ロアルドロスに転生した話   作:黒木箱 末宝

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年末からインフルエンザにかかり、その後も体調が優れず、更に新しい仕事も始まって落ち着かなかったりで遅れました。


ガング=B・ポートガーディアン公爵の調書の話

 タンジアの港に併設されたハンター用の病院、そのベッドの上。頬を撫でる潮風によって、タンジアのギルドマスターが目を覚ました。

 

「うう……ここは……そうか、ワシは倒れたのか」

 

 過去に大怪我をしたハンターの見舞いに来た経験から室内に見覚えがあったギルドマスターは、今いる場所が病院だと気付く。

 このまま一眠りしたい気分ではあるがそうはいかない。床頭台(しょうとうだい)──病院とかのベッドの側にある棚──の上にある呼び鈴を鳴らし、自身が目覚めた事を知らせるのだった。

 

 

 

「御大事にねギルドマスター」

「おう、すまんのぉ」

 

 最近よく世話になっている医者を見送る。その先生が言うには、ストレスによって胃が荒れているとのことだ。

 “良くも悪くも検体には事欠かないから”と、微妙に笑えない事を言いながら処方薬を置いて出て行った医者。それとすれ違うように、ギルドナイトが病室へと入って来た。

 

「むう、まだおったか」

「ええ、二つ報告ができていませんので」

「ぬぅ~……聞こう」

 

 ギルドナイトの言葉に嫌な予感がしつつも、聞かない訳にはいかないので体を起こして聞く姿勢をとる。

 するとギルドナイトはカバンを開けると、マル秘と書かれた調書を取り出して見せた。

 それは、前回と今回の密猟騒ぎの元凶と目されている、ガング公爵の調書だった。

 

「また腹の痛む物を……む? なんじゃこれは」

 

 しかし、調書を受け取って捲りその結果を読むが、そこに書かれていたのは、何とガング公爵が今回の密猟事件の関与を一部否定。真犯人と思わしき存在の証拠の提出と捕縛の協力をし、ギルドに対する罰金と、それとは違う出資の契約がされたという内容であった。

 

「むぅ……いったい何があったんじゃ? 」

「それがですね──」

 

 思わぬ事態の進展に、ギルドマスターは何があったか問う。それに対し、ギルドナイトはその時の事を語り始めた。

 

 

 

 ■

 

 

 

 今回の密猟にガング公爵が関与している確たる証拠を掴んだハンターズギルドは、国に報告してガング公爵の出頭を命じた。

 だがしかし、ガング公爵の返事は“領内の仕事で忙しいので出向けない。逃げも隠れもしないのでそちらから来て欲しい”といったふざけたものだった。

 

 それに対し、ハンターズギルドは舐められていると激怒した。そして証拠の隠滅を図っているのではないかと考え、ギルドナイトを招集して急ぎガング公爵領へと向かわせた。

 

 ギルドナイトは書状を手に、白昼堂々と公爵邸に突入した。尚、事前にギルドナイトが向かう事は通告はされている。例え罪を犯している証拠があるとは言え、相手は国王の親戚筋である公爵だからだ。その立場ゆえに、相応の配慮をしなければならない。

 

 そして領主館にギルドナイトが向かうと、ガング=ブレイズ・ポートガーディアン公爵は堂々たる態度でギルドナイト達を出迎えたのだった。

 

 

 

 磨き上げられた石材で建てられた領主館。毛足の短い赤いカーペットの上を歩きながら、嫌味のない装飾の施された廊下を進む。

 

 ギルドナイトの前をゆっくりと歩く、癖の有る金髪を揺らす、南方特有の浅黒い肌の男──ガング・B(ブレイズ)・ポートガーディアン公爵。

 ポートガーディアン家の三男である彼はその類稀なる才覚を大いに振るい、時に堂々と──時に苛烈に行動して公爵の位を引き継いだ傑物だ。

 

「出頭命令に関しては済まなかったね。まだ身内のゴタゴタを片付けられなくて、少しでも領を空けたくなかったんだ」

 

 落ち着く作りの応接室にて、ガング公爵はそのエメラルド色の切れ長な目をギルドナイトに向けながら謝罪した。

 

「一応の拒否権はありますので、問題はありません。今回は密猟の関与について調書を取りに来ました。宜しいですか?」

 

 僅かに咎めるようギルドナイトが言えば、公爵は苦笑しながら頷く。

 

「先ずは、密猟団との関係と密猟関与についてお聞かせ下さい」

 

 そうギルドナイトが聞くと、ガング公爵は脚を組み替えながら答えた。

 

「先に答えておくが、私は密猟に関しては関与していない。ただ密猟団を自由の効く猟団として利用していただけだ」

 

 ガング公爵は平然と言ってのけた。

 

「……それは密猟団に関与しているのとどう違うのですか?」

 

 そうギルドナイトが問えば、ガング公爵は笑みを浮かべて答えた。

 

「狩猟したモンスターを報告したかどうかさ。私はちゃんとハンターズギルドに報告している筈だ」

「……ええ、確かに」

 

 ガング公爵の発言に相異はない。実際にガング公爵の事を調べている中で、領内のモンスターを村や町の防衛のため狩猟した趣旨の報告書はちゃんと届いていた。

 ガング公爵の行動に間違いはない。悲しいことに、ハンターズギルドは巨大な組織とは言え、小さな村や町、開拓地へと派遣出来る程、相応の実力を持つハンターは余ってはいない。

 結果、末端の村や開拓地では狩猟したモンスターの報告等の義務は薄くなり、地方独自の方法で狩猟されたモンスターに関しても、報告さえされれば密猟とされないのだ。

 

「……では、何故その猟団が密猟団と知りながら利用していたのですか?」

 

「簡単な話だ。私は密猟者に通じたフリをして、最後に領内へ入り込んだ密猟団を一気に排除するのが目的だったからだ。この問題は我が領内の事だったからな」

 

「……では、何故ハンターズギルドに報告しなかったのですか? 醜聞(しゅうぶん)を恐れてのことですか?」

 

 何かを隠している雰囲気のガング公爵から真実を引き摺り出す為、ギルドナイトはあえて挑発するように聞いた。

 しかし、ガング公爵はその挑発を歯牙にもかけず答える。

 

「機密性と信頼性を確保するためさ。知っているだろうが、私の別荘の地下を拠点として使わせていたのもそのためだ。居場所がわかってたら仕留めやすいだろ?」

 

「……ハンターズギルドが信用できませんか?」

 

 密猟団を私的に利用し、挙げ句庇っていたとも取れる発言。更にハンターズギルドを信用できないとも取れる発言に、ギルドナイトは趣旨とズレた発言をしてしまう。

 

 それに対し、ガング公爵は目を細めて言った。

 

「密猟団のメンバーにハンターも居たようだが」

「……」

「私を咎めるのは構わないが、そもそもハンターズギルドにも問題があるだろう。今回の事も、些か動きが遅いと思うのだが……?」

「……」

「ふむ、人材不足か。互いに苦労するな」

「…………」

 

 痛い所を突かれ、反論もできない。

 しかも今までの発言だけでは、ガング公爵の罪は想定より小さなものに成ってしまう。その違和感を突くべく、ギルドナイトは質問を続ける。

 

「密猟団のボス──ポーチャーとの関係をお聞かせ下さい。密猟団のボスであるポーチャーがガング公爵の名前を呼んでいたと、捜査員より報告がありました」

 

 密猟団のボスが公爵の名前を呼ぶ。なんてことない様に思えるが、呼んだ側が密猟団のボスというのが問題だ。

 更に報告では、密猟団のボスは親しげに公爵の名前を呼んでいたとある。この関係性は問い質さなければならない。

 

「ポーチャー……あいつ、幼馴染なんだ」

「ッ!?」

 

 思い掛けない繋がりに、ギルドナイトは思わず調書を書く手を止めてガング公爵を見てしまう。

 それに対し苦笑を見せつつ、ガング公爵は続けた。

 

「ポーチャーは領内の専属ハンターに成ってもらうはずだった。それが何を間違えたのか、密猟に走り始めてね。だから他に迷惑をかけないよう、手綱を握る事にしたんだ。私にはそれが出来るからね」

「……」

 

 道理で規模がデカイくせに問題に上がり辛い訳だと、ギルドナイトは顔を顰めながら発言を書き記す。

 

「密猟団を利用した理由をお聞かせ下さい」

 

 ガング公爵の発言が正しければ、密猟団に密猟をさせずその力を利用して領を守り、更に後始末の算段すら立っていたという。()()()()()()()()()()()()、ハンターズギルドへの報告が無いことを咎めさえすれども特に問題が無いように思えてしまう。

 

 だが、それこそが問題だった。

 

「理由か……先ず一つ、領内の村や町をモンスターから守るためだ。遠方の防衛に騎士を使っては金も食料も大量に必要になる。それでは税金を上げざるを得なくなり、結果的に領が疲弊する。それでは意味が無い」

「……」

「では衛兵を使うか? 残念ながら力不足だ。そも彼等の仕事は領内の警備であり、対人業務が主だ。モンスター相手に使うのは大間違いだ」

 

 ガング公爵の話には頷けるものがある。その発言は、各国各地で聞いた対モンスターの悩みそのものだったからだ。

 

「ハンターズギルドに依頼してもハンターの到着は遅く、しかもクエストとして受理されるかは不明瞭。だから使い捨てに出来る密猟団が便利だったんだ。実際に密猟団を使って狩らせたのは、領内で村や町、輸送路に陣取る有害なモンスターだけだ」

 

「……お気持ちは御察しします。ですが私の立場としては、それでもハンターズギルドを通してほしく思います」

 

 ギルドナイトの発言に、しかしガング公爵はそれを「それでは間に合わなかった」と再度言う。更に「自然破壊も致命的な程はしていない」と言う。この問題は持ち帰って捜査する事に。

 

 

 

 優雅に紅茶を飲むガング公爵。言外に飲むか聞かれたが、それを断り調書の続きを取る。

 

「大水獣──孤島に定住したロアルドロスの特殊個体、その密猟を依頼した事についてお聞かせ下さい」

「……ん?」

 

 ギルドナイトの言っている事が理解できないのか、ガング公爵は眉を顰め、詳細を言うよう促してきた。

 

「先ず最初に、密猟団に大水獣の密猟依頼がされました。結果は密猟団の一部隊が大水獣によって壊滅させられましたが……その部隊の拠点で、これが見つかりました」

 

 テーブルに証拠の依頼書を取り出し、ガング公爵に見せる。

 それを手に取り読むガング公爵だったが、筆跡や押印を見て顔を顰めた。

 

「ふむ、印はポートガーディアン家の物だ。だが筆跡が違う……これは次男のだな、独特な癖がそのままだ」

「……それは本当ですか?」

「ああ。……まったく、裏でコソコソと何をしているかと思えば……後で次男のサインが書かれた書類を持ってこよう。それと見比べてくれ。私も調査の協力をする」

「……御協力、感謝します」

 

 あまりにも怪しいが、一応礼を言っておく。

 新たにポートガーディアン家の次男──マーフィ=C(チョッパー)・ポートガーディアンの関与が発覚した。しかし、今の状態では証拠が不十分。ガング公爵が操作しているかも知れないので、後で調査することにする。

 

「ところで、大水獣の密猟にはまだ続きがある様だが?」

 

 そのガング公爵の疑問に答える様に、二回目の大水獣密猟依頼書と、モガの村ハンターによって回収された、大水獣駆除作戦への密猟団参加許可書を見せる。

 そしてダメ押しに、密猟に参加したポートガーディアン領に住む貴族のリストを見せると、ガング公爵は顔を顰めて薄っすらと汗を流した。

 しかし、目の動きや表情の揺らぎは焦りから来るものでは無く、困惑の色が強く出ていた。

 

「これは……?」

「壊滅した討伐艦隊残骸から回収された物と、密猟団の拠点より回収した物です。そしてこれは、潜入捜査員に清書させた事の顛末です」

 

 ガング公爵は報告書を手に取り読み始める。そして文書を読み進める程に顔が険しくなって行く。

 

「壊滅? あのデストロイヤーが、戦艦四隻からなる護衛艦隊を以ってしてもか? …………些か痛いが、密猟団や厄介者を片付けられたと喜ぶべきか……デストロイヤーもやり過ぎていたし、うーむ……」

 

 耳に届く不穏な呟きを残さず記入する。邪魔者や厄介者を事故に見せ掛けての排除──それがガング公爵の目的の一つかもしれないからだ。

 ガング公爵は報告書を一旦置くと、次に密猟に参加していた貴族のリストを見た。

 

「……成る程、調子に乗った貴族の次男以下が殆どか。彼等も厄介だったが、問題を起こす前に始末がついて良かったよ」

 

 少し疲れた様子を見せるガング公爵。

 ギルドナイトとして仕事をしていると、貴族の問題を知る機会が嫌でも訪れる。大抵は隠すものだが、一部の貴族はギルドやギルドナイトに便宜を図るよう仕向ける為、あえて言葉にして聞かせてくるのだ。

 だが、ガング公爵にその様な仕草や雰囲気は見られない。

 

 報告書を全て読み終えたガング公爵は冷めた紅茶を飲み干して、調書の続きを促す。

 

「輸送船護衛任務に偽装した大水獣駆除作戦についてお聞かせ下さい」

 

「ああ、それは私が命令したものだな。間違い無い」

「……本来ならハンターズギルドに報告される筈ですが」

「それがな、ちゃんとギルドの許可は取ってあるんだ。これも後で見せよう」

「…………」

「ギルドも一枚岩ではないようだな」

 

 新たな問題に頭が痛くなる。だが今はそんな隙を見せる事はできない。

 密猟に関する調書も最後を残すのみ。

 

「最後に、大水獣駆除作戦にて使用された、試作対巨龍砲についてお聞かせ下さい」

 

「……は?」

 

 そう言うと、ガング公爵は今までで一番動揺した様子を見せた。目は見開かれ、瞳は揺れ、口は何かを言おうと開閉を繰り返している。

 

「あれは領の防衛兵器についての研究用に購入したが……使った?」

「はい、護衛艦隊の大型輸送艦に積み込まれており、それを大水獣に向けて使用されました」

 

 そう伝えると、ガング公爵は怒りを顕にして立ち上がり、これまで見せた書類を一つ一つ確認しだす。

 そして合点がいったのか、乱暴にソファへと腰を下ろして言葉を吐き始めた。

 

「デストロイヤーッ……!! 彼奴は何時も独断専行して動くから始末に負えんのだッ……!! ……だが、まあ……彼奴は私に──あんなのでも良くしてくれていたが、管轄は私では無い故、責は別にある」

 

「……では、その責任者は?」

 

 ギルドナイトが問うと、ガング公爵はテーブルの上にある証拠の品を並べ始めた。

 そして見えてきたのは、同じ公爵の押印と、独特な癖の有るサインが書かれた依頼書と許可書。

 

「艦隊は私のだが、デストロイヤーの派閥や試作対巨龍砲の研究管理を任せたのは……関与の疑いがある二番目の兄、マーフィ=C・ポートガーディアンだ……」

 

 

 

 ■

 

 

 

「……それで、どうなった?」

 

 調書を読みながら話を聞いていたギルドマスターが、詳細をギルドナイトへ問う。すると、ギルドナイトはカバンの底から隠された書類を取り出した。

 

「ガング公爵の協力もあり、事態は早急に進みました。結果はマーフィ公爵の黒です。証拠も多数出ており、本人も自供しました」

「ふむ……ならこれで、今回の密猟騒ぎは終わりじゃな」

 

 安心した様に一息付くギルドマスター。

 しかし、それをギルドナイトは「まだです」と止める。

 嫌な予感に再び胃が痛み始めたギルドマスターだったが、詳細を聞かなければならない。覚悟を決めてギルドナイトに先を言うよう促す。

 

「大水獣によって沈められた艦隊に、功を焦った貴族の嫡男らが乗っていました」

「……うむ」

「それをチャンスと見たのか、各貴族達がギルドに対して責任を追求してきました」

「……また大水獣か?」

「はい。貴族達は、息子の仇を討つという態勢で大水獣に手を出そうとしています。それをギルドは止めていますが、どうやらかの王を恐れる者は想像以上に多かったようです」

 

 そう言って、ギルドナイトは一枚の書類をギルドマスターに渡した。

 

「むぅ、やはりこうなるか……」

 

 それは【孤島の王】の特別狩猟許可書だった。




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■アルファポリスにて、新作小説の投稿を始めました。

【ZOID・of the・DUNGEON〜外れ者の楽園〜】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/741316379/551763816

現代にダンジョンが出現した世界で、社会に適合できなかった主人公が自身のあらゆる問題から解放されて行くお話しです。

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