第一章も山場です。
今日も帝都に夜が来た。夜には闇が浮き彫りになり、だからこそ魑魅魍魎が表立って跋扈する。
そんな闇を、闇から闇へ葬るのがナイトレイドの役目。その一員であるマインとシェーレは仕事を終えアジトへと帰還する最中だった。
標的であったチブルは用心深く、屋敷の角で何重もの肉の壁の中で震えていた。もっとも、ナイトレイド相手には意味はなくあっさり葬られたのだが。
「無事に片付いてよかったです」
シェーレが作戦成功にほっとため息を吐いた直後。
突然の殺気。それを察知した二人がその場から離れると、次の瞬間には巨大な犬がその場の地面をえぐっていた。
「やはり現れたか、ナイトレイド」
その犬の背後から二人の男女が現れた。栗色の髪の少女と、黒髪の青年。
セリューとタカアキだ。
セリューは口元を三日月の様に歪ませ狂気の瞳でマインとシェーレを睨んだ。
「帝都警備隊セリュー……絶対正義の名の下に悪を断罪するっ!」
「セリュー……」
セリューの変わり様に驚きつつもタカアキは特に口を挟まなかった。正義正義と口走る彼女が“壊れている”のは最初からなんとなく検討が付いていたからだ。
対するマインとシェーレは二人の登場に若干の動揺を見せた。帝具を持った警備隊員が現れたことはもちろんだが、それに加えナイトレイド全員を相手にして圧倒してみせたタカアキがいる。
アカメやブラートがいるならともかく今の二人では勝ち目がない。
「あのタカアキってのが力を使ったら、正直敵わないわね」
「タツミが言っていた、あの力ですね?」
あの後力についてナイトレイドは全員タツミから教えられていた。そして戦った時の評価も鑑みて、ナイトレイドが出した答えは「タカアキが力を使わない内は速攻で撃破。力を使えば一目散に逃げろ」だった。つまり弱い内にカタをつけ、それが不可能ならば撤退しろ、と言う意味だった。
「最悪逃げることになるけど……いいわね?」
「はい。命は大切にしないといけませんからね」
セリューとタカアキもそれぞれ武器を構えマインとシェーレに向き合う。帝具使い同士の戦いの火蓋が切って落とされる直前、タカアキは一歩踏み出し最後の確認をするために口を開いた。
「……一応訊いとく。大人しくタツミを返す気はないのか?」
それはタカアキにとって覚悟を固めるための最後通告だ。これ以上拒否されるなら何をやっても無駄だと判断し、アリアへ拷問を任せることも辞さないつもりだ。
「ないわ。タツミに会いたいならそっちが来なさい。歓迎はしないけどまあ、戦力にはなるしね」
「分かった」
すでに会話による和解などないことが。
「お前たちを叩きのめして居場所を吐かせる。覚悟しろ」
タカアキは刃をナイトレイドへと向けた。
もはや話し合いなど無意味……後は実力をもって語り合うのみだ。
「コロ!」
交渉が終了したと同時にセリューが動いた。ニメートル以上に巨大化したコロを突撃させ、マインとシェーレを襲う。
二人はコロの攻撃をかわすため二手に別れた。
マインはすぐさまコロに対して銃撃を浴びせるが、コロには効いている様子はない。銃撃による弾痕は残るがすぐに再生される。
通常の生物ではあり得ない再生能力。危険種ですら上回るその速度。ならば可能性は一つ。
「シェーレ! やっぱりアレは帝具よ!」
「分かっています……!」
コロは生物型の帝具。生物型は再生能力が高く耐久性も高いため、通常の攻撃では簡単に傷を修復されてしまう。
しかしシェーレの持つ帝具……エクスタスは攻撃に特化したハサミ型の帝具。相手が何であろうと━━それこそ鎧の帝具であろうがオリハルコンそのものであろうが豆腐の如く斬り裂くことが出来る。
「すみません」
マインの銃撃で怯んだコロをエクスタスで両断する。簡単に刃が通り、コロは沈黙した。
かの様に見えたが、
「補食だ、コロ!」
主の命令に従って跳ね起き、シェーレに喰らいつこうとした。それはすかさず援護に入ったマインに止められたが。
「文献に載ってたでしょ。生物型の帝具はどこかにある“核”を砕かないと再生するのよ」
コロから離脱しながらマインがシェーレに向かって言った。
核がどこにあるか分からない以上、むやみやたらと帝具を攻撃する訳にはいかない。つまり狙うは一つ。
マインとシェーレは顔を見合せ頷いた。
そこでセリューが笛を口に含み盛大に音を鳴らした。警備隊で使われている呼び笛で、間違いなく援軍を呼んだ。
「チッ、援軍を呼んだのね」
まさにピンチ。そうピンチだ。
「けどピンチの時こそアタシは強いのよ!」
マインはすぐさまパンプキンの銃身を切り替え、コロに向かって発射した。それは先ほどの連射ではなく、一本の太い光の様になって発射された。
銃身を切り替えたからではない。帝具であるパンプキンの特性だ。パンプキンは使用者の精神力をエネルギーに変えて発射する。つまり感情が高ぶれば高ぶるほど威力が増す。
ピンチはチャンス。そう前向きに捉えることの出来るマインだからこそパンプキンを上手く扱えるのだ。
パンプキンのレーザーは鋭くコロを貫くが、すぐに再生を開始してしまう。
「そんな攻撃が━━━━!?」
愚策だとセリューは嘲笑うが、いつの間にか接近していたシェーレに気付き表情を硬化させる。
「奥の手で一気に━━!」
「俺のこと忘れてんじゃねーぞ!」
その奇襲もタカアキによって阻止された。
「セリュー! そっちは頼む!」
タカアキはそのままシェーレを押し飛ばし一対一の状況にした。
自分に勝ち目がないのは重々承知だが、セリューとコロがもう一人のナイトレイドを倒すまでの時間稼ぎなら出来る。いや、しなくてはいけない。
「行くぞ━━東方一閃流の妙技、見せてやる!」
タカアキは刀を納め腰に構えた。居合いと悟ったシェーレが距離を置くため飛び退るが、タカアキは追いすがった。
「一閃流淡雪!」
放たれる鋭く速い横凪ぎ。シェーレはそれを上体を反らしてかわした。
「な!?」
トリッキーな動きに驚いたタカアキのスキを突き、エクスタスで攻撃。起き上がる反動を利用しての突きだ。
タカアキはほとんど本能というか勘による回避を敢行。結果として左肩をえぐられるに留まった。
「まだ右じゃなくてよかったけど……強ぇ」
やはりナイトレイド一人一人の戦闘能力は自分たちより上だ。
さらに帝具という超兵器を所持している。タカアキも謎の力はもってはいるが、これがいつも当てに出来る訳でもない。
「……やっぱり、普通の人たちにとっては私たちはただの人殺しに見えますよね……」
「は……?」
シェーレは動きを止めどこかタカアキを羨ましそうに見た。
「コロ、腕!」
ずるっと吐き気を催す音と共にコロから人間の様な腕が生えた。その屈強な腕で怒涛の乱打を繰り出す。マインを襲った。
マインは持ち前のすばしっこさで器用にそれを避けた。マシンガンの銃身に切り替えたパンプキンでコロを攻撃する。
「ちょこまかと!」
セリューもただ命令するだけでなく、腰に下げていた武器に手をかけた。
コロの攻撃だけでなくセリューにも攻撃されればマインとて堪らない。直撃こそしなかったが、何発かの銃弾がマインの身体をかする。
だがそんな状況だからこそ━━
「邪魔よ犬! 伏せっ!」
マインのパンプキンは威力を増す。パンプキンから高威力のマシンガンの弾が連射され、コロを容易く蜂の巣にした。
「次は!」
あんたの番! と飼い主にパンプキンの銃口を向けるが、セリューはすでにそこにはいなかった。
次の瞬間、マインは腹を殴られ吹き飛ばされていた。
「こ、こいつ……!」
「舐めるなよ悪め!」
身体能力ではセリューが勝っていた。セリューは手にしたトンファガンでマインを殴りまくる。
「こっちのっ……セリフよっ!」
わざとマインはパンプキンでトンファガンを受け、衝撃で距離をとる。それに合わせセリューも下がり、回復しきったコロを突撃させる。
「逃がさないわっ!」
離脱するセリューにパンプキンが火を噴く。とっさに身を縮めたセリューだが、何発か身体に命中。特に右腕に直撃し、吹き飛んでしまった。
「ぐううぅ……コロっ! 殴り殺せ!」
腕が肥大化したコロは凄まじい勢いでマインを殴る。セリューを撃っていたマインは反応が遅れ、コロの一撃をまともに受けた。
帝具の力は凄まじく、マインはたまらずに吹き飛び、木にぶつかるまで止まらなかった。
「行くぞコロ。止めだ」
片腕を押さえながらもセリューはしっかりとした足取りでマインと距離を詰めていった。マインはダメージが大きくすぐには動けそうにはない。
死神のアギトがゆっくりとマインに近付いて来ていた。
眼鏡の逆光でよくは見えないが、シェーレの声色から哀しそうにしているのは分かった。
シェーレが何を言いたいのか分からず戸惑ったが、タカアキは立ち上がり刀を構える。先の一撃でエクスタスはどんなものでも斬れるとタカアキは悟っていた。ハサミ型とふざけた形をしてはいるが、威力は脅威的だ。生身はもちろん、刀と鞘すら紙の様に斬ってしまうだろう。
あれに触れる訳にはいかない。なら持ち前の速さで翻弄するしかない。
タカアキは自らの出せる最速でシェーレの周りを駆け出した。平地なので二次元の動きになってしまうが、どちらにせよ三次元的な動きは出来そうにない。
「これは……」
効果は有った様で、シェーレは忙しなく周りに目を走らせる。タカアキの動きが見えていないのだ。
「━━もらった!」
そう判断し飛び上がって真上から刀を降り下ろす。しかし反応速度はシェーレの方が上手だった。降り下ろされた刀をギリギリでかわすと、エクスタスの柄の部分で攻撃した。タカアキもそれを無理矢理身体をひねってかわすと、左手に持っていた鞘でシェーレを殴る。
入ったと思ったその攻撃も、シェーレは腕を盾にして防いでいた。お返しとばかりにタカアキに蹴りを入れる。
腹にモロに受け止めたタカアキは吹き飛ばされ地面を転がった。
その直後、シェーレの背後で派手な音がした。振り返った彼女が目にしたのは木にもたれかかっているマインと、それに歩み寄るセリューの姿だった。
「マイン!」
相棒の危機にシェーレはたまらず走り出す。そしてセリューを背後から攻撃した。セリュー本人の反応は遅れたが、コロが彼女を庇い斬り裂かれる形となる。
「まさかっ! アキさんは!?」
ようやくシェーレに気付いたセリューはシェーレから距離をとりつつタカアキを探した。タカアキは少し離れた場所で立ち上がろうとしていたところだ。
それにほっとしたのも束の間。いつの間にかシェーレが肉薄していた。トンファガンで迎撃するも、相手は帝具だ。
トンファガンはあっという間に鉄屑へと変わった。さらに片腕になってしまったこともあり、上手くバランスが取れず、セリューは地面に倒れ込んでしまう。
もちろんシェーレはこれを好機と見た。セリューを殺せばコロは機能を停止する上、帝具持ちでないタカアキや駆け付けて来るだろう警備隊員など烏合の衆と化す。
「くっ……コロ!」
セリューがコロに叫びかけるが今さら何をしようが遅い。
エクスタスを突き刺す、そうしようとしたが出来なかった。
「
セリューのそのキーワードと共にコロが変化した。
より荒々しい姿に。
さらに凶暴な姿に。
生物型の帝具のほとんどに付いている
その狂化したコロが“吼えた”のがシェーレが攻撃出来なかった原因。耳をつんざく大声でマインとシェーレの動きを完全に止めてしまった。
コロはそのまま近くにいたマインに掴みかかる。小柄なマインなら片手で覆えるほどになったコロは、掴んだマインを握り潰そうと力を込めた。
真っ先に両腕の骨が折れ悲鳴を上げるマイン。それを無理矢理身体を動かしたシェーレがコロの腕を切り落とし救った。
「あ、ありがとう……シェーレ」
「いえ、大丈夫ですか?」
セリューに背中を向けてしまったシェーレ。そのスキを逃す訳がない。
セリューは千切れた右腕から銃身をせり出させた。普通の人体ならあり得ないことだが、セリューは身体を改造していた。結果、右腕のみならず左腕や口からさえも銃身を出すことが可能になっていた。
その銃弾は、無慈悲にシェーレを貫いた。
一瞬何が起こったのか理解出来なかったが、ようやく撃たれたことが分かり、シェーレはぎこちない動きで背後で倒れているセリューを見た。
そのセリューの顔は狂喜に歪んでいた。
「愚かな悪め……奥の手は最後まで取っておくものだ」
虚を突かれた手負いの敵を放っておくコロではない。すぐさま唾液の滴る口を開け、シェーレを補食せんと飛びかかった。
シェーレはその瞬間、死を覚悟した。
いつか死ぬことは分かっていたが、それが今となるととても辛く感じた。楽しかった仲間たちとの毎日を思い浮かべ、涙を流した。
━━ああ、大切なものを失うのはこんなに辛い……。
涙で視界がぼやけたシェーレの瞳に最後に映ったのはコロの巨大なアギト。
━━ではなく、そのコロを吹き飛ばす黒髪の青年の姿だった。
突然響いた恐ろしい鳴き声に三半規管を激しく揺さぶられ、タカアキは耳を押さえた。危うく倒れそうになったがなんとか踏ん張る。
鳴き声が収まった後でもまだ耳に残っていた音を、頭を振って追い払う。そこで頭を上げたタカアキの目に映ったのは、凶弾に貫かれたシェーレだった。それを発射した銃口はセリューの右腕から伸びており、その顔は愉悦と狂気で歪んでいた。
シェーレに追い打ちをかける様にコロがその牙を彼女に向けた。
━━セリューは殺る気だ。そう思った瞬間には勝手に身体が動いていた。
駆け出す。ただ走る。頭など動いてないも同然だ。目の前で人を殺される訳にはいかない。……ただそれだけの思いで。
「東方一閃流奥義!」
コロは帝具。狂化しているとなれば半端な回復力ではない。それを心のどこかで分かっていたタカアキは、賭けに出た。
技の型を教えてもらっただけの奥義━━それでコロを斬り伏せる。
帝具でも何でもない刀では帝具に致命傷は与えられない。最大最強を叩き込む必要があった。
うだうだと考えている暇などなかった。
ただ、シェーレを助けたい。その一心で、
「
不完全ながら一閃流の奥義を発動した。
本来は敵をなで斬りにした後に居合いを叩き込む技だが、速度が足らずにコロを一閃したに留まった。それでも威力は十分で、虚を突かれたコロはダメージでその場に倒れ込んだ。
「な!? 悪を助けるのか!?」
その光景にその場にいた他の三人は目を見開き、セリューは唯一言葉を発した。
「たとえ悪人でも……人が死ぬとこなんか見たくないんだ……」
タカアキはシェーレからのダメージでふらついてはいたが、意志のこもった瞳でセリューを見返した。
「ただの俺のわがままだが━━貫かせてもらう!」
「そうか……悪の味方をするなら!」
奥義によるダメージが完全に修復されたコロが立ち上がる。セリューはボロボロと言ってもいいほどだが、帝具であるコロは何度攻撃しようと回復してしまう。
コロを何とかする必要があるが……。
「そいつは帝具使いじゃない! 殺れ、コロ!」
コロ攻略の算段を練るタカアキを、セリューの号令と共にコロが襲う。
背後に人がいる以上、避ける訳にはいかない。タカアキは構えをとるが、
「エクス、タス」
突如タカアキの真横からハサミが突き出されそれが目が眩むほどの光を発し始めた。
これがエクスタスの奥の手。発光により敵の目を眩ますものだ。
それによりセリューはもちろんコロも動きが止まる。
「……マイン、今の内に逃げてください」シェーレは見えないと分かっていても笑ってみせた。
「シェーレ!?」
「私はもう……長くは……ですから……」
苦しそうに言うシェーレに呼応するかの様に、エクスタスの発光が弱くなっていく。
「お願いです」
薄れ行く光の中、マインは幸せそうに笑うシェーレの姿を見た。
それからどれだけ葛藤したか……無限に思える時間も、おそらく他人にとっては一瞬だっただろう。マインは涙を飲んで全速力でその場を離れた。
それを満足そうに見届けると、今度はタカアキを見やる。
「俺は退かねぇ」タカアキは目を閉じたまま強く言い放った。「絶対にあんたを助けてみせる」
「どうして……」
シェーレは問いかけずにはいられなかった。自分より遥かに実戦経験も少なく弱い青年が、どうしてここまで強くあれるのか。
それは力ではなく心が。
あの化け物じみた力があるからか? 違う。タカアキにはもっと、熱くて芯の通った信念があり、それでで動いている様に思える。
「言ったろ、俺は人死にが見たくないだけだ。だから……。だから黙って俺に助けられてろ」
その直後に、無茶苦茶な動きで突っ込んできたコロを何とかいなす。
もうほとんど光は消えかかっており、人は網膜に残っている強い刺激で目が眩んでいるだけの状態だ。
さっきの攻撃でコロも同じく見えていないと判断したタカアキは、シェーレを手際よく背負った。その動きは目が眩んでいる人間の動きではなかった。むしろ目は閉じたままだ。
いわゆる「心眼」。気配を強く感じ取り、それを目の代わりにしていた。
「チャンスだ。このまま逃げる。だから諦めんな!」
もはや意識が消えかかっているシェーレはタカアキに身を任せるしかない。ついに発光しなくなったエクスタスを取り落としてしまう。
「くっ……早くしないと」
焦るタカアキだが、許すまいとコロが襲う。セリューもようやく目が慣れてきたのか銃撃を行ってくる。
いっそ力を使ってしまうか━━タカアキがそう考え始めた時だった。
一筋の閃光がコロに真っ直ぐ向かい、そして吹き飛ばした。
奇妙な気配を感じ状況を探るために目を開いたタカアキ。
目の前に立っていたのは背の高い黒髪の男性だった。どこか和服にも似た服を着た男性。頭からは何故か角らしきものが生えている。人間ではない。
彼はタカアキにちらりと視線をやった後大きなあくびをかました。
「何だキサマ、新たな悪か!」
突然の闖入者にすぐさま悪と判断したセリューは、男性に銃撃を加える。
全弾命中━━男性の命は儚く散った、かの様に見えたが、
「さ、再生しただと」
その傷口はコロと同じように一瞬で塞がった。
「まさか、人間型帝具!?」
「正解だ」
男性は一瞬でセリューとの距離を詰めると正解の褒美とでも言わんばかりに蹴り飛ばした。
男性はタカアキに振り返った。
「おい、ぼーっと突っ立ってねぇで早くマスターんとこにその女連れてけ」
「マスターって……?」
「ドクだよ、分かってんだろ?」
予想外の━━そしてある意味予想通りの名前を男性は口にした。
「ほら」
男性に促されタカアキは色々な疑問を頭の中でかき混ぜつつ、シェーレの救護を優先することにした。
「ただ……」
「わあってる。殺しゃしねぇよ」
タカアキに皆まで言わせず、面倒臭そうに追い払った。
「さて、と」
タカアキが走り去ったのを確認すると、男性は指をコキコキ鳴らした。
それをスキありとばかりにコロが狙うが、
「遅せぇんだよ」
ただ一発の蹴りで、コロを核ごと粉砕してしまった。あのコロが。ただの蹴り一発で。
豆腐の様に粉みじんに散った。
「う……そ…………」
セリューの目に涙が滲む。正義の象徴で、そしてパートナーであるコロが目の前で一瞬でいなくなった。それは自分の父や恩師であるオーガを失ったのと同じく位の衝撃だった。
そんな彼女に対して、男性は無造作に頭を掴んで持ち上げた。セリューにはすでに抵抗する気力は残っていなかった。成されるがまま、宙に身体を浮かせる。
「帝具持ちの警備隊員か……
遠くでは他の警備隊員がこちらに駆け寄って来る音がしていた。
こうして帝具使い同士の戦いは静かに幕を閉じたのだった。