ロアルドロスに転生した話   作:黒木箱 末宝

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艦隊壊滅の話

「どうだ、クソったれの化け物め!」

 

 試作対巨龍砲の発射ボタンを押すために使ったピッケルグレートを片手に、二度の衝撃で尻もちを搗いた男が怒声を上げる。

 

 彼の名はディギー・D(デストロイヤー)・デルバー。今回の『夜間輸送船護衛訓練』並びに『大水獣駆除作戦』を命令された、大型特殊輸送艦の艦長だ。

 

「しかし……クソッ、試作対巨龍砲を(こんなものまで)持ち出す位だ、ただの駆除任務では済まんとは思っていたが……」

 

 赤熱した巨龍砲が白煙を上げ、その反動と着弾時に発生した爆発による荒波に揺られる大型輸送艦。その崩壊したデッキから落ちないよう、手摺に掴まりながら立ち上がる。

 

 周囲を見れば、船員やならず者達が化け物──大水獣のいたであろう場所を固唾を飲んで見つめている。

 爆炎を上げながら沈む四隻の戦艦を見つめながら、ディギーは呟く。

 

「特殊な個体とは聞いていたが……たった一匹のロアルドロスに戦艦四隻がやられるとは……」

 

 ディギーの目に、先程の光景が鮮明に浮かび上がる。

 まるで全て見えているかのように撃ち落とされる砲弾。その周囲に落ちる、見逃された砲弾によって立ち上る飛沫。

 その中央で堂々と泳ぐ、巨大なロアルドロス──大水獣と呼ばれる、今回の作戦の駆除対象。

 

 そして駆除対象から放たれた、埒外の一撃。

 

「たかがロアルドロスと侮っていたのか……」

 

 ディギーは、己の名に刻まれたD(デストロイヤー)の名に恥じ入る思いだった。

 ディギーにとって【D】とは、公爵より名乗る事を許された悪敵残滅の勲章であったのだから。

 不審船や外患の疑いのある存在を己の持つ力で悉くを捕らえ、討ち倒して来た。

 そして、その力は人間以外にも積極的に振るった。公爵領に存在する、脅威となるモンスターを全て駆除したのだ。

 多少の小言をぶつけて来る者もいたが、ディギー自らが()()()()()()()をすることで、()()()皆掌を返した様にディギーを称賛するのだ。故に、何の問題も無かった。

 

 それが、虎の子の試作対巨龍砲を使い、大型輸送艦を犠牲にして、漸くたった一匹のモンスターを仕留める()()と言う、散々たる結果をもたらしたのだ。

 その恥辱に、ディギーは顔を顰めた。

 

「艦長、先程の砲撃で竜骨がやられました! この艦はもう航行できません……任務続行は不可能です、退艦指示を!」

 

 船員からの報告を纏めた副艦長が指示を仰ぐ。

 ディギーは再び状況を確認し、退艦指示を出した。

 

「総員退艦! ボートに乗り込み、モガの村へと退避する!」

 

 ディギーは事前に決めていた通りの指示を出した。

 所詮小さな村だが、そこには南洋特有のエキゾチックな美女や、優秀で見目の良い受付嬢と女ハンターが居ると聞く。

 本来なら村を救った対価として受け取る積りだったが、ディギーはそれを、今回の任務失敗の()()に使おうと考えたのだ。

 

 だがしかし、艦長の退艦指示を聞き真っ先に動き出したのは、なんとならず者達だった。

 

「お前達、何を……グアッ!? 」

「どけ! 俺が先だ!」

「いいや、私が先だ。ならず者共は藻屑にでもなっていろ!」

「何おう!」

 

 ならず者達と、名を隠して乗船していた騎士達が、船員を蹴り落として我先にとボートへと乗り込む。その挙げ句、互いに罵り合い蹴落とし合いながら勝手に逃げ出したのだ。

 

「チッ! やはりクズ共は役に立たんな……」

 

 ならず者は兎も角、あの騎士達は貴族の三男とそれ以降の者達だ。今回の任務で得られる名声や報酬目当てに、実家の名を使って無理矢理参加してきたクズ共だ。

 

「ふん、精々強請りの種にでもしてやるわ。覚悟しておけ出来損ない共め!」

 

 ディギーが悪態を吐いた──その時だった。

 

 ならず者や騎士達が乗ったボートが、真下から放たれた水流ブレスによって打ち上げられ、空中で削りカスと成って消えたのだ。

 

「…………は?」

 

 まるで撒き餌の様になってばら撒かれる、ならず者達だったもの。赤黒く染まった海面のその奥、赤く光る大水獣と目が合った。

 

「ッ──総員警戒せよ! 奴は……大水獣は生きているッ!!」

 

 背筋の凍えるような感覚に襲われたディギーは、対応指示を叫ぶ。そのディギーの言葉を合図にするかの様に、退艦するため離れたボートに水流ブレスが放たれた。

 最初のボートと同様に打ち上げられ、まるでこの世から削り取られて行くかのように消えていくならず者達。

 

「チィッ! お前達、ボートに乗るな! 奴が離れるまで待機だ!」

 

 例えクズのならず者共でも人員は人員。このまま徒に殺されてしまっては、後の接収(補給)に手間取ってしまう。

 そんなディギーの指示に驚き、噛み付いてくる船員。

 

「そんな?! 我々に大人しく死ねと言うのですか!?」

「ムッ!?」

 

 声を聞き見れば、その船員はパニックに陥っていた。何とか生き残ろうと必死になっているが故か、剣に手が伸びている。

 このままでは拙い。そう思ったディギーは、作戦が有ると言いつつ、責任転嫁をする事にした。

 

「違う! ……業腹だが、ポーチャー等と巫山戯た名前の密猟者が言っていた作戦、その開始を待つのだ……!」

 

 ディギーは、何故か作戦への参加許可書──公爵の印が打たれた物──を持って現れた密猟団のボス、ポーチャーについて考えていた。

 ポーチャーの持っていた書類は、不備も複製の痕跡も無い、完璧な物だった。またガング公爵の悪癖かと考えていると、案の定だった事に溜め息が出た。

 ポーチャーより渡された、ガング公爵の密書。封蝋が裂けていない事を確認して中身を検めると、そこに書かれていた内容は“密猟団を利用し、大水獣を駆除ないし捕獲せよ。そして任務が完了しだい、密猟者達を捕縛せよ”と記されていた。

 

「精々利用してやろうではないか、ポーチャーとやら……」

 

 

 

 

 

 大水獣を警戒しつつ、暫く経った。しかし、いくら待てどもポーチャーからの作戦開始の合図はこなかった。

 

「……ポーチャーめ……何をやっているッ!?」

 

 思わずピッケルグレートを手摺へと突き立てる。

 そんな癇癪に呼応するかの様に、大型輸送艦が再び揺れ始めた。

 

 しかしその揺れは、波に打たれるようなものではなかった。

 

 まるで硬いものが削られる様な細かな振動が、継続的に艦を揺らしている。

 

「この振動……まさかッ!? 総員退避! 海へ飛び込み、浅瀬を目指せ!」

 

 頭を掠めた、削り取られるボートとならず者達。

 まさかの予想に声を荒らげる。だがしかし、ディギーの指示は間に合わなかった。

 

 大水獣の水流ブレスによって艦の竜骨が削り取られたのだ。

 途端、積み荷である試作対巨龍砲の重みも合わさって、勢い良く船体が真っ二つに圧し折れた。

 

 艦尾のデッキに居たがために空中へと弾き飛ばされたディギーは、大水獣の賢さに恐怖していた。かのモンスターは、人の殺し方を弁えていると。

 

「ッ──ガング公爵に、栄光あれぇぇぇぇ!!!」

 

 辞世の言葉を吐きながら、ディギー・D(デストロイヤー)・デルバーは沈む艦と運命を共にするのであった。

 

 

 

 ■

 

 

 

 海に落ちて来た人間達を水流ブレスで粉微塵にして行く。

 生き残られても面倒と考えての行動だが、本来の目的は別にある。

 

「ッゴバアアッ!?!?」

 

 水中で藻掻く人間と目が合う。まともに身動きのできない水中で、殺意を剥き出しにしている巨大なロアルドロスが真正面にいるのだ。アンモニアの臭いに他の悪臭が混じっていたとしても、誰も笑う事はできないだろう。

 

 だが、不愉快だ。

 

 そう感じた俺は、海中にバラまかれた違法タル爆弾を起爆した。

 轟音を上げて衝撃波と破片をばら撒くタル爆弾。それをただの人間が耐えられるわけもなく、無惨に即死した。

 

 それでも人間はまだ沢山生きている。しかし、あれだけ派手に騒ぎ、血肉の臭いを撒き散らしたのだ。当然、他の大型モンスターが大人しくしている訳も無く。

 

 モンスターハンター世界での魚は、その殆どが──或いは全てが──小型の魚竜種だ。海中に蔓延した血の臭に興奮した、夜行性かつ沖に棲む魚竜種が、我先にと海で藻掻く人間達に襲い掛かっている。

 

 そして、そんな小型の魚竜種ごと人間に食い付く、大型の魚竜種も現れた。

 遠くから高速でガノトトスが突撃し、次々と人間を攫って行く。

 そんなガノトトスから身を隠す人間を、沿岸から泳いで来たチャナガブルが瓦礫ごと吸い込む。

 

 そして、今回の騒動で安眠を妨げられ怒っているラギアクルスが、沈み掛けの船を完全に破壊し始めた。

 

 こうなったら誰一人として生き残ることはできないだろう。俺は外敵の末路に満足しつつ、巣へと帰った。

 

 

 だがそこで俺を待っていたのは、剥ぎ取りではない損壊をわざとされていた、ルドロス達の亡骸だった。

 

 ……これは、新妻達の亡骸だ。態々陸に上げてまでなんでこんな事を……。

 

 しかし、その理由は直ぐに解った。

 何せ、巣のあちこちに残った人間の足跡や、わざと付けたであろう痕跡があったからだ。

 それを見るに、密猟者達が俺を挑発するためにやったようだ。まるで誘い出しているかのように、陸地の方まで血や残骸がばら撒かれている。

 

 俺を罠にでも嵌めようってか? ……ブッ殺す。

 

 一度海に入り限界まで水を貯めた俺は、その挑発に乗って痕跡を辿った。

 

 

 

 ■

 

 

 

 海側から聞こえてきた轟音が止んで暫く。海岸からバシャリバシャリと、その一歩一歩に激しい怒りを感じる様な力強い足音が響いて来た。

 その足音から滲み出るターゲットの強さに怯えてか、一匹の獣人──メラルーのヴォルールは、全身の毛が逆立った事に恐怖した。

 

「……にゃ~……」

「……おい、静かにしろ……!」

「……おミャーと同じでビビってるだけニャ。気にするニャ」

「なッ…………び、ビビってねーし……!」

 

 思わず漏れ出た鳴き声に、隣でヘビィボウガンを構えるならず者ハンターであるロウグが小声で怒鳴る。

 

 しかし、ヴォルールには解る。彼から発せられる汗の臭いに、恐怖に震える者の独特な臭いがしたからだ。

 それを同じ気持ちだと伝えて落ち着かせようとするが、何がいけなかったのか、逆に怒らせてしまった。

 

「…………にゃー………」

 

 今度は怒られないよう、小さく溜め息を吐いた。

 ヴォルールは嘆いた。昔から事あるごとに──特に自分が発言した後は──必ずと行って良い程に相手を怒らせてしまう。

 理由を聞いても相手は怒っており、同族に聞いても「おミャーが悪いニャ」の一点張り。

 

 その結果が、旦那を庇って利き脚を失い、挙げ句にオトモをクビになり裏の道に転がり落ちるという始末。

 

 だが、そんな生活も今日で終わる。

 

 ポーチャーとか言う変な名前の人間が言っていた様に、報酬の一億(ゼニー)は生き残ったものに()()支払われる。

 

 生き残る事──それは、メラルーのヴォルールにとって何よりも得意な事だった。

 オトモ時代、採取と同等に鍛え上げた逃走スキル。それが活かされる時が来たのだ。

 

 報酬を貰ったら何をしようか。取り敢えず、あのガサツな旦那とは違う、優しくて柔らかくて良い香りのする人間の雌を雇って、生涯を支えて貰おうか。

 

「ニャフフ……ンニャアッ!? 何ニャ!?」

 

 そんな皮算用をしているヴォルールの頭を冷やすかの様に、水飛沫が頭から掛けられたのだ。

 まさか、ロウグの怒りを買ってイタズラをされたのか?

 

「……何するニャ──ニャァ……?」

 

 文句を言おうと振り返ったヴォルールが見たものは、生臭い悪臭を放ち、脊髄に海水が染みたことでビクビクと蠢いているロウグの下半身だった。

 

「ニャ……ニャァ~……」

 

 ヴォルールの脳内で、ロウグとの思い出が蘇った(走馬灯が再生された)

 

 

 

 『ようお前ら、腹減ってないか?』

 

 そう言ってロウグが現れたのは、船内の牢屋に詰められて狭い思いをしていた時だった。

 

 ()()や経歴に傷を持った獣人は、信用されていないからか船内の牢屋に詰められていた。

 だがそんなヴォルール達に、あろうことかロウグは大量の料理を抱えて現れたのだ。

 

『大丈夫だ。毒なんか入ってない』

 

 警戒する獣人達の前で、ロウグが料理を一つずつ食べて見せたのだ。

 警戒心の緩んだ獣人達は、我先に料理へと手を伸ばす。上から降りてきた香りに、空腹が嫌に刺激されていたからだ。

 

 反対の牢屋に詰められていた奴隷達からの、羨ましげな目を無視する。

 そうして全員が料理を食べ終わると、ロウグは唐突に語りだした。

 

『今回の作戦で生き残ったらさ、お前達を雇って、レストランをやりたいんだ』

 

 そんなロウグの夢物語に水を差すように、一部の獣人は欠損した手脚を“これでもか?”と言うように掲げて見せた。

 それを見てロウグは悲しげに顔を顰めるが、続いて『だからこそだ』と力強く言った。

 

『俺の子供の頃さ、片手の無いアイルーが遊び相手だったんだ』

 

 そうしてロウグは語りだした。自身がアイルーやメラルーが大好きな事。そんな大好きな存在が禄な仕事に就けず、悲しんでいるのが辛かったこと。そんな存在を救いたいと思っていること。

 

『生きて帰ったら絶対に雇うからさ、一緒にレストランやろうぜ!』

 

 そう言って笑うロウグに、一匹、また一匹と夢を語りだした。料理がしたかった。畑仕事がしたかった。狩りや採集がしたかった。

 

『オイラは、レストランやってみたいニャ』

 

 そう言ったヴォルールに、ロウグは影のある、渋い笑顔で『よろしく』と手を握ってくれた。

 

 

 

 そんなロウグが死んだ。

 

「ニャ……ロウグ!」

「チクショウ! 待ち伏せ失敗、攻撃開始ぃ!」

 

 ヴォルールがロウグだったものに駆け寄ろうとした瞬間、他のならず者が攻撃の合図を出した。

 

()()()て! うちまくれぇ!!」

「ニャアアアッ!?」

 

 直後、鳴り響く射撃音に発砲音。

 急な強い音の連射に驚いて、ヴォルールは簡易大砲を落としてしまう。

 

「ニャ──ニャギャッ!?」

 

 大砲を拾おうとするヴォルールを、またしても水飛沫が襲う。

 すると、さっきまで響いていた発砲音が全て止んだ。

 

 そして直後に、鉄錆や臓物の生臭い湿気がヴォルールの鼻を被った。

 それで理解した。ロウグを殺したのは大水獣だと。

 

「ンニャアッ──ァ……」

 

 ヴォルールはカッとなって簡易大砲を持ち上げ、大水獣へと放つため振り向いた。

 すると、口を開き此方を向いている大水獣と目が合った。

 

 死を悟ったその瞬間、ヴォルールの脳内に、故郷の親父に教わった処世術がよぎる。

 

 

 

『良いにゃヴォルール? 死ぬ程ヤバイ奴に出会ったら、目を閉じて、腹を上にして寝て、全部の脚と尻尾をたためニャ。そして武器も全部捨てて、敵じゃニャいって頑張ってアピールするニャ!』

 

 普段は厳格な態度を見せる父が、珍しく酒によって饒舌に語った話だった。

 

『そうまでした相手に攻撃する奴はダサい奴にゃ。そうして俺はクソ程恥を晒して生き残ったのニャ!ニャハハ!』

 

 

 

 記憶の中で笑う親父の言葉に従い、簡易大砲を静かに捨て目を閉じ、水に沈むのも構わず四肢と尻尾をたたみ、腹を見せて服従のポーズを取った。

 

(うう、冷たいニャ、寒いニャ。……そうだニャ、生き残ったら南の温かい島で余生を過ごすニャ。それなら寒くないニャ……そうだニャ、そうするニャ──)

 

 ヴォルールは恐怖を紛らわす為、生き残ったらしたい事を考えた。

 

 すると、大水獣は水に流されて行くヴォルールに呆れ、毒気を抜かれた様子。水流ブレスのチャージを止め、口を閉じて先へと進んだ。

 

「グルルル…………」

 

 それでも怒りは収まらない様で、苛立ちから唸り声が漏れていた。

 

 そうして大水獣は、密猟者達の血と肉で出来た水のレッドカーペットをゆっくり歩み、決戦の地へと進むのだった。




書きたいものが書けてない気がしてきたぞ? まあええか。
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