ロアルドロスに転生した話   作:黒木箱 末宝

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背負う話

 覚悟が決まれば後は早い。時間は有るようで少ないので、大水獣は限界まで己を鍛える事にした。

 

 陸上や水中での筋肉トレーニングにブレストレーニング、そして食いトレも一区切りついた。なら後は何があるだろうか。

 そう考えた大水獣は、自分でも使えるであろう技の開発とその習熟に勤しんだ。

 

 しかし当て嵌まる条件は狭いので、技の開発は早々に終わってしまった。

 

 大水獣の骨格は海竜種。しかし攻撃に使える様な角もなく、トサカは強さや魅力の飾りでしかない。

 牙も顎も普通で、鋭い爪はあるが、歩行や狩りの補助的なものであり、武器としてはイマイチ劣る。尻尾も武器としては弱い。

 

 扱える属性も水のみで、水が弱点な相手は大概に己が苦手な火を扱う存在だ。今回のターゲットは水に強く、更に強力な火も使う。属性強化の方向は無しだ。

 

 身体のサイズや属性などを考えると、真似できるモンスターにはタマミツネとアグナコトル亜種が候補に上る。生憎な事に大水獣の中身はフロンティア未プレイであるため、それらの知識は無い。

 

(後は何か……うーん──うん?)

 

 タマミツネの様な特殊な体液や器官も持たず、水属性と言うより氷属性なアグナコトル亜種も、氷塊をも貫く嘴を持たない大水獣では既に技を真似し尽くしていた。

 それに思い至った大水獣は(どうしたもんかな~)と前世の癖で頬を掻く。そして、自身の異様に発達した腕を見た。

 

(……改めて見るとデカいな俺の腕。しかも何か……赤い?)

 

 大水獣の大きさを加味しても、通常より一回りは大きな腕。

 幼少期から人の頃の癖で物を掴もうとし続けたため、歪に発達した手と指。

 退化した翼に巻き込まれた小指らしき部分に該当する、肘から生えた大きな棘。

 

 そして狩りや解体の際に血が染み付き、赤に近い茶色に染まった鱗。

 舐めたり砂に擦り付けても落ちなかったので、恐らく腕そのものに何かしらの変化があったのだろう。

 

(ふむ、試してみるか)

 

 思い出すのは二人のハンター達との戦い。そこで興奮した結果起こった、腕部の隆起と強化現象。

 似たような現象が起きるモンスターは、イビルジョーにラージャン、エスピナスにゴシャハギ。

 その全てのモンスターは、怒り等の興奮によって肉体を変容させている。

 

(つまり、筋肉が隆起して軟化する程に興奮すればいいと……練習は無理かな)

 

 試しにと腕部が変化した戦いを思い出すが“楽しかった!”という遊戯後に似た興奮で終わってしまう。

 それならばと、モガ&ユクモ両ハンターの肉体について想像と妄想をしてみれば、血流が()()()()へ集中し始めたので慌てて止める。

 

 ──交尾?

(いや、違──くもないが、また今度たのむ)

 ──あい。

 

 発情ホルモンでも漏れ出たのか、それを感知して雌が寄ってくる。返事をしつつも側に寄り添うルドロスに(そもそも身体のサイズがな~、いやラッコスタイルで先っちょを駆使すればワンチャン?)などと思考が逸れる大水獣。

 

 そんな大水獣に“何故そんなに急いで動くのか”と子や嫁のルドロスに問われた。大水獣は隠す気もないので、深刻に考えさせないよう、軽く“古龍を狩りに行く”と伝えた。

 しかしその言葉の意味は、一匹のルドロスを除いて理解していない様子だった。

 なので大水獣は“この嫌な感じの原因”と伝える。すると漸く理解できたのか、全員が焦りだしてしまった。

 

(帰るにせよ帰らないにせよ、後の事は頼むぜ)

 

 不安そうにするルドロス達をなだめた大水獣は、ロアルドロスになりかけている三匹の息子達に巣を預ける事を伝える。

 

「オウ!」「アオッ!」「……オウ!」

 

 そうして三匹のロアルドロスは覚悟を決めた様に吠えると、続いて大水獣の修行に付き合うと前に出るのであった。

 

 

 

 ■

 

 

 

 そうして何日か経ったある日の事。遂にその時が来たようで、事前に知らされた日照時間にモガのハンターが現れた。

 

「準備は良い?」

(出来てるよ。……所でハンターちゃんや、そんな装備で大丈夫か?)

「ん、どうかした?」

 

 大水獣は訝しげに首を傾げ、モガのハンターが身に纏う装備を指差した。

 モガのハンターはランス使い。背負う武器は黒角竜の最終強化ランス(レイジングテンペスト)。そいつは素敵だ、大好きだ──だがしかし、着ている防具が問題だ。

 

「アグナZの防具がなに?」

『それ火に弱い。危ない』

 (それに覚醒とボマーが付けられない)

 

 モガのハンターの疑問に、大水獣は地面に文字を書いて答えた。

 アグナZは、その名の通りアグナコトル亜種の防具だ。ランスにとって需要なガード系スキルに、攻撃が弾かれなくなる事で隙が減る心眼のスキルがある。

 そしてスロットもそれなりに空きがある。見るにモガのハンターも装飾品をちゃんと付け、最高ではないものの、何かしらのスキルを発動させている様子。

 

 しかし優秀なスキルも然る事ながら、何よりその装備は見た目が良いのだ。

 

 ギリシャ神話に登場する戦乙女(ヴァルキリー)の様なデザインにのそれは、水色と灰色の寒色も相まって凛と佇むだけで触れ難い美しさを醸し出す。

 

 ──そして何より、動く度にチラチラと見える脇と、むき出しの太ももが良い!

 

 ……逸れた思考と視線を戻し、大水獣は地面へ新たに『何故?』と書き、モガのハンターへアグナZを選んだ理由を問いかける。

 

「あんたが教えてくれたから……」

 

 更に「火に弱いのはお互い様でしょ?」と付け加えるモガのハンターに、大水獣は『猫飯で火耐性は上げとけ』と答える。

 大水獣が修行している際、モガのハンターは狩りの合間に大水獣へ情報収集と修行を兼ねて会いに来ていた。

 盾を使ったスパーリングの際、モガのハンターは何となしに「良いランスと、それに一番良い装備は?」と言う問いを投げたのだ。

 それに対し、大水獣は進行状況や神おまの有無を排し、選択の一つとして武器にディアブロスのランスを、装備にアグナZを提案した。

 生存重視のモガのハンターにとって、防御の強化や隙を減らすスキルを持つアグナZは正しく望みの装備だったのだ。

 提案された武器も素晴らしく、強化は難しいものの、そこは親友(ユクモのハンター)等に手伝いをお願いすれば問題ないはずだと考え、今に至る。

 

 大水獣の書いた文字を読み「分かった」と返事をするモガのハンター。

 大水獣は(このままうだうだしてても仕方ない)と諦め、群れを預けるに足る強さに至った息子達、警戒を露わにする三匹のロアルドロスに向き直る。

 

(俺はこれから古龍を狩りに行く。寿命以外で死ぬ気は無いが、もしもは有る。……俺が帰って来なかったら、後は頼んだぞ)

 

「ピュイ!」「オウ!」「オウ」

 

 堂々たる態度で“任せろ!”と吼える息子達に孤島を任せ、見送りに来るルドロス達に(良い子を産めよ)と伝え、大水獣は狩りに赴くのであった。

 

 

 

 大水獣はモガのハンターを背に乗せて、一度モガの村へと向かった。

 村長を始めとしたモガの村民達から『大水獣に伝えたい事がある』とモガのハンターに村に寄るよう言われたからだ。

 

(俺に伝えたいこと? 何だろ、資源食い荒らした文句とかかな?)

 

 言われそうな事を想像しつつ、モガのハンターを落とさないよう、体を横にくねらせワニのような泳ぎで海を進む大水獣。

 最初はモンスターに騎乗するという未知に戸惑ったハンターだったが、次第に感覚を掴んだのか、今では周囲の景色を眺める余裕すら見せている。

 

「……おい、アレはなんだ!?」

「あれは……ハンターさんの言ってた大水獣か?!」

「大きすぎる……」

 

 そんな呑気な一人と一匹をよそに、海上で目立つ巨大なモンスターの接近に驚き、モガの住民達が集まりだした。

 最初は警戒していたが住民達だったが、やたらとゆっくりとした速度の大水獣と、その背に乗って手を振るハンター見てからは、その表情に困惑の色が強くなっていった。

 

「そう、その交易船の隣。そこに寄せて停まって」

(接岸──桟橋は着桟(ちゃくさん)だったか? めちゃくちゃムズいなこれ)

「はい、ロープ」

(どうも……咥えとくか)

 

 桟橋にゆっくりと近づき、ハンターを降ろす。そして投げ渡されたロープを咥えると、前後の脚と尻尾伸ばし、浮力を最大限に活かし停留する。

 水に浮いている状態でさえ、交易船と同等の巨大なモンスターの停泊に、それを見ている人々は混乱で頭がどうにかなりそうだったと後に語る。

 

 そんな中、アイシャを連れた村長が大水獣へと近付き、柔らかな表情で語り掛ける。

 

「おお、よく来てくれた。わしが、このモガの村の村長だ」

(初めましてだな村長……っても、伝える方法が無いな。桟橋を爪で刻む訳にもいかんし)

 

 村長の挨拶に、頷くことで返事をする大水獣。

 その様子を見て、漸く一応は安全だと理解した住民は、警戒を緩め口々に声を漏らす。

 

「うんむ。色々と伝えたい事はあるが、先ずは礼を言いたい。孤島を、村を、そして村の子供達を助けてくれて、ありがとう」

「ありがとう大水獣!」

「親として礼を言う。ありがとう!」

 

 村長に続き、かつてチャナガブルから助けた子供達とその親達に感謝される。

 

(そんなつもりじゃなかったが、怪我と病気とトラブル以外は受け取る主義なんだ。もらっとこ)

 

 感謝の言葉に「オウ」と声を出す。一瞬驚かれるもただ返事をしただけだと理解すると、笑いが周囲を包んだ。

 

(こんなのもたまには良いな)

 

 モガのハンターは住民達に囲まれていた。何時も通りに見えて、皆は大事な家族が、伝説という途方も無い存在に挑む事にへの不安を覚えているようだった。

 そんな住民達はモガのハンターに一言二言声をかけると、祈る様な、縋るような表情と声色で、大水獣へ願いを言う。

 

「大水獣、うちのハンターさんを頼む」

「守り神様、どうか彼女をお守りください」

「おねえちゃんを助けて上げてね」

 

(言われるまでもねぇ。まあ、最悪ハンターちゃんだけは生かして帰すさ)

 

 供物の様に捧げられる魚を食べながら、堂々たる態度で頷いてみせる。

 それを見て安心したのか、住民は笑顔を見せるのだった。

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