ロアルドロスに転生した話   作:黒木箱 末宝

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厄海戦の話

 厄海に到着したモガのハンターは、陸地の裏に建てられた簡易キャンプで最後の準備をしていた。

 防具の着付けは勿論のこと、武器のガタつきやアイテムを即時に取り出せるかのチェックも欠かさない。

 

 全てのチェックが終わると、モガのハンターはアイテムポーチからオレンジ色の薬品と一粒の種を取り出した。

 

(硬化薬に、忍耐の種。大水獣が教えてくれた、守りの後押し)

 

 忍耐の種を噛み砕き、硬化薬で胃に流し込みながら、モガのハンターは大水獣とのこれまでを思い出していた。

 モガの村で頻発する地震の調査に赴き、そこで原因と考えられていたラギアクルスと対峙している時に突然現れた巨大なロアルドロス。

 何度も狩りに乱入され、時には共闘なんかしたり。

 

 その度に獲物を分かち合った、変なモンスター。

 

(子供のルドロスは初めて見たな……可愛いかった。それで、何故か懐かれて……ハンターとして、その未知が楽しくて──)

 

 ──そして、その全てを手に掛けた。

 

(あれはキツかったな……『モンスターに情を持つな』って教官が言ってたっけ……身に沁みたよ)

 

 モガのハンターが悩んでいる間にロアルドロスは大水獣と呼ばれる様になり、何時しか武器を向け合って戦う事になっていた。

 

(なのに、また共闘する事になった……)

 

 近付いては離れ、ぶつかっても側に落ち着く。

 そんな不可思議な、何処か運命の様な存在。

 それがモガのハンターにとっての大水獣に対して持ったイメージだった。

 

「……ふふ、変なの」

「ンチャ? どうかしたっチャ?」

「薬と種の味がバッドだったンバ?」

 

 こぼれ出た言葉にチャチャとカヤンバが反応する。それに「うん、変な味」と頷いて返す。

 そして側に置いていたヘルム被ると、チャチャとカヤンバへ向き直り言う。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

 厄海へと続く道を歩くモガのハンター達。

 前へ進むと、次第に空気が熱を帯びてくる。

 

「っ……これが、禁忌級古龍の気配……」

「チャ~……」

「ダー……」

 

 大海龍や皇海龍とも違う、より恐ろしい古龍の気配が体を蝕む。モガのハンター達はそんな錯覚を起こしていた。

 

 震える手を握り締める。そして、モガのハンターは見た。

 

 暗雲立ち込める紫色の空を。

 

 真っ赤に染まった沸き立つ地獄の様な海を。

 

 冷え固まった溶岩の様な甲殻に、赤く光る熱を宿す、悍ましい巨大なモンスターの姿を!

 

(あれが煉黒龍──グラン・ミラオス……!)

 

 詰まる息を恐怖ごと飲み込んで、モガのハンターは戦いのフィールドへと降り立った。

 

 そんなハンターを出迎えたのは、煉黒龍の身の毛のよだつ咆哮。

 そして噴火によって放たれた無数の火山弾だった。

 

(なッ攻撃!? 気配に気付いて──今はいい! 避け、間に合わないッ!? ガード!!)

 

 不意に放たれたそれは避けられない。一瞬の思考が致命的な隙となり、盾を構えることすら間に合わなかった。

 

 せめて直撃は避けようと、モガのハンターが身構えた──その瞬間だった。

 

 煉黒龍の後方、遥か遠方より、水のレーザーが放たれ、そして降り注ぐ火山弾の悉くを薙ぎ払ったのだ。

 

 煉黒龍が唸り声を上げながら振り向き、火山弾を撃ち落とした元凶を睨む。

 

 そこには赤い海でも尚目立つ、巨大で黄色のモンスターが──大水獣の姿がそこにあった。

 

 

 

(いーくぜ行くぜ行くぜ行くぜ!!!)

 

 茹だる熱さの赤い海、全力全開で駆ける大水獣。

 食事の効果か、熱さによる血行促進の結果か──それとも緊張やストレスが一周回ったことによるただの自棄っぱちなのか。大水獣は禁忌の古龍へと恐れず突撃する。

 

(狙うは胸の灼熱核、その奥にある不死の心臓! 要はヒートショックだ! 熱い体に冷水はよーく効くだろう!)

 

 ヒートショック。急激な温度差により血圧が大きく変動し、心臓や脳に大きな負担を負うものだ。

 大水獣は初撃で大ダメージを与えるため、モガのハンターと船で別れた際に行ける限界深度の深海へと赴き、冷え切った水を限界まで飲み込んで溜めてきていた。

 多少の変動はあれど、そんな冷たい水を、溶岩に似た高温の体液を全身へと巡らせる心臓へと放てばどうなるか。

 だがしかし、大水獣の体温やグラン・ミラオスへ到達するまでの間にある赤い海によって、水流レーザーブレスは冷水とは呼べなくなっていた。

 それでも大きな温度差の水が弱点である胸に直撃し、グラン・ミラオスは唸り声を上げると体を走る光が不安定になり、その巨体がふらつく様に揺れた。

 

(ハハッ効果有りだ! このまま突撃だ!)

 

 怯んだ事で下がったグラン・ミラオスの頭部。そこに、大水獣は飛び付いた。

 

(禁忌と言えども目は鍛えられない、即ち弱点ッ!)

 

 四肢で抱き込む様な姿勢で張り付き、大水獣は片手や尻尾で何度もグラン・ミラオスの目元を叩き始めた。

 しかし不安定な場所且つ不安定な姿勢での攻撃はブレも大きく、グラン・ミラオスの顔に生える鱗を何十枚か剥がせたが、目に傷を付ける事はできなかった。

 

 そして、グラン・ミラオスもただでやられ続けるモンスターではない。頭にへばり付く異物を一度叩き落とした。

 

(ぐえッ!? やったなコイツ!)

 

 しかし、再び顔面に大水獣が飛び掛かる。

 グラン・ミラオスまたしてもへばり付いた大水獣を取り除くべく、思い切り頭を振る。

 左右に大きく振り、そして最後に頭を仰け反るようにして上向きに振り抜いた。

 

(おお~~~~~!?)

 

 片手で巨体を支えきることはできず、大水獣は空を舞う。

 何故か数度の飛翔経験のある大水獣は、慌てる事無く次を考える。

 

(マズい──いや、チャンスだ!!)

 

 この状況をただでは済ませまいと大水獣は空中で受け身を取る。そして地表へ向かって水流レーザーブレスを放ち、落下位置をグラン・ミラオスの真上へ調整した。

 そして最後に(たてがみ)を真下に向け、真上へ全力のブレスを放つと、そのまま加速しながらグラン・ミラオスへと突撃を繰り出した。

 

(食らえグラン・ミラオス! 俺の体重とブレスの反動、落下の加速とこの星の重力全てを掛け合わせた質量攻撃だッ!)

 

 首を振り切った直後の攻撃。グラン・ミラオスはそれに対応できず、脳天に直撃を食らう。

 

 湿った鈍い打撃音が、厄海中に轟いた。

 

 大水獣が赤い海に落ちると同時に、グラン・ミラオスは姿勢を崩して海中へと沈んだ。

 

「ハハッ、凄いよアイツ!」

「ブー! 負けてられないっチャ!」

「クレイジー&クレバーっンバ!」

 

 モガのハンター達は、大水獣とグラン・ミラオスのぶつかり合いを眺めている事しかできなかった。

 だが、今は違う。両者の争いに区切りが付き、生じた最大のチャンスを掴むべく、モガのハンターは駆けだす。

 

 そして赤い海に飛び込んだ先で目にしたものは、脳震盪を起こしているのか立ち上がるのに苦労しているグラン・ミラオスと、仕事帰りの人の様に“あーキッツ~”と言わんばかりの表情でふらつき泳いで距離を取る大水獣だった。

 

 そんな何処か日常を思わせる姿の大水獣を見て、モガのハンターは思わず息を噴き出してしまう。

 海面へと昇る泡を横目にふと気付く。一度笑ったおかげか、モガのハンターに生じていた体の強張りがなくなった気がしたのだ。

 実際に体を動かしてみれば、そこに禁忌と対峙した時の強張りは薄れ、適度な緊張感による引き締まりだけが残っていた。

 

(……これなら大丈夫。ありがと、大水獣)

 

 モガのハンターは淀み無くランスを構えると、グラン・ミラオスの灼熱核へと切っ先を突き立てた。

 

 

 

 グラン・ミラオスとモガのハンター達、そして大水獣の戦いから暫く。その流れはモガのハンター達側にあった。

 とは言えグラン・ミラオスは体力も多く、傷もその特性故か直ぐに塞がってしまう。

 その上に水耐性も高いので、大水獣は自身の持つ高火力の攻撃が殆ど効いておらず決め手に欠けていた。

 

 モガのハンターへの攻撃をタックルで妨害したり、危険な火山弾をブレスで撃ち落としたり。頭にへばり付いてまた目を狙ったり、傷を付けやすくするため鱗を剥ぎ取ってみたりする。だがあまり効果がなかった。

 

(知ってはいたが、こうも成果が小さいとキツいな。まあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだが)

 

 大水獣は何処か見覚えのある動き(攻撃モーション)を見てそう考える。モガのハンターを狙うパンチも大水獣を狙って放たれる火球も、そのどれもが攻撃までに一瞬の間が生まれていた。

 

(……まさかな)

 

 嘗て討ち払われ、深海より目覚めた伝説。それが今、ゲームと同じ様にやや鈍重な動きを見せている。

 とある神話では世界を滅ぼす悪魔として、御伽噺(おとぎばなし)では大地を創る巨人として。そしてタンジアに残る伝記によれば、グラン・ミラオスは厄災の化身という異名で恐れられていた。

 

(そんな存在がこんな……()()()()()だろ)

 

 大水獣は今の鈍い様子のグラン・ミラオスに対して警戒を強める。そして想定する“もしも”に至らせないため、攻勢を強めた。

 

 モガのハンターがグラン・ミラオスの肩を部位破壊した。灼熱核から光が消える、第一段階の破壊。

 大水獣はその傷口を抉るように水流レーザーブレスを放ち、更に爪や牙を使い肉を削り取る。

 

 その痛みに、ついにグラン・ミラオスが怒りだす。傷口が再生し、灼熱核が光を取り戻した。

 

(あ~、あったなこんなギミック。てことは……クソ、また最初からか! ……いや、待てよ? 再生能力を封じるか阻害する方法は──いけるな)

 

 海底に沈んだ調査船、その側に落ちている木箱を見付けた事で、大水獣は思い付いた方法を実行するため動いた。

 

(ハンターちゃん、俺しばらく向こう行ってるから、待っててね)

(え、なに!?)

「あっちに行くっチャ?!」

「ダー! 早めにカムバックっンバ!」

 

 目的地を指さし、掌を見せる。そんなハンドシグナルで意志を伝えると、大水獣は木箱の元へと泳ぎ出す。

 

(さて、木箱の中身は……よし、合ってた!)

 

 半開きの蓋に爪を差し込み抉じ開ける。すると大水獣の予想通り、木箱の中身はバリスタ弾だった。

 箱をひっくり返してバリスタ弾を取り出し、ありったけ抱える大水獣。

 

(これだけあればいけるな。……後は──)

 

 バリスタ弾を抱えた大水獣が顔を上げる。

 その視線の先には、調査船の船首に備え付けられた撃龍槍が映っていた。

 

(まだ使えそうだ。よし、その時まで待ってろよ!)

 

 グラン・ミラオスへ向かって行く大水獣。

 それを見送る様に、調査船から小さく泡が舞い上がった。

 

 

 

大水獣がバリスタ弾を回収しているその間、モガのハンターはグラン・ミラオスと戦い、灼熱核を集中的に攻撃して傷を付けていた。

 

(大水獣の恐ろしさは、何か思い付いた様な顔をしたあと突然に致命の一撃を放ってくるその型破りな行動。グラン・ミラオスの核が再生した時、大水獣は何か思い付いた顔をしていた。とは言え、いったい何を──)

 

 グラン・ミラオスの攻撃を躱し、傷口を広げる様にランスを刺すモガのハンター。

 その疑問に答えるかのように、大水獣をチラチラ見ていたチャチャが声を上げる。

 

「アイツが戻って来たっチャ!」

「バリスタ弾をホールドしてるっンバ!」

 

 カヤンバの言葉にモガのハンターが振り向く。

 見ると、後方からバリスタ弾を脇に抱えた大水獣が、体を波打つ様にして泳いで来ていた。

 そして、その右手にはバリスタ弾がナイフを持つ様に握られている。

 

(バリスタ弾を──成る程、そのために!)

 

 大水獣が何をするのか察したモガのハンターは、大水獣を迎撃するために開かれたグラン・ミラオスの下顎にランスを突き立てる。

 

 不意の一撃にグラン・ミラオスが怯み、胸部の灼熱核を無防備に晒す。

 

(今だ、大水獣!!)

(サンキューだぜハンターちゃん!!)

 

 大水獣は泳いで得た速度をそのままに、傷付けられた胸部の灼熱核に思い切りバリスタ弾を突き刺した。

 

 厄海にグラン・ミラオスの悲鳴が響き渡る。

 灼熱核が点滅を繰り返し、やがて光が消えた。

 

(効果有り! このまま行くぜハンターちゃん!)

(大水獣はやる気だ。このままサポートすれば、グラン・ミラオスを倒せる!)

 

 バリスタ弾を再び握ると、大水獣はモガのハンターへ向かって頷き、モガのハンターもそれに頷き返した。

 

 

 

 

 見事なコンビネーションでグラン・ミラオスを翻弄する大水獣とモガのハンター。

 時に降り掛かる火球や火山弾を撃ち落とし、刺しの甘いバリスタ弾を盾で殴って押し込むなどして、それぞれをカバーし合っていた。

 

 やがて全ての灼熱核にバリスタ弾を刺し終わると、その頃にはグラン・ミラオスの動きも弱々しくなっていた。

 

(このまま畳み掛ける。当てるか、撃龍槍!)

 

 大水獣はモガのハンターを背に乗せると海面へ上昇。陸地に降ろし、撃龍槍を指差して何かを振り降ろす仕草をしてみせた。

 

「急に何?! え、撃龍槍? 押せって──あ、ちょっと!」

 

 モガのハンターがやって欲しい事を理解したのを確認すると、確実に撃龍槍を当てるため、大水獣はグラン・ミラオスの下がった横っ面を思い切りぶん殴る。

 

 古龍の矜持か、生物の本能か。グラン・ミラオスは倒れまいと踏ん張り、上げた顔を更に殴られる。

 

(角度は──良し! このままぶっとべ!!)

 

 顎を殴られるふらつくグラン・ミラオスの後ろ首に向かって、大水獣は全力のチャージブレスを放つ。

 グラン・ミラオスに対し、水属性の水流レーザーブレスでは効果が少ない。だが不意に首を押し込む様に放たれた水流ブレスにグラン・ミラオスはバランスを崩し、立て直そうと一歩、また一歩と前進してしまう。

 

 やがてグラン・ミラオスは海岸の壁に叩き付けられる。幾多の攻撃により微睡み晴れたグラン・ミラオスが目にしたものは、陸に打ち上げられた調査船、その船首で鈍く輝く、撃龍槍の尖端だった。

 

(今だ!)

「ッハァ!」

 

 大水獣が吼える。それを合図と理解したモガのハンターは、撃龍槍の作動スイッチをピッケルで叩いた。

 

 駆動音を立てて回転を始めた撃龍槍は、直後に砲弾の如き速度で射出。グラン・ミラオスの左眼を穿つ。

 

 絶叫を轟かせ地に伏せるグラン・ミラオス。

 降り注ぐ血肉と鱗の雨をくぐり抜け、モガのハンターが側に駆け寄ってきた。

 

「やったね大水獣!」

「顔にデッカイのが刺さったっチャ!」

「ワガハイ達のビクトリーっンバ!」

 

 静まりかえる厄海とは正反対に、興奮を露にするモガのハンター達。

 漸く当てた決定打に、大水獣も興奮をした様に笑みを浮かべる。

 

(ああ、でもまだヤツは死んじゃいない。とは言え、目が壊れただろうからそこを攻めれば──)

 

 そんな興奮に冷水を掛けるように、冷たい殺意が大水獣達を貫いた。

 

 即座に殺気の放たれる方へ向く大水獣と、ランスを構えるモガのハンター。

 そこには、熱波すら感じる程に熱い、灼熱の宿る怒りの眼差しで大水獣達を睨む、覚醒したグラン・ミラオスの姿があった。

 

 グラン・ミラオスが起き上がる。それと同時に厄海の水温が激しく上昇、煮え滾るマグマの様相を見せる。

 翼から溶岩の様な体液が溢れ出し、固まったそれが歪な翼の様に広がる。

 灼熱核が活性化し、刺さっていたバリスタ弾を燃やし溶かして再生。より高温を示す白の輝きを放つ。

 腰の火口から溢れ出た体液が尻尾を根元から覆って固まり、腰部の灼熱核を隠してしまった。

 

(やっぱりこいつ……寝ぼけてたのかよ!)

 

 先程まで見せていた緩慢な動きを記憶から焼き焦がす程に素早く身体を動かし向き直る。

 灼熱核を白く染め、歪な大翼を広げたグラン・ミラオスの怒の咆哮が、周辺地域一帯を震わせた。

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