齧られたイビルジョーの浅漬けを回収し、岸へと引き摺り上げようと海から顔を出すと、墓前に花を添えて祈るハンターちゃんを見付けた。

 海辺で遊ぶチャチャ達を見るに、探索に来たのだろうか。

 

 ……花か。変に思い詰めてなけりゃいいんだがな。

 

 思い切り波音を立てて上がり、イビルジョーの浅漬けを何も居ない場所へとぶん投げる。

 その音で流石にハンターちゃんが気付いた様で、祈りを終わらせてこっちに向かって歩いて来た。

 

 ようハンターちゃん、花をありがとね。

 

「……うん、おはよう」

 

 ………あー……。

 

「……えっと……その……」

 

 互いに微妙な雰囲気でもじもじし始める。

 何せ片方は家族を殺された側で、もう片方は殺した側だ。

 互いに納得出来たとしても、それで元通りの関係に戻ることはそう簡単ではない。

 

 埒が明かないと動こうとしたら、ハンターちゃんはポーチから本を取り出した。ハンターノートだろうそれを開きペンを取ると、ハンターちゃんは顔を上げて言った。

 

「私は貴方の事を何も知らなかった。だから、教えて欲しい」

 

 真剣な眼差しで真っ直ぐ目を見て来るハンターちゃん。

 野生の世界で目を合わせるってのは敵対行動に近いから、止めようね。

 とは言え、俺は人間だ。特に怒ることも緊張する事もなく、目を細めて見せて頷く事で、ハンターちゃんの頼みを了承する。

 

 ……その前に、場所変えようか。

 

「……うん」

 

 ルドロスに吼えられて悲しそうにするハンターちゃんに、移動する意思を伝えて歩き出す。

 

 そういやハンターちゃんに懐いてたルドロスがいたな。好奇心旺盛で犬みたいなやつが。

 

 不意にその時の光景が蘇る。

 ハンターちゃんに撫でられて喜ぶルドロス。

 釣りをしているハンターちゃんの隣に並んで、おこぼれをもらって喜ぶルドロス。

 採取の手伝いをして、御礼に携帯食料である干し肉を貰って喜んでいたルドロス。

 一緒に泳いで遊んでいたルドロス。

 

 ……もしかしたら、狼が飼い犬に成ったように、オトモルドロスなんて共存の道もあったかも知れないな。

 

 まあ、そんな世界はもう存在しえないだろう。

 

 そうして到着したエリア5番。俺はハンターちゃんと円滑なコミュニケーションを取るために、ひらがなとカタカナを書き出し、その意味を教えた。

 

「……これ全部?」

「オウ」

 

 いきなりの大問題に困惑するハンターちゃんを見て笑いながら、この不思議で楽しい今を噛み締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 とある国の公爵領。そこから離れた別荘にて、豪華絢爛な装飾の屋敷に不相応な様相の破落戸達が集まっていた。

 

「──お前ら、大水獣を獲りに行くぞォ!!」

「「「「「「「「「「オオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」」」」」」」」

 

 密猟団が再び動き出したのだった。




説得とか励ましの方法が分からんのでこうなりました。誰か教えてくれ〜。

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