ロアルドロスに転生した話   作:黒木箱 末宝

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運命のお話

 タンジアの港にある酒場エリア。その食事処であるシー・タンジニャで二人のハンターがテーブル一杯に用意された料理をかきこんでいた。

 

 (ん~美味しー! 流石シー・タンジニャ! ……でも、今は味より、量!)

「ハイ、パエリアニャ」

「ハイ、ビールニャ」

「むごご!?」

 

 一人はユクモのハンター。インナーから溢れる程に大きな胸を白昼の下に晒しながら、しかし色気より痛々しさが前に来る様相だった。

 左の親指は包帯に包まれ膨らみ、右肩は革製の器具で固定されている。肋骨も二本ヒビ割れており、腹部には大きな痣が浮かんでいる。

 そんな状態なので、オトモのシチベエとゴエモンに食べさせてもらっている。

 

 (大水獣のあの動き……もしかして……)

「もぐもぐムチャムチャ!」

「ハグハグンバンバ!」

「……食べ辛い」

 

 二人目はモガのハンター。ユクモのハンター同様上半身はインナーであるが、晒された肌には肩から横腹に掛けて大アザが浮かんでいる。

 不慣れな様子で左手での食事。右手は盾に受けた強力な衝撃により痺れが残り、過労からかまともに動かなくなっていた。

 

 そんな二人の、古龍を単身で撃ち倒した生ける伝説のハンター達が、古龍の防具越しで受けた怪我。

 古龍の恐ろしさを知る人は、二人に怪我をさせた存在に恐怖していた。

 そしてあまりにも痛々しいその姿に、女ハンターは将来を思い同情的に。男ハンターは怪我の痛々しさ故に剥き出しの肌に喜べず──しかし、一部の者は新たな扉を開いていた。

 

 そんな二人のテーブルに、ギルドガールのキャシーを連れたギルドマスターが座る。

 

「観測気球からの報告は受けておる。よく生きて帰ってくれたのぅ」

「……はい」

「はい……でも暫くはお休みですかね~」

 

 苦虫を噛み潰した様な顔でモガのハンターが返事をし、ユクモのハンターは友の様子に苦笑しながら怪我を見せるように掲げて答えた。

 

「うむ……じゃが、四肢や指は無事じゃ。相手が相手、本来ならそうはいかんじゃろう?」

「ええ、()()()()()()()()()()無事ですからねぇ」

「……」

 

 ユクモのハンターの言葉に、モガのハンターは嫌な考えに至った事に苛つき、食べていた手羽の骨を噛み砕いた。

 

「そこも含めて報告を頼む」

「良いですけど……食事処(ここで)ですか?」

()()()()()じゃよ」

 

 ユクモのハンターが言外に“個室じゃなくて良いの?”と聞くと、ギルドマスターは周囲を見回しながら答えた。

 ギルドマスターに釣られるように周りをみると、食事をしているハンター達や商人、それと普通のハンターとは違う雰囲気の集団が耳目を向けていることが解った。

 

 孤島を縄張りとする大水獣だが、所詮はモンスター。大人しく賢い個体と言われているものの、ツテをもつ者は大水獣が人を躊躇無く殺める存在で有ることは知られているし、その犠牲にとある国の艦隊が含まれる事も僅かながら広まっていた。

 

 そんな大水獣の情報は、誰にとっても必要なものとなっていた。

 

「……わかりました。ただその前に──ご飯、食べてからでいいですか?」

 

 ユクモのハンターの「冷めたら勿体無いので」という言葉に、シー・タンジニャのシェフ達は“そうニャそうニャ”と頷き、冷める前に食べろと耳目をそばだてる客に食事を促すのであった。

 

 

 

 ■

 

 

 

 最後にシェフからお礼として出されたフルーツパイを食べ終えると、モガとユクモのハンターは報告を始めた。

 

「最初から話すと……あいつは私達が来るのを待ってた気がする」

「そう! 偶然だと思ったんだけど、最初から顔がこっち向いてたし、何時もの軽い挨拶みたいな雰囲気じゃなかったもん」

 

「ふむふむ……あれ、何か前に見たような?」

「ほれ、観測気球からの報告書のここじゃよ」

「──あ、これです!」

 

『大水獣と相対した時、既に此方の気配を察知してか待ち構えていた』──そう報告書に記入したキャシーは、見覚えのある文字列に既視感を覚える。そんな事を言うと、ギルドマスターが持っていた観測気球からの報告書を指して見せた。

 ギルド側も気球からその動きを観測していたらしく、報告書には『何かを感じ取った大水獣が一度海へと入り、すぐに陸へ上がると一直線に移動し、ハンター達を待っていた』と書かれている。

 

「なるほど、大水獣は装備でも古龍の気配を察知出来る可能性がある……と」

「この感じ、なんか懐かしい」

「そうだね、嵐龍とやった時以来かな?」

「私は皇海龍の時」

 

 ハンターの報告と観測気球からの報告書の擦り合わせ。

 それは狩猟記録の情報そのものが少ないモンスターや、気球で観測出来ない様な場所で起きた狩りの詳細をまとめる際にするものだ。

 かつて口頭での報告により、個体の癖を種族特有の動きと誤認し報告。結果、新モーション(見慣れない動き)に翻弄され大怪我をするハンターが続出したため、情報の質を上げるために行われるようになったのだ。

 

「はい、続きをお願いします」

「そうだね──」

 

 そうして二人のハンター達による報告が続く。

 真剣勝負を挑んだら、覇竜の様に立ち上がり大咆哮を放ったり。尻尾での居合斬りの様な攻撃を受けたり。

 盾でブレスを受け止めたら、着弾位置をズラされガードを崩されたり。水が有効に見えてそうでなかったり。

 新たな攻撃方法や戦い方を語る度に一喜一憂するハンターやギルドだったが、次第に話の雲行きが怪しくなる。

 

「──それで、私は気を失って……」

「……私も、その後にブレスでやられた」

 

 敗北の悔しさに顔を顰め、刻み付けられた痣を撫でる二人のハンター。報告を聞くに全力全開で戦う大水獣にギルドマスターは「まだ本気じゃなかったのか」と戦慄。

 

 古龍を討ち倒した英雄的ハンター二人の敗北。その報告は、ギルドを大いに騒がせた。

 

「うーむ……二人とも、報告感謝する。これで──」

 

 報告を聞き終えギルドマスターが立ち上がったその瞬間、タンジアギルドを地響が襲う。

 

 災厄が目覚める。

 

 

 

 ■

 

 

 

 大地を通し届いた災厄の気配。それは大水獣にも届いていた。

 

(クソッタレめ……! せっかくハンターちゃんの成長にガノトトスで一杯やってるってのに……にしても、ほんと強くなったな~)

 

 しかし大水獣は我関せずと流し、ガノトトスの大トロを食べていた。何せ相手は禁忌級の古龍であり、それと対峙する運命は主人公であるモガのハンターにある。

 何故か厄海らしき方向から見られている──何なら睨まれてる──気配はするが、古龍でもないただのモンスターである自分には無関係と思っていた。

 

(──……ああもう、何なんだこの感じはァ! 何しても落ち着かねぇ……あれか、俺も何かやらなきゃいけない感じか?! ──やってやろうじゃねぇかよこのヤロウ!!!!)

 

 しかし、そう軽く切り捨てる事ができない程にベッタリとこびり付く焦燥感にブチギレて、大水獣はトレーニングを開始。来る時に備え、自身を限界まで強化する事に。

 

 

 

 まず最初に、大水獣は全身の筋肉を鍛える事から始めた。

 

(先ずはフィジカル! 孤島周回ランニング!)

 

 仮想敵は超大型の禁忌級古龍種であり、戦いの場所には水中もある。徒に筋肉を鍛えて体を重くすれば、その分だけ不利になるだろう。

 だが大水獣は、その不利すら筋肉で相殺──いや、モンスターの地力を信頼し、不利すら踏み越えれば良いと考えたのだ。

 大水獣にとって陸地は丁度良い負荷のかかる場所。最大まで水を吸収した状態で狂走エキスに物を言わせ、体に無理をさせ過ぎないところまで全力疾走を続ける。

 

 尚、他者の縄張りである陸地を我が物顔かつ騒音を立てて走っているので縄張り争いが発生する。

 しかし、大水獣はそれを“良いところに!”と都合良く思い、自身に挑む相手を轢いたり撥ねたりした。

 見慣れぬアオアシラを撥ね飛ばし、自身から逃げる見慣れたアオアシラを追い越して“何してんの?”と見つめ合い、新参者のドスジャギィを轢いて持ち帰り、タンパク源として筋肉の栄養にした。

 

 当然、鍛えるのは筋肉だけじゃない。海に潜ったり、滝を浴びて水を吸収すると、繁殖に来た大量のリオレイアやクルペッコを的に水流レーザーブレスを放つ。当然、撃ち落とし命を落とした個体は糧にする。

 

 

 

 続いて孤島の周囲を泳ぎ、水泳用の筋肉を強化する。

 

(やっぱり体が重いな……だが、俺ならやれる!)

 

 今のサイズからして大水獣の泳ぐ負荷は増大していた。

 例えるなら、片足のみで自由に泳ぎなおかつ速度を求めている様なものだ。

 だが大水獣はただのモンスターではなく転生者である。泳ぐ姿勢は人の頃に近いので、知識にある泳ぎ方を試して全身を鍛えた。

 その際、沖にガノトトスやその亜種が居たので狩り、縄張りを求めてきた若いロアルドロス達とその亜種を撃退する。

 

 

 

 ただ闇雲に動いて食えば強くなる訳では無い。食後は日向ぼっこで体温を上昇させ消化効率を上げ、消化が終わったら水中で水袋を鍛えつつ瞑想。 

 

 そんな大水獣を相手に「手負いの状態で無理した様子の今なら殺れる!」と言う、いい気のしないハンターもどき数十人が現れる。

 ちょうど食休み中だった大水獣は、そのハンターモドキ達の武器をブレスで破壊。崖上にいる奴等は、鳴き声を真似して呼んだドスジャギィ達に落とさせる。

 何故ジャギィ達が来るのかと言うと、リオレイアやクルペッコ等の食べ残しの片付けに利用するため、大水獣が鳴き真似をして呼び続けた結果、大水獣の鳴き真似に呼ばれたら良いことがあると学んだからだ。

 尚、ドスジャギィは呆れつつも大水獣への貸しや恩が有りすぎるので、その変な鳴き真似にあえて応じているだけだったりする。

 

「た、助け──ぐえっ!?」

(武器がなけりゃこんなもんか。よし、お前達! ナイフでの反撃に気を付けつつ、こいつらを殺さずに無力化してみせろ)

 

 大水獣がそんな意志を乗せて鳴き、ハンターモドキを海中へと投げる。

 

「ピー!」「ピュイ!」「オウ!」

「ぎゃあああああ!?」

 

  ロアルドロスになりかけている息子達が、ルドロス達を率いて狩りごっこを始めた。

 水中で周囲を泳ぎ翻弄したり、息をしようとする者に伸し掛かったり、足を咥えて海中へ引き摺り込んでみたり。

 ブレスの的当てに使ったり、真下から突き飛ばしてはね飛ばしたり。

 一人が咥えられた状態で海面に叩きつけられ、陸地へと投げ飛ばされる。辛うじて生きていた。

 

(無意味に殺すと面倒だからな人間は……にしても、シャチの狩りごっこがこんな感じだったな)

 

 次々と陸地に投げ飛ばされるハンターもどきを眺めながら、大水獣は前世を懐かしんでいた。

 

 

 

 そんな日の夜の事だった。散々鍛え、群も息子達に任せられそうだと安心した大水獣だったが、ふと奴と戦う必要性が自分にはないと考え気が抜けたようだ。

 

(あの時は古龍の気配とかで焦ってたけど……いらないじゃん、俺。あの運命の戦いに)

 

 そうして一人月を眺めていると、月に黒点が浮かび、消えた。

 

(……月に黒点──あっ!?)

 

『こんばんは、異界の落し子さん』

 

 気が付くと、背後に音も無く白いドレスを来た竜人族の少女が現れた。




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